魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
240 / 246
【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと

【11-8】

しおりを挟む
 ◆◆◆


 ──秋の感謝祭、当日。
 今日もジルは朝から顔色が良くなくて、随分と具合が悪そうだった。彼が暴走化を堪える頻度は明らかに高まっていて、僕もカミュも心配している。でも、ジルは苦しさをあまり表に出さないようにしていることも分かっているから、こちらも過剰に心配しないように努めていた。

 ジルの様子を気にしつつ、カミュの手を借りながら身支度をする。いつもシャツとカーディガンとズボンというシンプルな服装だから、きちんとした衣装を纏うと少し落ち着かない。

「やはり、よく似合っているな」

 ジルがそう言って、被ったフードの上から僕の頭を撫でてくれたけれども、この姿じゃ似合うも何も無いような……?

「褒めてくれるのは嬉しいけど……、顔が隠れてるのに似合うって思うの?」

 投げかけた素朴な質問に対し、ジルは穏やかに微笑んだまま頷いた。

「確かに顔は隠れているが、雰囲気がピタリと合っていて、似合っていると素直に感じるんだ。身体の線が隠れる衣装なのに、ミカの体格に寄り添っている仕上がりだと伝わってくる。カミュの腕が良いんだろうな」
「ありがとうございます。とても光栄です」

 珍しく素直に褒めてくるジルへ軽く頭を下げたカミュは、ほんのり笑う。相変わらず美しい微笑だ。
 そして、ジルの褒め言葉通り、昨日ギリギリまで粘って、カミュがこだわりの微調整を繰り返しただけあり、とても綺麗なフォルムのローブが完成した。決して華美ではないけれども、地味ではなく、上品な仕上がりだ。マティ様のブローチを装着してもしっくりくるような、「王族の秘密の逢瀬の相手」が身に着けるにふさわしい衣装に思える。

「素敵な衣装をありがとう、カミュ。着心地も良くて、すごく嬉しい。僕には勿体ないって思っちゃうくらい」
「それこそ、勿体無いお言葉です。せっかくのお祭りですから、ミカさんに気持ち良く過ごしていただければと頑張ったかいがありました」
「うん、本当にありがとう!」

 洋服を仕立てるときは裁縫魔法を使っていたけれど、その魔法を使えば誰でもすぐに素敵な服を作れるというわけではないらしく、魔法を使う人の知識やセンスによって仕上がりがだいぶ左右されるようだ。これだけ美しい服を仕立てられたカミュは、それだけの技術を持っているということなんだよね。

「王都へは、一応は馬車で向かいます。──といっても、馬車そのもので移動する距離はほぼありません。私が転移魔法で王都の側までお連れして、事前に決めてある地点でマティアス様へミカさんを預けることになります。その後は普通にお祭りを楽しんでいただければ、と。何かあったときのために、私も近くで控えておりますが、ジル様に何かあった際にはこちらへ向かうことを優先させていただきます。そのときには、危険ですからミカさんはマティアス様の元で待機していただきます。……その流れに異論はありませんね?」
「うん、無いよ。大丈夫」

 感謝祭での流れは、何度も話し合い、いろいろな可能性を吟味し合いながら決めてきた。ジルに何かあったなら僕も連れ帰ってほしいとごねたり、逆に何も無いのに僕を王都へ置いてくるような真似をしたり、そういうことはお互いにしないようにしようと、みんなで納得している。

「……ミカ、これを」

 ジルがフードの中に手を入れてきて、僕の右耳に触れてきた。何かと思えば、耳たぶに硬い物が触れる。ジルを見上げると、優しい黒眼が安心させるように見つめ返してきた。

「変な物じゃない。小さな耳飾りだ。離れていてもカミュの声が聞こえるように魔法を掛けてある。一方的に聞くだけではなく、カミュが意思疎通をしている間はミカの声を聞かせることも出来る。常に繋がっていては気も散るだろうから、緊急時のみ使うようカミュにも言ってある」
「はい。ですから、マティアス様と秘密の会話を交わされていても、大抵はこちらに聞こえませんから大丈夫です」
「もう……、そんな内緒話なんて無いよ」

 苦笑しながら右耳に触れてみると、小さな石のような感触がある。イヤリングに分類されるんだろうけど、金具で耳を挟んでいるというよりも、磁石で挟んでくっつけているような感じがした。魔道具なのかもしれない。
 緊急時にカミュが行ったり来たりするのも大変だろうから、こういう通信装置があるのはいいなと思う。たぶん魔力を注がないと機能しない道具なんだろうから、カミュ側からしか通信できないんだろうけど、それでも十分に頼れる手段だ。

「ありがとう、ジル。心強いよ」

 きっと貴重であろう品を託してくれた魔王へお礼を伝えたとき、頭上で大きな羽音が聞こえて、よく知る人物──いや、悪魔が舞い降りてきた。

「やっほー★ ボクちんが来たよっ☆」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...