出会いは突然に〜愛人の行方〜

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14.新入社員がやってきた

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朝のオフィスは、一見いつも通りに見える。



しかし、この場所に新人社員の飯島健くんが加わったことで、いつもとは少し違った空気が漂っていた。



晃が簡単に紹介した後、飯島くんが私に挨拶をしてきた。



「今日からこちらでお世話になります。飯島です。よろしくお願いします!」



彼のこわばった表情を見て、もっと肩の力を抜いていいのにと思う。



それにしても、まさか私が彼の教育係に任命されるとは思わなかった。



――推薦してくれた晃の期待に応えないと。



「山崎亜美です。こちらこそよろしく。何かわからないことがあったら、遠慮せずに聞いてね」



「はい、ありがとうございます!」



飯島くんは笑顔を見せ、一礼する。



これから一緒に働くことになる彼が好印象で、少しホッとした。



ただ、そのとき背後にいた晃の視線が一瞬鋭くなったことには気づかなかった。









その後の日々は滞りなく過ぎていった。



飯島くんは仕事に熱心で、私の教えをしっかり吸収していく。



3週間も経つと、彼の方から親しげに話しかけてくるようになり、雑談をすることも増えていた。



ある日、コピー機の前で資料を整理していると、飯島くんが近づいてきた。



紙を取ろうとした瞬間、彼の手が軽く私の手に触れる。









――きっと偶然だろう。









この時、気に留めなかったことを、後になって後悔した。



「亜美さん、週末って何か予定がありますか?」



突然の質問に戸惑いながらも、深く考えずに答えた。



「どうして?」



「タイ料理のおいしいお店を見つけたんです。一緒に行きませんか?」



嬉しいお誘いだったが、週末はあいにく忙しい。



「ありがとう。でも、家でやらなきゃいけないことがあって……」



飯島くんはがっかりした様子を見せながら、席に戻っていった。



ふと後ろを向くと、晃と目が合った。



そっと会釈をしてみたが、晃の表情は微かにこわばっている気がした。









ある日の朝、始業前に飯島くんが再び話しかけてきた。



「この前言ったお店、今夜一緒に行きませんか?」



「ごめん、今夜も予定があって……」



「じゃあ、亜美さんが空いてる日を教えてもらえますか?」



「うん、あとで教えるね」



――帰ったらスケジュールを確認しよう。



この時の私は、飯島くんが部下として誘ってくれたものとばかり思っていた。



その日、オフィスを後にしようとしたとき、背中に突き刺さるような視線を感じた。



振り向いても、誰も私を見ていない。



――疲れているせいかな。



視線の主について深く考えることはなく、そのまま帰路に就いた。









ある日の昼休みのこと。



「お疲れ様です! コーヒー淹れてきたのでどうぞ」



飯島くんが差し出してくれたコーヒーを受け取る。



「……前から思ってたんですけど、亜美さんの手、綺麗ですよね」



いきなりの褒め言葉に驚いたが、嫌な気はしなかった。



――特にケアしているわけではなかったので、褒められるなんて意外だった。



照れ笑いを浮かべた瞬間、飯島くんがそっと私の手を取った。



「何かケアしてるんですか?」



驚きはあったものの、嫌悪感はなかった。



「褒めてくれてありがとう。でも、特別なことは何もしてないよ」



笑いながら返したその時、背後に人の気配を感じた。



振り返る間もなく、晃が飯島くんから私の手を引き離した。



強い力ではないのに、振りほどくことができない。



顔を上げると、晃が飯島くんを睨みつけている。



――突然の出来事に、どう反応していいのか分からない。









「あき、……あ、えっと、本田さん?」



晃が私の手を握ったまま、無言で別室へと連れて行った。



鍵の開いている会議室に入ると、彼はドアを閉め、私の前に立ち塞がる。



「今夜、お前の部屋に行く。逃げるなよ」



有無を言わせない態度に、頭が真っ白になる。



――怒っているの? でも、その理由が全く分からない。



仕事で何か失敗したのだろうか……?



混乱する私を見ても、晃の表情は全く変わらない。



「……わ、分かりました」



ようやく絞り出した声に、晃は短く頷くと、こちらを一瞥もせずに去って行った。



その後姿を見送りながら、私はただ立ち尽くすことしかできなかった。









部署に戻ると、飯島くんが心配そうな顔で近づいてきた。



さっきの出来事が気になっているのだろう。



「大丈夫。ちょっと、仕事の話をされただけだから」



笑みを浮かべながら答えると、飯島くんはホッとしたように小さく頷いた。



しかし、私の頭の中では、さっきの晃の冷たい視線が焼き付いて離れなかった。



定時が過ぎる頃には、緊張がピークに達していた。



――一体、何の話をされるんだろう? 仕事の話ではない気がする。



嫌な考えが次々と頭に浮かび、不安がどんどん募っていく。



部屋に帰っても、くつろぐどころか、ますます不安になる。



何度も時計を確認しながら、晃が来るのを待つ。



不安と心配が入り混じり、時間が過ぎるのがとても遅く感じられる。



玄関の鍵がカチッと開く音が聞こえた。その瞬間、心臓が飛び出しそうになった。



間もなく、リビングの扉が勢いよく開く。



「あ、晃?」



恐る恐る顔を上げると、そこには険しい表情をした晃が立っていた。
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