sweet!!

仔犬

文字の大きさ
28 / 379
work!

3

春さんの遠い目をうっとり見ていたら式のことを思い出した。

あれから式は数回だけバイトまでの道だったり、バイトからの帰り道だったりと送ってくれたことがあった。ぴったり張り付くのかと思いきや、思わぬタイミングで現れ、さらっとじゃあな、の一言で帰っていく。

「お前らの家が隣同士なの、送るの楽だけどなんか怖いわ」

と唯一彼が眉をひそめた点である。いいじゃんねえ仲良しで。
赤羽さんもいるみたいだけど一回も見たことがない。どうやっておれたち守られてるの?シフト制なの?と式に聞いても真顔で企業秘密と言われた。
彼らは忍者の素質もあるのかもしれない。



「うーん、それにしても先輩に会えない……」

「うわ、唯が彼女化してきた……いや、もともと女の子寄りだからいまさらか?」

メニュー片手にしょんぼりすれば秋にすぐからかわれた。言い返そうとすると入口のドアがベルを鳴らす。カウンターに向いていた身体をくるりと反転させて笑顔でお客様を迎えるのはもう体に馴染んだ所作だ。

「いらっしゃいませ。何名様でしょ…………う…………」

笑顔のまま表情が動かせなくて、ただ目の前の人を見つめてしまう。店員失格なんて言わないでくれ。だってしょうがないんだ。


「よお、楽しそうだな唯斗」

未だ聞きなれない低音ボイス。それでも聞き逃す事はない。驚いて持っていたメニューを落としそうだった。

「な、なんで……」

サングラスにファーのマフラー。黒のロングコートにスキニーパンツ。足元はさりげなく踵にスタッズがついたローファー。シンプルの中にデザインが組み込まれていて最高にオシャレだ。これがおれの彼氏かと思うとめまいがするほど痺れてしまう。獅之宮氷怜はサングラスを、ずらして不敵に笑う。

「なんだかバイトが楽しそうだったからね」

「そーよー、お客様なんだから構ってよね~~」

獅之宮先輩に続いて、手をひらひら振りながら天音舵先輩と豹原先輩が入ってきた。

天音蛇先輩は足首丈のトレンチコートに白のハイネックニット。タイトジーンズにゴツめのスポーツスニーカー。
豹原先輩はビックサイズのMA-1の下に膝丈のロングワイシャツ。黒スキニージーンズに革のショートブーツ。

ちらりとブランド物がしのばせてあって、痺れるほど最高にオシャレだ。なんの文句も付けられないほど似合っている。そもそも似合わないものなんてないのかもしれないが空いた口が塞がらないと言うのはこう言う時に言うんだろう。カフェの入り口だけ時が止まったように浮いている。おれはポケットに入れていたスマホを取り出しすぐさま写真に保存した。

「待ち受けにします!」

「唯、お前ってやつは……」

「優夜くんこんにちは」

「いらっしゃいませ。先輩」

いつのまにか優が後ろに来ていてため息をつかれる。なんだよ相変わらずクールに落ち着いちゃって。天音蛇先輩が綺麗に挨拶していた。先輩はおれがドキドキしちゃう甘ーい視線だが優は仕事仕事といつも通りのパターン。さすがだな。
でも優だって写メ欲しいくせに、あとで送ってやんないぞ。


もたつくおれ等に秋がどうした?とキッチンから顔を出す。

「うわ、え、先輩なんでここに」

「チャオ~~アッキー」

ガバリと豹原先輩に羽交い締めにされた秋は苦しいと叫んでプハ!と首をだした。秋の目の前に写メを見せてあげれば、クソカッケェ!と反応してくれる。さすが秋わかってるう。

「はい。終わり。唯早く先輩達案内してあげて」

「イエッサー!」

流石におれも店内の騒ぎには気づく。優は急いでカウンターに戻り会計へまわった。この小さなカフェではあまりにも目立ちすぎる先輩達。異質な3人に店内の女の子たちがざわめき始めてる。個室なんてないので、せめて後ろ姿だけになれば時間とともに落ち着きを取り戻すはずだ、と考えたおれは先輩達を案内する。

「えっと、カウンターへどうぞ!」

「随分と賑わってるな」

「それが、最近雑誌に載ったんですよ~」

「へぇ、それでか。……唯斗、お前そういう格好も似合うな」

「え!これおれらが選んだですよ~やった~」

嬉しくてくるりと回って見せたら、似合ってるといわれ、頭をポンと撫でられた。心臓きゅんときたわ。

獅之宮先輩の言う格好とは今着ているここの制服だ。春さんはやはり優しいので制服まで好きにさせてもらえる。そこでおれ達は季節毎にあった服にしようと言うことになり、今季の冬は黒のワイシャツにエプロンだ。女の子が喜ぶので腕まくりを忘れずに。


浮かれていたら早くも優が先輩達に注文を取っていた。

「オレねーロイヤルミルクティ~。あっまいのがイーナ」
「んーダージリンティーにしようかな」
「ブラックコーヒー頼む」

わかりやすく分かれた好みに納得しながら、名残惜しくもおれは他のお客様のオーダーを取りに行く。まだまだ人が減ることはない。

感想 183

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。