魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-25】

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 ◇


 夜ごはんの後、一緒にお風呂に入ったら、流石にアマネくんの眠気が限界にきたようなので僕の部屋で寝かし付けた。僕も一緒にベッドに潜り込み、側にはカミュもいてくれたこともあってか、アマネくんはすぐに寝息を立て始める。

「幼い子どもとは、大変愛らしいものですね。我々一族には赤子や幼児が存在しませんから、余計にそう思います」

 アマネくんが起きないように声の大きさを抑えつつ、カミュが囁くように言う。僕もひそひそ声で言葉を返した。

「……魔の者たちは、生まれたときから大きいの?」
「ええ。私たちは生まれるというより、造られるものですから。『父』によって命を吹き込まれた時点で、今の姿形です。とはいえ、知能は備わっておりませんので、最初は赤子の世話をするのと同等に面倒を見ていただく必要はありますが。……お世話をするのであれば、小さくて可愛らしいほうがよいな、と思います」

 そう言ってアマネくんの頬を指先で優しく撫でるカミュの穏やかな顔が本当に美しくて、なんだか宗教画を眺めている気分だ。

「カミュは、生まれたときからずっと、そんなに綺麗なんだね。すごいなぁ」
「──私は、そんなに美しいですか?」

 サラリと投げられた質問は、美形にしか赦されない問いかけに思えてならない。いくら美人でも場合によっては嫌味な感じがするだろうけれども、ごく自然にさりげないニュアンスで伝わってくるのは、カミュの人柄のおかげなのかな。

「『父』も、ノヴァユエも、歴代の魔王たちも──やたらと、私を美しいと言います。ミカさんも、そしてアマネも、そう言ってくれますね。……ですが、私としては、それこそジル様やミカさんのほうが美しいと思うのですが」
「えっ!? いや、僕はありえないけど……、ただ、ジルは確かに綺麗な顔立ちだよね。あとは、マティ様も。僕にとっては、ジルとマティ様は格好いい、カミュは美しい、って感じかな」
「……その違いは、一体どこにあるのでしょう?」
「えっ? うーん……、どうだろう。それぞれ個人の感覚の違いだと思うからなぁ」

 そんなことを尋ねてくるなんて、僕たちが美しいと褒め讃えることでカミュを何か悩ませてしまっているのだろうか。心配になって彼を見つめると、視線の先の美しい悪魔はふわりと微笑んだ。

「なるほど。個々人によって美醜の感覚は異なるものなのですね。そして、たまたま私は周囲の方から『美しい』と認識されているにすぎない、と。それならば納得です」

 よく分からないけれど、カミュは満足そうに頷いた。彼が納得できたというのなら、それでいいんだろう。
 たぶん呆けた顔をしているであろう僕を眺めたカミュは、静かにクスクスと笑った。

「美しいと言われても心を動かされることはあまり無かったのですが。初対面のときにミカさんの緊張感を少し和らげる効果があったように思いますし、今日もアマネが懐いてくれましたし。どうでもいい誰かではなく、私が愛しさや可愛らしさを感じられる相手から美しいと認識していただけるのは良いことかもしれないなと思いまして、──おや?」

 カミュの柔らかな語り口を聞いているうちに、ついうとうととし始めた僕は、最後の彼の反応が気になってハッと我に返って目を開ける。

「……何かあった?」
「ああ、すみません。せっかくミカさんも眠ろうとされていたのに。……ですが、これはきっと、ミカさんに御用があるのでしょうね。どうしましょう。追い返しますか?」
「……何のこと?」
「賢者殿がこちらに向かってきております。お目付け役としてジル様も同行されているようですね」

 ドノヴァンさんがこの部屋を目指している、──ということは、僕じゃなくてアマネくんに用があるんじゃないのかな。そんな疑問を僕が浮かべたのを察したのか、カミュは首を振った。

「アマネに用があるのであれば、この子が起きているうちに訪れるでしょう。幼い子どもが寝た頃合いに来たということは、来訪の目的はミカさんかと」
「……僕に何の用だろう」

 正直なところ、僕は賢者様とはあまり会いたくはない。でも、アマネくんのために間に入れることが何かあるのなら、吝かでもない。
 アマネくんを起こさないようにそっと布団を抜けると、カミュがするりと近付いてきて耳元に囁きを落としてきた。

「お会いになるのですか?」

 アマネくんを気にしての内緒話だと分かるけど、かなり距離が近いし、なんだかくすぐったい。むず痒さを感じつつ、僕も声を潜めて答えた。

「会うよ。受けて立つ」
「そうですか。……そんなに怖いお顔をされなくても、たぶん、争いに来られたのではないと思いますよ」
「うん。……カミュ、アマネくんをお願いね」
「かしこまりました」

 カミュはまたスルリと離れて、アマネくんの傍に膝をつく。代わりに、クックとポッポが僕の両肩それぞれに飛び移ってきた。愛鳥たちのもっふりとした重みが心強い。
 振り向いてカミュに頷いて見せてから、僕は静かに部屋の外に出た。
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