魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-21】

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 ◇


 アマネくんと手を繋ぎ、両肩にクックとポッポを乗せながら、僕はのんびりと調理場を目指す。他の四人は何やら話し合いをするとかで、滅多に使われることのない大会議室へと向かって行った。おそらく、魔王と悪魔と王子が強い口調で詰るのだろうけど、あの賢者様なら眉間に皺を寄せつつも聞き流してしまいそうだ。

 アマネくんは、僕に手を引かれるまま、おとなしくついてきている。少し俯き気味で、足取りもどこか頼りない。ドノヴァンさんから十分に離れるにつれて、元気が無くなってきているみたいだ。──やっぱり、無理をしているんだろうな。

「アマネくん」
「ん……?」

 僕が立ち止まると、空気を読んだクックとポッポは近くの戸棚の上に飛んで行った。つられて立ち止まったアマネくんの視線の高さに合わせて、僕は膝立ちになる。そして、ちいさな肩に両手を置いて、心細そうな金色の瞳を覗き込む。

「アマネくん、もう我慢しなくていいよ」
「……何が?」
「思いきり、泣いちゃおう」
「……はぁ?」
「僕も泣いちゃう」
「えっ……、はぁぁ?」
「だって、悔しいよ! あんな言い方って無い! あのおじさん、なんか偉そうに語ってたけど、言ってる内容は最低だよ! あんなのが賢者だってチヤホヤされてるなんて、この世界は変だよ! 僕が元々生きてた世界でも、なんでこんな人がって奴に限って偉かったり偉そうだったりしたけど! そんなの変だよ!」

 さっきは一度飲み込んで抑え込んでいた感情を吐き出していくうちに、僕の両目からは涙がボロボロと零れていった。すると、見上げてきている幼い瞳も、とうとう堪えきれずに大粒の涙を流し始める。

「オレだって……ッ、オレだって、くやしい……! ぐやぢい……ッ!」
「うん、うん、そうだよね、悔しいよね」
「くやしいよ! あんなの、あんなの、ひどいじゃねぇかよぉ……ッ」

 わぁっと声を上げて僕にしがみついてきたアマネくんは、そのまま大声を上げて泣き出した。興奮して熱くなっている小さな身体を、僕は思いきり抱きしめる。
 いいぞ、そのまま思いっきり泣くんだ。泣くのは、恥ずかしいことじゃない。恥ずかしいのは、子どもをこんな風に泣かせるような酷い言葉を投げつけてきた奴のほうだ。君は何も悪くないし、涙を流した後に残った感情は君を強くしてくれる。──そんな気持ちと共に僕自身も泣いて、アマネくんをひたすら抱きすくめた。

 止まない雨が無いように、止まらない涙だって無い。勢いよく大泣きした場合、尚更そうだ。今思えば、僕が幼い頃に自分の心を守る術として無意識に身に着けていたのは、ひとりで大泣きすることだったのかもしれない。
 母に怒鳴られて家にひとりで置き去りにされたとき、中水上なかみかみのおじさんが亡くなったとき、学校で理不尽な理由で苛められたとき、僕はひとりぼっちで、わぁわぁ泣いた。泣いて、泣いて、ひたすら泣いて、やがて涙が止まったとき、妙にスッキリして冷静に自分の置かれている立場を客観視できるようになっていったんだ。
 ──アマネくんもきっと、泣き止んだそのときに、泣くのを堪えていたときの自分よりも少し強くなって、一歩前に進むことが出来るだろう。

「……オレ、……いつかアイツを超える男になってやる」

 ぐすぐすと鼻水をすすりながら、まだ泣き声混じりにアマネくんが呟いた。ちょうど僕の涙も止まりかけているから、お互いに泣き止む頃合いなのかもしれない。

「オレ、魔力はあんまり無いけどさ、いろんなことを覚えるのはけっこう得意なんだ。だから、いっぱい勉強して、賢者をぶっ飛ばす方法を考えてやるんだ!」
「うん、いいね! 賢者なんかやっつけちゃおう! ……それに、アマネくんはこれからいっぱい成長していくんだし、魔力だってグンと強くなるかもしれないよ」
「そうだよな! オレだって、あのクソジジイより強い魔力になるかもしれねーし、そしたら、今度はオレがアイツを泣かしてやるんだ!」
「いいぞー! その意気だよ、アマネくん!」
「クッ!」
「ポッ!」

 じっと様子を見守ってくれていたクックとポッポも励ますように鳴きながら下りてきて、クックはアマネくんに、ポッポは僕に頬擦りしてくれる。もふもふとした優しい感触に癒されて、泣き虫の二人は思わず笑い合った。

「……よし、じゃあ、ごはんを作りに行こうか。たくさん食べて元気を出して、強くなるための力にしていこうね」
「うん! ……いっぱい食べたら、強くなる?」
「いっぱい食べたら元気になるし、美味しいもので満たされたら幸せになるし、元気で幸せって最強だと思うよ」
「……そうかぁ?」
「そうだよ。いっぱい食べて、いっぱい笑って、強くなろうね」

 立ち上がって手を差し出すと、アマネくんは素直に手を繋いでくれる。泣き腫らして目が赤くなっているけれど、アマネくんの表情は明るい。そのことに安心して、僕は小さな手を引いて歩き出した。
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