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しおりを挟む「本当に初心者なのか……?」
唖然とする編集長が撮影後に俺たちに駆け寄ってきた。初心者かと言われれば当たり前のように一般人なのでこんな撮影は初めてだ。それでも近い体験が思い当たり唯が人差し指を顎に当てる。
「スナップとかその辺でカシャっとしてもらったくらいなら?」
「何だよー!文句まだあんの?」
「いや、ない……」
唯に抱きつく柚さんがむくれたように言うけど編集長さんはもう怖い顔じゃなくて、どちらかと言えば豆鉄砲を喰らったようなその表情にこの人には納得してもらえたのだと確信する。柚さんがまたカメラを構えて上機嫌に話し出した。
「末恐ろしいやつらー指止まんなくて疲れたんだけど!」
「え、てことはいい感じ?!やったー!」
バンザイする唯に釣られて俺も秋も両手を上げる。
「楽しかったね」
「流石優な」
秋にまで褒められたらニヤけてもいいよね。
それにkeinoの服の力もあるけど少しでも関われてしかも褒められたら舞い上がりもする。そんな俺たちの腕がいっぺんに上に引っ張られ上を向けば犯人の編集長が荒い鼻息。
「本格的にモデル、やらないか?!」
「え?」
バンザイのまま釣り上げられた魚のように話を聞いていれば本気でそう言っているらしい。そんなに良かったのだろうか、楽しんでいるうちに終わってしまったから客観的になんて分からないけどここまで熱く褒められて悪い気はしない。だけどもそれはそれ、これはこれ。
「柚に全部撮らせるから緊張しなくていい、文句も言わない、好きな服も着ていい!あ、いや着て欲しい物があれば頼むこともあるかもしれないしけど……見た目3人ともジャンルが違うのも良いし、次いで色気もあるしどこか派手さもあってさすがだよ柚!」
「まーなー!」
得意げな柚さんは相変わらずの自信。
その光景は穏やかだけど勝手に話が進んでしまいそうだ。
「いやでも俺たちそんなあれじゃ」
秋が言い返しても編集長さんは聞いちゃいない。ググッと近寄った迫真の顔はこういう熱意があるから編集長なのだと納得する。
「アルバイト感覚でいいから!ね?!」
ねって言われてもアルバイトはすでに大満足の春さんのカフェ。やっぱりまだまだあそこで働いていたい。それにこれ以上先輩達との時間を減らすのは避けたいところで、唯も秋も苦笑いだ。
「うーん」
「もったいないよ、こんなに魅力があるのに!」
この手のお話は食い下がってはくれなさそうだから上等文句のこれで。
「考えておきます」
そう笑えば固まる編集長。何故か少し目を泳がせ、仕方なさそうに、でも諦めきれない表情で身を引いた。うん、やっぱりこういうときの笑顔は万能。
秋が横で営業スマイルとボソッと呟いたの聞こえてるから。良いでしょ、嘘も何も言ってないし本当にやりたくなるかもしれないし。
さすが雑誌に出ているだけあってトレンドを上手く取り入れた着こなし、よくよく顔を見てみれば目尻にしわ。普段はよく笑うのかもしれない編集長に緩やかに腕を下され、最後に小さな紙切れを差し出した。
「俺の名刺だ。いつでも連絡してく」
「ありえない!」
バン!と響いた音にその場の全員が振り向くと、よく響くスタジオの扉の前でいかにもご立腹の美少年。だけどこの人よりその後ろから次いで入ってきた男に一瞬にして俺の眉が釣り上がった。
「なんだ、お前もいたのか。今日も気が強い目つきしてんなぁ」
「あー!!」
代わりに唯が叫び声を上げ榊李恩と美少年を交互に見て最後に俺に視線を向ける。柚さんは不思議そうにしながらカメラを向けこんな時までカメラマン精神は忘れていない。
「誰?」
「噂のあの……」
唯が説明しようとした時入り口から式と桃花もスタジオに走りこんできた。桃花に支えられ、式がお腹を押さえながら榊李恩に叫ぶ。
「待てって言ってんだろ榊李恩!」
「あーーこいつか!へーー!」
柚さんとしては真新しい人間の登場に少し面白味があるらしい。大きく反応した唯と俺を撮ってニヤリと笑う。同じく笑った榊李恩は追ってきた式と桃花にむけて話す。
「しつけぇなあ本当、こいつらに過保護過ぎじゃねえか?」
「ちょっと編集長!この服って事は同じ雑誌に載る訳?素人を?!ありえない、無理なんだけど」
「れ、麗央……?」
びしっと綺麗に指を刺されてしまった唯は苦笑いで自分を指差した。俺は俺でじりじりと赤羽さんの後ろに隠れる。式が赤羽さんの横に付き、桃花は秋と唯のもとに駆け寄った。
赤羽さんが微笑む。
「式くん、お腹大丈夫ですか」
「大したことないです」
ぶっきらぼうな式の返事に何か含まれているような気がするのは気のせいだろうか。いや、赤羽さんの事だから式と桃花を連れてきたのはこの人たちマークさせるためだったのかもしれない。
「どうしたんだ、いきなり」
「そりゃ不機嫌にもなるよ。よりにもよって……」
編集長は麗央さんと呼ばれた人のご機嫌を必死に取り始めた。
色んな話が混ざり合って一気に騒がしくなったスタジオでやはり彼だけがいつも通りの笑顔だ。
「さて、今のうちに帰りましょうか」
赤羽さんに引っ張られる形でドアに向かっていく。しかし、やはりあの男に腕を掴まれてしまった。嫌味ったらしいあの笑顔で痛いくらい強く引っ張られる。
「ツれねぇな、キスまでした仲じゃねぇかよ優夜」
いつのまにか名前で呼ばれている事も気になるが俺としてはもう関わりたくはない。煽りには食いつかずゆっくりと腕を外しほのかに微笑んで赤羽さんに目配せをする。どうにかして穏便にここから出なければと思ったら今度は隣の美少年が食ってかかる。
「そうだよ何勝手に帰ろうとしてるわけ高瀬唯斗!まさかモデルまでやるなんて……本当に無理!」
「え?!ご、ごめんなさい!」
ついに名指しされてしまい唯が姿勢を正した。ニヤリと笑った榊李恩のこれは俺のせいじゃ無いと得意げな表情に少しカチン。
「……助けて頂いたのは本当ありがとうございました。でも、キスなんて配慮に欠けることしたんだから帳消しですよ」
「優、食いつくなって……」
式があーあとため息をつく。
だいたい余計に拗れたのはこの人のせいでもある。ってそもそも自分が酔ったのがいけないんだけど、今くらいは置いておこう。不機嫌な俺に蛇のような目が三日月に笑った。
「なんだ、喧嘩でもしたのか」
「関係ないです……」
分かりやすい自分が悔しくて掴んでいた赤羽さんの腕に力が入ってしまうと式がこちらも見ずにおれの頭を撫でる。お腹痛いだろうに相変わらず優しい。
「王子が居なくてもこんなに番犬までつけて、可愛がられてんだなあお前ら」
だから、守られてるから今こうして行動してるわけなのに、といちいち突っかかりそうだ。何とか堪えて唯の名前を呼ぶ。唯にしては珍しくどう対処すべきか悩んでいるようだし。
「唯、行かないと」
「待った」
赤羽さんの腕を掴んでいたのにまた榊李恩に引っ張られる。驚いて腕を引いたところで力敵わず、嫌な笑顔と目が顔に近づくと身体が強張った。あの日をもう一度繰り返すわけにはいかないのに、どうやっても圧倒的な力から逃げることができない。
これからなのに。
やっと対等になる筈なのに。
悔しくてせめて首を背けて目を瞑る。でも腕に衝撃が来た以降何もこなくて、ゆっくり目を開けると榊李恩が少し焦った顔で腕で防御の姿勢を取っていた。
「あっ……ぶねえなぁ」
「流石に俺の前で、それはさせませんよ」
何をしたのか、赤羽さんの変わらない笑顔がこれほど頼もしいものはない。
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