おれがアレを授かりまして

石月煤子

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平凡DKのおれがアレを授かりまして

9-2

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比良は近くのストアへ買い物に出かけて行った。


「きれいだなぁ」


柚木はまだベッドに寝転がったままでいた。


比良がサイドテーブルに持ってきてくれたオレンジジュースを飲んで、またゴロン、壁一面の窓から見渡すことのできる空と海の共演に視線を向けるでもなく。


自分の左手の薬指で煌めく指輪を繁々と眺めていた。


この指輪もだけど、パジャマも、パンツまでサイズがピッタリって、よーく考えたらちょっと怖いよーな。


「よし、それは考えないでおこう」


白い天井に向かって手を伸ばす。

五指を広げ、想いの丈が込められた比良からのプレゼントを全角度から眺め回した。


この指輪もだけど。
ずっと憧れてた比良くんと旅行するなんて。
昔のおれには想像もつかなかった。


学校や人前ではパーフェクトな比良くんが、あんな、あんな尊い照れ笑いを浮かべるなんて……。


「でへへ……」


でへへなんて笑ってる場合じゃない、いい加減、そろそろ起きなきゃ。


脱ぐのがもったいないくらい着心地のいいパジャマ姿の柚木はやっとこさベッドから脱した。

階段を下り、どこもかしこも日当たりのいいリビングダイニングへ。

適当な服に着替えようと、隅っこに置かれている段ボールを覗いてみた。


「……」


複数の着替えがある中で一番上にぶりぶりが……純白エプロンが綺麗に畳んで置かれていた。


これは……着ろってこと?

うわ、広げてみれば、ぶりぶり感がもっと増すっていうか……これってフリルいくつあるんだろ?

比良くんって自分が着る服のセンスはめちゃくちゃいいのに、このパジャマも抜群なのに、なんで?


「ほんとなにこれ?」


柚木は迷った。


マンガやアニメで女の子キャラが身に着けているのを見かけたことはある。

まさか自分自身が着用する日が来ようとは未だかつて想像せず。


当然、嫌だった。
ふつうに着たくなかった。


でも。


『楽しくないか……?』


昨晩、淋しそうだった比良のことを思い出すと罪悪感が湧いてきて。

比良にあんな表情をさせて罰当たりにも程がある、そんな引け目と申し訳なさが思考を占領して。


ぎゅっと握りしめた純白エプロンを真剣な眼差しで柚木はしばし凝視した……。







「ただいま、柚木」


両手に荷物を抱えて比良はレンタルハウスへ戻ってきた。

すると。

ステンドグラスの小窓から日が差す御影石の玄関床で、某スポーツブランドの新作スニーカーを脱ぐ前に、ドタドタと駆け足で柚木がやってきた。


「おっ、おかえりっ、なさいっ、比良くんっ!」


精一杯の笑顔を浮かべて比良をお出迎えした平凡男子は断腸の思いで……純白エプロンを身に着けていた。


しかもインナーにはぱんつだけ。
いわゆる裸エプロン状態だった。


「買い物行ってきてくれてありがとうっ、ねっ!」


明るく元気いっぱいな口調を努めたつもりが、理想にキーが追い着かず、変に裏返った声。


ぶっちゃけ寒くて僅かに震えていた。
それでも強張った笑顔は絶やさず。
ちょっと傾いたポーズで茶目っ気(?)アピールしてみたりなんかして。


「……」


恐ろしく無反応でいる比良を前にして柚木はぎこちない笑顔のまま棒立ちになった。


……比良くん、フリーズしてらっしゃる?
……おれ、もしかしてやっちまった?
……実はこのエプロンって比良くんが普通にウチで愛用してるやつとか?


比良はなかなか玄関から動き出そうとしない。

よっぽど呆れられているのかと、穴があったら今すぐ入りたいと、史上最大の空回り感に柚木が昏倒しそうになっていたら。


どさッ


抱えていた荷物全てを比良は足元に未練なく落っことした。


「えっ? 比良くんどしたのっ? 玉子とか入ってないよねっ? 玉子あったら割れちゃうよっ?」


さすがにびっくりした柚木、さらに驚いた。

スニーカーを履いたまま土足で上がってきた比良に目を疑った。


「比良くんっ、靴っ、靴脱ぐの忘れちゃってるよっ?」


慌てふためく柚木の言葉を一切無視して。
比良は剥き出しの細い肩をぎゅっと掴んだ。


「肝心なこと忘れてたよ、柚木」
「へっ? 肝心なこと……?」


目をぱちくりさせている平凡男子に比良はうっとり笑いかける。


エプロンは身に着けてほしかったが。

まさか奥手な柚木が裸エプロンしてくれるとは夢にも思わず。


必殺技を繰り出すかの如くエロエロスイッチを連打されまくった比良は戸惑う柚木の顎をクイして、そっと、そっと囁いた。


「せっかくのハネムーンなんだから、こづくりしなきゃ……な?」


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