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混迷 ②
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「ったく和巴の奴、また面倒事を ――」
巽の傍らに横たわっていた幸作はプクーっと
ほっぺたを膨らませた。
「こらこら、せっかくの可愛い顔が台無しだ」
「ねーぇ柊二ぃ。も、1回しよ?」
「だめだよ。じき真守くんが来る」
「来ないかもしれないじゃん」
「いいや、こうゆう時の女の勘は侮っちゃいけない」
そういってる所へ ”ピンポーン”
玄関のチャイムが鳴った。
「ほ~らな」
来訪者は本当に真守で、当分の間ここへ
泊めて欲しいと言った。
巽は和巴から頼まれた通り快諾したが、
幸作はまだ不満顔だ。
「……ごめんね、幸ちゃん」
「しょうがねぇから、泊めてやっけど掃除・洗濯・
炊事は手伝えよ」
「うん。ありがと」
巽 柊二は連載を5本も抱える売れっ子漫画家。
1人暮らしが長かったので、ひと通りの家事は
こなせるが、締め切り間近になると自分の食事すら
食べないような状態が続くので、幸作は不器用ながら
少しでも恋人の栄養になるようにと三度の食事だけは
手作りしていた。
「じゃ、僕は仕事に取り掛かるね」
「うん。夜食はいつものヤツでいい?」
「あぁ、頼むよ」
自宅が仕事場だから、その気になれば、
ずっと一緒にいられるのだが。
伊達に売れっ子であるが故、
締め切りという高い壁にいつも邪魔をされるのだ。
幸作と真守の2人はキッチンで夜食の調理を
始めた。
「あ、そうそう ―― 神宮寺のお嬢様とデートは
どうだった?」
「……楽しかったよ」
決して楽しくは無い声で、答える。
「マモ、分かりやすすぎ! 何があった?」
「いや……」
真守は黙り込む。
幸作は真守が話すまで待った。
「話し終わるまで、黙って聞いてくれるか?」
その声に、決して楽しくない話題だという事が
容易に予想できた。
「わかった。黙って聞く」
幸作は一旦調理の手を休め、
キッチンカウンターのスツールチェアへ腰掛けた。
真守はそんな幸作に、
ひと言・ひと言、慎重に言葉を選びゆっくり
話し出した ――
***** ***** *****
「で、デートの締めくくりとして 【フィレンツェ】へ
ディナーに行った。ところが……」
あぁ ―― 何か、嫌な予感がする。
「和ちゃんも同じ店で食事してて……」
つまり、ガチンコしちまった、ってワケか。
「その時は見られただけで何もなかったんだけど。
店から出たあと、俺の様子が可怪しいって藍子に
問い詰められた」
んー? なんかワケ分かんなくなってきた……
「で、いつまでもはぐらかそうとする俺に痺れ切らして、
藍子が泣き出してしまったんだ……身体が、
凄く震えてたから。抱きしめて。でも、彼女が遠くて
もっと近づきたくて、少し強く抱きしめた」
おいおい ―― まさかこいつ。
「でも、それ以上はなかった。何とか自分を制して、
身体を離したんだけど……」
『けど』の後が怖い。
あぁ、心拍数が上がる。
受け止められるか? 冷静に聞けるか?
「な、泣きやんで笑った藍子から目が離せなくなって
―― す……した」
聞こえなかった言葉が何だったのかは
容易に想像がつき。
速くなった心拍数は一瞬にして元に戻った。
身体の体温が一気に下がる。
「聞こえねぇよ。もう一度言え」
自分でも、声が低くなったのが分かる。
真守も気付いたみたいで、焦っている。
「話が終わるまで黙ってるって」
「黙って聞いてて、語尾が聞こえなかったから
『聞こえない』と言っただけだ……何をした?」
「だ ―― だから……」
「何?」
「キ ―― キスした。で、藍子を家に送って、
自分もマンションへ帰ったら和ちゃんがいて。
藍子との事を注意されて ”別れなさい”なんて
言うから。俺も売り言葉に買い言葉で。つい、
言い返しちゃったんだ」
「……何を」
「……」
「ここまで言っといてだんまりは通用しねぇぞ、
真守」
「藍子と俺がくっついた方が和ちゃんにとっても
好都合なんじゃないの? 各務の次男坊と晴れて
一緒になれるワケだし。って」
ギリギリまで真守の告白を受け止めようと思った。
だが、耳の裏で身体中の血液が流れ落ちていく音が
聞こえる。
……あかん、受け止めきれない!
身体中の血液が逆流して一気に頭に上り始めた…
神宮寺藍子は、『各務匡煌の婚約者』だ。
頭の中で、何かが切れた音がした瞬間、
幸作は真守に怒鳴った!
「この大馬鹿野郎っっ!!」
幸作のあまりの大声に驚いた巽が部屋から
飛び出してきた。
『幸作、一体なに事?!』
「俺は抑えろと忠告したよな? お前もそんなの
楽勝って言ったよな?! そんな事して誰が喜ぶ?
神宮寺の娘をたぶらかして、あの和巴が喜ぶとでも
思ったのか!」
「ち ―― ちが……」
「これまで、お前の彼女への気持ちを俺は尊重して、
自分の胸だけに留めてきた。好きになったもん仕方が
無いって……正直、気持ちのどこかに藍子がお前と
くっつけば各務の次男坊と和巴も幸せになって、
全て丸く収まるって思った事もある。政略結婚
だろうが、他の人間に惚れてるのに結婚させられて
しまう相手の気持ちを考えた事はあるか?!」
幸作は落ち着こうとタバコに火をつけた。
「……今日はもうお前の顔、見たくねぇ。
さっき泊まっていいと言ったのは撤回する」
「幸作っ」
「柊二は黙ってて」
ビシッと巽に言ってから、
「今すぐ出て行け」
真守はうなだれたまま、出て行った。
その後を巽が追って出て行く。
「バカ野郎……」
巽は5分もしないうち戻ってきた。
「このお人好し」
「仕方ないだろ。この寒空に野宿なんかさせられない」
巽は泊めてやれない代わりに、幾らかの現金を
半ば無理やり真守へ押し付けた。
「俺は、自分を抑制し切れなかったあいつが許せない。
次男坊と藍子の結婚はもう誰にも止められないのに」
「つまるところ、幸作も真守くんが心配なんだよな」
「そ、そんなんやない……マモの馬鹿野郎……あいつらは
姉甥揃って心配ばっかかけやがる……」
巽の傍らに横たわっていた幸作はプクーっと
ほっぺたを膨らませた。
「こらこら、せっかくの可愛い顔が台無しだ」
「ねーぇ柊二ぃ。も、1回しよ?」
「だめだよ。じき真守くんが来る」
「来ないかもしれないじゃん」
「いいや、こうゆう時の女の勘は侮っちゃいけない」
そういってる所へ ”ピンポーン”
玄関のチャイムが鳴った。
「ほ~らな」
来訪者は本当に真守で、当分の間ここへ
泊めて欲しいと言った。
巽は和巴から頼まれた通り快諾したが、
幸作はまだ不満顔だ。
「……ごめんね、幸ちゃん」
「しょうがねぇから、泊めてやっけど掃除・洗濯・
炊事は手伝えよ」
「うん。ありがと」
巽 柊二は連載を5本も抱える売れっ子漫画家。
1人暮らしが長かったので、ひと通りの家事は
こなせるが、締め切り間近になると自分の食事すら
食べないような状態が続くので、幸作は不器用ながら
少しでも恋人の栄養になるようにと三度の食事だけは
手作りしていた。
「じゃ、僕は仕事に取り掛かるね」
「うん。夜食はいつものヤツでいい?」
「あぁ、頼むよ」
自宅が仕事場だから、その気になれば、
ずっと一緒にいられるのだが。
伊達に売れっ子であるが故、
締め切りという高い壁にいつも邪魔をされるのだ。
幸作と真守の2人はキッチンで夜食の調理を
始めた。
「あ、そうそう ―― 神宮寺のお嬢様とデートは
どうだった?」
「……楽しかったよ」
決して楽しくは無い声で、答える。
「マモ、分かりやすすぎ! 何があった?」
「いや……」
真守は黙り込む。
幸作は真守が話すまで待った。
「話し終わるまで、黙って聞いてくれるか?」
その声に、決して楽しくない話題だという事が
容易に予想できた。
「わかった。黙って聞く」
幸作は一旦調理の手を休め、
キッチンカウンターのスツールチェアへ腰掛けた。
真守はそんな幸作に、
ひと言・ひと言、慎重に言葉を選びゆっくり
話し出した ――
***** ***** *****
「で、デートの締めくくりとして 【フィレンツェ】へ
ディナーに行った。ところが……」
あぁ ―― 何か、嫌な予感がする。
「和ちゃんも同じ店で食事してて……」
つまり、ガチンコしちまった、ってワケか。
「その時は見られただけで何もなかったんだけど。
店から出たあと、俺の様子が可怪しいって藍子に
問い詰められた」
んー? なんかワケ分かんなくなってきた……
「で、いつまでもはぐらかそうとする俺に痺れ切らして、
藍子が泣き出してしまったんだ……身体が、
凄く震えてたから。抱きしめて。でも、彼女が遠くて
もっと近づきたくて、少し強く抱きしめた」
おいおい ―― まさかこいつ。
「でも、それ以上はなかった。何とか自分を制して、
身体を離したんだけど……」
『けど』の後が怖い。
あぁ、心拍数が上がる。
受け止められるか? 冷静に聞けるか?
「な、泣きやんで笑った藍子から目が離せなくなって
―― す……した」
聞こえなかった言葉が何だったのかは
容易に想像がつき。
速くなった心拍数は一瞬にして元に戻った。
身体の体温が一気に下がる。
「聞こえねぇよ。もう一度言え」
自分でも、声が低くなったのが分かる。
真守も気付いたみたいで、焦っている。
「話が終わるまで黙ってるって」
「黙って聞いてて、語尾が聞こえなかったから
『聞こえない』と言っただけだ……何をした?」
「だ ―― だから……」
「何?」
「キ ―― キスした。で、藍子を家に送って、
自分もマンションへ帰ったら和ちゃんがいて。
藍子との事を注意されて ”別れなさい”なんて
言うから。俺も売り言葉に買い言葉で。つい、
言い返しちゃったんだ」
「……何を」
「……」
「ここまで言っといてだんまりは通用しねぇぞ、
真守」
「藍子と俺がくっついた方が和ちゃんにとっても
好都合なんじゃないの? 各務の次男坊と晴れて
一緒になれるワケだし。って」
ギリギリまで真守の告白を受け止めようと思った。
だが、耳の裏で身体中の血液が流れ落ちていく音が
聞こえる。
……あかん、受け止めきれない!
身体中の血液が逆流して一気に頭に上り始めた…
神宮寺藍子は、『各務匡煌の婚約者』だ。
頭の中で、何かが切れた音がした瞬間、
幸作は真守に怒鳴った!
「この大馬鹿野郎っっ!!」
幸作のあまりの大声に驚いた巽が部屋から
飛び出してきた。
『幸作、一体なに事?!』
「俺は抑えろと忠告したよな? お前もそんなの
楽勝って言ったよな?! そんな事して誰が喜ぶ?
神宮寺の娘をたぶらかして、あの和巴が喜ぶとでも
思ったのか!」
「ち ―― ちが……」
「これまで、お前の彼女への気持ちを俺は尊重して、
自分の胸だけに留めてきた。好きになったもん仕方が
無いって……正直、気持ちのどこかに藍子がお前と
くっつけば各務の次男坊と和巴も幸せになって、
全て丸く収まるって思った事もある。政略結婚
だろうが、他の人間に惚れてるのに結婚させられて
しまう相手の気持ちを考えた事はあるか?!」
幸作は落ち着こうとタバコに火をつけた。
「……今日はもうお前の顔、見たくねぇ。
さっき泊まっていいと言ったのは撤回する」
「幸作っ」
「柊二は黙ってて」
ビシッと巽に言ってから、
「今すぐ出て行け」
真守はうなだれたまま、出て行った。
その後を巽が追って出て行く。
「バカ野郎……」
巽は5分もしないうち戻ってきた。
「このお人好し」
「仕方ないだろ。この寒空に野宿なんかさせられない」
巽は泊めてやれない代わりに、幾らかの現金を
半ば無理やり真守へ押し付けた。
「俺は、自分を抑制し切れなかったあいつが許せない。
次男坊と藍子の結婚はもう誰にも止められないのに」
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