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アトリエの惨状

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「……蜜蝋みつろう、でしょうか」

「蜜蝋?」

 思い当たって、口に出した。

 フレイディは首をかしげる。

「絵の具の原料なのです。たまに調合からすることがあるので、昨日から置いていて……そう、そういえばまだ結構においがしておりました」

 話していくうちに、原因は判明した。

 アマリアの使っていた絵の具。

 その原材料である蜜蝋の甘い独特の香りに惹かれて、レオンはやってきてしまったのだろう。

 そして甘い香りの溢れる部屋で、つい悪戯をしてしまった、という推測が立った。

「そうか、じゃあそれだ。レオンは蜂蜜なんかの甘い香りが好きだから、惹かれて入ってしまったんだろう」

 うんうんと頷くフレイディ。

 原因は判明し、どうしてこんな惨状になったのかもわかった。

 けれどアマリアとしては、なにも解決していないのである。

「なるほど。ですが……」

 言いかけたアマリアの言葉を、今度はフレイディが遮る。

 胸の前に上げた手を軽く振った。

「わかった、きみの言いたいことはわかるよ。償いはしよう。必ずしよう」

 きっぱり言い切られて、アマリアは続きが止まってしまった。

 はっきりそう言ってくれたのに、これ以上言うのも悪い。

「……本当ですわね?」

 よってそれだけに留めておいて、フレイディはほっとしたような顔で「勿論だ」と頷いた。

 しかしそこで、バタバタと足音がした。

 振り返ると、慌てた様子で父が走ってくるではないか。

 アマリアと同じ銀色の髪で、少々太り気味の父。

 アマリアはここにきてやっと、自分のおこないが、出来事に対してはともかく、身分としては相応でなかったことに気が付いた。
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