魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
203 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と

【9-25】

しおりを挟む
 ◇


 夜ごはんの後、一緒にお風呂に入ったら、流石にアマネくんの眠気が限界にきたようなので僕の部屋で寝かし付けた。僕も一緒にベッドに潜り込み、側にはカミュもいてくれたこともあってか、アマネくんはすぐに寝息を立て始める。

「幼い子どもとは、大変愛らしいものですね。我々一族には赤子や幼児が存在しませんから、余計にそう思います」

 アマネくんが起きないように声の大きさを抑えつつ、カミュが囁くように言う。僕もひそひそ声で言葉を返した。

「……魔の者たちは、生まれたときから大きいの?」
「ええ。私たちは生まれるというより、造られるものですから。『父』によって命を吹き込まれた時点で、今の姿形です。とはいえ、知能は備わっておりませんので、最初は赤子の世話をするのと同等に面倒を見ていただく必要はありますが。……お世話をするのであれば、小さくて可愛らしいほうがよいな、と思います」

 そう言ってアマネくんの頬を指先で優しく撫でるカミュの穏やかな顔が本当に美しくて、なんだか宗教画を眺めている気分だ。

「カミュは、生まれたときからずっと、そんなに綺麗なんだね。すごいなぁ」
「──私は、そんなに美しいですか?」

 サラリと投げられた質問は、美形にしか赦されない問いかけに思えてならない。いくら美人でも場合によっては嫌味な感じがするだろうけれども、ごく自然にさりげないニュアンスで伝わってくるのは、カミュの人柄のおかげなのかな。

「『父』も、ノヴァユエも、歴代の魔王たちも──やたらと、私を美しいと言います。ミカさんも、そしてアマネも、そう言ってくれますね。……ですが、私としては、それこそジル様やミカさんのほうが美しいと思うのですが」
「えっ!? いや、僕はありえないけど……、ただ、ジルは確かに綺麗な顔立ちだよね。あとは、マティ様も。僕にとっては、ジルとマティ様は格好いい、カミュは美しい、って感じかな」
「……その違いは、一体どこにあるのでしょう?」
「えっ? うーん……、どうだろう。それぞれ個人の感覚の違いだと思うからなぁ」

 そんなことを尋ねてくるなんて、僕たちが美しいと褒め讃えることでカミュを何か悩ませてしまっているのだろうか。心配になって彼を見つめると、視線の先の美しい悪魔はふわりと微笑んだ。

「なるほど。個々人によって美醜の感覚は異なるものなのですね。そして、たまたま私は周囲の方から『美しい』と認識されているにすぎない、と。それならば納得です」

 よく分からないけれど、カミュは満足そうに頷いた。彼が納得できたというのなら、それでいいんだろう。
 たぶん呆けた顔をしているであろう僕を眺めたカミュは、静かにクスクスと笑った。

「美しいと言われても心を動かされることはあまり無かったのですが。初対面のときにミカさんの緊張感を少し和らげる効果があったように思いますし、今日もアマネが懐いてくれましたし。どうでもいい誰かではなく、私が愛しさや可愛らしさを感じられる相手から美しいと認識していただけるのは良いことかもしれないなと思いまして、──おや?」

 カミュの柔らかな語り口を聞いているうちに、ついうとうととし始めた僕は、最後の彼の反応が気になってハッと我に返って目を開ける。

「……何かあった?」
「ああ、すみません。せっかくミカさんも眠ろうとされていたのに。……ですが、これはきっと、ミカさんに御用があるのでしょうね。どうしましょう。追い返しますか?」
「……何のこと?」
「賢者殿がこちらに向かってきております。お目付け役としてジル様も同行されているようですね」

 ドノヴァンさんがこの部屋を目指している、──ということは、僕じゃなくてアマネくんに用があるんじゃないのかな。そんな疑問を僕が浮かべたのを察したのか、カミュは首を振った。

「アマネに用があるのであれば、この子が起きているうちに訪れるでしょう。幼い子どもが寝た頃合いに来たということは、来訪の目的はミカさんかと」
「……僕に何の用だろう」

 正直なところ、僕は賢者様とはあまり会いたくはない。でも、アマネくんのために間に入れることが何かあるのなら、吝かでもない。
 アマネくんを起こさないようにそっと布団を抜けると、カミュがするりと近付いてきて耳元に囁きを落としてきた。

「お会いになるのですか?」

 アマネくんを気にしての内緒話だと分かるけど、かなり距離が近いし、なんだかくすぐったい。むず痒さを感じつつ、僕も声を潜めて答えた。

「会うよ。受けて立つ」
「そうですか。……そんなに怖いお顔をされなくても、たぶん、争いに来られたのではないと思いますよ」
「うん。……カミュ、アマネくんをお願いね」
「かしこまりました」

 カミュはまたスルリと離れて、アマネくんの傍に膝をつく。代わりに、クックとポッポが僕の両肩それぞれに飛び移ってきた。愛鳥たちのもっふりとした重みが心強い。
 振り向いてカミュに頷いて見せてから、僕は静かに部屋の外に出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...