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rival!!!
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しおりを挟む椎名はそれ以上は追求もせず話し終わると満足したのか李恩に唯斗と仲良くしてねと言いながら微笑んで席を立つ。
「負けた?」
「……うっせえ」
頭をかいた李恩はバツが悪そうにしているが嫌悪というより少し気が抜けてむしろスッキリした様子。横で麗央さんに笑われても突っかかるようなことはしなかった。
「唯斗みたいな性格が育つ理由がよくわかるよね」
「そうですね、そっくり」
春さんが微笑むと麗央さんも同意だと頷く、似ている自覚はあるが他の人から見てもそうなのだと思うと嬉しいものだ。
「お前の親って感じだなあ」
「自慢の母です、えへ」
ずっと静かに料理を続けていた那加さんもおれの頭を撫でながら言うので彼も聴いていたようだ。それでもすでにサラダを完成させている。
「適当に作っちゃったんすけど、サラダ」
「すごい、助かるよ作ろうと思っていたから……唯斗、運んでくれる?」
「もちろん!」
「唯斗、俺も行く」
立ち上がった麗央さんに頷く。李恩が不思議そうな顔をしていると麗央さんが柔らかく笑った。
「李恩にだけ腹を割らせておいて雇い主の俺が何もしないのは可笑しいだろ」
李恩はこれから麗央さんが何をするのかすぐに分かったようだ。
「お前……ちったあ可愛く笑ってくることだな」
「うん」
嫌味半分に言ったつもりだったのか麗央さんがあまりに素直に微笑むので虚をつかれた李恩が固まった。
「春さん奥の席で少し話してても良いですか?」
「もちろん。どこでも使って良いんだよ」
微笑む春さんにおれはお礼を言って麗央さんと移動する。まずはドリンクとサラダを置いてテーブルセット。先に麗央さんに座って貰って氷怜先輩を呼んで……と思ったのだが首を振られてしまった。
「良いよ、俺が氷怜さんに頼むから。唯斗に先に言ったのは礼儀として断りを入れたかっただけ」
「ええ麗央さんおれにそこまで気を使わずとも……」
「別に、自分だったら言ってほしいと思っただけ」
「なるほど、じゃあ、ついて行きますね」
「それこそ良いのに……」
ふんと鼻を鳴らしてはいたけどついていっても何も言われなかったのでOkなのだろう。中央のテーブルにいる氷怜先輩の後ろまで行くと麗央さんが一歩手前で立ち止まる。やはりおれから声をかけた方がいいのだろうかと覗き込む前に麗央さんは意を決したように息を深く吸う。
「氷怜さん」
思えば、麗央さんから話しかける様子をおれは初めて見たかもしれない。氷怜先輩はゆっくりと振り返る。静かな目が麗央さんを捉えると背中越しに麗央さんの緊張がいっきに伝わってきた。
「俺に。お話しする機会をいただけないでしょうか」
おれが緊張してしまうほど、麗央さんの声が震えているように聞こえた。
周りの空気が静かになったと思うほど頭に響く声、実際には変わらずみんな騒いで楽しそうにしているのに。でも近くにいた瑠衣先輩と暮刃先輩が視線だけを一瞬おれたちに流していたので気がついてはいるようだ。
「唯斗」
「はい」
呼ばれてハッとした時にはもう氷怜先輩の目がこちらを向いている。真っ直ぐに向けられるその瞳は許可なのかもしれない。そしてやっぱりおれの答えは決まっているのでセットした席に手のひらを向けて微笑んだ。
「あちらでお話ししませんか?」
氷怜さんと話がしたい。
そんな麗央さんの願いをいったい誰が止めると言うのだろう。
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