魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-16】

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「おひるごはん?」

 ノヴァユエの頭に、ピコーンッと立つ猫耳の幻覚が見えた気がする。そういえば、よくよく見れば、彼の緑色の瞳はクリッとした猫目だ。

「ミカさん、そのようなお気遣いは不要です。私は日々ミカさんの料理を楽しませていただいておりますが、本来、我々悪魔は食事を必要としておりませんし、人間の食べ物をいただく習慣もありませんので……」
「そーそー! 人間を食うことはあっても、人間の食い物を食うことは殆ど無いからねっ★ だーって、刺激が無くてつまんないし不味いんだもーん☆」

 カミュが眉尻を下げて申し訳なさそうに言ってくるのに被せるようにして、ノヴァユエも弾んだ声で本音を口にした。先輩の紅い瞳に睨みつけられても、緑の悪魔はヘラヘラと笑っている。
 カミュが言っていることも、そしてノヴァユエの本音も、よく分かる。馴染みのない文化の、それも自分の中では己が食べ物と認識していないものを口にするのは、けっこう抵抗があるのが普通だろう。僕だって、自分たちの主食だからどうぞと言われて虫とかを出されても、戸惑ったり拒んだりすると思うし。

「強制するつもりは無いよ。ノヴァユエが興味ないなら、無理に勧めたりはしない」

 理解を示した上で、ノヴァユエが興味を持ちそうな一言を添えてみる。

「……でもさ、気にならない? 今のカミュは、魔の者なのに人間のごはんが大好きなんだ。先輩が美味しい美味しいって食べてるものに、興味ない?」
「えっ……、そんなん、ものすっっっごくあるに決まってんじゃん★」
「そうでしょ? それにね、人間の食べ物にだって、なかなか刺激的なものもあるんだよ。舌がヒリヒリ痺れて、汗がドバドバ出て、涙が出ちゃうこともあるような、そういうものも」
「ほんとっ!? 何それ、面白そう! ねー、ねー、カマルティユ先輩! ボクやっぱりミカのごはん食べてみたいー! 食べてから帰るー! ねーねー! いいでしょ!? いいよね!?」

 俄然やる気を出してゴネ始めたノヴァユエを横目に、カミュは絶望的な顔になった。うんざりした表情をしながらも、赤い悪魔は丁寧な口調で僕に問い掛けてくる。

「ミカさん……、どうしてノヴァユエを煽るようなことを仰ったのですか……? 彼は帰る気が失せてしまったようですが」
「うん。ごはんを提供する代わりに、教えてほしいことがいくつかあって」
「……ノヴァユエに、ですか?」

 カミュは意外そうに目を瞬かせ、黙って流れを見守っているジルも好奇心を滲ませた視線を送ってきた。
 ──もちろん、ただ一緒に食事をしたい気持ちもあるけれど。どうせなら、異国の魔王に仕えている悪魔の話を聞いてみたい。それに、これまでに聞いたノヴァユエの話の中には、いくつか気になる点があったんだ。

「ミカ、ボクに聞きたいことがあんの? いいよー★ なんでも話すって言ったしね☆ 悪魔は約束を破らないんだよ★ もうちょっと時間と、あと刺激的なごはんとやらを貰えるなら、なんだって話しちゃう☆」
「ほんと? ……ジル、どうかな? もう少しノヴァユエにいてもらって、一緒にごはんを食べてもいい?」

 ちょっと狡いかもしれないけど、カミュより先にジルを味方につけようと魔王にお伺いを立てる。過保護かつ僕に激甘なジルは、ありがたいことに即座に頷いてくれた。

「ああ、もちろん。ミカがしたいようにするといい。今はもう、そこの悪魔から敵意も悪意も感じないし、慌てて追い返す必要は無いだろう」
「ありがとう! ……どうかな、カミュ?」

 ジルを味方につけたという勢いのまま、カミュを見つめて問い掛ける。視線を合わせた美しい悪魔は、なんとも穏やかな苦笑を浮かべた。

「まったくもう……、ミカさんはしたたかさと狡さを身につけられましたね。ジル様が快諾されているのに、私が拒めるはずないでしょう?」
「うっ……、ごめんなさい」
「いいえ、良いことだと思いますよ。自分の望みを通すための手順を正当な手段から選び取るのは、大切な能力かつ判断力です。全て言いなりで流されてしまうより、よほど健全だと思います」

 独特な見解を述べたカミュは、溜息と共にノヴァユエをチラリと見遣る。その視線に気付いたノヴァユエは、背中の蝙蝠羽をバタつかせながらニパッと笑った。

「分かってる! ちゃんといい子にする! ミカの質問にはちゃんと答える! ごはん食べたらすぐ帰って、お父様に小言もらわない程度に仕事する!」
「よろしい。宣言した以上、きちんとしなさい。我々一族は決して約束を違えないのですから」
「はーいっ★ ……で、ミカは何が聞きたいの?」

 さっそく尋ねられて、素直に答えようとしたところ、珍しくカミュの言葉が遮ってきた。

「いえ、ここで話すのはなく。調理場に参りましょう。ミカさんはお料理をしながら話が出来る方ですし、時間を無駄にしないためにも、どうやって日々の糧を作ってくださっているのか見せるためにも、ノヴァユエに見学させながら話を進めていただいてもよろしいですか?勿論、私も共に行ってお手伝いしますので」
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