魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
217 / 246
【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー

【10-11】

しおりを挟む
 ◇


「申し訳ありませんんんん……ご迷惑をお掛けしましてえええ」

 倒れた後、ひとまず調理場の隣にある食堂に置かれている長椅子へと運ばれて寝かされたセレーナさんは、ほどなくして目を覚まし、ションボリしながら上半身を起こして謝ってきた。
 僕が首を振る横で、ジルが静かに言う。

「別に迷惑では無いが……、カミュ、こいつは誰だ?」
「彼女はセレーナという名です」
「セレーナ? ……ああ、オピテルが探していたのがこいつか?」

 オピテルさんの名前を聞くなり、セレーナさんは細い肩をわずかに震わせた。そして、不安そうな橙色の瞳で、おずおずとカミュを見上げる。

「もしかして、カマルティユ兄様はもう、オピテル様をご存知だったりしますかぁぁぁ……?」
「ええ。昨日、こちらを尋ねて来られたので。それよりも、セレーナ。まずはきちんとご挨拶をしなさい」
「ううう……、ううう……」

 カミュに促されても、セレーナさんは何故か萎縮して──いや、というよりも困ったように唸り声のようなものを繰り返し発していた。
 オピテルさんからの話を踏まえて考えれば、彼女は彼から家族になろうと言われて動揺して逃げ出したんだっけ。逃げた後にノヴァユエに会いに行って相談した結果、カミュにも話したほうがいいと結論づけて、ここにやって来たのかもしれない。

「セレーナ、いい加減にしなさい。私が大切に想っている方々への無礼は、例え同胞といえども許しませんよ」
「カミュ、待って。怒らないで」

 カミュが段々と苛立ちを募らせているのを感じ取って、僕は慌てて彼の袖を引く。
 常日頃から慎ましやかで控えめな性格のカミュは、普段は魔の者の特性を封じ込めている反動で、怒りをトリガーにして正気を失ってしまうことがあるんだ。その結果、後でカミュが苦しい思いをすることになると、僕は痛いほど知っている。あんな風に悲しんで落ち込む彼の姿は、もう二度と見たくない。
 僕が何を心配しているのか察したのか、カミュは優しく目を細めた。

「大丈夫ですよ、ミカさん。我を忘れて暴れたりなどいたしません。ただ、年長者として、同胞の無礼を見逃せないだけです」
「うん、うん、カミュの気持ちも分かるけど、でもさ、たぶん、セレーナさんは今、精神的にいっぱいいっぱいなんじゃないかな。失礼な態度を取りたいわけじゃなくて、気持ちと言葉が溢れそうで、どう言いたいのか分からないんじゃないかなって感じるよ」
「ううう……! ううう……!」

 そうだと言わんばかりに、セレーナさんが涙目で何度もコクコクと頷く。離れた場所で並んで座っているクックとポッポも、やっぱり真似をしてカクカクと首を振っていた。

「気持ちが落ち着けば、セレーナさんも順番に話してくれるんじゃないかと思うんだよね。だから、とりあえずお茶でも飲んで一息つかない?」

 僕の提案にジルがすぐ頷いてくれて、続いてカミュも何か言いたげに唇を開いたけれど、それを遮るようにノヴァユエが元気よく挙手して大声を出す。

「わー! すげー! ミカってばやっさしー! すっげぇいい提案じゃーん! ボクちん賛成! 大賛成ー!」
「う、うるさいですよ、ノヴァユエ、貴方は、」
「ボクがミカの手伝いをするからー! カマルティユ先輩は魔王とセレーナと一緒に待っててー!」
「……は?」
「ボクがミカの手伝いをするからー! カマルティユ先輩は魔王とセレーナと一緒に待っててー!」

 眉を顰める美しい悪魔に睨まれても、眼鏡の悪魔は全く怯まず、めげずに同じ言葉を繰り返した。だからといってカミュもすぐに折れるわけではなく、溜息と共に窘め始める。

「ノヴァユエには、お茶の淹れ方なんて分からないでしょう?いえ、私も把握しているわけではないですし、ミカさんはいつも丁寧に指示を出してくださいますが。でも、貴方には料理の火加減なんて分からないでしょう。死体を焼いたり街を滅ぼしたりするように炎を扱うわけではないのですよ」
「えーっ! ボク、生きた小鳥を上手にこんがり丸焼きにするの上手いんだよー!? 火加減なんて大丈夫だよー!」

 ……なんか、恐ろしい言葉が聞こえたような?
 いや、それはともかくとして、ノヴァユエはさっき、カミュに話す前に僕に相談したいことがあるというような言っていたよね。だから、お茶の用意を手伝うついでに、その話をしたいんじゃないかな?

 初対面のときとは違って、今のノヴァユエなら、僕と二人きりになっても襲ってきたりはしないだろうし、味方してあげたほうがいいかもしれない。そう考えた僕は、カミュへ言葉を掛けた。

「カミュ、大丈夫だよ。あったかいお茶じゃなくて、作り置きしてある冷たいマッ茶を出すから。大した手間じゃないと思うし、せっかく申し出てくれてるノヴァユエの手を借りたいんだけど……、ダメかな?」
「……ミカさんからそんな風にお願いされてしまったら、駄目だなんて言えるはずないじゃないですか」

 柔らかな苦笑を浮かべて許可してくれたカミュは、くれぐれも良い子にするようにとノヴァユエに何度も繰り返し念押しし、その度に緑の悪魔は「はぁい★」と良い返事をするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...