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【第3話】親交を深める鍋パーティー
【3-20】
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「……」
「おい、何とか言ったらどうなんだ、マティアス!」
何も答えないマティ様に、ジルは怒りを募らせていくようだった。どうして何も言い返さないんだろうとオロオロしながら、こっそり涙を拭っていると、マティ様は落ち着いた様子で唇を開く。
「……私が話している途中でミカが泣いたのは、事実だ」
「つまり、お前が泣かせたんだな?」
「まぁ、そう捉えられても致し方あるまい」
いやいや、致し方あるから!
その言い方では、誤解を招いてしまう。マティ様は真面目だからこそ、事実を事実として語り、その原因が自分にあると思い、責められても良いと考えているんだろうけど、それは違う。
訂正の言葉を挟もうとした途端、奇妙な風が吹き荒れ、今度はカミュが唐突に現れた。僕と王子様を挟む形で魔王と対角線上に出現した悪魔は、美しい瞳に憤りを滾らせている。
「ミカさんの頬に、涙の跡が残っております。マティアス様、これはどういうことでしょうか」
「私の話を聞いている途中で、彼は涙を流したのだ」
「それほどまでに酷い内容のお言葉をぶつけられたのですか」
「そうなるのだろうな」
「……ッ」
カミュの眉がつり上がり、黒い翼がバサリと唸った。ジルの肩も怒りで震えている。マティ様は相変わらずの無表情で押し黙ったままだ。
ああ、これはまずい。早く誤解をとかなければ、大変なことになってしまう。
「ち、違うから!」
重苦しく冷えきった空気に抗うべく、上擦りながらも大きめの声を出した僕に、三対の視線が突き刺さる。
「マティ様は何も悪くないよ。僕を責めるようなことは何も言われていないし、ただ事実を教えてくれただけ。酷いのはマティ様じゃなくて、……この世界だよ」
その言葉で、ジルもカミュも納得してくれたらしい。憤怒のオーラを瞬時に引っ込めてくれる。そして、彼らはどこか痛ましげに僕を見下ろしてきた。
──ジルも、カミュも、きっと察したんだろう。僕が魔王の暴走時のことを、つまり、自分がいずれ殺される立場にある異世界人だと知ってしまったということを。
確かに、ショックじゃないと言えば嘘になる。殺されるのが怖くないわけじゃない。でも、それ以上に、僕を殺してしまった後の彼らがどうなってしまうのか、それが一番気がかりであり、恐ろしかった。
でも、今はまだ、その話は置いておきたい。彼らと話し合うにしても、少し一人で考えてからにしたい。──だから、僕は笑ってみせた。
「心配かけて、ごめんね。つい泣いちゃったから、涙を拭こうと思ってハンカチを出したら、ジルにもらった御守も一緒に出て落ちちゃったんだ。だから、そんなつもりはないのに鳴っちゃって……、でも、それだけなんだ」
「……。……そうか、それならいい」
ジルはうっすらと微笑んで、僕の頭を撫でる。そして彼は、マティ様へ軽く頭を下げた。
「誤解をしていたようだ。すまなかった」
「私も、とんだご無礼を申しました。申し訳ございません」
ジルに続いて、カミュは主の何倍も深々と頭を下げる。マティ様はふんぞり返ることも憤慨することもなく、静かに首を振った。そして、場の空気を和らげるように、落ち着いた口調で話す。
「いや、私がミカに負担をかけたのは事実だろう。……今日はこのあたりにしておく。平静を装っているが、ミカはだいぶ傷心していらるはずだ。真面目な話は次回にでも持ち越して、今日はもう彼を喜ばせてあげたほうがいい。今日届けたのは、ミカのためのものだろう?」
「えっ……?」
確かに、マティ様が何を運んできてくれるのか、楽しみではあった。キカさんからは入手できない食材が色々あると、ジルとカミュの話からも、マリオさんの書き置きからも知っていたから。特に、チーズに相当する食材に期待していたりする。チーズがあるだけで、料理にかなり幅が出るからね。
でも、それらは僕のためというより、ジルのためという部分のほうがウエイトが大きいはずだ。そもそも、マティ様がわざわざ自ら様子を見にきて物資を届けてくれるのは、恩人であるジルを想ってのことなんだから。
「ホラマロバ王国の食材をお願いしていたのです。もしかしたらミカさんがお好きなのでは、と思って」
サプライズを企画してニヤニヤしている子どものように無邪気な表情で、カミュが説明してくれる。ホラマロバ王国って、確かキカさんが帰り際に言ってたところかな……? 和食に近い雰囲気と思われる郷土料理が特徴的、という感じだったような。
「本当にミカが好きなものなのか? 仕入れてはみたが、私には何が何だか分からぬものばかりだったぞ。薄切りの肉は『肉だな』とは思ったが」
「どうだろうな。……だが、俺が調べたところ、ミカが生まれ育った場所の料理と近しいものがある、ような、ないような」
ジルが調べたというよりも、キカさんが話しているのをこっそり立ち聞きして覚えていたんだろうけど、それをマティ様に言うわけにいかないんだもんね。
「僕、見てみたいです。マティ様がお持ちくださった品々を」
「うむ。いいだろう。ついてきたまえ!」
あえてマティ様に向けて言うと、王子様は心なしか得意気に口角を上げて立ち上がり、手にした杖を優雅に振って入口の扉を指し示したのだった。
「おい、何とか言ったらどうなんだ、マティアス!」
何も答えないマティ様に、ジルは怒りを募らせていくようだった。どうして何も言い返さないんだろうとオロオロしながら、こっそり涙を拭っていると、マティ様は落ち着いた様子で唇を開く。
「……私が話している途中でミカが泣いたのは、事実だ」
「つまり、お前が泣かせたんだな?」
「まぁ、そう捉えられても致し方あるまい」
いやいや、致し方あるから!
その言い方では、誤解を招いてしまう。マティ様は真面目だからこそ、事実を事実として語り、その原因が自分にあると思い、責められても良いと考えているんだろうけど、それは違う。
訂正の言葉を挟もうとした途端、奇妙な風が吹き荒れ、今度はカミュが唐突に現れた。僕と王子様を挟む形で魔王と対角線上に出現した悪魔は、美しい瞳に憤りを滾らせている。
「ミカさんの頬に、涙の跡が残っております。マティアス様、これはどういうことでしょうか」
「私の話を聞いている途中で、彼は涙を流したのだ」
「それほどまでに酷い内容のお言葉をぶつけられたのですか」
「そうなるのだろうな」
「……ッ」
カミュの眉がつり上がり、黒い翼がバサリと唸った。ジルの肩も怒りで震えている。マティ様は相変わらずの無表情で押し黙ったままだ。
ああ、これはまずい。早く誤解をとかなければ、大変なことになってしまう。
「ち、違うから!」
重苦しく冷えきった空気に抗うべく、上擦りながらも大きめの声を出した僕に、三対の視線が突き刺さる。
「マティ様は何も悪くないよ。僕を責めるようなことは何も言われていないし、ただ事実を教えてくれただけ。酷いのはマティ様じゃなくて、……この世界だよ」
その言葉で、ジルもカミュも納得してくれたらしい。憤怒のオーラを瞬時に引っ込めてくれる。そして、彼らはどこか痛ましげに僕を見下ろしてきた。
──ジルも、カミュも、きっと察したんだろう。僕が魔王の暴走時のことを、つまり、自分がいずれ殺される立場にある異世界人だと知ってしまったということを。
確かに、ショックじゃないと言えば嘘になる。殺されるのが怖くないわけじゃない。でも、それ以上に、僕を殺してしまった後の彼らがどうなってしまうのか、それが一番気がかりであり、恐ろしかった。
でも、今はまだ、その話は置いておきたい。彼らと話し合うにしても、少し一人で考えてからにしたい。──だから、僕は笑ってみせた。
「心配かけて、ごめんね。つい泣いちゃったから、涙を拭こうと思ってハンカチを出したら、ジルにもらった御守も一緒に出て落ちちゃったんだ。だから、そんなつもりはないのに鳴っちゃって……、でも、それだけなんだ」
「……。……そうか、それならいい」
ジルはうっすらと微笑んで、僕の頭を撫でる。そして彼は、マティ様へ軽く頭を下げた。
「誤解をしていたようだ。すまなかった」
「私も、とんだご無礼を申しました。申し訳ございません」
ジルに続いて、カミュは主の何倍も深々と頭を下げる。マティ様はふんぞり返ることも憤慨することもなく、静かに首を振った。そして、場の空気を和らげるように、落ち着いた口調で話す。
「いや、私がミカに負担をかけたのは事実だろう。……今日はこのあたりにしておく。平静を装っているが、ミカはだいぶ傷心していらるはずだ。真面目な話は次回にでも持ち越して、今日はもう彼を喜ばせてあげたほうがいい。今日届けたのは、ミカのためのものだろう?」
「えっ……?」
確かに、マティ様が何を運んできてくれるのか、楽しみではあった。キカさんからは入手できない食材が色々あると、ジルとカミュの話からも、マリオさんの書き置きからも知っていたから。特に、チーズに相当する食材に期待していたりする。チーズがあるだけで、料理にかなり幅が出るからね。
でも、それらは僕のためというより、ジルのためという部分のほうがウエイトが大きいはずだ。そもそも、マティ様がわざわざ自ら様子を見にきて物資を届けてくれるのは、恩人であるジルを想ってのことなんだから。
「ホラマロバ王国の食材をお願いしていたのです。もしかしたらミカさんがお好きなのでは、と思って」
サプライズを企画してニヤニヤしている子どものように無邪気な表情で、カミュが説明してくれる。ホラマロバ王国って、確かキカさんが帰り際に言ってたところかな……? 和食に近い雰囲気と思われる郷土料理が特徴的、という感じだったような。
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「どうだろうな。……だが、俺が調べたところ、ミカが生まれ育った場所の料理と近しいものがある、ような、ないような」
ジルが調べたというよりも、キカさんが話しているのをこっそり立ち聞きして覚えていたんだろうけど、それをマティ様に言うわけにいかないんだもんね。
「僕、見てみたいです。マティ様がお持ちくださった品々を」
「うむ。いいだろう。ついてきたまえ!」
あえてマティ様に向けて言うと、王子様は心なしか得意気に口角を上げて立ち上がり、手にした杖を優雅に振って入口の扉を指し示したのだった。
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