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【第5話】君に捧げるフレンチトースト
【5-11】
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「せ……、戦利品?」
「そう。わたしは、イラが一番最初に盗んだものなの。わたし、貴族のおじさんに買われてお屋敷の地下牢にいたんだけど、イラが盗んでいったのよ。そのときが初仕事だったんだって」
──それって、盗んだというより助けたのでは?
状況はよく分からないけれど、地下牢に捕らえられていたのなら、リュリちゃんにとって良い環境ではなかったはずだ。事前に計画していたのか、たまたま見つけたのかは不明だけど、イラさんはこの子を助けたくて連れ出したんじゃないかな。
そんな僕の思考を知りもしないリュリちゃんは、キラキラした瞳で見上げてくる。
「ね、ミカさんはどこにいたの? どこからイラに盗まれてきたの?」
「え、っと……、盗まれたわけじゃないと思うけど、その……、魔王の城にいたんだよ。僕は、魔王の食事係だから」
誤魔化すのもなんとなく違う気がして、僕は正直に打ち明けた。引かれるかもしれないと思ったけれど、大きな目をさらに見開いて驚きながらも、リュリちゃんは負の感情は一切見せない。
「魔王の食事係? 裸でごはんを作っていたの?」
「えっ!? ち、違うよ! たまたまお風呂に入っていただけで……」
「えっ。イラってば、浴場にお邪魔したの? それはよくないわ。……でも、そっか。やっぱり、ミカさんは戦利品だったのね。イラは、魔王の宝を盗んできたんだわ」
「いや、僕は宝じゃ……」
「でも、魔王はミカさんを大事にしていたんでしょ? 肌も髪もツヤツヤしているし、とっても健康そうだもの。大切にされていた証拠だわ」
「さすが、リュリ。うちの姫は、美しい上に賢いからな」
いつの間にか戻って来ていたのか、イラさんが傍に立っていた。驚いている僕へシンプルなベージュのシャツと焦げ茶のズボンを手渡し、イラさんはリュリちゃんへ優しい視線を向ける。
「リュリ。茶でも淹れてきてもらえるか? その間に、ミカに着替えてもらう」
「うん、わかった」
リュリちゃんは素直に頷いて、相変わらずの危うい足取りで部屋を出て行った。すると、イラさんは僕から目を逸らし、素っ気なく言う。
「着替えろ」
「あ、うん……、ありがとう」
「下着は無いが、服だけでもマシだろう」
「うん、助かるよ」
畏まるなと言われたから敬語をやめてみたけれど、イラさんには特に気にしている様子が無いから、それでいいんだろう。
手渡された服を、なるべく素早く身に着けていく。さっと手足を通してみると、腕と脚の丈が余ってしまうのが、なんとなく悔しい。複雑な気分でボタンを留めていると、イラさんが静かに話し始めた。
「……さっき、リュリも言っていたが。お前は、魔王から大事にされているんだろう。健康状態もそうだが、あんなに豪華な浴場を一人で使わせていたことからも分かる」
「……うん、大切にしてもらっているとは思っているよ」
「やはり、そうか」
着替え終わったからイラさんのほうを見ると、彼女の目もちょうどこちらに向けられている。視線が交わると、イラさんは気まずそうに逸らした。
「……先程、リュリが話していたと思うが。私は、盗みを生業としている。だけど、それなりに信条はある。私は、悪い奴からしか盗まない。……ミカのことも、返しに行かなければな」
「……魔王のことは、悪い奴だって思わないの?」
「どうだろうな。……それを確かめるために、私は魔王の城へ忍び込んだ。だが、空間を繋げた場所が悪かった。入浴していたミカの前に出てしまい、お前を怪我させて動揺して、盗んできてしまった」
「空間を……繋げる……? それって、魔法?」
「いや、精霊の加護だ。魔法ではない」
……精霊?
疑問に思っているのが顔に出ていたのか、イラさんは「そんなことも知らないのか」というような表情をしながらも、精霊の加護について教えてくれた。
魔力や魔法とは別次元の能力で、精霊から能力を与えられることがあるらしい。それは「精霊の加護」と呼ばれ、人によってどんな能力かは異なり、魔法の干渉を受けないものなのだという。精霊については謎ばかりで、どのような種族でどの程度の種類が存在するのかも不明で、精霊そのものが目に見えない存在であるから余計に解明が進んでいないようだ。
「私が精霊から能力を与えられたのは、預けられていた孤児院の解体が決定したときだった。空間を繋げて見知らぬ土地にすら侵入できる能力と分かったとき、私は盗賊になることを決めた。学も金も無い孤児が出来る仕事など、マトモなものは殆ど無い。盗賊ならば得られる利益が大きい。それに、他の孤児たちを子分と云う名目で手元に置き、面倒をみてやることができるからな」
盗みと云う行為は許されざるものだと思うけれど、彼女の孤児という身の上と、盗賊を始めたきっかけを聞かされて、頭ごなしに否定するのは躊躇われた。勿論、良いことだとは思えない。けれど、「悪い奴からしか盗まない」という信条も相まって、責める言葉を紡ぎづらい。
「一番最初に狙ったのは、孤児院があった地域で有名だった悪徳貴族の屋敷だ。金目の物を探し回っているとき、……リュリを見つけた」
「そう。わたしは、イラが一番最初に盗んだものなの。わたし、貴族のおじさんに買われてお屋敷の地下牢にいたんだけど、イラが盗んでいったのよ。そのときが初仕事だったんだって」
──それって、盗んだというより助けたのでは?
状況はよく分からないけれど、地下牢に捕らえられていたのなら、リュリちゃんにとって良い環境ではなかったはずだ。事前に計画していたのか、たまたま見つけたのかは不明だけど、イラさんはこの子を助けたくて連れ出したんじゃないかな。
そんな僕の思考を知りもしないリュリちゃんは、キラキラした瞳で見上げてくる。
「ね、ミカさんはどこにいたの? どこからイラに盗まれてきたの?」
「え、っと……、盗まれたわけじゃないと思うけど、その……、魔王の城にいたんだよ。僕は、魔王の食事係だから」
誤魔化すのもなんとなく違う気がして、僕は正直に打ち明けた。引かれるかもしれないと思ったけれど、大きな目をさらに見開いて驚きながらも、リュリちゃんは負の感情は一切見せない。
「魔王の食事係? 裸でごはんを作っていたの?」
「えっ!? ち、違うよ! たまたまお風呂に入っていただけで……」
「えっ。イラってば、浴場にお邪魔したの? それはよくないわ。……でも、そっか。やっぱり、ミカさんは戦利品だったのね。イラは、魔王の宝を盗んできたんだわ」
「いや、僕は宝じゃ……」
「でも、魔王はミカさんを大事にしていたんでしょ? 肌も髪もツヤツヤしているし、とっても健康そうだもの。大切にされていた証拠だわ」
「さすが、リュリ。うちの姫は、美しい上に賢いからな」
いつの間にか戻って来ていたのか、イラさんが傍に立っていた。驚いている僕へシンプルなベージュのシャツと焦げ茶のズボンを手渡し、イラさんはリュリちゃんへ優しい視線を向ける。
「リュリ。茶でも淹れてきてもらえるか? その間に、ミカに着替えてもらう」
「うん、わかった」
リュリちゃんは素直に頷いて、相変わらずの危うい足取りで部屋を出て行った。すると、イラさんは僕から目を逸らし、素っ気なく言う。
「着替えろ」
「あ、うん……、ありがとう」
「下着は無いが、服だけでもマシだろう」
「うん、助かるよ」
畏まるなと言われたから敬語をやめてみたけれど、イラさんには特に気にしている様子が無いから、それでいいんだろう。
手渡された服を、なるべく素早く身に着けていく。さっと手足を通してみると、腕と脚の丈が余ってしまうのが、なんとなく悔しい。複雑な気分でボタンを留めていると、イラさんが静かに話し始めた。
「……さっき、リュリも言っていたが。お前は、魔王から大事にされているんだろう。健康状態もそうだが、あんなに豪華な浴場を一人で使わせていたことからも分かる」
「……うん、大切にしてもらっているとは思っているよ」
「やはり、そうか」
着替え終わったからイラさんのほうを見ると、彼女の目もちょうどこちらに向けられている。視線が交わると、イラさんは気まずそうに逸らした。
「……先程、リュリが話していたと思うが。私は、盗みを生業としている。だけど、それなりに信条はある。私は、悪い奴からしか盗まない。……ミカのことも、返しに行かなければな」
「……魔王のことは、悪い奴だって思わないの?」
「どうだろうな。……それを確かめるために、私は魔王の城へ忍び込んだ。だが、空間を繋げた場所が悪かった。入浴していたミカの前に出てしまい、お前を怪我させて動揺して、盗んできてしまった」
「空間を……繋げる……? それって、魔法?」
「いや、精霊の加護だ。魔法ではない」
……精霊?
疑問に思っているのが顔に出ていたのか、イラさんは「そんなことも知らないのか」というような表情をしながらも、精霊の加護について教えてくれた。
魔力や魔法とは別次元の能力で、精霊から能力を与えられることがあるらしい。それは「精霊の加護」と呼ばれ、人によってどんな能力かは異なり、魔法の干渉を受けないものなのだという。精霊については謎ばかりで、どのような種族でどの程度の種類が存在するのかも不明で、精霊そのものが目に見えない存在であるから余計に解明が進んでいないようだ。
「私が精霊から能力を与えられたのは、預けられていた孤児院の解体が決定したときだった。空間を繋げて見知らぬ土地にすら侵入できる能力と分かったとき、私は盗賊になることを決めた。学も金も無い孤児が出来る仕事など、マトモなものは殆ど無い。盗賊ならば得られる利益が大きい。それに、他の孤児たちを子分と云う名目で手元に置き、面倒をみてやることができるからな」
盗みと云う行為は許されざるものだと思うけれど、彼女の孤児という身の上と、盗賊を始めたきっかけを聞かされて、頭ごなしに否定するのは躊躇われた。勿論、良いことだとは思えない。けれど、「悪い奴からしか盗まない」という信条も相まって、責める言葉を紡ぎづらい。
「一番最初に狙ったのは、孤児院があった地域で有名だった悪徳貴族の屋敷だ。金目の物を探し回っているとき、……リュリを見つけた」
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