見つけてよ。

茉莉花 香乃

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◆◆◆◆◆


転入生の安田碧が、何者かに連れていかれたから一緒に探して欲しいと、牧野智親に言われたのは新入生の歓迎会から少し経ってからだった。

三年生が修学旅行から帰り、ようやく学校も落ち着き出す頃のこの事件。そう言えば、昨日高倉恭に食堂で絡まれていた。助けた方が良いだろうかと思ったが、正直あまり話したことはない。クラスメイトだからと言って誰とでも直ぐに仲良くなれる性格ではない。

……本当のところ、転入生に構っている心の余裕がなかった。伊月の事で精一杯で、未練がましくB組の前を通ることしかできなかった。

でも、今はそんなことは言っていられない。どうやら寮からは出ていないらしい。怪しいところはないかと探しながら、どうしても伊月の部屋の前まで来てしまう。そこで心臓が嫌な音をたてる。伊月の部屋の前にはB組になってから急に仲良くなった森山が立っていた。中学の時は同じクラスだったし、誰ともしゃべるなとは思わない。しかし、二人の距離が近い。ある日、森山に伊月と付き合ってるのかと思わず聞いてしまって、自分でもびっくりした。否定していたが怪しい、と俺は思っている。

「よお!なあ、伊月、知らない?」
「えっ?中に居ないのか?」
「ああ、勉強見てもらう約束なんだけど、返事がないんだ」

勉強と聞いて安心したが、別の不安が湧いてくる。サァーと血が引いていく。

「どうした?」

安田の件に関わってるんじゃないだろうか?連れていかれる安田を庇い、一緒に連れていかれた?声を落として安田の事だけを伝えた。伊月の事は俺の推測だ。けど、森山も俺の動揺を感じ、同じ心配をしたらしい。

「探そう」

二人を探すフリをして、俺は伊月を探した。もちろん安田がどうなっても良いなんて思っていない。何事もなく助かるならそれに越したことはない。でも、俺の心を締めるのは伊月の無事。智親から、一階の自習室に向かったらしいと連絡があった。ちんたらエレベーターを待ってられない。階段を二つ飛ばしで駆け下り、自習室に向かうべく玄関前を通り過ぎようとして、足が止まる。



◆◆◆◆◆



「伊月!」

紺野先生と一緒に寮へ入った途端、田丸が駆け寄ってきた。

「えっ?」
「無事だったんだな。良かった」
「えっ、えっ…?何?」

あまりの勢いに、言葉が出なかった。田丸は僕の手を掴んで離さない。

「田丸、どう言うことだ?」

紺野先生が僕の後ろから田丸に聞く。

「森山が伊月がいないって…。安田が連れ去られたって聞いて、探してた時に聞いたから、俺、てっきり一緒に…」
「岩佐は俺の所にいたんだよ。成績のことで呼び出してたんだ。そしたら、桜庭が来てさ。安田の事を探すの、手伝ってもらってたんだ。監視カメラの映像を見るのをね。念のためあちこち見たけど、怪しい行動する子はいないから、来たんだ。ああ、見つけたみたいだな」

ちょうど碧空がプラチナブロンドがチラリと見える誰かを抱き抱えて寮父さんの部屋に入って行くところだった。

「先生、今の子?」
「ああ、安田だ」
「良かった…」

美都瑠がいつも気にかけてる転入生が美都瑠のいない日に何かあったら、悲しむだろう。

「あの、田丸…」
「ん?何、伊月」
「手、離して?」

どうして、僕が無事だと知ってそんなに安心した顔をするのか?
どうして、手を掴んでいるのか?
どうして、名前を呼ぶのか?
どうして、そんなに優しい顔で僕を見るのか?
あの日はあんなに睨んでたじゃないか。別に睨まれたいわけじゃない。でも、その笑顔は逆に辛い。

「文世、勉強みてもらうんだったよな?でも、今日は…ちょっと、伊月、借りるな」

牧野先生は自習室の方へ向かった。今は三人で寮の入り口を塞いでいる。

「ああ、別に良いよ。伊月、また、頼むな」
「ふ、文世!」
「何か、こじれてる感じ、だろ?よく話し合えよ」
「ああ、サンキュ。伊月、俺の部屋、行こ」

いつにない強引さで、手を繋いだまま歩き出す。引っ張られるまま足が動く。突っ張って踏み止まろうとしても力では敵わない。でも、急に止まった。クルリと振り返り、肘を持ち、顔を近づけ、耳元で爆弾を一言。

「さっきの碧空と安田みたいに、抱っこしてやろうか?」

耳が熱い。耳だけじゃない。全身が総毛立ち、ブルリと震えた。
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