95 / 246
【第5話】君に捧げるフレンチトースト
【5-11】
しおりを挟む
「せ……、戦利品?」
「そう。わたしは、イラが一番最初に盗んだものなの。わたし、貴族のおじさんに買われてお屋敷の地下牢にいたんだけど、イラが盗んでいったのよ。そのときが初仕事だったんだって」
──それって、盗んだというより助けたのでは?
状況はよく分からないけれど、地下牢に捕らえられていたのなら、リュリちゃんにとって良い環境ではなかったはずだ。事前に計画していたのか、たまたま見つけたのかは不明だけど、イラさんはこの子を助けたくて連れ出したんじゃないかな。
そんな僕の思考を知りもしないリュリちゃんは、キラキラした瞳で見上げてくる。
「ね、ミカさんはどこにいたの? どこからイラに盗まれてきたの?」
「え、っと……、盗まれたわけじゃないと思うけど、その……、魔王の城にいたんだよ。僕は、魔王の食事係だから」
誤魔化すのもなんとなく違う気がして、僕は正直に打ち明けた。引かれるかもしれないと思ったけれど、大きな目をさらに見開いて驚きながらも、リュリちゃんは負の感情は一切見せない。
「魔王の食事係? 裸でごはんを作っていたの?」
「えっ!? ち、違うよ! たまたまお風呂に入っていただけで……」
「えっ。イラってば、浴場にお邪魔したの? それはよくないわ。……でも、そっか。やっぱり、ミカさんは戦利品だったのね。イラは、魔王の宝を盗んできたんだわ」
「いや、僕は宝じゃ……」
「でも、魔王はミカさんを大事にしていたんでしょ? 肌も髪もツヤツヤしているし、とっても健康そうだもの。大切にされていた証拠だわ」
「さすが、リュリ。うちの姫は、美しい上に賢いからな」
いつの間にか戻って来ていたのか、イラさんが傍に立っていた。驚いている僕へシンプルなベージュのシャツと焦げ茶のズボンを手渡し、イラさんはリュリちゃんへ優しい視線を向ける。
「リュリ。茶でも淹れてきてもらえるか? その間に、ミカに着替えてもらう」
「うん、わかった」
リュリちゃんは素直に頷いて、相変わらずの危うい足取りで部屋を出て行った。すると、イラさんは僕から目を逸らし、素っ気なく言う。
「着替えろ」
「あ、うん……、ありがとう」
「下着は無いが、服だけでもマシだろう」
「うん、助かるよ」
畏まるなと言われたから敬語をやめてみたけれど、イラさんには特に気にしている様子が無いから、それでいいんだろう。
手渡された服を、なるべく素早く身に着けていく。さっと手足を通してみると、腕と脚の丈が余ってしまうのが、なんとなく悔しい。複雑な気分でボタンを留めていると、イラさんが静かに話し始めた。
「……さっき、リュリも言っていたが。お前は、魔王から大事にされているんだろう。健康状態もそうだが、あんなに豪華な浴場を一人で使わせていたことからも分かる」
「……うん、大切にしてもらっているとは思っているよ」
「やはり、そうか」
着替え終わったからイラさんのほうを見ると、彼女の目もちょうどこちらに向けられている。視線が交わると、イラさんは気まずそうに逸らした。
「……先程、リュリが話していたと思うが。私は、盗みを生業としている。だけど、それなりに信条はある。私は、悪い奴からしか盗まない。……ミカのことも、返しに行かなければな」
「……魔王のことは、悪い奴だって思わないの?」
「どうだろうな。……それを確かめるために、私は魔王の城へ忍び込んだ。だが、空間を繋げた場所が悪かった。入浴していたミカの前に出てしまい、お前を怪我させて動揺して、盗んできてしまった」
「空間を……繋げる……? それって、魔法?」
「いや、精霊の加護だ。魔法ではない」
……精霊?
疑問に思っているのが顔に出ていたのか、イラさんは「そんなことも知らないのか」というような表情をしながらも、精霊の加護について教えてくれた。
魔力や魔法とは別次元の能力で、精霊から能力を与えられることがあるらしい。それは「精霊の加護」と呼ばれ、人によってどんな能力かは異なり、魔法の干渉を受けないものなのだという。精霊については謎ばかりで、どのような種族でどの程度の種類が存在するのかも不明で、精霊そのものが目に見えない存在であるから余計に解明が進んでいないようだ。
「私が精霊から能力を与えられたのは、預けられていた孤児院の解体が決定したときだった。空間を繋げて見知らぬ土地にすら侵入できる能力と分かったとき、私は盗賊になることを決めた。学も金も無い孤児が出来る仕事など、マトモなものは殆ど無い。盗賊ならば得られる利益が大きい。それに、他の孤児たちを子分と云う名目で手元に置き、面倒をみてやることができるからな」
盗みと云う行為は許されざるものだと思うけれど、彼女の孤児という身の上と、盗賊を始めたきっかけを聞かされて、頭ごなしに否定するのは躊躇われた。勿論、良いことだとは思えない。けれど、「悪い奴からしか盗まない」という信条も相まって、責める言葉を紡ぎづらい。
「一番最初に狙ったのは、孤児院があった地域で有名だった悪徳貴族の屋敷だ。金目の物を探し回っているとき、……リュリを見つけた」
「そう。わたしは、イラが一番最初に盗んだものなの。わたし、貴族のおじさんに買われてお屋敷の地下牢にいたんだけど、イラが盗んでいったのよ。そのときが初仕事だったんだって」
──それって、盗んだというより助けたのでは?
状況はよく分からないけれど、地下牢に捕らえられていたのなら、リュリちゃんにとって良い環境ではなかったはずだ。事前に計画していたのか、たまたま見つけたのかは不明だけど、イラさんはこの子を助けたくて連れ出したんじゃないかな。
そんな僕の思考を知りもしないリュリちゃんは、キラキラした瞳で見上げてくる。
「ね、ミカさんはどこにいたの? どこからイラに盗まれてきたの?」
「え、っと……、盗まれたわけじゃないと思うけど、その……、魔王の城にいたんだよ。僕は、魔王の食事係だから」
誤魔化すのもなんとなく違う気がして、僕は正直に打ち明けた。引かれるかもしれないと思ったけれど、大きな目をさらに見開いて驚きながらも、リュリちゃんは負の感情は一切見せない。
「魔王の食事係? 裸でごはんを作っていたの?」
「えっ!? ち、違うよ! たまたまお風呂に入っていただけで……」
「えっ。イラってば、浴場にお邪魔したの? それはよくないわ。……でも、そっか。やっぱり、ミカさんは戦利品だったのね。イラは、魔王の宝を盗んできたんだわ」
「いや、僕は宝じゃ……」
「でも、魔王はミカさんを大事にしていたんでしょ? 肌も髪もツヤツヤしているし、とっても健康そうだもの。大切にされていた証拠だわ」
「さすが、リュリ。うちの姫は、美しい上に賢いからな」
いつの間にか戻って来ていたのか、イラさんが傍に立っていた。驚いている僕へシンプルなベージュのシャツと焦げ茶のズボンを手渡し、イラさんはリュリちゃんへ優しい視線を向ける。
「リュリ。茶でも淹れてきてもらえるか? その間に、ミカに着替えてもらう」
「うん、わかった」
リュリちゃんは素直に頷いて、相変わらずの危うい足取りで部屋を出て行った。すると、イラさんは僕から目を逸らし、素っ気なく言う。
「着替えろ」
「あ、うん……、ありがとう」
「下着は無いが、服だけでもマシだろう」
「うん、助かるよ」
畏まるなと言われたから敬語をやめてみたけれど、イラさんには特に気にしている様子が無いから、それでいいんだろう。
手渡された服を、なるべく素早く身に着けていく。さっと手足を通してみると、腕と脚の丈が余ってしまうのが、なんとなく悔しい。複雑な気分でボタンを留めていると、イラさんが静かに話し始めた。
「……さっき、リュリも言っていたが。お前は、魔王から大事にされているんだろう。健康状態もそうだが、あんなに豪華な浴場を一人で使わせていたことからも分かる」
「……うん、大切にしてもらっているとは思っているよ」
「やはり、そうか」
着替え終わったからイラさんのほうを見ると、彼女の目もちょうどこちらに向けられている。視線が交わると、イラさんは気まずそうに逸らした。
「……先程、リュリが話していたと思うが。私は、盗みを生業としている。だけど、それなりに信条はある。私は、悪い奴からしか盗まない。……ミカのことも、返しに行かなければな」
「……魔王のことは、悪い奴だって思わないの?」
「どうだろうな。……それを確かめるために、私は魔王の城へ忍び込んだ。だが、空間を繋げた場所が悪かった。入浴していたミカの前に出てしまい、お前を怪我させて動揺して、盗んできてしまった」
「空間を……繋げる……? それって、魔法?」
「いや、精霊の加護だ。魔法ではない」
……精霊?
疑問に思っているのが顔に出ていたのか、イラさんは「そんなことも知らないのか」というような表情をしながらも、精霊の加護について教えてくれた。
魔力や魔法とは別次元の能力で、精霊から能力を与えられることがあるらしい。それは「精霊の加護」と呼ばれ、人によってどんな能力かは異なり、魔法の干渉を受けないものなのだという。精霊については謎ばかりで、どのような種族でどの程度の種類が存在するのかも不明で、精霊そのものが目に見えない存在であるから余計に解明が進んでいないようだ。
「私が精霊から能力を与えられたのは、預けられていた孤児院の解体が決定したときだった。空間を繋げて見知らぬ土地にすら侵入できる能力と分かったとき、私は盗賊になることを決めた。学も金も無い孤児が出来る仕事など、マトモなものは殆ど無い。盗賊ならば得られる利益が大きい。それに、他の孤児たちを子分と云う名目で手元に置き、面倒をみてやることができるからな」
盗みと云う行為は許されざるものだと思うけれど、彼女の孤児という身の上と、盗賊を始めたきっかけを聞かされて、頭ごなしに否定するのは躊躇われた。勿論、良いことだとは思えない。けれど、「悪い奴からしか盗まない」という信条も相まって、責める言葉を紡ぎづらい。
「一番最初に狙ったのは、孤児院があった地域で有名だった悪徳貴族の屋敷だ。金目の物を探し回っているとき、……リュリを見つけた」
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる