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第二話
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アンナの家には姉と兄がいるのだけれども、二人とも大変優秀で、両親にとってアンナの姉のミランダと兄のカロルは自慢の子供であった。そして三人目に生まれたアンナもかなり期待されたのだけれども、生まれた際アンナは逆子でどうにか生きて生まれる事が出来た。
最初アンナはとても物覚えがよく、何でも吸収する乾いたスポンジの様だった。でも右半分が白色、左半分が黒色という特異な髪で生えていたために、両親は悪魔の呪いだと言い放ち、ミランダとカルロに近づけさせないようにした。
そんな中で両親はアンナをミランダとカロルの比較の対象として話に持ち出しては、どれだけアンナが劣っているかという話をして、次いでミランダとカロルがとても優秀である。そんな口調の話し方をした。
いつの間にかアンナはたった一人で本ばかり読むようになり、一日の大半を書庫で過ごした。そうして本を読んでいるときだけは嫌なことをわすれられた。
今日も書庫で本を読んでいた。するとコツコツという強い足音が聞こえてきたかと思うと、書庫の扉が勢いよく開け放たれた。
「アンナ!貴方何をしたっていうの!」
やってきたのはミランダであった。美しい長い黒髪に、容姿端麗である。彼女は全く隙の無い女性であり、いつだって完璧であるのだ。でも24にもなったというのに、結婚をせずに家に居座っている。
「お姉様、なんのことでしょうか」
ずかずかと書庫に入ってくると、血相を変えてあんなに迫った。
「ルーク殿下が、今いらっしゃっているわ。何があったらそうなるわけなの。なぜ殿下が貴方のことを呼んでいるわけなの?」
あまりに勢いのあるミランダにアンナは驚いて、言葉が出てこなかった。
「わ、分からない、です」
「分からない?分からないですって?何か舞踏会でやらかしたんじゃないでしょうね」
やらかした、アンナ自身が引き起こしたわけではないけれども、ルークから話しかけられた。と言うことはある。そのために、全く何も問題を起こしていないとは言い難い。
そのため黙り込んでしまった。
「これじゃあ、お母様がなんておっしゃるか。もういいわ!ほら、行くわよ」
細いミランダの手で、アンナの腕を掴まれて、立ち上がらせられると急いで走り出したために、抱え込んでいた分厚い本を落としてしまった。
腕を引かれたままで走って、玄関まで向かった。そうして玄関手前の廊下で、アンナはミランダに肩を強くつかまれた。
「とにかく、静かに、穏やかに事を済ませるのよ。分かった?」
そうやって玄関の扉を開けようとして、もう一度アンナの方へ振り返る。
「そうだったわ。今日は従妹のキャロルが来る日だったじゃない。できるだけ早めに、終わらせなさい」
何度もアンナは頷いた。それから玄関の扉を開けた。そこにはあの舞踏会の日と変わらない、ルークが立っている。服は舞踏会よりもラフなもので、シャツと黒のパンツだ。
「お待たせいたしました。どうぞ、ごゆっくり」
玄関へとはじき出されたアンナはルークを目の前に何を話せばいいのか全く分からなかった。人と話すことさえ苦手だというのに、王族と話す言葉なんてアンナは知識としてはあっても、実践なんてあの舞踏会が初めてだったうえにまともに話すこともできなかった。
「突然やってきて申し訳ないと思っているよ。でも手紙みたいに、何人もの人が見て、手元に残ってしまうようなものを書くと、当然のように噂が広まったりするから」
くるりとルークはアンナに背中を向けると、何段か階段を降りてから、手を差し出した。
「二人だけになれるところへ行こう。プライベートなところを人に見聞きされて、嫌なのは君もだろ」
「わかりました」
やっと声が出たのだけれども、手を取ることは躊躇われた。それを気遣ってか、ルークは手をポケットに突っ込んで、歩き出した。
夏の日差しが暑かった。でも木々は風で揺れて気持ちいい。
「小さい頃は日傘差してたんだよね」
「日傘?」
「母親がソバカス嫌いだったし、兄弟の中でソバカスあるの僕だけだったし。日傘差すのも女っぽくて嫌だったけど、ソバカスは消えてほしかったから」
ぎこちなく独り言のように話すと、ルークは転がっていた小石を蹴った。
「でも今は受け入れてる。君はどう?」
今の一通りの話を聞いて、アンナはなぜルークがここへやってきて、舞踏会で庇ってくれたのか分かった気がした。
それと共に孤独感のような何かをアンナは感じ取った。
「黒髪に染めようとしました。でも私は様々なアレルギーを持っていて、染粉で染めようとすると頭皮が痒くなってきて、仕舞には髪の毛が抜けました。だから、諦めています」
「諦めと受け入れは一緒だと思う?」
「全然違うと思います。でも私がこの髪の毛を受け入れても、周りの人々は受け入れてくれません」
いくら髪を受け入れたところで、周りの人々はそれを悪い物だとして受け入れてくれることはないであろう。だから諦めしかない。
「でも、僕は受け入れる。共感者だから」
強い風が吹いて、アンナの黒髪と白い髪が、左から右に引っ張られたみたいに強くなびいた。真っ白とした肌が太陽の元へ晒され、今までよく見えていなかったルークの姿をアンナははっきりと瞳にうつした。
日の元に晒されると、本当にルークのソバカスははっきりと見えて、頬と鼻筋を中心に貌中に散らばっていて、首にまであることが分かった。
「告白、ですか?」
最初アンナはとても物覚えがよく、何でも吸収する乾いたスポンジの様だった。でも右半分が白色、左半分が黒色という特異な髪で生えていたために、両親は悪魔の呪いだと言い放ち、ミランダとカルロに近づけさせないようにした。
そんな中で両親はアンナをミランダとカロルの比較の対象として話に持ち出しては、どれだけアンナが劣っているかという話をして、次いでミランダとカロルがとても優秀である。そんな口調の話し方をした。
いつの間にかアンナはたった一人で本ばかり読むようになり、一日の大半を書庫で過ごした。そうして本を読んでいるときだけは嫌なことをわすれられた。
今日も書庫で本を読んでいた。するとコツコツという強い足音が聞こえてきたかと思うと、書庫の扉が勢いよく開け放たれた。
「アンナ!貴方何をしたっていうの!」
やってきたのはミランダであった。美しい長い黒髪に、容姿端麗である。彼女は全く隙の無い女性であり、いつだって完璧であるのだ。でも24にもなったというのに、結婚をせずに家に居座っている。
「お姉様、なんのことでしょうか」
ずかずかと書庫に入ってくると、血相を変えてあんなに迫った。
「ルーク殿下が、今いらっしゃっているわ。何があったらそうなるわけなの。なぜ殿下が貴方のことを呼んでいるわけなの?」
あまりに勢いのあるミランダにアンナは驚いて、言葉が出てこなかった。
「わ、分からない、です」
「分からない?分からないですって?何か舞踏会でやらかしたんじゃないでしょうね」
やらかした、アンナ自身が引き起こしたわけではないけれども、ルークから話しかけられた。と言うことはある。そのために、全く何も問題を起こしていないとは言い難い。
そのため黙り込んでしまった。
「これじゃあ、お母様がなんておっしゃるか。もういいわ!ほら、行くわよ」
細いミランダの手で、アンナの腕を掴まれて、立ち上がらせられると急いで走り出したために、抱え込んでいた分厚い本を落としてしまった。
腕を引かれたままで走って、玄関まで向かった。そうして玄関手前の廊下で、アンナはミランダに肩を強くつかまれた。
「とにかく、静かに、穏やかに事を済ませるのよ。分かった?」
そうやって玄関の扉を開けようとして、もう一度アンナの方へ振り返る。
「そうだったわ。今日は従妹のキャロルが来る日だったじゃない。できるだけ早めに、終わらせなさい」
何度もアンナは頷いた。それから玄関の扉を開けた。そこにはあの舞踏会の日と変わらない、ルークが立っている。服は舞踏会よりもラフなもので、シャツと黒のパンツだ。
「お待たせいたしました。どうぞ、ごゆっくり」
玄関へとはじき出されたアンナはルークを目の前に何を話せばいいのか全く分からなかった。人と話すことさえ苦手だというのに、王族と話す言葉なんてアンナは知識としてはあっても、実践なんてあの舞踏会が初めてだったうえにまともに話すこともできなかった。
「突然やってきて申し訳ないと思っているよ。でも手紙みたいに、何人もの人が見て、手元に残ってしまうようなものを書くと、当然のように噂が広まったりするから」
くるりとルークはアンナに背中を向けると、何段か階段を降りてから、手を差し出した。
「二人だけになれるところへ行こう。プライベートなところを人に見聞きされて、嫌なのは君もだろ」
「わかりました」
やっと声が出たのだけれども、手を取ることは躊躇われた。それを気遣ってか、ルークは手をポケットに突っ込んで、歩き出した。
夏の日差しが暑かった。でも木々は風で揺れて気持ちいい。
「小さい頃は日傘差してたんだよね」
「日傘?」
「母親がソバカス嫌いだったし、兄弟の中でソバカスあるの僕だけだったし。日傘差すのも女っぽくて嫌だったけど、ソバカスは消えてほしかったから」
ぎこちなく独り言のように話すと、ルークは転がっていた小石を蹴った。
「でも今は受け入れてる。君はどう?」
今の一通りの話を聞いて、アンナはなぜルークがここへやってきて、舞踏会で庇ってくれたのか分かった気がした。
それと共に孤独感のような何かをアンナは感じ取った。
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「諦めと受け入れは一緒だと思う?」
「全然違うと思います。でも私がこの髪の毛を受け入れても、周りの人々は受け入れてくれません」
いくら髪を受け入れたところで、周りの人々はそれを悪い物だとして受け入れてくれることはないであろう。だから諦めしかない。
「でも、僕は受け入れる。共感者だから」
強い風が吹いて、アンナの黒髪と白い髪が、左から右に引っ張られたみたいに強くなびいた。真っ白とした肌が太陽の元へ晒され、今までよく見えていなかったルークの姿をアンナははっきりと瞳にうつした。
日の元に晒されると、本当にルークのソバカスははっきりと見えて、頬と鼻筋を中心に貌中に散らばっていて、首にまであることが分かった。
「告白、ですか?」
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