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【第9話】父と息子と豚汁と
【9-24】
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◇
「すっげぇ……! ぜんぶ見たことないものだけど、全部うまそーっ!」
川魚の煮付けと焼きおにぎり、根菜の甘辛炒め、具だくさんの豚汁。──テーブルに載ったそれらの料理を、アマネくんはキラキラとした瞳で見つめている。
本当は食堂でゆっくりと食べさせてあげたかったのだけれども、そちらではドノヴァンさんたちが食事をすることになっているから、僕たちは調理場にある小さなテーブルで夕食を摂ることにした。アマネくんは場所など気にしていないのか、無邪気に喜んでくれている。
「どうぞ、召し上がれ。今夜はアマネくんに一番最初に食べてほしいからね」
「やったぁ! オレ、最強!」
アマネくんは楽しそうに視線を彷徨わせてから、最初に焼きおにぎりに手を伸ばした。アマネくんの分は、子ども用ということで小さめに握ってある。豪快にかじりついた少年は、満面に笑みを浮かべた。
「ん~っ! うんまい! ラコイって、こんな風にして食べられるんだなぁ。オレ、知らなかった」
「アマネくんの家ではやっぱりパン……じゃなかった。パレドを多く食べるのかな?」
「うん。でも、パレドもあんまり食べないかも。魚と野菜と汁物、ってことが多いかな。それだけで腹いっぱいになるし。魚がでっかいからさ」
「そっか。湖のお魚は、この魚よりもずっと大きいんだもんね」
「うん! ……ん、うん、川の魚も小さいけど美味いね! オレは湖の魚のほうが好きだけど、これも美味いと思う
!」
アマネくんは、自分の故郷を誇りに思っているというか、大好きなんだろうなぁ。この子は、地元のことを話すとき、いつでも楽しそうだ。
そして、この国の人たちは地球ではパンに相当するパレドを主食にすることが多いと思っていたのだけど、アマネくんの地元のように、そもそも主食という概念が無い地域もあるらしい。
「ふふっ。小さな子が懸命に食事をしている姿は、なんとも愛らしいものですね。──アマネも無事に食事を始めましたし、私もあちらのお給仕をして参ります」
アマネくんの様子を見守って頬を緩めていたカミュがそう言って配膳トレーを手に取ると、夢中でごはんを食べていた少年がふと顔を上げて寂しそうな表情をする。
「カミュは一緒に食わねーの?」
「私は、魔王様とお客様のお給仕をした後でいただきますよ。アマネは、ミカさんと一緒にごはんを食べていてくださいね」
「……分かった」
アマネくんは眉尻を下げながらも、健気に頷く。どうやら、この子はカミュにすっかり懐いたらしい。僕が本格的に食事の支度をしている間、カミュがずっとアマネくんの相手をしていたからかな。
「では、ミカさん。後はよろしくお願いします」
「うん、分かった。そっちは一人で大丈夫? 僕の手伝いが必要そうだったら、すぐに呼んでね」
「ありがとうございます。ですが、こちらは一人で大丈夫かと。ミカさんは、アマネのことを気に掛けていてあげてください」
カミュはもう一度アマネくんに優しい視線を向けてから、食堂へと向かっていった。その姿が完全に見えなくなってから、僕もアマネくんの向かいへ着席し、いただきますと手を合わせた。
「アマネくん。相手が僕だけじゃ寂しいかもしれないけど、我慢してね」
「別にさみしくねーし。ミカがいるだけで楽しいし、クックとポッポもいるしさ」
「クックッ!」
「ポポッ!」
側の窓際からこちらを見守っているクックとポッポが返事をすると、アマネくんは嬉しそうに笑う。そして、豚汁の器を手に取って一口啜り、ほっとしたように目を細めた。
「やっぱり、こーゆー汁を飲むと落ち着くよなぁ」
「ふふっ、そうだね。僕も、汁物は好きだなぁ。これから寒くなってくると、ますます美味しく感じるよね」
マティ様が持って来てくれたピグトンの肉はまさに上質な豚肉といった食感と風味で、味噌っぽいものもまさしく味噌だったので、とても美味しい豚汁が出来た。味噌汁がプレカシオン王国の人の口に合うかは分からなかったけれど、とりあえずアマネくんは気に入ってくれたようで良かった。
「アマネくんは、こういう汁物を飲んだことがあるの?」
「んー……、いや、味は初めてなんだけどさ。こうやって色んな具を入れて煮込んだ汁物って、母さんの得意料理のひとつなんだ。だから、オレもよく飲んでるし、──父さんも、母さんの汁物を美味いって言ってくれたんだって」
「ぁ……、そ、そうなんだ……」
「うん。旅をしている父さんと出会ったとき、母さんは汁物を作ってあげたんだってさ。……今、隣で食ってるオッサンは父さんじゃないって言ってるけどさ、もしも本当は父さんだとしたら、もう母さんの汁物を食えることはねーんだろーなって。そう考えたら、バカだなーって思っちゃうよ」
ドキドキハラハラして様子を窺っている僕に対し、アマネくんは勝気な笑顔を見せる。
「美味いものをたくさん食ったら、強くなるんだろ? 母さんの汁物は最強に美味いのに、父さんはもう食えない。でも、オレは食える。そのぶん強くなる。めちゃくちゃ強くなってやる!」
「うん、そうだね。……アマネくんは、すごく強くなるよ」
この子は、本当に強い。今日という一日だけで、どれほどの成長を遂げたんだろう。
感慨深くなりながら、僕は空になったアマネくんの器を手に取った。
「じゃあ、アマネくんにだけ、特別におかわりをあげるね。隣の賢者様にはおかわりはあげないから、その分、アマネくんだけが強くなるよ」
「やったー! オレ、最強!」
素直に喜んでいる無垢な声を聞きながら、アマネくんの成長と飛躍を願いつつ、僕は豚汁のおかわりをたっぷりと注いであげた。
「すっげぇ……! ぜんぶ見たことないものだけど、全部うまそーっ!」
川魚の煮付けと焼きおにぎり、根菜の甘辛炒め、具だくさんの豚汁。──テーブルに載ったそれらの料理を、アマネくんはキラキラとした瞳で見つめている。
本当は食堂でゆっくりと食べさせてあげたかったのだけれども、そちらではドノヴァンさんたちが食事をすることになっているから、僕たちは調理場にある小さなテーブルで夕食を摂ることにした。アマネくんは場所など気にしていないのか、無邪気に喜んでくれている。
「どうぞ、召し上がれ。今夜はアマネくんに一番最初に食べてほしいからね」
「やったぁ! オレ、最強!」
アマネくんは楽しそうに視線を彷徨わせてから、最初に焼きおにぎりに手を伸ばした。アマネくんの分は、子ども用ということで小さめに握ってある。豪快にかじりついた少年は、満面に笑みを浮かべた。
「ん~っ! うんまい! ラコイって、こんな風にして食べられるんだなぁ。オレ、知らなかった」
「アマネくんの家ではやっぱりパン……じゃなかった。パレドを多く食べるのかな?」
「うん。でも、パレドもあんまり食べないかも。魚と野菜と汁物、ってことが多いかな。それだけで腹いっぱいになるし。魚がでっかいからさ」
「そっか。湖のお魚は、この魚よりもずっと大きいんだもんね」
「うん! ……ん、うん、川の魚も小さいけど美味いね! オレは湖の魚のほうが好きだけど、これも美味いと思う
!」
アマネくんは、自分の故郷を誇りに思っているというか、大好きなんだろうなぁ。この子は、地元のことを話すとき、いつでも楽しそうだ。
そして、この国の人たちは地球ではパンに相当するパレドを主食にすることが多いと思っていたのだけど、アマネくんの地元のように、そもそも主食という概念が無い地域もあるらしい。
「ふふっ。小さな子が懸命に食事をしている姿は、なんとも愛らしいものですね。──アマネも無事に食事を始めましたし、私もあちらのお給仕をして参ります」
アマネくんの様子を見守って頬を緩めていたカミュがそう言って配膳トレーを手に取ると、夢中でごはんを食べていた少年がふと顔を上げて寂しそうな表情をする。
「カミュは一緒に食わねーの?」
「私は、魔王様とお客様のお給仕をした後でいただきますよ。アマネは、ミカさんと一緒にごはんを食べていてくださいね」
「……分かった」
アマネくんは眉尻を下げながらも、健気に頷く。どうやら、この子はカミュにすっかり懐いたらしい。僕が本格的に食事の支度をしている間、カミュがずっとアマネくんの相手をしていたからかな。
「では、ミカさん。後はよろしくお願いします」
「うん、分かった。そっちは一人で大丈夫? 僕の手伝いが必要そうだったら、すぐに呼んでね」
「ありがとうございます。ですが、こちらは一人で大丈夫かと。ミカさんは、アマネのことを気に掛けていてあげてください」
カミュはもう一度アマネくんに優しい視線を向けてから、食堂へと向かっていった。その姿が完全に見えなくなってから、僕もアマネくんの向かいへ着席し、いただきますと手を合わせた。
「アマネくん。相手が僕だけじゃ寂しいかもしれないけど、我慢してね」
「別にさみしくねーし。ミカがいるだけで楽しいし、クックとポッポもいるしさ」
「クックッ!」
「ポポッ!」
側の窓際からこちらを見守っているクックとポッポが返事をすると、アマネくんは嬉しそうに笑う。そして、豚汁の器を手に取って一口啜り、ほっとしたように目を細めた。
「やっぱり、こーゆー汁を飲むと落ち着くよなぁ」
「ふふっ、そうだね。僕も、汁物は好きだなぁ。これから寒くなってくると、ますます美味しく感じるよね」
マティ様が持って来てくれたピグトンの肉はまさに上質な豚肉といった食感と風味で、味噌っぽいものもまさしく味噌だったので、とても美味しい豚汁が出来た。味噌汁がプレカシオン王国の人の口に合うかは分からなかったけれど、とりあえずアマネくんは気に入ってくれたようで良かった。
「アマネくんは、こういう汁物を飲んだことがあるの?」
「んー……、いや、味は初めてなんだけどさ。こうやって色んな具を入れて煮込んだ汁物って、母さんの得意料理のひとつなんだ。だから、オレもよく飲んでるし、──父さんも、母さんの汁物を美味いって言ってくれたんだって」
「ぁ……、そ、そうなんだ……」
「うん。旅をしている父さんと出会ったとき、母さんは汁物を作ってあげたんだってさ。……今、隣で食ってるオッサンは父さんじゃないって言ってるけどさ、もしも本当は父さんだとしたら、もう母さんの汁物を食えることはねーんだろーなって。そう考えたら、バカだなーって思っちゃうよ」
ドキドキハラハラして様子を窺っている僕に対し、アマネくんは勝気な笑顔を見せる。
「美味いものをたくさん食ったら、強くなるんだろ? 母さんの汁物は最強に美味いのに、父さんはもう食えない。でも、オレは食える。そのぶん強くなる。めちゃくちゃ強くなってやる!」
「うん、そうだね。……アマネくんは、すごく強くなるよ」
この子は、本当に強い。今日という一日だけで、どれほどの成長を遂げたんだろう。
感慨深くなりながら、僕は空になったアマネくんの器を手に取った。
「じゃあ、アマネくんにだけ、特別におかわりをあげるね。隣の賢者様にはおかわりはあげないから、その分、アマネくんだけが強くなるよ」
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素直に喜んでいる無垢な声を聞きながら、アマネくんの成長と飛躍を願いつつ、僕は豚汁のおかわりをたっぷりと注いであげた。
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