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【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-17】
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「カミュ、おかえり!」
扉に近付いて大きく開くと、カミュは少しはにかみながら入室してくる。
「ただいま戻りました」
「すぐに入って来れば良かったのに、どうしてあんな所から覗いてたの?」
「いえ、その……、水を差してお邪魔するのは申し訳ないなと思いまして。でも、結果的にはお声掛けして邪魔をしてしまったわけですが」
「邪魔? どうして? 邪魔なはずないじゃない」
ね? と振り返ると、フィラスも、いつの間にか彼の両肩に止まっているクックとポッポも、揃ってコクコクと頷いた。カミュは、ちょっと気まずそうに小さく笑う。
「……ミカさんが、とても楽しそうにされていらっしゃるので。フィラスさんとご一緒だと、年相応の無邪気さがあるというか。……サリハ様とフィラスさんが帰られてしまえば、またジル様と私とクックとポッポしかいない日々になりますから。今のうちに、少しでも多く楽しんでいただきたいのですよ」
ああ、なるほど。色々と細かいところまで気が回る彼らしい思いやりだ。その気持ちは、ありがたい。──でも、カミュは少し勘違いしている。
「フィラスと一緒に過ごしている時間は、確かに楽しいよ。でも、カミュやジル、クックとポッポと一緒に暮らしているのんびりとした毎日もすごく楽しいんだよ」
「……本当に?」
「勿論、本当だよ。フィラスのことは友だちみたいって思っているし、カミュとジルとクックとポッポは家族みたいって思ってて、それぞれ楽しいの種類は違うんじゃないかなって思うんだけど……、駄目?」
いきなり「家族みたい」なんて言われても困るのかなと思って怖々とカミュの顔を見上げてみると、美しい悪魔は口をぽかんと開けてこちらを凝視していた。──どうしよう、呆れられてしまったのかな。
緊張と動揺で冷や汗をかきそうな僕の背を、フィラスの手が力強く叩いてきた。
「違うぞ、ミカ!」
「ッ、痛……っ」
「ククッ!?」
「ポッ!? ポッ!?」
「オレとオマエは友だちみたいではない! みたいではなく、友なのだ! オマエたちも! 家族みたい、ではなく、家族だ!」
「フィラス! 背中を叩くのやめて!」
「クッ!」
「ポッ!」
「ほら! 鳥たちもそうだそうだと賛同して、オレをつついてきているぞ!」
「違うよ! 僕が痛がってるから君を攻撃してるんだよ! でも、クック、ポッポ、大丈夫だからフィラスをつついちゃ駄目だよ! 怪我しちゃう!」
「あの! 少々よろしいでしょうか!」
ああだこうだと言い合ったり鳴いたりしていた僕たちは、カミュが声を張って発した一言に反応し、ピタッと静止して口を閉ざす。見れば、カミュはハァハァと不自然な様子で呼吸を少し乱し、妙に必死な眼差しでこちらを見据えている。……どうしたんだろう。具合が悪いのかな? 大丈夫だろうか。
心配になってきた僕を強い目力で射抜きながら、カミュは次の言葉を繰り出した。
「あの、ミカさんは、……ミカさんが、我々のことを家族のように思ってくださっているというのは……、その、私の幻聴ではございませんか?」
「う、うん……、僕は確かにそう言ったけど……」
「そ、そそそ、それは、その、……私も含めて、という解釈でよろしいですか?」
「うん、その……、よろしいです」
狼狽えながら頷きつつ、段々と不安になってくる。そういえば、彼は魔の者。人間など取るに足らないちっぽけな存在と見なしている種族の一員だった。現在の彼自身はそういう思想を抱いていないようだけれど、それでもやっぱり、人間が「家族みたい」なんて軽々しく言ってくるのは不愉快だったりするのかもしれない。
先手を打って謝ってしまったほうがいいのか悩み始めたとき、目の前で俯いて小刻みに震えていたカミュが、不意に勢いよく顔を上げた。
「嬉しいです!」
「……えっ?」
「なんと喜ばしいことでしょう! この僥倖をジル様にお伝えしてまいります!」
「えっ!? あの、ちょっと、カミュ……!」
僕だけではなく、フィラスも愛鳥たちも呆然としている。ポカーンとしている僕たちを置いて、カミュは調理場を飛び出して羽ばたいていった。──と思いきや、すぐに戻ってくる。
「ジル様は真剣勝負の最中なんでした。話し掛けたら怒られてしまいます」
「うん、そうだろうね……」
「でも、すぐにお知らせしたいくらい、嬉しかったのです。私も含めて家族と捉えてくださるだなんて!」
ションボリ顔が一転して、カミュは頬を赤く染めて興奮しながら紅眼を輝かせた。この顔は、美味しいものを食べたときと同じで、本当に喜んでいる表情だ。
「喜んでくれるの? ……迷惑じゃない?」
「迷惑なものですか! むしろ、光栄です。本当に、心の底からそう思います。ミカさんの素敵なおじ様には適わないでしょうが、それでも、ミカさんの中で同じ括りに入れていただけたこと、本当に嬉しいのです」
そう言って瞳を潤ませるカミュだったけれど、先に涙を流したのはフィラスだった。逞しい前腕部に目元を押し当て、言葉を溶かしながらおいおいと泣き出す。
「なんと! なんと良い光景でありゅか! 本日は、っ、ほんじつは、きねんびでありゅ! ともとがぞぐのぎねんびぉぉうぉよがっだなぁぁみがぁぁ」
「本当に、本当に、記念すべき良き日です」
「ああ、もう、二人ともそんなに泣いたら、もう……、僕までもらい泣きしちゃうでしょ」
胸に温かい何かが押し寄せてきて、思わず僕も涙を零してしまう。他の二人ほどではなく、ほんの少しだけど。
──でも、こんな様子を、もしも中水上のおじさんが空から見ていてくれたとしたら、きっと「良かったね」と笑ってくれる気がして。そんな想像が、数粒の新しい涙を生み出すのだった。
扉に近付いて大きく開くと、カミュは少しはにかみながら入室してくる。
「ただいま戻りました」
「すぐに入って来れば良かったのに、どうしてあんな所から覗いてたの?」
「いえ、その……、水を差してお邪魔するのは申し訳ないなと思いまして。でも、結果的にはお声掛けして邪魔をしてしまったわけですが」
「邪魔? どうして? 邪魔なはずないじゃない」
ね? と振り返ると、フィラスも、いつの間にか彼の両肩に止まっているクックとポッポも、揃ってコクコクと頷いた。カミュは、ちょっと気まずそうに小さく笑う。
「……ミカさんが、とても楽しそうにされていらっしゃるので。フィラスさんとご一緒だと、年相応の無邪気さがあるというか。……サリハ様とフィラスさんが帰られてしまえば、またジル様と私とクックとポッポしかいない日々になりますから。今のうちに、少しでも多く楽しんでいただきたいのですよ」
ああ、なるほど。色々と細かいところまで気が回る彼らしい思いやりだ。その気持ちは、ありがたい。──でも、カミュは少し勘違いしている。
「フィラスと一緒に過ごしている時間は、確かに楽しいよ。でも、カミュやジル、クックとポッポと一緒に暮らしているのんびりとした毎日もすごく楽しいんだよ」
「……本当に?」
「勿論、本当だよ。フィラスのことは友だちみたいって思っているし、カミュとジルとクックとポッポは家族みたいって思ってて、それぞれ楽しいの種類は違うんじゃないかなって思うんだけど……、駄目?」
いきなり「家族みたい」なんて言われても困るのかなと思って怖々とカミュの顔を見上げてみると、美しい悪魔は口をぽかんと開けてこちらを凝視していた。──どうしよう、呆れられてしまったのかな。
緊張と動揺で冷や汗をかきそうな僕の背を、フィラスの手が力強く叩いてきた。
「違うぞ、ミカ!」
「ッ、痛……っ」
「ククッ!?」
「ポッ!? ポッ!?」
「オレとオマエは友だちみたいではない! みたいではなく、友なのだ! オマエたちも! 家族みたい、ではなく、家族だ!」
「フィラス! 背中を叩くのやめて!」
「クッ!」
「ポッ!」
「ほら! 鳥たちもそうだそうだと賛同して、オレをつついてきているぞ!」
「違うよ! 僕が痛がってるから君を攻撃してるんだよ! でも、クック、ポッポ、大丈夫だからフィラスをつついちゃ駄目だよ! 怪我しちゃう!」
「あの! 少々よろしいでしょうか!」
ああだこうだと言い合ったり鳴いたりしていた僕たちは、カミュが声を張って発した一言に反応し、ピタッと静止して口を閉ざす。見れば、カミュはハァハァと不自然な様子で呼吸を少し乱し、妙に必死な眼差しでこちらを見据えている。……どうしたんだろう。具合が悪いのかな? 大丈夫だろうか。
心配になってきた僕を強い目力で射抜きながら、カミュは次の言葉を繰り出した。
「あの、ミカさんは、……ミカさんが、我々のことを家族のように思ってくださっているというのは……、その、私の幻聴ではございませんか?」
「う、うん……、僕は確かにそう言ったけど……」
「そ、そそそ、それは、その、……私も含めて、という解釈でよろしいですか?」
「うん、その……、よろしいです」
狼狽えながら頷きつつ、段々と不安になってくる。そういえば、彼は魔の者。人間など取るに足らないちっぽけな存在と見なしている種族の一員だった。現在の彼自身はそういう思想を抱いていないようだけれど、それでもやっぱり、人間が「家族みたい」なんて軽々しく言ってくるのは不愉快だったりするのかもしれない。
先手を打って謝ってしまったほうがいいのか悩み始めたとき、目の前で俯いて小刻みに震えていたカミュが、不意に勢いよく顔を上げた。
「嬉しいです!」
「……えっ?」
「なんと喜ばしいことでしょう! この僥倖をジル様にお伝えしてまいります!」
「えっ!? あの、ちょっと、カミュ……!」
僕だけではなく、フィラスも愛鳥たちも呆然としている。ポカーンとしている僕たちを置いて、カミュは調理場を飛び出して羽ばたいていった。──と思いきや、すぐに戻ってくる。
「ジル様は真剣勝負の最中なんでした。話し掛けたら怒られてしまいます」
「うん、そうだろうね……」
「でも、すぐにお知らせしたいくらい、嬉しかったのです。私も含めて家族と捉えてくださるだなんて!」
ションボリ顔が一転して、カミュは頬を赤く染めて興奮しながら紅眼を輝かせた。この顔は、美味しいものを食べたときと同じで、本当に喜んでいる表情だ。
「喜んでくれるの? ……迷惑じゃない?」
「迷惑なものですか! むしろ、光栄です。本当に、心の底からそう思います。ミカさんの素敵なおじ様には適わないでしょうが、それでも、ミカさんの中で同じ括りに入れていただけたこと、本当に嬉しいのです」
そう言って瞳を潤ませるカミュだったけれど、先に涙を流したのはフィラスだった。逞しい前腕部に目元を押し当て、言葉を溶かしながらおいおいと泣き出す。
「なんと! なんと良い光景でありゅか! 本日は、っ、ほんじつは、きねんびでありゅ! ともとがぞぐのぎねんびぉぉうぉよがっだなぁぁみがぁぁ」
「本当に、本当に、記念すべき良き日です」
「ああ、もう、二人ともそんなに泣いたら、もう……、僕までもらい泣きしちゃうでしょ」
胸に温かい何かが押し寄せてきて、思わず僕も涙を零してしまう。他の二人ほどではなく、ほんの少しだけど。
──でも、こんな様子を、もしも中水上のおじさんが空から見ていてくれたとしたら、きっと「良かったね」と笑ってくれる気がして。そんな想像が、数粒の新しい涙を生み出すのだった。
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