波紋

茉莉花 香乃

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第三章

03

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もう嫌だ。
家に帰りたくない。

おじいちゃんがいるからどんなこと言われても我慢してた。そのおじいちゃんも、俺の事がだんだんわからなくなる。

あの人に会いたかった。

マンションの植え込みの前で座る。どうする?こんなとこ座ってたら通報される?

「君は…」
「あっ…」

あの人が帰って来てしまった。会いたかったけど、ここで会うのはまずいだろ。付けて来たとか思われたら嫌だな。

「お家の人、心配する」

大人はみんな同じだ。
この人も同じ。

「心配なんかしないよ。ごめん。じゃ、おやすみ」
「ちゃんと家に帰るのか?中学生だろ?」
「俺、高二だよ?17歳」

まさか中学生に思われてたとは…。

「子どもじゃないってこと証明してあげるよ」

やけだった。

俺を見ろよ。

キスなんかしたことない。唇を押し付けた。

「お兄さん…俺を買わない?」

離れたくなかった。キスなんかして、殴られても仕方なかったのに。驚きながらも俺を振り払うこともしない。

声が震え、真っ直ぐ目を見られない。

「お前、名前は?」
「買ってくれるの?」

まさか名前を聞かれるとは思わなかった。このまま抱かれても良いと思った。この人になら良いって…。

公園で、コンビニで俺がそこにいるのを確認するとどこか顔を緩ませる人。

気のせいだろうか?

男がキスをしたのに、こうして俺を見る目は気持ち悪いと遠ざける様子はない。

「片島郁己」
「来いよ」

後ろを付いて行く。良いのだろうか?もし、抱いてくれるならそれは良い。

俺、この人を利用しようとしてる。

「シャワー浴びて来いよ」
「えっ…?」
「俺に買われるんだろ?しっかり準備しといてくれよ」

準備って、何をすれば良いのかわからなかった。取り敢えず指された方へ行き、そこにあるドアに手をかけた。振り向くと頷いてくれる。

あまりゆっくりしない方が良いのか?身体を洗い、髪を洗う。後は?わからない…。少し湯船に浸かり考える。

怖さはない。どうして俺を部屋に入れてくれたのか?本当に『買う』つもりだったのか?それでも良い。

あの人の下着とジャージを身に付けタオルで頭を拭きながら明かりが点いてるリビングに入った。

「これ、借りて良いのか?」

勝手に着てしまってから聞くって間抜けだな。恥ずかしさから顔が見られない。

「俺も風呂入るから」

一人になって見回すと広い部屋だった。一人暮らしだろうとは思ってた。けど前に誰かと住んでたのか?
テーブルと椅子が二脚、部屋の隅にラブソファーが置いてある。やっぱり…な。そりゃそうだよな。あんなかっこいい人だ。恋人の一人や二人いただろう。一緒に住んでたっておかしくない。ギュッと胸が苦しくなった。

テーブルに一万円札が無造作に置いてある。無用心だな。
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