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「……は」

「まあ見た目はどんな美女で放っておかないほどの良い男だけど、怖いよねぇコイツの目。人殺しの目してるだろう?まあ人殺しなんだけど」


ウィンの口調は軽すぎて怖い話には全く聞こえなかった。だけどそれでも俺はベルドラのやばい話はいくらでも知っているしそれほどまでに有名で凶悪で非道で冷徹なマフィアなのだ。


そのマフィアのトップである男が、そんなメルヘンな趣味があるだと?


「いやぁ、驚きだよね。僕も幼馴染じゃ無ければ腹抱えて笑ってたよ」


あははとすでに笑っているがウィンがこれまで生きてこれたのは幼馴染という立場だからなのか、それとも仕立て屋という職がこいつを生かしているのか。

だいたい可愛いものを可愛い人間に着せるってなんだ。お人形遊び?着せ替え?つまり俺は着せ替え人形としてベルドラに買われたと。あのベルドラが着せ替えを楽しむと。想像するだけで恐怖だ。どんな顔でとか着せてどうするとかまとまりのない考えが走馬灯のように走っていく。

相変わらずベルドラは静かで俺になんか興味があるようにも思えない。体の底から冷え上がるようなそんな視線しか向けてこないのに。

とにかく俺は言葉を失いただ立ち尽くしているとウィンがまた顔を近づけてきた。

「ちなみにこの事はこの場にいる僕たちとごく僅かな者しか知らないから、他言無用だ」

ウィンの目がギラギラと輝いている。
これは、口止めだ。


「……言ったら?」

ウィンが意味ありげに笑った。

「君の前にも居たんだよ、ブロンドの可愛い子がね。でも逃げ出した。それも新入りを捕まえて秘密をバラしてね……今は2人とも海の中かなあ」


最悪だ!
趣味から人殺しに発展って、どんな性格破綻者だ。趣味はもっと平和なもんだろうクソが。

また叫び出したい気持ちを抑えて俺は静かに頷いた。そこでベルドラようやく動きを見せる。


「……後の事はサハに任せてる」

「オーケーオーケー!ところで最初のイメージは特に無いのかい?僕が今のところ湧いたモノをざっと作って良いかな」

「ああ」


それだけ言うとベルドラは部屋から出て行ってしまった。ウィンはまた嬉しそうにくるくると回り出す。


「さてと僕もデザイン画を纏めないと、それにしても本当に良いね、素敵な髪色に透けるような白い肌……それにその瞳の目、食べたくなるように綺麗だ」


ウィンが物色するように俺を見つめるが正直もうそれどころでは無かった。何から手をつけて良いかわからないような脱力とも絶望とも言い切れないこの気持ちが胸の中をぐるぐると渦巻いていく。気分も悪いし胃がひっくり返りそうだった。

ふいにウィンが俺の手を取った。
布越しでも分かるくらい暖かいその手はゆっくりと俺の手を撫でていく。

「それにしても痩せすぎだ。採寸はしばらく先かな……君今までどんな生活してたの」


ウィンの声が何故かだんだん遠くになって聞こえなくなってきた。
あれっと思った時には視界がぐにゃりと歪み気づけば床に倒れていた。音もなくバタバタと足音のような振動だけが伝わりながらそのまま俺は気を失ったのだ。


そういえば食べ物を口にしたのは、何日前だったろうか。




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