6 / 9
06
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
転入生の安田碧が、何者かに連れていかれたから一緒に探して欲しいと、牧野智親に言われたのは新入生の歓迎会から少し経ってからだった。
三年生が修学旅行から帰り、ようやく学校も落ち着き出す頃のこの事件。そう言えば、昨日高倉恭に食堂で絡まれていた。助けた方が良いだろうかと思ったが、正直あまり話したことはない。クラスメイトだからと言って誰とでも直ぐに仲良くなれる性格ではない。
……本当のところ、転入生に構っている心の余裕がなかった。伊月の事で精一杯で、未練がましくB組の前を通ることしかできなかった。
でも、今はそんなことは言っていられない。どうやら寮からは出ていないらしい。怪しいところはないかと探しながら、どうしても伊月の部屋の前まで来てしまう。そこで心臓が嫌な音をたてる。伊月の部屋の前にはB組になってから急に仲良くなった森山が立っていた。中学の時は同じクラスだったし、誰ともしゃべるなとは思わない。しかし、二人の距離が近い。ある日、森山に伊月と付き合ってるのかと思わず聞いてしまって、自分でもびっくりした。否定していたが怪しい、と俺は思っている。
「よお!なあ、伊月、知らない?」
「えっ?中に居ないのか?」
「ああ、勉強見てもらう約束なんだけど、返事がないんだ」
勉強と聞いて安心したが、別の不安が湧いてくる。サァーと血が引いていく。
「どうした?」
安田の件に関わってるんじゃないだろうか?連れていかれる安田を庇い、一緒に連れていかれた?声を落として安田の事だけを伝えた。伊月の事は俺の推測だ。けど、森山も俺の動揺を感じ、同じ心配をしたらしい。
「探そう」
二人を探すフリをして、俺は伊月を探した。もちろん安田がどうなっても良いなんて思っていない。何事もなく助かるならそれに越したことはない。でも、俺の心を締めるのは伊月の無事。智親から、一階の自習室に向かったらしいと連絡があった。ちんたらエレベーターを待ってられない。階段を二つ飛ばしで駆け下り、自習室に向かうべく玄関前を通り過ぎようとして、足が止まる。
◆◆◆◆◆
「伊月!」
紺野先生と一緒に寮へ入った途端、田丸が駆け寄ってきた。
「えっ?」
「無事だったんだな。良かった」
「えっ、えっ…?何?」
あまりの勢いに、言葉が出なかった。田丸は僕の手を掴んで離さない。
「田丸、どう言うことだ?」
紺野先生が僕の後ろから田丸に聞く。
「森山が伊月がいないって…。安田が連れ去られたって聞いて、探してた時に聞いたから、俺、てっきり一緒に…」
「岩佐は俺の所にいたんだよ。成績のことで呼び出してたんだ。そしたら、桜庭が来てさ。安田の事を探すの、手伝ってもらってたんだ。監視カメラの映像を見るのをね。念のためあちこち見たけど、怪しい行動する子はいないから、来たんだ。ああ、見つけたみたいだな」
ちょうど碧空がプラチナブロンドがチラリと見える誰かを抱き抱えて寮父さんの部屋に入って行くところだった。
「先生、今の子?」
「ああ、安田だ」
「良かった…」
美都瑠がいつも気にかけてる転入生が美都瑠のいない日に何かあったら、悲しむだろう。
「あの、田丸…」
「ん?何、伊月」
「手、離して?」
どうして、僕が無事だと知ってそんなに安心した顔をするのか?
どうして、手を掴んでいるのか?
どうして、名前を呼ぶのか?
どうして、そんなに優しい顔で僕を見るのか?
あの日はあんなに睨んでたじゃないか。別に睨まれたいわけじゃない。でも、その笑顔は逆に辛い。
「文世、勉強みてもらうんだったよな?でも、今日は…ちょっと、伊月、借りるな」
牧野先生は自習室の方へ向かった。今は三人で寮の入り口を塞いでいる。
「ああ、別に良いよ。伊月、また、頼むな」
「ふ、文世!」
「何か、拗れてる感じ、だろ?よく話し合えよ」
「ああ、サンキュ。伊月、俺の部屋、行こ」
いつにない強引さで、手を繋いだまま歩き出す。引っ張られるまま足が動く。突っ張って踏み止まろうとしても力では敵わない。でも、急に止まった。クルリと振り返り、肘を持ち、顔を近づけ、耳元で爆弾を一言。
「さっきの碧空と安田みたいに、抱っこしてやろうか?」
耳が熱い。耳だけじゃない。全身が総毛立ち、ブルリと震えた。
転入生の安田碧が、何者かに連れていかれたから一緒に探して欲しいと、牧野智親に言われたのは新入生の歓迎会から少し経ってからだった。
三年生が修学旅行から帰り、ようやく学校も落ち着き出す頃のこの事件。そう言えば、昨日高倉恭に食堂で絡まれていた。助けた方が良いだろうかと思ったが、正直あまり話したことはない。クラスメイトだからと言って誰とでも直ぐに仲良くなれる性格ではない。
……本当のところ、転入生に構っている心の余裕がなかった。伊月の事で精一杯で、未練がましくB組の前を通ることしかできなかった。
でも、今はそんなことは言っていられない。どうやら寮からは出ていないらしい。怪しいところはないかと探しながら、どうしても伊月の部屋の前まで来てしまう。そこで心臓が嫌な音をたてる。伊月の部屋の前にはB組になってから急に仲良くなった森山が立っていた。中学の時は同じクラスだったし、誰ともしゃべるなとは思わない。しかし、二人の距離が近い。ある日、森山に伊月と付き合ってるのかと思わず聞いてしまって、自分でもびっくりした。否定していたが怪しい、と俺は思っている。
「よお!なあ、伊月、知らない?」
「えっ?中に居ないのか?」
「ああ、勉強見てもらう約束なんだけど、返事がないんだ」
勉強と聞いて安心したが、別の不安が湧いてくる。サァーと血が引いていく。
「どうした?」
安田の件に関わってるんじゃないだろうか?連れていかれる安田を庇い、一緒に連れていかれた?声を落として安田の事だけを伝えた。伊月の事は俺の推測だ。けど、森山も俺の動揺を感じ、同じ心配をしたらしい。
「探そう」
二人を探すフリをして、俺は伊月を探した。もちろん安田がどうなっても良いなんて思っていない。何事もなく助かるならそれに越したことはない。でも、俺の心を締めるのは伊月の無事。智親から、一階の自習室に向かったらしいと連絡があった。ちんたらエレベーターを待ってられない。階段を二つ飛ばしで駆け下り、自習室に向かうべく玄関前を通り過ぎようとして、足が止まる。
◆◆◆◆◆
「伊月!」
紺野先生と一緒に寮へ入った途端、田丸が駆け寄ってきた。
「えっ?」
「無事だったんだな。良かった」
「えっ、えっ…?何?」
あまりの勢いに、言葉が出なかった。田丸は僕の手を掴んで離さない。
「田丸、どう言うことだ?」
紺野先生が僕の後ろから田丸に聞く。
「森山が伊月がいないって…。安田が連れ去られたって聞いて、探してた時に聞いたから、俺、てっきり一緒に…」
「岩佐は俺の所にいたんだよ。成績のことで呼び出してたんだ。そしたら、桜庭が来てさ。安田の事を探すの、手伝ってもらってたんだ。監視カメラの映像を見るのをね。念のためあちこち見たけど、怪しい行動する子はいないから、来たんだ。ああ、見つけたみたいだな」
ちょうど碧空がプラチナブロンドがチラリと見える誰かを抱き抱えて寮父さんの部屋に入って行くところだった。
「先生、今の子?」
「ああ、安田だ」
「良かった…」
美都瑠がいつも気にかけてる転入生が美都瑠のいない日に何かあったら、悲しむだろう。
「あの、田丸…」
「ん?何、伊月」
「手、離して?」
どうして、僕が無事だと知ってそんなに安心した顔をするのか?
どうして、手を掴んでいるのか?
どうして、名前を呼ぶのか?
どうして、そんなに優しい顔で僕を見るのか?
あの日はあんなに睨んでたじゃないか。別に睨まれたいわけじゃない。でも、その笑顔は逆に辛い。
「文世、勉強みてもらうんだったよな?でも、今日は…ちょっと、伊月、借りるな」
牧野先生は自習室の方へ向かった。今は三人で寮の入り口を塞いでいる。
「ああ、別に良いよ。伊月、また、頼むな」
「ふ、文世!」
「何か、拗れてる感じ、だろ?よく話し合えよ」
「ああ、サンキュ。伊月、俺の部屋、行こ」
いつにない強引さで、手を繋いだまま歩き出す。引っ張られるまま足が動く。突っ張って踏み止まろうとしても力では敵わない。でも、急に止まった。クルリと振り返り、肘を持ち、顔を近づけ、耳元で爆弾を一言。
「さっきの碧空と安田みたいに、抱っこしてやろうか?」
耳が熱い。耳だけじゃない。全身が総毛立ち、ブルリと震えた。
33
あなたにおすすめの小説
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
魔法学校の城に囚われている想い人♡を救い出して結婚したい天才有能美形魔術師(強火執着)の話
ぱふぇ
BL
名門魔法学校を首席で卒業し、若くして国家機関のエースに上り詰めた天才魔術師パドリグ・ウインズロー(26歳)。顔よし、頭脳よし、キャリアよし! さぞかしおモテになるんでしょう? ええ、モテますとも。でも問題がある。十年越しの想い人に、いまだに振り向いてもらえないのだ。そんな片思い相手は学生時代の恩師・ハウベオル先生(48歳屈強男性)。無愛想で不器用、そしてある事情から、魔法学校の城から一歩も出られない身の上。先生を外の世界に連れ出すまで、全力求婚は止まらない!
26歳魔術師(元生徒)×48歳魔術師(元教師)
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
彼の想いはちょっと重い
なかあたま
BL
幼少期、心矢に「結婚してほしい」と告げられた優希は「お前が高校生になっても好きな人がいなかったら、考えてやらなくもない」と返事をした。
数年後、高校生になった心矢は優希へ結婚してほしいと申し出る。しかし、約束をすっかり忘れていた優希は二ヶ月だけ猶予をくれ、と告げる。
健全BL
年下×年上
表紙はhttps://www.pixiv.net/artworks/140379292様からお借りしました。
政略結婚制度に怒っています
河野彰
BL
「政略結婚法」が施行されて十余年。政治家や俳優、高額納税者などの著名人は三十歳までに結婚をしなければならないという法律だ。
主人公末永遥(すえながはるか)はごく一般家庭に育った地味なサラリーマンだったが、ある日一通の通知が政府から届く。それは、高額納税者である久堂清継(くどうきよつぐ)との婚姻が成立したという決定通知だった。
男同士で結婚!? と驚く遥。間違いかと思い、すぐに異議申し立てをしに市役所へ行ったが、そこで事実だと告げられてしまう。トボトボと帰路につく遥の前に清継が現れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる