魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-22】

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 一度泣いて頭がリセットされたのか、アマネくんは歩きながら城内の様子をキョロキョロと眺めている。小さな唇がぽかんと開いているのが、とても可愛い。気になる場所があるようなら案内しようかなとも思ったのだけど、アマネくんはどこかに特別な興味を注ぐことなく、おとなしく付いて来てくれた。
 調理場の前に着き、アマネくんの手を離して扉を開く。片手で促すと、アマネくんはおずおずと中に入った。少し薄暗いけれども、まだ火を灯さなければならないほどではないかな。僕が料理をすると分かっているカミュがそのうち来てくれるはずだし、それまでは不自由せずに過ごせる程度の夕陽が室内に射し込んでいた。

「ここで料理してんの? すげぇ広いし、綺麗に片付いてるんだな」
「そう? アマネくんのおうちはこういう感じじゃないのかな?」
「うん。オレんちは狭いし、いろんなものがゴチャッとしてるし、料理するところと食べるところがくっついてるみたいな感じだから、ぜんぜん違う」

 アマネくんの家の台所は、アイランドキッチンのファンタジー版みたいな感じなのかな? 僕はずっとこの城にいるし、他の家はイラさんとリュリちゃんの家しか見たことがない。イラさんの秘密のアジトは、たぶん細長い部屋が続いている感じの間取りだったと思うし、台所も小ぢんまりとしていたっけ。地方や家族によって、台所事情も色々と違うのかもしれない。

「なぁ、ミカ。何を作るんだ?」
「魚の煮つけと、焼きおにぎりと、具だくさんの味噌汁……って、アマネくんに言っても分からないよね。ホラマロバ王国の料理に似ているごはん、って言ったら、少しは想像できるかな?」
「ホラマロバ? すげぇ! あそこの料理なんて食べたことない!」
「ホラマロバ王国の料理そのものっていうわけじゃなくて、似てるかなぁってだけなんだけどね。僕が生まれた国でよく食べられていたものなんだ」
「へぇー! 異世界のメシかぁ。すげぇ!」

 アマネくん、すっかり元気になってくれたみたいだ。大きな金色の瞳には、好奇心が満ちていて、キラキラと元気に輝いている。微笑ましくて、水色の頭をついつい撫でてしまったところで、僕はおやつの存在を思い出した。

「そうだ。アマネくん、料理をする前におやつを食べようか。思いっきり泣いたら、なんだかお腹空いちゃったよね」
「おやつ、食べたい」

 そう言って窓辺の小さなティーテーブルに寄って手招きすると、アマネくんは素直に駆け寄ってくる。そこの椅子はちょっと高めだから、小さな身体を僕が抱っこして座らせた。落ちないように気をつけてねと言ってから、僕は手早くおやつの用意をした。
 あらかじめ作っておいた木の実のマフィンと、マッ茶で風味づけしたクッキーだ。冷えているミルクもコップに注いで、それらをアマネくんの前に並べると、彼の目は夕陽を受けていることもあって今まで以上のきらめきで輝いた。

「すげぇ……、うまそう……! これ、ミカが作ったのか?」
「うん、そうだよ。大人向けに作ってたから、アマネくんの口に合うかは分からないけど……、でも、よかったら食べてみて?」
「うん!」

 マフィンもクッキーも甘さを抑えているから、小さい子の口には美味しく感じないかもしれない。もしも残念そうにしていたら、冷やしてある果物を剥いてあげよう。──なんて考えていたけれど、アマネくんは最初にマフィンを頬張って、幸せそうな笑顔を見せてくれた。次にクッキーをかじって、嬉しそうに目を細めている。

「すっごい! どっちもうまい~!」
「そう? よかったぁ。苦くないかな?」
「ううん、へーき! オレ、甘いの好きだけど、このくらいのも好きだなって思った!」

 甘さ控えめには慣れていないけど、これは美味しいってことかな? もぐもぐとおやつを堪能しているアマネくんを眺めながら、僕も「いただきます」と手を合わせてからおやつをつまみ始める。──うん、自分で作ってるから当たり前だけど、僕好みの味に仕上がっていて、美味しい。僕が美味しいと思うものを、一緒に食べている相手も美味しいと感じてくれるのは幸せなことだ。一緒に食事をする幸福って、いろんな形と感じ方があるんだなって、この世界に来てから日々思っている。

「なぁ、オレ、料理したことないけど、何を手伝えばいいんだ?」
「野菜を洗ってもらおうかな。いろんな種類があるから、それを洗ってもらえると嬉しい。僕はその隣で切っていくからね」
「うん、オレ、ちゃんと洗う! なぁなぁ、ミカが切るのって、トントンッてやつ? オレ、あの音聞くの好きなんだ」
「ふふっ。そうだよ。トントンッて切っていくからね。美味しいごはんが出来たら、一番先にアマネくんに食べてもらうね。魔王よりも魔の者よりも賢者よりも先に、アマネくんにできたてを食べてもらうんだ」
「うわっ! それ、オレが最強じゃん!」

 あんなことがあったのに、無理をするわけでもなく自然に無邪気に笑えるこの子は、本当に強い。それこそ、最強かもしれない。そんな気持ちを込めて、僕はアマネくんの頭をそっと撫でた。
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