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【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー
【10-5】
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みんなの注目が扉に集中する中、おずおずと顔を覗かせたのはジルだった。訝しげに室内を眺めた黒眼は、オピテルさんの姿を見てギョッとしたように瞬いている。
「おはよう、ジル。……入ってきたら?」
「ああ、おはよう。……失礼する」
「あっ、ごめんね。朝ごはんの支度しないと……!」
「いや、朝食の催促をしに来たわけじゃない。──誰だ?」
ジルはのそのそと入室してきて、オピテルさんをジロジロと無遠慮に観察した。威圧的というわけでも、迷惑がっている様子でもなく、物珍しそうに見ているから、単に好奇心が湧き上がっているだけなんだろう。
オピテルさんは魔王の不躾な視線を気にすることなく、ほわほわと笑みを深めた。
「わぁぁ、魔王様ですねぇ。この国の魔王様は、随分と格好いい方なんですねぇ。昨日伺った魔王様はご自身もお城もかなり荒んでいて……、って、ああ、失礼しましたぁ。ぼくはオピテルといいますぅ。聖なる者のひとりでしてぇ、人探しのために突然に伺ってしまいましたぁ」
「人探しというより、悪魔探しですけどね」
「悪魔……?」
オピテルさんとカミュの言葉を受けて、ジルは困惑したように首を傾げる。彼の肩に掛かっている外ハネ気味の黒髪が、首の動きに合わせてサラリと揺れた。
「カミュ。……この聖なる者は、お前を探しに来たのか?」
「いいえ、私ではありません。私も見知っている者ではありますが、──どちらかというと、ノヴァユエがよく知る者と説明したほうが適しているかと」
「……緑色のアイツか」
ジルはうんざりしたように溜息をつき、その横で僕は内心で密かに驚く。まさか、ノヴァユエが関わっているなんて。夏に出会ったばかりの緑の悪魔の笑顔を思い浮かべると、なんだか感慨深いような懐かしいような気分になる。まだそんなに時間は経っていないはずなのに、もう長いこと会ってないような感覚になるのは何故なんだろう。
「あのぉ、すみません。結局、カミュさんはセレーナさんの居場所をご存知なのか違うのかが気になるんですけどぉ、皆さん朝ごはんの前のようですし、また出直して来ようかと思うのですがぁ、よろしいですかぁ?」
僕たちの話についてこれないオピテルさんが、申し訳なさそうに言葉を挟んできた。本当に人が良さそうというか、裏表が無くておっとりして優しい人なんだなと、すごく伝わってくる。──着ぐるみのようなフォルムだし、「人」と分類していいのかは謎だけれども。
「──何か話があるのなら、一緒に朝食を食べて行けばどうだ?」
突然のジルの提案に、その場の全員の視線が魔王へと向けられる。注視されているジルは居心地悪そうに微かに身じろぎしながらも、提案を続けた。
「また出直して来てもらうのも手間だろう。──それに、俺は聖なる者という存在を初めて見た。無礼を承知で言えば、どういった生態なのか興味がある。我々魔王側や人間たちに害を与えるような存在ではないんだろう?」
「ええ。仰る通り、聖なる者は種族を問わず他者を愛する性質の存在です。我々を傷つけるなんて以ての外で、過干渉もしてこないでしょう。古の契約においても、魔王と聖なる者の接触を禁じられたりはしておりませんが……、ただ、それはまぁ、彼らが滅多に人間の住処へ姿を見せないからなのですが。──とにかく、問題はありませんが、……よろしいのですか?」
丁寧に説明をしたカミュが最後に大丈夫かと問い掛けたのは、人見知りしがちなジルの性格を気遣ってのものだろう。
確かに、ジルが既に親しい人以外と積極的に関わっている姿は見たことがない。魔王に勝負を挑みに来る人たちに対しても、当たり前かもしれないけれど、かなり距離感のある接し方をしている。
たぶん、さっきの反応から察するに、ジルも「聖なる者」と会ったのは初めてなんだろう。それなのに、わざわざ引き止めてまでオピテルさんと交流したがるなんて、一体どうしたんだろう。
「ミカとカミュに危害を加えられる恐れの無い相手との縁は、貴重なものだ。どんな繋がりが幸いに転じるか分からない」
──まさか、そんな考えからの提案だったなんて。
きっと彼は、自身が暴走した後の僕たちが少しでも助かる確率を上げたくて、味方になり得る人との繋がりを増やそうとしているんだ。本当は人見知りのくせに、初対面の中からでも縁に縋りたくなるくらい、ジルは切羽詰まっているんだろう。
なんだか切なくなってジルを見上げると、穏やかな黒い瞳が見つめ返してくる。
「ミカの手間を増やしてしまうのは申し訳ないが──、頼めるか?」
「うん、僕は全然大丈夫。僕は、魔王の食事係だもん。ジルの力になれるなら、喜んで」
ジルは目を細めて、僕の頭を撫でてきた。そんな様子を微笑ましそうに見てから、カミュはオピテルさんに話し掛ける。
「どうでしょう? もしよろしければ、一緒に朝食をいただきながらお話しませんか?」
「ええ、ええ、喜んで! 嬉しいですぅ」
オピテルさんはふわふわの耳を揺らしながら、嬉しそうに笑ってくれた。
「おはよう、ジル。……入ってきたら?」
「ああ、おはよう。……失礼する」
「あっ、ごめんね。朝ごはんの支度しないと……!」
「いや、朝食の催促をしに来たわけじゃない。──誰だ?」
ジルはのそのそと入室してきて、オピテルさんをジロジロと無遠慮に観察した。威圧的というわけでも、迷惑がっている様子でもなく、物珍しそうに見ているから、単に好奇心が湧き上がっているだけなんだろう。
オピテルさんは魔王の不躾な視線を気にすることなく、ほわほわと笑みを深めた。
「わぁぁ、魔王様ですねぇ。この国の魔王様は、随分と格好いい方なんですねぇ。昨日伺った魔王様はご自身もお城もかなり荒んでいて……、って、ああ、失礼しましたぁ。ぼくはオピテルといいますぅ。聖なる者のひとりでしてぇ、人探しのために突然に伺ってしまいましたぁ」
「人探しというより、悪魔探しですけどね」
「悪魔……?」
オピテルさんとカミュの言葉を受けて、ジルは困惑したように首を傾げる。彼の肩に掛かっている外ハネ気味の黒髪が、首の動きに合わせてサラリと揺れた。
「カミュ。……この聖なる者は、お前を探しに来たのか?」
「いいえ、私ではありません。私も見知っている者ではありますが、──どちらかというと、ノヴァユエがよく知る者と説明したほうが適しているかと」
「……緑色のアイツか」
ジルはうんざりしたように溜息をつき、その横で僕は内心で密かに驚く。まさか、ノヴァユエが関わっているなんて。夏に出会ったばかりの緑の悪魔の笑顔を思い浮かべると、なんだか感慨深いような懐かしいような気分になる。まだそんなに時間は経っていないはずなのに、もう長いこと会ってないような感覚になるのは何故なんだろう。
「あのぉ、すみません。結局、カミュさんはセレーナさんの居場所をご存知なのか違うのかが気になるんですけどぉ、皆さん朝ごはんの前のようですし、また出直して来ようかと思うのですがぁ、よろしいですかぁ?」
僕たちの話についてこれないオピテルさんが、申し訳なさそうに言葉を挟んできた。本当に人が良さそうというか、裏表が無くておっとりして優しい人なんだなと、すごく伝わってくる。──着ぐるみのようなフォルムだし、「人」と分類していいのかは謎だけれども。
「──何か話があるのなら、一緒に朝食を食べて行けばどうだ?」
突然のジルの提案に、その場の全員の視線が魔王へと向けられる。注視されているジルは居心地悪そうに微かに身じろぎしながらも、提案を続けた。
「また出直して来てもらうのも手間だろう。──それに、俺は聖なる者という存在を初めて見た。無礼を承知で言えば、どういった生態なのか興味がある。我々魔王側や人間たちに害を与えるような存在ではないんだろう?」
「ええ。仰る通り、聖なる者は種族を問わず他者を愛する性質の存在です。我々を傷つけるなんて以ての外で、過干渉もしてこないでしょう。古の契約においても、魔王と聖なる者の接触を禁じられたりはしておりませんが……、ただ、それはまぁ、彼らが滅多に人間の住処へ姿を見せないからなのですが。──とにかく、問題はありませんが、……よろしいのですか?」
丁寧に説明をしたカミュが最後に大丈夫かと問い掛けたのは、人見知りしがちなジルの性格を気遣ってのものだろう。
確かに、ジルが既に親しい人以外と積極的に関わっている姿は見たことがない。魔王に勝負を挑みに来る人たちに対しても、当たり前かもしれないけれど、かなり距離感のある接し方をしている。
たぶん、さっきの反応から察するに、ジルも「聖なる者」と会ったのは初めてなんだろう。それなのに、わざわざ引き止めてまでオピテルさんと交流したがるなんて、一体どうしたんだろう。
「ミカとカミュに危害を加えられる恐れの無い相手との縁は、貴重なものだ。どんな繋がりが幸いに転じるか分からない」
──まさか、そんな考えからの提案だったなんて。
きっと彼は、自身が暴走した後の僕たちが少しでも助かる確率を上げたくて、味方になり得る人との繋がりを増やそうとしているんだ。本当は人見知りのくせに、初対面の中からでも縁に縋りたくなるくらい、ジルは切羽詰まっているんだろう。
なんだか切なくなってジルを見上げると、穏やかな黒い瞳が見つめ返してくる。
「ミカの手間を増やしてしまうのは申し訳ないが──、頼めるか?」
「うん、僕は全然大丈夫。僕は、魔王の食事係だもん。ジルの力になれるなら、喜んで」
ジルは目を細めて、僕の頭を撫でてきた。そんな様子を微笑ましそうに見てから、カミュはオピテルさんに話し掛ける。
「どうでしょう? もしよろしければ、一緒に朝食をいただきながらお話しませんか?」
「ええ、ええ、喜んで! 嬉しいですぅ」
オピテルさんはふわふわの耳を揺らしながら、嬉しそうに笑ってくれた。
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