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【第5話】君に捧げるフレンチトースト
【5-19】
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「カミュ……?」
「ミカさんに、悲しそうな顔をさせてしまいました。──私は、己が恥ずかしい」
カミュは、だいぶ落ち込んでいるようだ。今にも泣き出してしまうのではと思うほど悲壮な顔をしていて、こちらの胸も痛む。通常の精神状態に戻るどころか、かなり意気消沈している彼は、恐る恐る僕の顔を覗き込んできた。
「……私のことを、お嫌いになられましたか」
「えっ? そんなはずないよ。どうして?」
「……私が悪魔であると、実感されたでしょう? ……我を忘れておりましたが、ミカさんが怯えたご様子だったのは脳の片隅が記憶しております。……私は、貴方に怖がられたくなかった。……それに、あの盗人に関しては同情の余地など無いと思っておりますが、一緒にいた少女には悪いことをしてしまいました。……ミカさんが止めてくださって、良かったです。ありがとうございました」
「カミュ……」
「──こんなことを願うのはおこがましいですが、でも、出来れば……、私を、嫌わないでください」
嫌わないで。その一言が持つ切なさに、心が苦しくなる。そして、それを相手にまっすぐに伝えられるカミュの純粋さにも、胸を打たれた。
僕もかつて、うんと幼かった頃、「嫌わないで」と毎日願っていた。母に叩かれる度に、家に置いて行かれて何日も一人ぼっちになる度に、「もっと良い子になるから嫌わないで」と心の中で何度も繰り返し思った。でも、それを母本人に伝えられたことはない。
だけど、カミュは素直に伝えてきた。そう、きっと、彼はとても純粋で、どのベクトルでもまっすぐなんだ。優しさにおいても、怒りにおいても。
「カミュ、聞いて。──僕は、君を嫌いになったりなんてしていないよ」
「……」
「確かに、ちょっとビックリしたし、正直に言えば少し怖かった。でも、それ以上に君のことが心配だったし、申し訳ないなと思ったよ」
「いいえ、貴方が責任を感じる必要はありません。どうか、それはやめてください。本当に。……いいですか。貴方は被害者です。人を攫う者が悪いし、どんな理由があろうと加減をしようと故意に攻撃魔法をぶつける者が悪いのです。ですから、今回の件に関して、ミカさんがご自分を責める必要など何ひとつありません」
「でも……、少しとはいえ守護鈴を手離して隙があったのも、僕に魔力が無くて思わぬ怪我をしたのも事実だよ」
「沐浴中に一切の隙が無い者などいません。魔力が無いのも貴方のせいではありません。……そのようにミカさんが責任を感じられては、私など、もう、どうしたらよろしいのですか」
彼らしくない弱々しさで吐き出された言葉に、ハッとする。そうか、僕が小さな自責を積み重ねてウジウジしてしまうと、そんな僕を護らねばならない立場にある人たちが苦しんでしまうんだ。僕にも反省すべき点があったのは確かだけれど、それは口に出さず、内心で自省して己を戒めるに留めておいたほうがいい。
そう考えた僕は、いつもよりも色が沈んだ紅の瞳と視線を合わせて言った。
「ごめんね、カミュ。僕はまず、これを君に伝えるべきだった。──助けに来てくれて、迎えに来てくれて、ありがとう」
「いえ……、参上が遅くなり、すみませんでした。まさか精霊の加護によって空間移動をさる者がいるとは思い至らず……」
精霊の加護については未解明な部分が多く、魔法ともまた違うものだとイラさんは言っていた。だからこそ、ジルもカミュもすぐに侵入経路や方法や僕の居場所を特定できず、歯がゆい思いをしたのだろう。
「それでも、ちゃんと見つけて迎えに来てくれたでしょ。本当にありがとう」
「……勿体ないお言葉です」
「城に戻ったら、何か美味しいものを作るね。カミュもお腹空いたでしょ?」
「いえ、私は大丈夫です。本来、悪魔に食事は不要ですから。……それに、ジル様がミカさんのために昼食をご用意されているはずです。それを召し上がって、ミカさんはゆっくりと休まれてください」
そう言ったカミュは、それきり唇を閉ざし、飛行に集中してしまう。憂い気な紅眼はまっすぐ前を見据えて、もうこちらを見下ろしてくれる様子は無い。僕の言葉をこれ以上は受け取りたくないというような、そんな壁を感じてしまう。
──それだけ、カミュは傷ついているんだ。あんな風に取り乱して激昂したことも、そんな姿を共に暮らす僕に見せてしまったことも、彼にとっては不本意だったんだろう。どんな言葉を重ねても、今のカミュの心には届かないのかもしれない。
どうしたら、元気になってくれるだろう。
僕がこの世界に召喚されてきたときからずっと、カミュは優しく見守ってくれていた。見知らぬ土地と慣れない環境でも僕が元気に過ごせたのは、ずっと傍に寄り添ってくれていたカミュの存在があってこそだ。
勿論、ジルにも、キカさんやマティ様、クックやポッポにも感謝している。でも、一番長く傍にいてくれているのは、カミュだ。そんなカミュが悲しんでいるのは、自分のことのように辛い。
元気になってほしい。僕は君のことが大好きなんだと、信じてほしい。それには、どうしたらいいだろう。どんな方法なら伝わるだろう。
沈黙を貫いていてもしっかりと抱えてくれている力強い腕の中、僕はいつしか景色を眺めることすらやめて、あれこれと思い悩むのだった。
「ミカさんに、悲しそうな顔をさせてしまいました。──私は、己が恥ずかしい」
カミュは、だいぶ落ち込んでいるようだ。今にも泣き出してしまうのではと思うほど悲壮な顔をしていて、こちらの胸も痛む。通常の精神状態に戻るどころか、かなり意気消沈している彼は、恐る恐る僕の顔を覗き込んできた。
「……私のことを、お嫌いになられましたか」
「えっ? そんなはずないよ。どうして?」
「……私が悪魔であると、実感されたでしょう? ……我を忘れておりましたが、ミカさんが怯えたご様子だったのは脳の片隅が記憶しております。……私は、貴方に怖がられたくなかった。……それに、あの盗人に関しては同情の余地など無いと思っておりますが、一緒にいた少女には悪いことをしてしまいました。……ミカさんが止めてくださって、良かったです。ありがとうございました」
「カミュ……」
「──こんなことを願うのはおこがましいですが、でも、出来れば……、私を、嫌わないでください」
嫌わないで。その一言が持つ切なさに、心が苦しくなる。そして、それを相手にまっすぐに伝えられるカミュの純粋さにも、胸を打たれた。
僕もかつて、うんと幼かった頃、「嫌わないで」と毎日願っていた。母に叩かれる度に、家に置いて行かれて何日も一人ぼっちになる度に、「もっと良い子になるから嫌わないで」と心の中で何度も繰り返し思った。でも、それを母本人に伝えられたことはない。
だけど、カミュは素直に伝えてきた。そう、きっと、彼はとても純粋で、どのベクトルでもまっすぐなんだ。優しさにおいても、怒りにおいても。
「カミュ、聞いて。──僕は、君を嫌いになったりなんてしていないよ」
「……」
「確かに、ちょっとビックリしたし、正直に言えば少し怖かった。でも、それ以上に君のことが心配だったし、申し訳ないなと思ったよ」
「いいえ、貴方が責任を感じる必要はありません。どうか、それはやめてください。本当に。……いいですか。貴方は被害者です。人を攫う者が悪いし、どんな理由があろうと加減をしようと故意に攻撃魔法をぶつける者が悪いのです。ですから、今回の件に関して、ミカさんがご自分を責める必要など何ひとつありません」
「でも……、少しとはいえ守護鈴を手離して隙があったのも、僕に魔力が無くて思わぬ怪我をしたのも事実だよ」
「沐浴中に一切の隙が無い者などいません。魔力が無いのも貴方のせいではありません。……そのようにミカさんが責任を感じられては、私など、もう、どうしたらよろしいのですか」
彼らしくない弱々しさで吐き出された言葉に、ハッとする。そうか、僕が小さな自責を積み重ねてウジウジしてしまうと、そんな僕を護らねばならない立場にある人たちが苦しんでしまうんだ。僕にも反省すべき点があったのは確かだけれど、それは口に出さず、内心で自省して己を戒めるに留めておいたほうがいい。
そう考えた僕は、いつもよりも色が沈んだ紅の瞳と視線を合わせて言った。
「ごめんね、カミュ。僕はまず、これを君に伝えるべきだった。──助けに来てくれて、迎えに来てくれて、ありがとう」
「いえ……、参上が遅くなり、すみませんでした。まさか精霊の加護によって空間移動をさる者がいるとは思い至らず……」
精霊の加護については未解明な部分が多く、魔法ともまた違うものだとイラさんは言っていた。だからこそ、ジルもカミュもすぐに侵入経路や方法や僕の居場所を特定できず、歯がゆい思いをしたのだろう。
「それでも、ちゃんと見つけて迎えに来てくれたでしょ。本当にありがとう」
「……勿体ないお言葉です」
「城に戻ったら、何か美味しいものを作るね。カミュもお腹空いたでしょ?」
「いえ、私は大丈夫です。本来、悪魔に食事は不要ですから。……それに、ジル様がミカさんのために昼食をご用意されているはずです。それを召し上がって、ミカさんはゆっくりと休まれてください」
そう言ったカミュは、それきり唇を閉ざし、飛行に集中してしまう。憂い気な紅眼はまっすぐ前を見据えて、もうこちらを見下ろしてくれる様子は無い。僕の言葉をこれ以上は受け取りたくないというような、そんな壁を感じてしまう。
──それだけ、カミュは傷ついているんだ。あんな風に取り乱して激昂したことも、そんな姿を共に暮らす僕に見せてしまったことも、彼にとっては不本意だったんだろう。どんな言葉を重ねても、今のカミュの心には届かないのかもしれない。
どうしたら、元気になってくれるだろう。
僕がこの世界に召喚されてきたときからずっと、カミュは優しく見守ってくれていた。見知らぬ土地と慣れない環境でも僕が元気に過ごせたのは、ずっと傍に寄り添ってくれていたカミュの存在があってこそだ。
勿論、ジルにも、キカさんやマティ様、クックやポッポにも感謝している。でも、一番長く傍にいてくれているのは、カミュだ。そんなカミュが悲しんでいるのは、自分のことのように辛い。
元気になってほしい。僕は君のことが大好きなんだと、信じてほしい。それには、どうしたらいいだろう。どんな方法なら伝わるだろう。
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