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男の子とか女の子とか
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しおりを挟むこれは俺と優が始めて唯に出会って、仲良くなるまでのお話。
転校初日の放課後。
「あーいたいた!」
優と放課後屋上で寝っ転がっていたら突如声をかけられた。
ハーフツインにボンボンをつけたヘアスタイルで、まるで女の子のようなこの子は男の子だった。色素の薄い髪の毛に明るいくりっとした目にふわふわの髪、改めて本当に男かと疑ってしまう。名前は高瀬唯斗。
そんな彼に見事に騙された俺たちは思わず観察してしまい、1日で彼のキャラクターはなんとなくわかった。
人見知りもしなければ男女関係なくみんなと仲が良い。優は隣の席のなのに唯がいかんせんよく声をかけられる人気者なため、それ以降話すタイミングを逃すほどだ。
しかも女子の方が唯に話しかけることが多く、止まらないおしゃべりと楽しげな笑いで空気を盛り上げる。唯も女子に見えるために違和感がないしパーソナルスペースが無いに等しいほど近い。
そんな観察をしながらもほかの優しいクラスメートが話しかけてくれたが、適度な会話で急激に仲良くなれるわけもない。
とりあえず放課後の息抜きに出入り自由と噂の屋上に探検しに来たところだった。
「屋上良いよね」
上から覗くまん丸の目に驚いて上半身をあげる。
「高瀬じゃん」
「唯斗!それか唯ね!」
相変わらず人見知りしない彼はすぐに名前を訂正してきた。隣で寝転がっていた優がゆっくり起き上がると首を傾げる。
「それで、唯はどうしたの?」
優が名前を呼んでくれたことが嬉しかったのか、少し声が弾んだ。
「2人が屋上にいるタレコミを聞いたから」
この時の唯の印象と言えば、意外に笑うと大人っぽいものだった。まん丸の目が優しく円を描き小さな口が上品に笑う。
「なんだそれ」
「それがさ先生に言われたんだけど……2人っておれの家の隣の部屋って本当?」
首を傾げた唯に驚いた俺と優は目線を合わせた。
俺と優は最近ここに引っ越してきたばかりで同じマンションの同じ階、しかも俺の家と1つの部屋を挟んで優の家がある。
その間の家にはまだ、時間が合わず挨拶に行けていなかった。
「まさか……」
「同じクラスに隣の席、しかも同じマンション隣の部屋……ここまでくると怖いな……」
「まるっとぜんぶお隣さんだよおれら」
ちゃっらーんと効果音をつけてピースされるとやはりその顔は女の子にしか見えない。唯の目が輝いてがばっと手をあげた。
「だから、一緒に帰ろー!」
俺と優にまとめて抱きついた唯は心底嬉しそうで本当に人見知りしない。そしてやはり人に触れることに遠慮がない。
驚いたのか一呼吸置いて抱きつかれながら優が呟いた。
「いつもこうなの?」
「こうって、どう?」
抱きつかれたままなのでその顔は見えないがまた首を傾げたのか振動が伝わる。どうって……と優が迷ったので代わりに答えてみた。
「コミュニケーションスキル常時マックス?」
「なんだそれ、考えたことなかった……」
むしろ初めて考えさせてしまったのかもしれない。抱きついたまま深い思考を始めようとするので引き剥がしてその身体を立たせた。やっぱ細いな。
「まあ、とりあえず。帰るか」
「うん!」
出入り口に向かう唯の緩くカーブした髪が揺れ、それに付いていくおれと優。結ばれた髪がフラフラ揺れている。優が気になったのか声をかけた。
「……そのヘアゴムとんないの?」
「ん?だってせっかくアスカちゃんが結んでくれたから」
誰だろうアスカちゃん。唯と話していたうちの誰かなのだろうが、その人数が多すぎて特定出来ない。
別に外したらいいのに、と思いながらも似合ってるから良いのか?と珍妙な気持ちにさせられたものだ。
まだこの時は唯のフェミニストぶりの一部しか見ていないのだから少し変わったやつくらいだった。
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