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rival!!
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しおりを挟む「朝だぜ、姫さん」
朝は嫌いだ。
李恩が開けたカーテンにより眩しい光が部屋に差し込んだ。真っ青な空には雲ひとつない。
似合わない、似合わないものは嫌いだ。乗り越えないといけないから。麗央が空を睨むと李恩が鼻を鳴らし笑う。
「目つき悪いな、朝は相変わらず」
「お前にだけは言われたくない」
天蓋のついた大きなベッドでゆっくりと起き上がった麗央は時計に視線を移す。起こせと言った通りの時間ちょうど、口も悪ければ手癖も悪い、なのに仕事だけはきっちりこなす。ボディーガードを頼んでから、存外器用になんでもこなすので麗央は自分の身の回りの事も李恩にやらせていた。その分賃金は発生するがお金には生まれてこの方困った事がないので問題はない。
黒のニットに身を包む李恩が髪をかきあげる。腕に傷を見つけたがこの前チームの人間の相手をしていた時についたものだった。口ではとやかく言うがよく全うしていると麗央は思う。そしてふと、気になった。
「ねえ……なんで前、高瀬唯斗たちを攫ったりしたの」
「……どうでもいいだろ。それに、意味なんかねえよ」
李恩の心底嫌そうな瞳、分かりにくい事をするわりに目が素直で麗央には丸わかりだった。
意味のないことはしないのだ。この男は。
全てを飲み込んで麗央はそうとだけ答える。
「飯、出来てる。あんたの高え高え美意識のせいで毎日食材選びが肩凝るわ」
あー疲れたと言いながら肩を回すと李恩はそのまま部屋を出て行ってしまう。
麗央は着ていた白いシャツを脱ぎ、ウォークインクローゼットに向かう。今日は李恩が氷怜たちに呼ばれている、だから麗央もクラブに行く。氷怜に会う今日は何を着ようか、何を着るべきか。しばらく考えても何百とある服から答えが一枚も見当たらない。
奥に仕舞われていた一枚の白い服。
少し甘いテイストのそれは麗央がまだ一度も着たことのないものだった。どちらかと言えば、納得がいかず着れないのだ。
「……昨日の俺なら、今日はこれを着てたかも」
唯が施したメイクは生まれ変わったような気分になれた。一瞬の魔法で理想としていた顔がそこにあった。あとはもう少し体の線が柔らかければ。
「ないものねだりばっかり」
届きそうで届かない位置が1番辛い。
憧れのままでいるべきだったのだ。でも醜い嫉妬心と諦め切れないちんけな恋心が足掻いている。
結局考えるのはやめて1番人に褒められる骨格に合った服を選ぶ。これが最善だ。納得がいく、変に迷ってあとで後悔しないために。
クローゼットの奥、大きな全身鏡に自分が写った。
美しいと評価されるこの姿。
「可愛くない……」
「遅え。あと、暗え」
いつのまにか入り口に立っていた李恩が不機嫌に腕を組んでいる。飯が冷めると言いたいらしい。そして麗央は次に来そうな嫌味に備える。朝から暗い人間を見ると飯が不味くなる、とか。
ただし、案外アドバイスが来ることもある。
「勿体ねぇなぁ。適当に愛想笑いの一つでもしとけばいいだろ」
「……うるさい、氷怜さんに愛想笑いなんかしたって相手にされないでしょ」
「仏頂面してるよりは良いんじゃねぇか。ま、それも似合わねぇか」
結局きた嫌味に麗央はため息をつく。毎回突っかかっていたら夕方には体力がなくなりそうだからだ。でもひとつくらい言い返しておくのも良いかもしれない。なんだか朝から服で悩んでいたこともバカらしくなってきた麗央は鼻で笑う。
「李恩も意地張ってないで、初恋の相手に会ってきたら」
ぶちっと聞こえそうなほど青筋が入る李恩の額。予想通りの反応が面白くて吹き出してしまった。
「今日もご飯ありがとう」
突然のお礼に李恩は目を瞬かせ、唸り、なんとも言えない顔でそうかよと言い残しまた部屋を出ていく。
麗央はもう一度鏡を見た。姿勢を正して、寸分の狂いもなく綺麗に微笑む。生活に無駄を無くし、自分を最高の姿を保つ。それがつながるのだ。
可愛いものは好きだ。アゲハもアゲハのドレスの趣味も共感でしかない。たとえ唯斗であろうと例外ではない。
あの嘘偽りのない花ような笑顔、丸い瞳、小さな唇。体のラインすら理想通り。少し高いが柔らかい声、それでいて男なのだ。
だから全てが許せなかった。自分が、あの時の自分が。
それを許せる時がくれば良いと、自分を許せる時がくれば良いと。
それまでは意地を張らせてもらう。足掻かせてもらう。
「今日も意地悪でごめん」
まだ、嫌いでいさせてくれ。
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