魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
201 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と

【9-23】

しおりを挟む
 おやつを食べた後、アマネくんにはクックとポッポにおやつをあげてもらって、僕はその間に食材の準備を始めた。マティ様が運んで来てくれた物資は、いつの間にか調理場に積まれている。カミュが魔法で転送してくれたのかな。

「ミカー、クックとポッポが食べ終わるまで皿持ってたほうがいいのかー?」
「ううん、窓辺に置いてくれたら、その子たちはちゃんと自分で食べるから大丈夫だよ」
「つっついて皿落としたりしない? へーき?」
「大丈夫。その子たちは賢いから、お皿を落とさないように上手に食べられるよ」

 僕の言葉を聞いて安心したのか、アマネくんが窓辺の定位置におやつの皿を置くと、クックとポッポは窓枠に立って器用に啄み始めた。自家製のドライフルーツと木の実を砕いて混ぜたものが今日の彼らのおやつなんだけど、気に入ってくれたのか、愛鳥たちは食べる合間にキュルキュルと喉を鳴らしている。

「ほんとだ。上手に食ってる」
「そうでしょ? どのくらいつついたらお皿が落ちちゃうとか、そういうのがよく分かっているんだよ」
「頭いいんだなー! ……あっ、オレも手伝うよ」
「ありがとう。じゃあ……、この僕の隣の箱の上に乗れるかな? これに乗ったら、洗い場に手が届くようになると思うんだけど」
「うん! 乗るっ」

 アマネくんは元気よく駆け寄ってきて、木箱によじ登った。そして、洗い場の中にある籠に詰められている食材を見て、大きな金眼を瞬かせる。

「いろんな種類があるー」
「そうでしょ? 僕は隣で先にお肉を切ったりお魚の下処理をしたりするから、アマネくんはこの野菜の皮を洗ってくれるかな? 水はここに汲んであるし、足りなかったら追加するからね」
「わかった。まかせろ!」
「ありがとう。ゆっくりで大丈夫だからね」

 アマネくんが小さな手で一生懸命に野菜を洗ってくれているのを見守りながら、僕も自分の手元の食材を処理し始める。カミュが来たらすぐに火を使う工程にスムーズに移れるように、しっかりと下準備しておきたい。
 アマネくんは、野菜の汚れを丁寧に取って洗ってくれている。思っていたよりも手際がよくて、やり慣れているのかなと感じた。

「上手だね、アマネくん。家でもよくお手伝いしてるの?」
「まーな。母さんが泣いて調子が悪いと、なかなか料理できないから。野菜を洗っておくと、泣き終わった母さんがすぐにごはんを作ってくれるからさ、そうしてんの」
「そっかぁ。アマネくんは優しいね」

 アマネくんの場合、僕が小さい頃とは違って、それなりにきちんと面倒はみてもらえているみたいだ。アマネくんのお母さんは、問題を抱えていないわけじゃないけれども、息子の世話をしようとしているんだろうなというのは何となく伝わってくる。
 アマネくんは小柄だけど、栄養不足という感じはしないし、衣服がちょっと傷んでいるのは虐待とかではなく家の経済事情によるものなのではないかと思う。変な言い方かもしれないけれども、ちょっと安心していたりする。この子が歩んでいく道は、大変だとは思うけど、僕より暗いものじゃないはずだ。

「アマネくんは普段、どういうごはんを食べているのかな? お肉とお魚だったらどっちのほうが多い、とかある?」
「うーん……、魚は毎日食ってる。肉はあんまり。オレだけじゃなくて、周りの家もそんな感じだと思う。野菜と果物はいっぱい食ってるよ」
「そっか。アマネくんは湖の側に住んでるんだもんね。美味しいお魚がたくさん食べられそう」
「うん、美味いよー! 母さんがでっかい魚を捌いてさ、燻製を作ってくれるんだけど、オレはそれが一番好き!」
「魚の燻製かぁ! 美味しそうだね」

 にこにこと話してくれるアマネくんを見ていると、微笑ましいと同時に、こちらが元気を貰える気がする。食材を触っているから頭を撫でることが出来ないのが、ちょっとはがゆい。
 気持ちが和んだところで、不意にバサッと大きな羽音が響いた。僕とアマネくんが見上げた先には、黒い蝙蝠羽を広げて宙に浮いているカミュがいる。転移魔法で慌てて移動してきたと思われる彼は、僕たちを見下ろしてほっとした顔をした。

「ああ、よかった。まだお料理はさほど進んでいらっしゃいませんね? 私は間に合いましたか?」
「うん、大丈夫。まだ火を使う作業まではいってないよ。お疲れ様、カミュ。そっちは大丈夫だった?」
「ええ、まぁ……、なかなかの修羅場でしたが、私は強引に抜けて参りました。キリがありませんからね。──おや、アマネがお手伝いをしてくれていたのですね」

 ふわりと舞い降りたカミュは、アマネくんの側に歩み寄って、水色の頭を優しく撫でる。カミュの顔に見とれていたアマネくんは、ちょっと恥ずかしそうにはにかんでいた。

「アマネ。続きは私がやりましょう。貴方はあちらで、クックとポッポの遊び相手をしてもらえますか? お腹いっぱいになったからか、遊んでほしそうにこちらを見ていますので」
「クッ!」
「ポッ!」

 クックとポッポはカミュの気遣いの意図を汲んだのか、空気を読んで、アマネくんを誘うように可愛らしく鳴き声を上げる。こちらをチラリと見上げてくるアマネくんに、僕も笑いかけた。

「野菜を洗うのを手伝ってくれて、ありがとう。今度は、あの子たちと遊んでもらえるかな?」
「うんっ! まかせろ!」

 手近な布巾で手を拭いて、アマネくんは元気よく魔鳥たちの元へ駆け寄っていく。それを見送りながら、今度はカミュが僕の隣に並び立ち、優しく目を細めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...