45 / 107
断絶
④
しおりを挟む
しかし、ふと視線を向けたキッチンの奥。作業台があるほう。
フライパン。鍋。白い皿。
皿は今朝、パンを焼くのに使ったのでそこにあったのだが、それを見て思い出してしまった。
菜月の作ってくれた、焼きうどん。
あれはとても美味しかった、なんて。
味付けもちょうど良く、キャベツとにんじんは甘さすら感じるほどで、それ以上に、あったかかった、のだ。
あたたかい料理なら、かろうじて大学の学食で食べてはいるが、それとはまったく違うものだ。
違うところ。
それは込められた気持ち。
あの焼きうどんには、菜月の優しい気持ちがたっぷり詰まっていたのだ。
それが、実際に焼きうどんが上手く出来上がっていたという以上に、美味しく感じさせたのだろう。
押しかけてきて、キッチンに立って、そして茂が食べるところを向かいでにこにこ見てくれていた菜月。
……もう、会えないのだろうか。
そんな思考すら頭に浮かんでしまって、茂は思う。
いい加減、観念しなければいけない、と。
菜月を受け入れるとは、今は思わない。
大体、恋愛感情があるかと言われれば、怪しいものであった。
好感を持っていることは間違いない。
そのくらいは大人なのだからわかる。
だが、自分でかけているストッパーが強すぎて、いまいち自分からもわからなくなってしまったのだった。
菜月が高校生だから、という理由のほかにも、もうひとつ、理由はあるのだから。
それは元妻・杏子との関係が壊れてしまった原因にもなったこと。
だが今はそれよりも。
そして自分の気持ちやら菜月との関係をこれからどうするかよりも。
それらより重要なことがあった。
観念しなければいけないこと。
それは、今までしなかった、こちらから菜月に連絡を取ること。
そして謝る。
直接謝れればいいが、せめてメッセージ上だけでもいい。それが誠意だろう。
フライパン。鍋。白い皿。
皿は今朝、パンを焼くのに使ったのでそこにあったのだが、それを見て思い出してしまった。
菜月の作ってくれた、焼きうどん。
あれはとても美味しかった、なんて。
味付けもちょうど良く、キャベツとにんじんは甘さすら感じるほどで、それ以上に、あったかかった、のだ。
あたたかい料理なら、かろうじて大学の学食で食べてはいるが、それとはまったく違うものだ。
違うところ。
それは込められた気持ち。
あの焼きうどんには、菜月の優しい気持ちがたっぷり詰まっていたのだ。
それが、実際に焼きうどんが上手く出来上がっていたという以上に、美味しく感じさせたのだろう。
押しかけてきて、キッチンに立って、そして茂が食べるところを向かいでにこにこ見てくれていた菜月。
……もう、会えないのだろうか。
そんな思考すら頭に浮かんでしまって、茂は思う。
いい加減、観念しなければいけない、と。
菜月を受け入れるとは、今は思わない。
大体、恋愛感情があるかと言われれば、怪しいものであった。
好感を持っていることは間違いない。
そのくらいは大人なのだからわかる。
だが、自分でかけているストッパーが強すぎて、いまいち自分からもわからなくなってしまったのだった。
菜月が高校生だから、という理由のほかにも、もうひとつ、理由はあるのだから。
それは元妻・杏子との関係が壊れてしまった原因にもなったこと。
だが今はそれよりも。
そして自分の気持ちやら菜月との関係をこれからどうするかよりも。
それらより重要なことがあった。
観念しなければいけないこと。
それは、今までしなかった、こちらから菜月に連絡を取ること。
そして謝る。
直接謝れればいいが、せめてメッセージ上だけでもいい。それが誠意だろう。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる