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第二十七話
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ユリウスはその場で静かに目を細め、心の中で小さく頷いた。王子が正式に同行することになれば、旅路は確かに安全になる。そして、自身も言わなければいけないことがあった。
「陛下……僭越ながら、私からも申し出がございます」
王がふとルミナと王子から目をそらし、ユリウスに向き直った。
「申してみよ」
「私はこれまで孤児院にてルミナ様のお世話を任されてまいりました。王都への道中も共に歩き、力を尽くして参った身です。……どうか、この先も、ルミナ様の傍らにいることをお許しください」
ユリウスの声は穏やかで落ち着いていたが、言葉の端々に強い意思が滲んでいる。
「ふむ……なるほどな」
王は少し考え込むように眉を寄せたが、すぐに朗らかな笑みを浮かべた。
「よかろう、ユリウスよ。お前も同行せよ。ルミナの護衛としてだ」
「――っ!ありがとうございます」
本来ユリウスはルミナが孤児院にいる間の世話役だったため、ルミナが成人した今、王宮勤めに戻るはずだった。
しかし、ユリウスはルミナと共に過ごし、これからも側にいたいと思っていたため、王の承諾が得られなかった場合は、職を辞する構えだった。
王宮に務めるということは、とても名誉なことであって、そう簡単に辞める者はいない。場合によっては一族の恥にもなり得る。それでもユリウスはルミナを選んだ。
「ユリウス……」
ユリウスとはここで別れると思っていたため、ルミナは驚いたが、同時に、これからも共にいたいと思ってくれたその気持ちがとても嬉しかった。
幼いころから孤児院で共に過ごし、自身に色んなことを教えてくれたユリウス。気心も知れているし、何よりも頼りになる。ヴァルガも側にいる。心強さに少し安心し、緊張も和らいでいく。
王子フェルディナントはその場で深く頭を下げ、真剣な目でルミナを見た。
「ルミナ殿、私、フェルディナント=ラウレンツ・セリオナードも必ず貴女を守ります」
その言葉は力強く、真面目すぎるほどの熱意がこもっていた。ルミナは少し圧倒されながらも、小さく頷く。
「ありがとうございます」
王は二人を交互に見渡し、満足げに頷いた。
「よし、これで安心だ。ルミナ、ユリウス、そしてフェルディナント、三人と一匹でこの旅路を進むのだ。心して行け」
ルミナは胸の奥で小さな決意を固めた。自分はただ守られるだけではなく、力を使って人々を助けるために旅するのだ、と。
ヴァルガは黒い体を小さく縮め、ルミナの足元で尻尾を揺らす。まるで「一緒に行くよ」と言っているかのようだった。
「では、準備もございますし、明日また合流いたしましょう」
「ああ」
ユリウスとフェルディナントが以降のスケジュールを打ち合わせしている間に、王はルミナを手招きし、傍に来たルミナへ耳打ちした。
「アイツはちょっと堅物でな。融通は利かんが、忠誠心と強さは折り紙付きだ。よろしく頼む」
「はい。分かりました」
ルミナは小さく頷き、王の耳打ちを真剣に受け止めた。王の顔にはいつもの朗らかな笑みが浮かんでいるが、その目はほんの少しだけ厳しさを帯びていた。
王は軽く手を振り、ルミナの肩を優しく叩いた。ルミナは少し緊張しつつも、心強さを感じる。父のような王の言葉が、背中を押してくれる気がした。
----
ルミナとユリウスは王宮をあとにし、王都の賑やかな街並みを歩いていた。
「わぁ……わぁ……」
ルミナはきょろきょろと辺りを見渡しては目を輝かせていた。以前王都へ来たときは歩いて回ることはなかったし、そもそもルミナにとっては街歩き自体が初めての経験だ。何もかもが新鮮だった。
「ユリウス、すごいね……」
「はい。王都は王族や貴族だけでなく、冒険者や商人、旅人も多く集まる街です。気を抜くとすぐに迷子になりますよ」
ルミナは頷きながら、胸の奥で期待と緊張が入り混じった気持ちを抱いた。いよいよ、自分の力を試す冒険者としての生活が始まるのだ。
「これからどこへ行くの?」
「まずは魔道具店へ向かいます」
「魔道具店!」
時折立ち止まったり、露店を覗いてみたり、ふらふらしているルミナとは対照的に、ユリウスは目的地へと迷いなく進んでいた。ただただ誘導されるままルミナは歩いていた。
「魔法使いは杖を持ちますので、形だけでも」
「杖かぁ」
ルミナには必要のない物だったが、持っていた方が都合がいい。普通の魔法使いは自身と相性のいい属性の魔石が装着されている杖を所持している。魔法を使うルミナが杖を持っていないのは普通ではないのだ。
「こちらです」
やがて二人は、大通りから少し入ったところにある魔道具店へ着いた。大通りとは異なり、人はまばらで静かだった。ルミナは店の雰囲気が若干不気味に感じたが、ユリウスは躊躇なく店へ入って行った。
「……すごい」
「外観は少々不気味ですが、いい道具が取り揃えられています」
店の中に入ると、ユリウスの言う通り、剣や槍、弓など武器をはじめ、様々な防具や道具が置かれていた。一画にはもちろん杖も数点置いてあった。
「この店で扱っているのは魔道具ですので、武器類には魔石が仕込まれています」
「へぇー」
「魔法使いでなくても魔法を使った攻撃ができるのです」
説明を聞きながらルミナは杖を眺めていた。杖にも色々種類があるようで、長さや大きさも様々だ。装飾が豪華なものもあれば全く装飾のないものもあり、どれを選べばいいのか分からない。ちらりとユリウスを見上げれば、察したようにユリウスは説明する。
「何を選ぶかは正直、好みです」
「そんな感じでいいんだ」
「もちろんです。好みのデザインで武器を作ってもらう冒険者もいますし、自分が獲った魔石を仕込んでもらう者もいます」
「へぇ……じゃあ、みんな自分の好きな杖なんだね」
「そういうことです」
ルミナはずらりと並んだ杖を前にして、しばらく目をきょろきょろと動かしていた。背丈よりも長いものから、片手で扱えそうな短いものまで種類は様々だ。
――でも、私に合うのってどれだろう。
普通の魔法使いなら属性との相性で決めるが、ルミナの場合は制限がない。だからこそ決めにくいのだった。
「……ユリウスは、どれが似合うと思う?」
「そうですね……」
ユリウスはしばし棚を眺め、一本を取り出した。長さは大人の腕ほどで、片手で持てる軽さ。濃い茶色の木を削り出した杖で、装飾は控えめだが握り部分に革の巻きがあり、上端には小さな蒼い魔石が埋め込まれている。
「これは……」
「携帯しやすい短杖です。扱いやすく、旅にも向いています。魔石は水属性ですが、変えられますのであとで変えてもらいましょう。形として持つのには適しているでしょう」
ルミナは杖を受け取り、試しに軽く振ってみた。手にすっと馴染み、重さも苦にならない。
「……これ、いいかも!」
「お気に召しましたか」
ルミナがうんうんと頷くと、店主が近づき、杖の携帯用の革ベルトも勧めてきた。腰に装着できるもので、短杖をすぐに抜き差しできるようになっている。
「なるほど……これなら歩くときも両手が空きますね」
「そうなの?」
「ええ。杖を常に手に持っていると不便です。携帯用の道具は必須といえます」
ユリウスの説明に、ルミナは「それなら!」と即決でベルトも購入した。
埋め込まれた魔石は透明なただの宝石へ変えてもった。わざわざ魔石を取り外すもの好きはいないため、店主には少々不審がられたが。
しかし、ルミナには必要がなく、魔石と違う属性の魔法を使っていらぬ騒ぎは起こしたくない。ユリウスは最初からそのつもりで宝石を用意していたのだ。
支払いはユリウスが済ませ、店を出るときにはルミナは新しい杖をベルトに収め、腰に下げていた。
「なんだか……本当に冒険者になったみたい!」
「形から入るのも悪くはありません」
「ふふっ」
ルミナは誇らしげに腰の杖を触れながら歩いた。ヴァルガがちらりと見上げるようにルミナを見て、尻尾を振った。
「陛下……僭越ながら、私からも申し出がございます」
王がふとルミナと王子から目をそらし、ユリウスに向き直った。
「申してみよ」
「私はこれまで孤児院にてルミナ様のお世話を任されてまいりました。王都への道中も共に歩き、力を尽くして参った身です。……どうか、この先も、ルミナ様の傍らにいることをお許しください」
ユリウスの声は穏やかで落ち着いていたが、言葉の端々に強い意思が滲んでいる。
「ふむ……なるほどな」
王は少し考え込むように眉を寄せたが、すぐに朗らかな笑みを浮かべた。
「よかろう、ユリウスよ。お前も同行せよ。ルミナの護衛としてだ」
「――っ!ありがとうございます」
本来ユリウスはルミナが孤児院にいる間の世話役だったため、ルミナが成人した今、王宮勤めに戻るはずだった。
しかし、ユリウスはルミナと共に過ごし、これからも側にいたいと思っていたため、王の承諾が得られなかった場合は、職を辞する構えだった。
王宮に務めるということは、とても名誉なことであって、そう簡単に辞める者はいない。場合によっては一族の恥にもなり得る。それでもユリウスはルミナを選んだ。
「ユリウス……」
ユリウスとはここで別れると思っていたため、ルミナは驚いたが、同時に、これからも共にいたいと思ってくれたその気持ちがとても嬉しかった。
幼いころから孤児院で共に過ごし、自身に色んなことを教えてくれたユリウス。気心も知れているし、何よりも頼りになる。ヴァルガも側にいる。心強さに少し安心し、緊張も和らいでいく。
王子フェルディナントはその場で深く頭を下げ、真剣な目でルミナを見た。
「ルミナ殿、私、フェルディナント=ラウレンツ・セリオナードも必ず貴女を守ります」
その言葉は力強く、真面目すぎるほどの熱意がこもっていた。ルミナは少し圧倒されながらも、小さく頷く。
「ありがとうございます」
王は二人を交互に見渡し、満足げに頷いた。
「よし、これで安心だ。ルミナ、ユリウス、そしてフェルディナント、三人と一匹でこの旅路を進むのだ。心して行け」
ルミナは胸の奥で小さな決意を固めた。自分はただ守られるだけではなく、力を使って人々を助けるために旅するのだ、と。
ヴァルガは黒い体を小さく縮め、ルミナの足元で尻尾を揺らす。まるで「一緒に行くよ」と言っているかのようだった。
「では、準備もございますし、明日また合流いたしましょう」
「ああ」
ユリウスとフェルディナントが以降のスケジュールを打ち合わせしている間に、王はルミナを手招きし、傍に来たルミナへ耳打ちした。
「アイツはちょっと堅物でな。融通は利かんが、忠誠心と強さは折り紙付きだ。よろしく頼む」
「はい。分かりました」
ルミナは小さく頷き、王の耳打ちを真剣に受け止めた。王の顔にはいつもの朗らかな笑みが浮かんでいるが、その目はほんの少しだけ厳しさを帯びていた。
王は軽く手を振り、ルミナの肩を優しく叩いた。ルミナは少し緊張しつつも、心強さを感じる。父のような王の言葉が、背中を押してくれる気がした。
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ルミナとユリウスは王宮をあとにし、王都の賑やかな街並みを歩いていた。
「わぁ……わぁ……」
ルミナはきょろきょろと辺りを見渡しては目を輝かせていた。以前王都へ来たときは歩いて回ることはなかったし、そもそもルミナにとっては街歩き自体が初めての経験だ。何もかもが新鮮だった。
「ユリウス、すごいね……」
「はい。王都は王族や貴族だけでなく、冒険者や商人、旅人も多く集まる街です。気を抜くとすぐに迷子になりますよ」
ルミナは頷きながら、胸の奥で期待と緊張が入り混じった気持ちを抱いた。いよいよ、自分の力を試す冒険者としての生活が始まるのだ。
「これからどこへ行くの?」
「まずは魔道具店へ向かいます」
「魔道具店!」
時折立ち止まったり、露店を覗いてみたり、ふらふらしているルミナとは対照的に、ユリウスは目的地へと迷いなく進んでいた。ただただ誘導されるままルミナは歩いていた。
「魔法使いは杖を持ちますので、形だけでも」
「杖かぁ」
ルミナには必要のない物だったが、持っていた方が都合がいい。普通の魔法使いは自身と相性のいい属性の魔石が装着されている杖を所持している。魔法を使うルミナが杖を持っていないのは普通ではないのだ。
「こちらです」
やがて二人は、大通りから少し入ったところにある魔道具店へ着いた。大通りとは異なり、人はまばらで静かだった。ルミナは店の雰囲気が若干不気味に感じたが、ユリウスは躊躇なく店へ入って行った。
「……すごい」
「外観は少々不気味ですが、いい道具が取り揃えられています」
店の中に入ると、ユリウスの言う通り、剣や槍、弓など武器をはじめ、様々な防具や道具が置かれていた。一画にはもちろん杖も数点置いてあった。
「この店で扱っているのは魔道具ですので、武器類には魔石が仕込まれています」
「へぇー」
「魔法使いでなくても魔法を使った攻撃ができるのです」
説明を聞きながらルミナは杖を眺めていた。杖にも色々種類があるようで、長さや大きさも様々だ。装飾が豪華なものもあれば全く装飾のないものもあり、どれを選べばいいのか分からない。ちらりとユリウスを見上げれば、察したようにユリウスは説明する。
「何を選ぶかは正直、好みです」
「そんな感じでいいんだ」
「もちろんです。好みのデザインで武器を作ってもらう冒険者もいますし、自分が獲った魔石を仕込んでもらう者もいます」
「へぇ……じゃあ、みんな自分の好きな杖なんだね」
「そういうことです」
ルミナはずらりと並んだ杖を前にして、しばらく目をきょろきょろと動かしていた。背丈よりも長いものから、片手で扱えそうな短いものまで種類は様々だ。
――でも、私に合うのってどれだろう。
普通の魔法使いなら属性との相性で決めるが、ルミナの場合は制限がない。だからこそ決めにくいのだった。
「……ユリウスは、どれが似合うと思う?」
「そうですね……」
ユリウスはしばし棚を眺め、一本を取り出した。長さは大人の腕ほどで、片手で持てる軽さ。濃い茶色の木を削り出した杖で、装飾は控えめだが握り部分に革の巻きがあり、上端には小さな蒼い魔石が埋め込まれている。
「これは……」
「携帯しやすい短杖です。扱いやすく、旅にも向いています。魔石は水属性ですが、変えられますのであとで変えてもらいましょう。形として持つのには適しているでしょう」
ルミナは杖を受け取り、試しに軽く振ってみた。手にすっと馴染み、重さも苦にならない。
「……これ、いいかも!」
「お気に召しましたか」
ルミナがうんうんと頷くと、店主が近づき、杖の携帯用の革ベルトも勧めてきた。腰に装着できるもので、短杖をすぐに抜き差しできるようになっている。
「なるほど……これなら歩くときも両手が空きますね」
「そうなの?」
「ええ。杖を常に手に持っていると不便です。携帯用の道具は必須といえます」
ユリウスの説明に、ルミナは「それなら!」と即決でベルトも購入した。
埋め込まれた魔石は透明なただの宝石へ変えてもった。わざわざ魔石を取り外すもの好きはいないため、店主には少々不審がられたが。
しかし、ルミナには必要がなく、魔石と違う属性の魔法を使っていらぬ騒ぎは起こしたくない。ユリウスは最初からそのつもりで宝石を用意していたのだ。
支払いはユリウスが済ませ、店を出るときにはルミナは新しい杖をベルトに収め、腰に下げていた。
「なんだか……本当に冒険者になったみたい!」
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