4 / 276
アトリエの惨状
4
しおりを挟む
「……蜜蝋、でしょうか」
「蜜蝋?」
思い当たって、口に出した。
フレイディは首をかしげる。
「絵の具の原料なのです。たまに調合からすることがあるので、昨日から置いていて……そう、そういえばまだ結構においがしておりました」
話していくうちに、原因は判明した。
アマリアの使っていた絵の具。
その原材料である蜜蝋の甘い独特の香りに惹かれて、レオンはやってきてしまったのだろう。
そして甘い香りの溢れる部屋で、つい悪戯をしてしまった、という推測が立った。
「そうか、じゃあそれだ。レオンは蜂蜜なんかの甘い香りが好きだから、惹かれて入ってしまったんだろう」
うんうんと頷くフレイディ。
原因は判明し、どうしてこんな惨状になったのかもわかった。
けれどアマリアとしては、なにも解決していないのである。
「なるほど。ですが……」
言いかけたアマリアの言葉を、今度はフレイディが遮る。
胸の前に上げた手を軽く振った。
「わかった、きみの言いたいことはわかるよ。償いはしよう。必ずしよう」
きっぱり言い切られて、アマリアは続きが止まってしまった。
はっきりそう言ってくれたのに、これ以上言うのも悪い。
「……本当ですわね?」
よってそれだけに留めておいて、フレイディはほっとしたような顔で「勿論だ」と頷いた。
しかしそこで、バタバタと足音がした。
振り返ると、慌てた様子で父が走ってくるではないか。
アマリアと同じ銀色の髪で、少々太り気味の父。
アマリアはここにきてやっと、自分のおこないが、出来事に対してはともかく、身分としては相応でなかったことに気が付いた。
「蜜蝋?」
思い当たって、口に出した。
フレイディは首をかしげる。
「絵の具の原料なのです。たまに調合からすることがあるので、昨日から置いていて……そう、そういえばまだ結構においがしておりました」
話していくうちに、原因は判明した。
アマリアの使っていた絵の具。
その原材料である蜜蝋の甘い独特の香りに惹かれて、レオンはやってきてしまったのだろう。
そして甘い香りの溢れる部屋で、つい悪戯をしてしまった、という推測が立った。
「そうか、じゃあそれだ。レオンは蜂蜜なんかの甘い香りが好きだから、惹かれて入ってしまったんだろう」
うんうんと頷くフレイディ。
原因は判明し、どうしてこんな惨状になったのかもわかった。
けれどアマリアとしては、なにも解決していないのである。
「なるほど。ですが……」
言いかけたアマリアの言葉を、今度はフレイディが遮る。
胸の前に上げた手を軽く振った。
「わかった、きみの言いたいことはわかるよ。償いはしよう。必ずしよう」
きっぱり言い切られて、アマリアは続きが止まってしまった。
はっきりそう言ってくれたのに、これ以上言うのも悪い。
「……本当ですわね?」
よってそれだけに留めておいて、フレイディはほっとしたような顔で「勿論だ」と頷いた。
しかしそこで、バタバタと足音がした。
振り返ると、慌てた様子で父が走ってくるではないか。
アマリアと同じ銀色の髪で、少々太り気味の父。
アマリアはここにきてやっと、自分のおこないが、出来事に対してはともかく、身分としては相応でなかったことに気が付いた。
0
あなたにおすすめの小説
継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。
継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。
しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。
彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。
2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~
川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。
そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。
それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。
村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。
ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。
すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。
村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。
そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
愛人令嬢のはずが、堅物宰相閣下の偽恋人になりまして
依廼 あんこ
恋愛
昔から『愛人顔』であることを理由に不名誉な噂を流され、陰口を言われてきた伯爵令嬢・イリス。実際は恋愛経験なんて皆無のイリスなのに、根も葉もない愛人の噂は大きくなって社交界に広まるばかり。
ついには女嫌いで堅物と噂の若き宰相・ブルーノから呼び出しを受け、風紀の乱れを指摘されてしまう。幸いイリスの愛人の噂と真相が異なることをすぐに見抜くブルーノだったが、なぜか『期間限定の恋人役』を提案されることに。
ブルーノの提案を受けたことで意外にも穏やかな日々を送れるようになったイリスだったが、ある日突然『イリスが王太子殿下を誘った』とのスキャンダルが立ってしまい――!?
* カクヨム・小説家になろうにも投稿しています。
* 第一部完結。今後、第二部以降も執筆予定です。
恋。となり、となり、隣。
雉虎 悠雨
恋愛
友人の部屋にルームシェアすることになった篠崎ゆきは、引っ越してから三ヶ月、家が変わった以外は今まで通りの日常を送っていた。隣は赤ちゃんがいる家族と一人暮らしの背の高いあまり表情のない男。
ある日、マンションに帰ってくると、隣の部屋の前でその部屋の男、目雲周弥が倒れていた。
そして泥酔していたのを介抱する。
その一ヶ月後、またも帰宅すると隣の部屋の前でうずくまっている。また泥酔したのかとゆきが近づくと、前回と様子が違い酷いめまいを起こしているようだった。
ゆきは部屋になんとか運び入れ、また介抱した。
そこからゆきの日常も目雲の日常も変化していく。
小説家になろうにも掲載しています
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
王子様と乳しぼり!!婚約破棄された転生姫君は隣国の王太子と酪農業を興して国の再建に努めます
黄札
恋愛
とある王国の王女として転生したソフィアは赤毛で生まれてしまったために、第一王女でありながら差別を受ける毎日。転生前は仕事仕事の干物女だったが、そちらのほうがマシだった。あげくの果てに従兄弟の公爵令息との婚約も破棄され、どん底に落とされる。婚約者は妹、第二王女と結婚し、ソフィアは敵国へ人質のような形で嫁がされることに……
だが、意外にも結婚相手である敵国の王弟はハイスペックイケメン。夫に溺愛されるソフィアは、前世の畜産の知識を生かし酪農業を興す。ケツ顎騎士団長、不良農民、社交の達人レディステラなど新しい仲間も増え、奮闘する毎日が始まった。悪役宰相からの妨害にも負けず、荒れ地を緑豊かな牧場へと変える!
この作品は小説家になろう、ツギクルにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる