sweet!!

仔犬

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rival!

10

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「ありえない」


突き刺さる視線、でもおれはめげない。
式は式で麗央さんよりも榊さんに敵意剥き出しだけど、榊さん本人は眠そうに欠伸をしている。


「ちょっと、編集長。俺断りましたよねこの撮影。しかも、またコイツがいるし」

こいつとはもちろんおれのこと。
編集長が電話をして麗央さんを呼び出してから数分で彼はこのスタジオに顔を出した。他の階で既に撮影を終えたらしく、おれを見て、スタジオをみて、心底嫌そうに腕を組む。

編集長は手を合わせ麗央さんをなんとか説得しようと試みる。

「麗央、頼む。もう誰もいないんだよ」

「そこのカメラマンも俺じゃないって顔してますけど」

指を刺された柚さんはおれの肩を掴んで麗央さんの前に押し出す。

「まー、そーなんだけど、唯があんたが良いって」

こうなる事はもう分かり切っていたから当たって砕けてみよう。
今日も美しさと可愛さを兼ねそろえた完璧なお顔で麗央さんが腰に手を当てて睨んでいる。

「おれ、この撮影には麗央さんが合うと思うんです」

「……素人のあんたがどう思ってるかは知らないけど、この企画に俺は向いてないよ」

「キッツイお姫様にこんなふわふわスタジオじゃあなぁ」

「李恩!うるさい!」


言い合いが始まると榊さんははいはい黙りますよ、とあの日のように壁側に行ってしまった。
麗央さんはため息を吐きながらカツカツと歩き、さっきまでおれがメイクしていたテーブルに向かうと、ミュープリのアイシャドウとチークを拾い上げ色を見せるように顔の前まで持っていく。

「李恩に言われるのは癪だけど、このメイクの色は確かに俺に似合わない、引き立て役どころかマイナスだよ。そんなの俺自身がよくわかってるのに、それでもやれなんていっそ失礼じゃない?……いくらそいつの前の企画の出来がよくてもわがまま聞き過ぎじゃないの」

おれだけじゃなく、編集長も柚さんも睨む麗央さんに柚さんが楽しそうに言う。彼は相手の感情に左右されないところが無敵だ。

「いやむしろ今回は……ん?今回も?俺が引っ張ってきただけ!それに、これ見てもそんな事言える?」

前に押し出されたまま今度は顔を掴まれ差し出される。麗央さんの方が当然背が高いからおれを見下ろす形になるが、目は不機嫌そのもので余計に威圧感がある。
優の不機嫌が凍って静かに固まるような感じなら、麗央さんの不機嫌はザクザク刺してくるような刺激だ。


「どれ……」

「このメイク、どーよ?」


ほっぺを掴まれたらあひる口になっちゃってあほっぽくなるでしょ柚さん。
まあこれならアイメイクはよく見えるかな。今回のミュープリ、いつもよりもかなり激甘なのだ。ラメもきらきら、とにかくピンク、アイシャドウで甘くないと言えば発色の良いオレンジが入っているくらいだろうか。当然アイシャドウは見るからに推し色のピンクを使って淡い色でぼかし、ラメを涙袋に持ってくる。
今にも泣きそうなうるうるの目を演出だ。

マスカラも黒じゃなくてバーガンディとブラウンの二色が今回作られた色だった。二色とも使って目尻側をバーガンディで引き締める。丸い目をさらに印象的にするために真ん中を長めに塗ってみた。今はアヒル口だけど唇だってピンクでぷるぷるだ。

麗央さんはおれを数秒見つめて、いやほぼ睨んでるけど、さらに嫌そうな顔をした。

「いつもより顔が可愛くてムカつく」

「あーそう……」

柚さんが作戦失敗か……?とぼやいていると麗央さんの話は終わっていなかったらしい。さっきまでの不機嫌さは一瞬にして無くなって観察するように言う。

「……今回のメイクって前回と同じ担当?上手いね、雰囲気もよく捉えてるし丁寧。何より一貫して良いものをより良くしてみせる技術がすごい」

「……へえ?」

柚さんは何やらニヤリと笑っているがおれはといえば嬉しくてそれどころではない。麗央さんが美容にどれだけ気を遣っているか、そしてその知識を持っているか、アゲハさんからも聞いているし雑誌を読んだだけでもすぐにわかる。

やっぱり、麗央さん大好きだ。

ああ、麗央さんにメイクしたい。褒められたメイクで麗央さんには麗央さんの良さをすべて引き上げるようなメイクをしたい。

そう思っているとちょうどカノンちゃんが紙コップを両手に挟んで戻ってきた。良かった、あったかい飲み物貰えたんだな。

そんな彼女はおれを最初に見つけると駆け寄ってきた。

「そのメイク可愛い~、私もそんな感じにしてもらいたいなぁ。メイクさん、誰だった?」

「えっと、自分で」

「え、これ君がやったの?すごい……!!」


片手で頰を撫でられまじまじと見られる。その可愛い顔は眩しいが、やっぱり少し顔色が悪い気がする。心配をよそに麗央さんはおれを見ながら少し驚いた表情をしていた。

「前の撮影、ヘアもメイクも唯がやってる」

柚さんの一言が最後の一手となったのか麗央さんはメイク道具の前に静かに座るとおれをじっと見た。初めての睨んでいない表情を向けられてなんだかそわそわしてしまう。

「……俺は自分で見たものを信じるから、前の撮影の出来も口を挟むところは無かった」

「そ、それって」

「早くメイクして」

ふん、と鼻を鳴らして麗央さんがそう言うのでおれはもう嬉しくて彼に飛びついた。当然べりっと剥がされたけどもうなんだか堪らない気持ちだった。





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