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【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと
【11-8】
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◆◆◆
──秋の感謝祭、当日。
今日もジルは朝から顔色が良くなくて、随分と具合が悪そうだった。彼が暴走化を堪える頻度は明らかに高まっていて、僕もカミュも心配している。でも、ジルは苦しさをあまり表に出さないようにしていることも分かっているから、こちらも過剰に心配しないように努めていた。
ジルの様子を気にしつつ、カミュの手を借りながら身支度をする。いつもシャツとカーディガンとズボンというシンプルな服装だから、きちんとした衣装を纏うと少し落ち着かない。
「やはり、よく似合っているな」
ジルがそう言って、被ったフードの上から僕の頭を撫でてくれたけれども、この姿じゃ似合うも何も無いような……?
「褒めてくれるのは嬉しいけど……、顔が隠れてるのに似合うって思うの?」
投げかけた素朴な質問に対し、ジルは穏やかに微笑んだまま頷いた。
「確かに顔は隠れているが、雰囲気がピタリと合っていて、似合っていると素直に感じるんだ。身体の線が隠れる衣装なのに、ミカの体格に寄り添っている仕上がりだと伝わってくる。カミュの腕が良いんだろうな」
「ありがとうございます。とても光栄です」
珍しく素直に褒めてくるジルへ軽く頭を下げたカミュは、ほんのり笑う。相変わらず美しい微笑だ。
そして、ジルの褒め言葉通り、昨日ギリギリまで粘って、カミュがこだわりの微調整を繰り返しただけあり、とても綺麗なフォルムのローブが完成した。決して華美ではないけれども、地味ではなく、上品な仕上がりだ。マティ様のブローチを装着してもしっくりくるような、「王族の秘密の逢瀬の相手」が身に着けるにふさわしい衣装に思える。
「素敵な衣装をありがとう、カミュ。着心地も良くて、すごく嬉しい。僕には勿体ないって思っちゃうくらい」
「それこそ、勿体無いお言葉です。せっかくのお祭りですから、ミカさんに気持ち良く過ごしていただければと頑張ったかいがありました」
「うん、本当にありがとう!」
洋服を仕立てるときは裁縫魔法を使っていたけれど、その魔法を使えば誰でもすぐに素敵な服を作れるというわけではないらしく、魔法を使う人の知識やセンスによって仕上がりがだいぶ左右されるようだ。これだけ美しい服を仕立てられたカミュは、それだけの技術を持っているということなんだよね。
「王都へは、一応は馬車で向かいます。──といっても、馬車そのもので移動する距離はほぼありません。私が転移魔法で王都の側までお連れして、事前に決めてある地点でマティアス様へミカさんを預けることになります。その後は普通にお祭りを楽しんでいただければ、と。何かあったときのために、私も近くで控えておりますが、ジル様に何かあった際にはこちらへ向かうことを優先させていただきます。そのときには、危険ですからミカさんはマティアス様の元で待機していただきます。……その流れに異論はありませんね?」
「うん、無いよ。大丈夫」
感謝祭での流れは、何度も話し合い、いろいろな可能性を吟味し合いながら決めてきた。ジルに何かあったなら僕も連れ帰ってほしいとごねたり、逆に何も無いのに僕を王都へ置いてくるような真似をしたり、そういうことはお互いにしないようにしようと、みんなで納得している。
「……ミカ、これを」
ジルがフードの中に手を入れてきて、僕の右耳に触れてきた。何かと思えば、耳たぶに硬い物が触れる。ジルを見上げると、優しい黒眼が安心させるように見つめ返してきた。
「変な物じゃない。小さな耳飾りだ。離れていてもカミュの声が聞こえるように魔法を掛けてある。一方的に聞くだけではなく、カミュが意思疎通をしている間はミカの声を聞かせることも出来る。常に繋がっていては気も散るだろうから、緊急時のみ使うようカミュにも言ってある」
「はい。ですから、マティアス様と秘密の会話を交わされていても、大抵はこちらに聞こえませんから大丈夫です」
「もう……、そんな内緒話なんて無いよ」
苦笑しながら右耳に触れてみると、小さな石のような感触がある。イヤリングに分類されるんだろうけど、金具で耳を挟んでいるというよりも、磁石で挟んでくっつけているような感じがした。魔道具なのかもしれない。
緊急時にカミュが行ったり来たりするのも大変だろうから、こういう通信装置があるのはいいなと思う。たぶん魔力を注がないと機能しない道具なんだろうから、カミュ側からしか通信できないんだろうけど、それでも十分に頼れる手段だ。
「ありがとう、ジル。心強いよ」
きっと貴重であろう品を託してくれた魔王へお礼を伝えたとき、頭上で大きな羽音が聞こえて、よく知る人物──いや、悪魔が舞い降りてきた。
「やっほー★ ボクちんが来たよっ☆」
──秋の感謝祭、当日。
今日もジルは朝から顔色が良くなくて、随分と具合が悪そうだった。彼が暴走化を堪える頻度は明らかに高まっていて、僕もカミュも心配している。でも、ジルは苦しさをあまり表に出さないようにしていることも分かっているから、こちらも過剰に心配しないように努めていた。
ジルの様子を気にしつつ、カミュの手を借りながら身支度をする。いつもシャツとカーディガンとズボンというシンプルな服装だから、きちんとした衣装を纏うと少し落ち着かない。
「やはり、よく似合っているな」
ジルがそう言って、被ったフードの上から僕の頭を撫でてくれたけれども、この姿じゃ似合うも何も無いような……?
「褒めてくれるのは嬉しいけど……、顔が隠れてるのに似合うって思うの?」
投げかけた素朴な質問に対し、ジルは穏やかに微笑んだまま頷いた。
「確かに顔は隠れているが、雰囲気がピタリと合っていて、似合っていると素直に感じるんだ。身体の線が隠れる衣装なのに、ミカの体格に寄り添っている仕上がりだと伝わってくる。カミュの腕が良いんだろうな」
「ありがとうございます。とても光栄です」
珍しく素直に褒めてくるジルへ軽く頭を下げたカミュは、ほんのり笑う。相変わらず美しい微笑だ。
そして、ジルの褒め言葉通り、昨日ギリギリまで粘って、カミュがこだわりの微調整を繰り返しただけあり、とても綺麗なフォルムのローブが完成した。決して華美ではないけれども、地味ではなく、上品な仕上がりだ。マティ様のブローチを装着してもしっくりくるような、「王族の秘密の逢瀬の相手」が身に着けるにふさわしい衣装に思える。
「素敵な衣装をありがとう、カミュ。着心地も良くて、すごく嬉しい。僕には勿体ないって思っちゃうくらい」
「それこそ、勿体無いお言葉です。せっかくのお祭りですから、ミカさんに気持ち良く過ごしていただければと頑張ったかいがありました」
「うん、本当にありがとう!」
洋服を仕立てるときは裁縫魔法を使っていたけれど、その魔法を使えば誰でもすぐに素敵な服を作れるというわけではないらしく、魔法を使う人の知識やセンスによって仕上がりがだいぶ左右されるようだ。これだけ美しい服を仕立てられたカミュは、それだけの技術を持っているということなんだよね。
「王都へは、一応は馬車で向かいます。──といっても、馬車そのもので移動する距離はほぼありません。私が転移魔法で王都の側までお連れして、事前に決めてある地点でマティアス様へミカさんを預けることになります。その後は普通にお祭りを楽しんでいただければ、と。何かあったときのために、私も近くで控えておりますが、ジル様に何かあった際にはこちらへ向かうことを優先させていただきます。そのときには、危険ですからミカさんはマティアス様の元で待機していただきます。……その流れに異論はありませんね?」
「うん、無いよ。大丈夫」
感謝祭での流れは、何度も話し合い、いろいろな可能性を吟味し合いながら決めてきた。ジルに何かあったなら僕も連れ帰ってほしいとごねたり、逆に何も無いのに僕を王都へ置いてくるような真似をしたり、そういうことはお互いにしないようにしようと、みんなで納得している。
「……ミカ、これを」
ジルがフードの中に手を入れてきて、僕の右耳に触れてきた。何かと思えば、耳たぶに硬い物が触れる。ジルを見上げると、優しい黒眼が安心させるように見つめ返してきた。
「変な物じゃない。小さな耳飾りだ。離れていてもカミュの声が聞こえるように魔法を掛けてある。一方的に聞くだけではなく、カミュが意思疎通をしている間はミカの声を聞かせることも出来る。常に繋がっていては気も散るだろうから、緊急時のみ使うようカミュにも言ってある」
「はい。ですから、マティアス様と秘密の会話を交わされていても、大抵はこちらに聞こえませんから大丈夫です」
「もう……、そんな内緒話なんて無いよ」
苦笑しながら右耳に触れてみると、小さな石のような感触がある。イヤリングに分類されるんだろうけど、金具で耳を挟んでいるというよりも、磁石で挟んでくっつけているような感じがした。魔道具なのかもしれない。
緊急時にカミュが行ったり来たりするのも大変だろうから、こういう通信装置があるのはいいなと思う。たぶん魔力を注がないと機能しない道具なんだろうから、カミュ側からしか通信できないんだろうけど、それでも十分に頼れる手段だ。
「ありがとう、ジル。心強いよ」
きっと貴重であろう品を託してくれた魔王へお礼を伝えたとき、頭上で大きな羽音が聞こえて、よく知る人物──いや、悪魔が舞い降りてきた。
「やっほー★ ボクちんが来たよっ☆」
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