sweet!!

仔犬

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secret!

5

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「申し訳ありません。急遽このような形になってしまって」

「いや……」

馬鹿丁寧な敬語に少し驚いた。それでも落ち着いた声に弱さなんて感じない、画面越しだと言うのに久しぶりに緊張の感覚を味わっている自分に氷怜は笑った。

シェアハウスのプロジェクターに写っているのはsound onlyの文字。こちらとしては顔を隠す意味はないので向こうには氷怜ひさと達の顔が見えている。

「主人が海外へ行くと言うので同行させて頂きました。南の島なんですよ、相変わらず行動が読めなくて俺たちとしても想定外で」

「主人?」

質問するがなにも話す気は無さそうだ。ただ氷怜の言葉を肯定すると思い出したように話し出す。

「ああ、ご存知かと思い挨拶が遅れてしまいましたが俺はRitterの清です。それから……」

「涼だ」

全く雰囲気の異なる声が聞こえてきた。凛とした声にドアの音。今入ってきたのだろう。

「涼、皆さんは?」

「お2人が食べたがっていたケーキがあった」

「ああそれなら時間はまだありますね」

布が擦れるような音、そして数秒後に話し出したのは涼と名乗る男だった。

「画面越しでも派手だな……ああモデルもいたか」

「オレ……」

1人がけのソファに氷怜が座り、その背もたれに寄りかかる瑠衣が手をあげる。珍しく警戒するように静かだ。

「向いてそうだ」

「……ドウモ?」

突然褒められた。
いまいちリズムが掴めない相手から小さく笑い声が聞こえた。

「そんな硬くなるなよ、喧嘩しようなんて思ってもいないぜ俺らは。最初に言った通り、拡大にはもう興味がないんでね。それからお前らの事気に入ってるんだよこれでも」

「気に入るも何も、あれ以来……」

氷怜のソファの肘掛に軽く座り、暮刃が怪訝そうに言う。一度きりの出会い、それも一瞬だ。何が見えるというのか。

「情報は入りますからね」

「そう言うがそちらは随分と隠し切ってるようだけど…今更顔すら出さないのは何の意味が?」

「暮刃……」

柔らかい話し方の暮刃にしては攻撃的だった。

「……顔?」

「ああ」

突然、画面が切り替わりその景色を鮮明に映し出した。
人の顔が派手という割に相手も随分と派手だ。歳は氷怜達より少し上に見える。
清と名乗った男はパッと見では瑠衣に近い見た目だ。明るいブロンドの髪に、瑠衣よりも青が強い瞳、美しく整いすぎたその顔は一定して微笑んでいる。

「これ写ってるか?」

「ああ……」

覗き込んだ涼は黒髪に黒の瞳。つり目気味のその目は自信たっぷりに輝いている。綺麗な口元に人受けの良い笑顔。

どちらも困ったことに氷怜のひとを見る目に好印象だと判断させる。こう言う勘は外れない。

「……正直あの時は自分に絶望したけどな、始まってもいない試合に負けたと確信する感覚だった」

「過去です。今はわからないのでは?」

「まあ、そう思う」

「素直だな」

答えた氷怜に涼が軽やかに笑った。容姿だけなら赤羽と通じるものがあるが、あの捻じ曲がった性格を綺麗に取り除いたようで思わず口角が上がる。

「俺らが情報を隠してるのは色々理由はあるけど、可愛いもんだぜ。敬愛する人に迷惑が掛からないため、だ」
 
「は」

人間離れした存在からまさかそんな話を聞くとは。暮刃に視線を向けると同じく信じられないという顔。あの日の印象と今では全く違う。

「お前らにも生き方を変えるほど捧げたい人間がいるんじゃないのか?」

「いるのが解って聞いてる顔に見えるな……」

涼は歯を見せて笑った。
印象は変わっても何でも知っているような顔でジョークすら混ぜながら話す様子は、嫌な感じはしないが格の違いを見せつけられているようで落ち着かない。

「それが真実かは知らない。でもまあ、その顔を見るに居るらしいな」

「おや、それは良い事ですね」

「……この話を続けるなら直接にしろ。本題を話してくれ」

「おやおや」

話を逸らした氷怜に清はくすりと笑う。子供扱いのつもりは無いのだろうがそう感じてしまうのはこの手の話だからなのか、とにかく修正しようと氷怜は続ける。

「わざわざ話を持ちかけた理由はなんだ?」

「根城を変えようかと」

だから何なのだと暮刃と氷怜は目線を合わせた。瑠衣はすぐにそれを口にだす。

「ダカラー……?」

「実は元より持っているお店が少し手狭になりまして。そこで探していたのですが良い場所がなくて……ただちょうど希望の土地に希望の建物を建てた人間がいました。今回あなた達にけしかけているそのクラブです」

「しかも前に俺たちにもけしかけてきてんだわ。そんで追い払ったら次のターゲットがお前らだった訳」

「だとしても、そんな事で……?」


そんなことで俺たちにコンタクトを取ってきたのか、包み隠すこともやめた氷怜に画面の2人は笑うだけだ。

「まあ、1番の理由はその場所ちょうど俺らのエリアと被ってるし、お前らは乗り込もうとしてるし、これ以上エリアの拡大はしないと言った手前タイミング的にな」

「ああ……別に構わない。俺らも元々抗争があるから出向いてただけで、エリアは結果としての今の現状だ」

「そうか」


あまりにもいい笑顔で返されるので、どうにも調子が狂う。氷怜はだんだんと力が抜けているのがわかった。この手のタイプを気に入ってしまうのは、暮刃も瑠衣も同じだった。

「でもたまには外部のコンタクトも良いもんだな」

「人間的に話したいと思う機会は少ないですからね」


それは同感だった。氷怜達もチームや唯斗達以外では話したい人物なんて多くない。どうでもいい人間がほとんどである。

「……そんな気まぐれ屋なら、オレ達と試合してくれても良いけど?」

「おい瑠衣」


調子を取り戻したのか瑠衣が緩いトーンで遊び始める。氷怜が見上げた瑠衣の目にはギラギラと輝くものがあった。こうなると手遅れだと、氷怜はため息をつく。

「ひーだって、気になるデショ?」

にっと笑った瑠衣はお見通しだと言いたげだ。事実そうなのだがまとめ役としては1度止めるのが義務。 

どうせ断られるだろう。
予想をつけた氷怜に画面の涼が足を組み、清は微笑んだ。

「試合にしてしまっては周りがうるさいですから、飲み会ついでの催し物で考えておきましょう」

黙っていた暮刃が声を上げる。

「……まさか、良いの?」

「南の島は良いものですから」

「は?」

「機嫌が良いってことだよ」

清の言葉に、ははっと軽やかに涼が笑う。未だ掴めないリズムが氷怜をついに呆れさせた。ため息の後、話し出す。

「俺たちは今日即効で向こうを潰す。あとは好きにしてくれ」

「予想以上に急いでいたのですね、それは失礼しました。ではそろそろ……」

今まで静かだった音が突然声を拾い出す。男女の声、主に女性2人の掛け合いに清と涼が固まる。


「2人とも?」


その声が聞こえた瞬間、尻尾が見えたような気がした。いやあまりにも早いスピードで立ち上がった2人がドアの向こうの誰かに駆け寄った様が犬のように見えた、というのが正しい。
そして数秒後、清が微笑んで画面に戻ってくると足早に話す。

「失礼、我々もこれから予定がありますので」

「この回線なら連絡が取れるからどこかのタイミングでかけるわ。ああ、クラブは見苦しい男のプライドで出来たようなもんだからお前らだったら楽勝だろ」

「では、御武運を」


画面にすらも映らない涼が声だけで話し、誰かと会話すると部屋から出て行く音がした。清も一言告げて一方的に通信が途切れ、画面は真っ暗になる。こんなに乱されるのは珍しいことで氷怜は思わず2人に振り返る。

「こんな奴らだったか……?」

「……主人とやらが変えたんじゃないの」

「オレは試合できるなら何でも良いよー」

「まったく……赤羽、見てた?」

「はい」

プロジェクターが違う画面を映し出した。赤羽が微笑んでいる様子に氷怜は思わず吹き出す。


「同じ黒目黒髪、さわやかなツラでもお前とは真逆だったよ」

「そうですか?色気は良い勝負だと思いますが」

「色気の話なんてしてねぇよ……出るぞ」


今日の予定は全て早急に。Ritterには直接会いたかったが、向かう手間が省けたのである意味助かった。外の車に向かいながら氷怜は携帯の通知に気付く。

相手は胡蝶、送られてきたのは写真一枚と一言。
一瞬動きを止めた氷怜の手元を覗き込んだ暮刃と瑠衣が吹き出すのを堪え肩を震わせた。

静かに、這い出るような低い声で氷怜が言う。


「……瑠衣、今日は好きなだけ暴れろ」

「ぶふっ……ワーイ」

「じゃあ俺は早く交渉終わらせるね」


開けたドアの前には赤羽が車から微笑んでいる。外は冷たい風が吹いて耳に当たり、晴天なのに嵐が始まる音がした。




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