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rival!!!
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しおりを挟む「リ・オンソ……?」
「あ?」
思った通り椎名はあっという間にみんなと仲良くなっていく。椎名の話し方って歳の差を感じさせないしなんならおれたちと同い年のノリが通用する。そのおかげでミーハーな椎名はチームの人たちと聞いても、普通の人なら驚くような話も楽しそうに聞いていた。溶け込むのが早いっておれでも感動する。
そのまま嬉しそうにおれのところまでくるとキャッキャと話だした。
「みんな良い子~、唯斗恵まれてるのね~ママチーム入りたいくらい!」
「えええ」
それは息子として止めた方が良いのだろうか。
悩みながらも李恩の隣のカウンター席を引いて椎名を座らせる。
「あ、でもチームにサクラさんって言う超絶美人さんがいてね!椎名と絶対に気が合うよ」
「え?!絶対会いたい!!」
輝く椎名の目。
椎名の方がサクラ姉さんよりも年上だと思うけど、こんな感じなのでお姉さん感はサクラ姉さんの方がある。でも、春さんに微笑む母さんが少し違った雰囲気を見せた。
「春さん、こんばんは」
「いらっしゃいませ」
微笑む2人はなんだか落ち着いていて、これはもう確実なのではないだろうかと口走りそう。でもまだ2人が何も言わないと言うことはそう言うことなのかもしれない。気づかないふりをなんとか保って李恩さんと麗央さんを紹介していく。
なんとも言えない引き攣った顔の李恩と可愛く微笑んだ麗央さん。
「2人とも、こちら母の椎名です。椎名、こちらは麗央さんと李恩だよ」
「初めまして、椎名で……可愛いわ……!しかも、あなた!!!」
かっと開いた目が麗央さんを捉えて、しかも李恩を目にすると立ち上がった。おれも追えない速さで李恩の顔をぎゅっと両手で包んだ椎名、春さんも予想外の行動にカップを掴んだまま固まっている。一番目を点にして驚いているのは手で顔を挟まれている李恩だ。
「え?!椎名?!」
「そ、そっくり……!」
「へ?!」
誰に?
「リ・オンソよ……!」
「……ん?」
なにそれ、李恩の親戚か。
首をかしげたおれに母さんの目がキラッと光るとおれそっくりな顔で力説が始まった。
「リ・オンソは秋ちゃんママと優ちゃんママと一緒に見てる先週始まったばかりの韓ドラに出てくる新人俳優なの!それが最初はもう冷たい役なんだけど、本当は素直になれないだけの愛おしい役でもう第一話から号泣で」
「わーーわーー、椎名!わかったから離してあげて李恩!」
もう何が何だか分からず固まる李恩、そしてその後ろで今にも呼吸困難で死にそうな麗央さんがテーブルに伏せている。もちろん、爆笑しているせいで。
「……ぶふっ、り、おん、そ……っあはは……ふっはは……」
泣いてる、麗央さん笑いすぎて泣いてる。ヒビキさんの家でも笑ってたけど今はそれ以上だ。椎名凄い、やっぱりおれの母親凄いって、あの麗央さんがこんなにツボってる。
「は!ごめんね!あまりにもそっくりだったから」
両手を合わせて謝る椎名。
ママさん世代の話題ってたしかにカフェでもドラマにハマってるとは聞くが自分の母親もそうだったとは知らなかった。もともとミーハーというか最新の話題に目がない、おれが美容に目がないのとそっくりだからその熱量は分からなくはないけど。
「良かったねぇ、李恩」
穏やかに笑う春さん、と思ったけどおれは見逃さなかった。あの春さんまで口元を手で隠して笑いを堪えている。しかも直視できないのか視線は横を向いたままだ。
「本当にそっくりでカッコいいからびっくりしちゃった!それに……やっぱり優しそう」
ようやく落ち着いたのか、すとんと椅子に腰を下ろした椎名は李恩を見て微笑む。おれも今なら椎名が彼のことを優しいと言うのに賛同だ。なんだかんだ人を見ているし、自分が決めたことはきっちり守る。
「……そんな事は、無いな」
椎名の言葉にはっとしたように反応した李恩は自嘲気味に笑った。
「優しくねぇよ、あんたの息子にはそれなりな事してる」
「え?」
なんでわざわざそんなことを教えるのか。おれは別にもうそんな事良かったんだけど李恩は気にしていたのかもしれない。椎名は少し驚いた顔をしておれを見る。
「何も無かったよ」
「おい、別に隠す必要は……」
笑って返したおれに李恩が眉を釣り上げた。でも別に彼自身が企てた事だとしても、傷つけられたわけでもなかった。あの誘拐だってお金が絡んだとは言え第三者が行動しなければ成り立たない。あ、でも優にキスしたのはまた別として。
なんというか、彼くらいの力があるなら簡単に出来る事をしないし、それに確実な悪意とも言えない彼の行動。
なんと説明していいか分からず悩むがおれが答える前に椎名が話し出した。
「私は唯斗の事、一番近くで見てるつもりなの。ちっちゃい頃からずっとね、どんな人の隣にいるのかもなんとなく想像出来るわ。今日だって、やっぱりみんな良い子で母親としては鼻が高いくらい」
おれを見て椎名が微笑んだ。
「そしてね李恩くん、あなたが唯斗の隣にいるのもなんだか想像がつくの」
微笑む椎名を前に李恩の鋭い目つきが少し泳いだ。椎名の言っていることがよく分からない感情なのか、伺うように問う。
「……だからって、それだけで信じるのか?」
おれが椎名の事を親として尊敬するだけじゃなくて、人としても大好きなところってたくさんある。その中でもちゃんと意思を持った力強い答えを出すところだ。しかもそれが暖かくて自分もこうなろうと思えるから。
「だって、こうしてあなたの前で笑ってる唯斗を見たら私が口を出す事なんて一つもないもの」
にっこり微笑む椎名に、この人にはまだまだ敵わないと息子は思うのだ。
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