続・7年目の本気~岐路

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悪あがきだと分かっちゃいるが

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 京都の各務グループ本社・地下パーキング。
 
 送迎車の後部座席へ匡煌はいつものように
 深く腰掛け 専属ドライバー鈴木へ”出して”と告げた。
 
 そのドライバーがエンジンをかけたと同時に
 反対側のドアから静流が乗り込んできた。
 
 
 
「なんだ、フラワーアレンジメントの教室に
 行ったんじゃなかったのか」
 
 
 と、問いかけながら手は忙しなくスマホを操作し
 何処かへリダイヤルし続けている。
 
 そんな匡煌を見て、静流は呆れ。
 
 
「ったく、往生際が悪いというか、未練たらしい、
 というか……あの和巴だって前を見て進み出したん
 だから、あなたもそろそろ腹をくくったらどう?」
 
「だから、親父や兄貴の指示通り結婚はすると
 言っただろ。他の事で外野にどうこう言われる
 筋合いはない」
 
 
 そして、匡煌はなかなか通話に応答しない
 相手(和巴)に業を煮やし。
 
 
「京都駅に向かってくれ」

「だめよ」

「だから ――」

「和巴に直接会う気でしょ」

「ニュース見ただろ。渋谷区松濤在住の
 中3女子がヤクザを庇って重症。**に聞いたが
 あれは和巴の従姉妹らしい」
 
「だから? あなたが行って何になるのよ。
 むしろ和巴に余計な心労与えるだけだわ」    

「……俺に知られちゃマズい事でも東京にあるのか?」

「や、やぁね、そんなのあるハズないじゃない」 

「そうか、ならいい」


 と、一応納得した素振りは見せたが、
 付き合いが長い分、言葉や仕草に現れる微かな
 動揺は見抜けるようになる。
 
 匡煌は和巴へのリダイヤルは止めて、
 飛行機の座席予約をした。
 行き先はもちろん、東京だ。
 
 この後、大阪の関空から北海道・札幌へ移動。
 各務の畜産部で管理運営してる牧場と直営
 レストランを視察。
 そこで現地の名士数名と会食の予定だが、
 それは適当にはしょって。
 東京へ飛ぶつもりだった。
 
 静流は自分の仕事に加え結婚式の下準備で例年の倍は
 忙しい。
 匡煌の監視役、どころではないハズなのだ。
 
 
「鈴木さん、私は適当な最寄り駅で降りるわ」

「畏まりました」   


 静流は和巴の事でまだ何か、自分に隠している。
 
 今のチャンスを逃したら、もう2度と和巴には
 会えなくなるような気がして……匡煌は焦っていた。 

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