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しおりを挟むドアを開けたら違う国かと目を疑った。
「そもそもおかしいわ、鍵かけたんだよ……」
「だってこの部屋にしたのオレらだし、鍵くらいいつでも開けられないとねぇ。てゆか本当は嬉しいくせに~」
「嬉しくねぇ……生活指導で呼び出した奴が寛ぎすぎんだよ……」
たしかにアンティークを基調とした部屋は学校という場を連想させるものはなくなっていた。赤い生地に金のフリンジがついたカーテン。アフタヌーンティセットや木製の背が高いランプ。そしてやっぱり趣味の良いソファ。
氷怜先輩が優雅に足を組んで座る横で暮刃先輩がやっと来たと手をあげる。当たり前のように紅茶を用意し始める赤羽さんがどうぞとソファに促すと桃花が慌ててそれを手伝い、全てを諦めたようなため息をついてぴよちゃんは机の席に着いた。
ぴよちゃんの机まで優美な作りだからぴよちゃんらしくなくて面白い。
「テストはどうだ?」
「有り難い事に上々です~」
おれは暮刃先輩と氷怜先輩の間に座り、テーブルを挟んだ向かいのソファに秋と優が座る。氷怜先輩の言葉に項垂れたようにそう言うと秋の横に座った瑠衣先輩がにっと笑った。
「あそこまで教えて頭に入んなかったら~ここに詰まってるのはクルミでしょ~」
「うわぁひどい」
そう言いながらも撫でられた秋も嬉しそうに笑う。テスト終わりの解放感も相まってみんなご機嫌な気がした。でも先輩達あれだけできるんだから疲れ知らずな筈だ。
「先輩達はどうだったんですか?テスト」
「どうもこうも、こいつら特別講師まで呼び込んでるんだから。やってもらわなきゃ困る」
「え?!すごい」
「簡単だったよ今回も。たぶん、満点」
運ばれてきた紅茶をゆっくり口に運ぶ暮刃先輩がそういうとぴよちゃんが唸り声をあげた。追い討ちをかけるように意地の悪そうな笑みで瑠衣先輩と氷怜先輩が同意する。
「オレも~」
「一教科15分もいらねぇよ」
「…………時間余ったからってこの部屋に逃げ込むな!」
「時間を有意義に使ってるだけだ」
おれ、実はびっくりしていた。
瑠衣先輩が廊下に来た時からだけどぴよちゃんに対してポンポン話しているからだ。先輩達ってチームの人以外とあんまり話さない。壁を作るというか興味もあまりなさそう。でもぴよちゃんにはそれもないし、なんなら会話を楽しんでいる。
「昔はあんなに可愛かったのになぁ」
「いつの話してるの、年寄りくさいよ」
「昔?」
なんでぴよちゃんが昔を知ってるの?秋も優も疑問符が頭の上に浮いた。氷怜先輩の手がおれの頭に乗ると逆の手ぴよちゃんを指す。
「こいつ、俺らの家庭教師だったんだよ」
「それはもう伝説級のお人ですよ」
事情通な顔の赤羽さんがそう言うと真実味が増すのが不思議だ。
「ぴよちゃんってすごい人だったんだ……」
「教えたのは主に喧嘩だけどな」
「え?!」
「おい、忘れてんなよ。ちゃんと教養まで教えたわ……」
色んな新情報が入ってきたせいで頭がパンク。家庭教師って家庭教師だよね。と訳の分からない事を考えるおれと違って優が冷静に話す。
「たしかに運動神経も良いし頭もいいし……名門大学だよねぴよちゃん」
知らなかった。ぴよちゃんマルチな人だな。
しかも二枚目俳優って感じでカッコいいけど親しみやすいのだ。茶色の目に黒髪をオールアップ。白シャツに黒のパンツとシンプルだがそれがよく似合ってる。
「でもな、今はこんなお堅い事言ってるけど、昔は相当やってんぞ」
「……覚えてないな」
書類を取り出して書き始めたぴよちゃん。あからさまに覚えてそうなのに、そんなみえみえの嘘つかなくても良いじゃんか。
そんなことはお構いなしに瑠衣先輩がソファに肘を置くと牙を見せてぴよちゃんに笑った。
「たまには相手して欲しいんだけどー」
「しないね……生徒と喧嘩なんてご法度だろ……」
1つ感じたこと、ぴよちゃんと氷怜先輩少し似てる。顔立ちとかは全く違うけど話し方だったりはっきりしてるところとか。喧嘩も教えてくれたというのなら相当懐いた筈。そう思うと氷怜先輩という人物を構成した重要な人物のひとりという事になる。
それはちょっと良い事を知った、思わず見つめた氷怜先輩の横顔がふいにこちらを向く。
ん?と甘く微笑まれてはとろけるのに時間はいらない。
「にしてもお前らいつのまに仲良くなった?また派手同士が集まったな……」
「桃花と先輩達はたしかに派手だよねぇ」
そう言ったのに誰も返事をくれない。
桃花は困った顔で、赤羽さんはいつもの笑みで。瑠衣先輩はニンマリと。
「……いや、お前らもだよ」
「え?」
お前らに含まれる秋と優が一斉におれを見るから話が複雑だ。すぐおれのせいになるんだから。
「おれ派手じゃないってばー」
「……高瀬は頭に花咲いてるから仕方ないけどな、野島と坂下は高瀬のせいって事にして事実から逃げるなよ。そう言うとこあるぜお前ら」
「ぴよちゃんよく見てるう」
「でも唯のせいな部分はある」
してやられたって顔の秋と不満げな優。
おれは感動していた。
「あ、これ初めておれフォローされたよね……?ぴよちゃんわかってる……!」
そうだよ、事実がどうで何が派手かは知らないけど、2人はおれのせいにしすぎよ。ちょっと反省しなさい。
おれは喜んでいたけど、なぜか呆れられ話しはすぐに次に移る。
「それに誠司も転校したばっかなのに、あほの世話までして……」
「俺はもともと氷怜さん達とは知り合いでしたので、それに唯斗さん達には癒されてますよ」
桃花がぴよちゃんにも紅茶を差し出すと愛想のいい笑顔で綺麗に笑った。きれいな黒髪も品行方正な身振りも相まった桃花の眩しさに涙目のぴよちゃんが嘆く。
「ああ……全員お前みたいに良い子ならなぁ」
「俺もあまり良いものとは言えないです」
「謙遜すんなよ、別に思春期のイライラで他人に当たるくらいなら全然良いんだよ。お前優しそうだしな溜め込むもんもあるだろ」
「当たるというか……」
曖昧に誤魔化す桃花の代わりにおれが胸を張って教えてあげた。なんたって師匠なので付き人の良さはおれが教えてあげねば。
「ぴよちゃんぴよちゃん。優しいだけじゃなくて桃花はチームのトップだったし人徳もあるし、しかも超強いんだよ」
「ああ、言わない方が……」
「え?」
ごんと音がして机に顔を突っ伏したぴよちゃんが唸る。書類ぐちゃぐちゃだけど大丈夫?
「なんでこう俺の周りは平凡からかけ離れてんだ……」
「なんで?おれがいるじゃんか、ぴよちゃん」
ぴよちゃんどころか、全員に視線をそらされた。
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