211 / 246
【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー
【10-5】
しおりを挟む
みんなの注目が扉に集中する中、おずおずと顔を覗かせたのはジルだった。訝しげに室内を眺めた黒眼は、オピテルさんの姿を見てギョッとしたように瞬いている。
「おはよう、ジル。……入ってきたら?」
「ああ、おはよう。……失礼する」
「あっ、ごめんね。朝ごはんの支度しないと……!」
「いや、朝食の催促をしに来たわけじゃない。──誰だ?」
ジルはのそのそと入室してきて、オピテルさんをジロジロと無遠慮に観察した。威圧的というわけでも、迷惑がっている様子でもなく、物珍しそうに見ているから、単に好奇心が湧き上がっているだけなんだろう。
オピテルさんは魔王の不躾な視線を気にすることなく、ほわほわと笑みを深めた。
「わぁぁ、魔王様ですねぇ。この国の魔王様は、随分と格好いい方なんですねぇ。昨日伺った魔王様はご自身もお城もかなり荒んでいて……、って、ああ、失礼しましたぁ。ぼくはオピテルといいますぅ。聖なる者のひとりでしてぇ、人探しのために突然に伺ってしまいましたぁ」
「人探しというより、悪魔探しですけどね」
「悪魔……?」
オピテルさんとカミュの言葉を受けて、ジルは困惑したように首を傾げる。彼の肩に掛かっている外ハネ気味の黒髪が、首の動きに合わせてサラリと揺れた。
「カミュ。……この聖なる者は、お前を探しに来たのか?」
「いいえ、私ではありません。私も見知っている者ではありますが、──どちらかというと、ノヴァユエがよく知る者と説明したほうが適しているかと」
「……緑色のアイツか」
ジルはうんざりしたように溜息をつき、その横で僕は内心で密かに驚く。まさか、ノヴァユエが関わっているなんて。夏に出会ったばかりの緑の悪魔の笑顔を思い浮かべると、なんだか感慨深いような懐かしいような気分になる。まだそんなに時間は経っていないはずなのに、もう長いこと会ってないような感覚になるのは何故なんだろう。
「あのぉ、すみません。結局、カミュさんはセレーナさんの居場所をご存知なのか違うのかが気になるんですけどぉ、皆さん朝ごはんの前のようですし、また出直して来ようかと思うのですがぁ、よろしいですかぁ?」
僕たちの話についてこれないオピテルさんが、申し訳なさそうに言葉を挟んできた。本当に人が良さそうというか、裏表が無くておっとりして優しい人なんだなと、すごく伝わってくる。──着ぐるみのようなフォルムだし、「人」と分類していいのかは謎だけれども。
「──何か話があるのなら、一緒に朝食を食べて行けばどうだ?」
突然のジルの提案に、その場の全員の視線が魔王へと向けられる。注視されているジルは居心地悪そうに微かに身じろぎしながらも、提案を続けた。
「また出直して来てもらうのも手間だろう。──それに、俺は聖なる者という存在を初めて見た。無礼を承知で言えば、どういった生態なのか興味がある。我々魔王側や人間たちに害を与えるような存在ではないんだろう?」
「ええ。仰る通り、聖なる者は種族を問わず他者を愛する性質の存在です。我々を傷つけるなんて以ての外で、過干渉もしてこないでしょう。古の契約においても、魔王と聖なる者の接触を禁じられたりはしておりませんが……、ただ、それはまぁ、彼らが滅多に人間の住処へ姿を見せないからなのですが。──とにかく、問題はありませんが、……よろしいのですか?」
丁寧に説明をしたカミュが最後に大丈夫かと問い掛けたのは、人見知りしがちなジルの性格を気遣ってのものだろう。
確かに、ジルが既に親しい人以外と積極的に関わっている姿は見たことがない。魔王に勝負を挑みに来る人たちに対しても、当たり前かもしれないけれど、かなり距離感のある接し方をしている。
たぶん、さっきの反応から察するに、ジルも「聖なる者」と会ったのは初めてなんだろう。それなのに、わざわざ引き止めてまでオピテルさんと交流したがるなんて、一体どうしたんだろう。
「ミカとカミュに危害を加えられる恐れの無い相手との縁は、貴重なものだ。どんな繋がりが幸いに転じるか分からない」
──まさか、そんな考えからの提案だったなんて。
きっと彼は、自身が暴走した後の僕たちが少しでも助かる確率を上げたくて、味方になり得る人との繋がりを増やそうとしているんだ。本当は人見知りのくせに、初対面の中からでも縁に縋りたくなるくらい、ジルは切羽詰まっているんだろう。
なんだか切なくなってジルを見上げると、穏やかな黒い瞳が見つめ返してくる。
「ミカの手間を増やしてしまうのは申し訳ないが──、頼めるか?」
「うん、僕は全然大丈夫。僕は、魔王の食事係だもん。ジルの力になれるなら、喜んで」
ジルは目を細めて、僕の頭を撫でてきた。そんな様子を微笑ましそうに見てから、カミュはオピテルさんに話し掛ける。
「どうでしょう? もしよろしければ、一緒に朝食をいただきながらお話しませんか?」
「ええ、ええ、喜んで! 嬉しいですぅ」
オピテルさんはふわふわの耳を揺らしながら、嬉しそうに笑ってくれた。
「おはよう、ジル。……入ってきたら?」
「ああ、おはよう。……失礼する」
「あっ、ごめんね。朝ごはんの支度しないと……!」
「いや、朝食の催促をしに来たわけじゃない。──誰だ?」
ジルはのそのそと入室してきて、オピテルさんをジロジロと無遠慮に観察した。威圧的というわけでも、迷惑がっている様子でもなく、物珍しそうに見ているから、単に好奇心が湧き上がっているだけなんだろう。
オピテルさんは魔王の不躾な視線を気にすることなく、ほわほわと笑みを深めた。
「わぁぁ、魔王様ですねぇ。この国の魔王様は、随分と格好いい方なんですねぇ。昨日伺った魔王様はご自身もお城もかなり荒んでいて……、って、ああ、失礼しましたぁ。ぼくはオピテルといいますぅ。聖なる者のひとりでしてぇ、人探しのために突然に伺ってしまいましたぁ」
「人探しというより、悪魔探しですけどね」
「悪魔……?」
オピテルさんとカミュの言葉を受けて、ジルは困惑したように首を傾げる。彼の肩に掛かっている外ハネ気味の黒髪が、首の動きに合わせてサラリと揺れた。
「カミュ。……この聖なる者は、お前を探しに来たのか?」
「いいえ、私ではありません。私も見知っている者ではありますが、──どちらかというと、ノヴァユエがよく知る者と説明したほうが適しているかと」
「……緑色のアイツか」
ジルはうんざりしたように溜息をつき、その横で僕は内心で密かに驚く。まさか、ノヴァユエが関わっているなんて。夏に出会ったばかりの緑の悪魔の笑顔を思い浮かべると、なんだか感慨深いような懐かしいような気分になる。まだそんなに時間は経っていないはずなのに、もう長いこと会ってないような感覚になるのは何故なんだろう。
「あのぉ、すみません。結局、カミュさんはセレーナさんの居場所をご存知なのか違うのかが気になるんですけどぉ、皆さん朝ごはんの前のようですし、また出直して来ようかと思うのですがぁ、よろしいですかぁ?」
僕たちの話についてこれないオピテルさんが、申し訳なさそうに言葉を挟んできた。本当に人が良さそうというか、裏表が無くておっとりして優しい人なんだなと、すごく伝わってくる。──着ぐるみのようなフォルムだし、「人」と分類していいのかは謎だけれども。
「──何か話があるのなら、一緒に朝食を食べて行けばどうだ?」
突然のジルの提案に、その場の全員の視線が魔王へと向けられる。注視されているジルは居心地悪そうに微かに身じろぎしながらも、提案を続けた。
「また出直して来てもらうのも手間だろう。──それに、俺は聖なる者という存在を初めて見た。無礼を承知で言えば、どういった生態なのか興味がある。我々魔王側や人間たちに害を与えるような存在ではないんだろう?」
「ええ。仰る通り、聖なる者は種族を問わず他者を愛する性質の存在です。我々を傷つけるなんて以ての外で、過干渉もしてこないでしょう。古の契約においても、魔王と聖なる者の接触を禁じられたりはしておりませんが……、ただ、それはまぁ、彼らが滅多に人間の住処へ姿を見せないからなのですが。──とにかく、問題はありませんが、……よろしいのですか?」
丁寧に説明をしたカミュが最後に大丈夫かと問い掛けたのは、人見知りしがちなジルの性格を気遣ってのものだろう。
確かに、ジルが既に親しい人以外と積極的に関わっている姿は見たことがない。魔王に勝負を挑みに来る人たちに対しても、当たり前かもしれないけれど、かなり距離感のある接し方をしている。
たぶん、さっきの反応から察するに、ジルも「聖なる者」と会ったのは初めてなんだろう。それなのに、わざわざ引き止めてまでオピテルさんと交流したがるなんて、一体どうしたんだろう。
「ミカとカミュに危害を加えられる恐れの無い相手との縁は、貴重なものだ。どんな繋がりが幸いに転じるか分からない」
──まさか、そんな考えからの提案だったなんて。
きっと彼は、自身が暴走した後の僕たちが少しでも助かる確率を上げたくて、味方になり得る人との繋がりを増やそうとしているんだ。本当は人見知りのくせに、初対面の中からでも縁に縋りたくなるくらい、ジルは切羽詰まっているんだろう。
なんだか切なくなってジルを見上げると、穏やかな黒い瞳が見つめ返してくる。
「ミカの手間を増やしてしまうのは申し訳ないが──、頼めるか?」
「うん、僕は全然大丈夫。僕は、魔王の食事係だもん。ジルの力になれるなら、喜んで」
ジルは目を細めて、僕の頭を撫でてきた。そんな様子を微笑ましそうに見てから、カミュはオピテルさんに話し掛ける。
「どうでしょう? もしよろしければ、一緒に朝食をいただきながらお話しませんか?」
「ええ、ええ、喜んで! 嬉しいですぅ」
オピテルさんはふわふわの耳を揺らしながら、嬉しそうに笑ってくれた。
1
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる