目には目をアルファにはアルファを

石月煤子

文字の大きさ
2 / 53

1-2

「そんなことがあったんだ」
「ちっちゃい声で話してたのに丸聞こえ、いきなり真横まで接近されてたし。オレ、瞬殺されちゃうかと思った」
「拓斗、また聞かれるぞ」

伊吹生に言われて、慌てた様子で拓斗は辺りを見回す。

「ッ……いや、いくらなんでも、この距離なら聞こえないでしょ」

そこは学園のカフェテリアだった。
広々としたフロアは中高の生徒で賑わっていて騒がしい。

凌貴を含めたアルファのグループは日当たりのいい窓際のソファ席を陣取っていて、壁際のテーブルで食事をとる伊吹生達とはかなり離れていた。

ルックスのいいアルファが集う中、凌貴は群を抜いていた。

眉目秀麗な見た目も当然ながら、高校生らしからぬオーラがあり、所作の一つ一つも洗練されていて特別な存在感を放っていた。

(文化祭……か)

拓斗の話を思い出して伊吹生は無意識に眉を顰める。

去年の十月の文化祭のことだった。

二十代前後と思しきアルファの来客にオメガの同級生が絡まれ、教師を呼ぶ時間も惜しく、伊吹生はすぐさま止めに入ろうとした。

『それはマナー違反です。誰かに言われないとわかりませんか?』

伊吹生よりも先に彼等を制したのは凌貴だった。
少しも尻込みせず、年上のアルファの群れを冷たげに見据えていたのを、よく覚えている――。

「――全能のアルファ様とか言われてる忽那凌貴のことだもん。どこで誰が何を話してるか、取り澄ました顔で把握してるのかもね」

伊吹生達とランチを共にしているのは中学部三年生の心春(こはる)だった。

前年度、上級生のアルファらに寄ってたかって罵倒されていたところを伊吹生が盾になって庇った、ベータ性の少女であった。

ちなみに、そのとき、心春はある人物を守っていた。
彼女の兄だ。
凌貴と関係を持ち、あっさり断ち切られて心に傷を負ったオメガの一人だった。

「私にとっては最低最悪の暴君アルファ様だけど」
「心春ちゃん、それ聞かれたらやばいよ?」
「アイツは私のことなんか眼中にない。だから、こっちの気が済むまで好き勝手に愚痴り続けてやる」

打たれ弱い兄と違い、なかなか気性の激しい心春は勇ましく言い切ってみせる。
向かい側に座る伊吹生が「アイツを敵に回すのは賢明じゃない、心春」と忠告すれば、口をへの字に曲げた。

「それ、イブキ先輩に言われたくない」
「そーだよ。あの凌貴サマに言い返せるのってイブキだけじゃん? 先生達だって、担任から学年主任までみーんな怖がってる」
「とにかくアイツを無駄に挑発しないでくれ」
「いや、イブキが一番挑発してるんだってば」
「アイツの話はもういい、食事がまずくなる」
「ほら、また」
「イブキ先輩、矛盾してる」

昼休みが終わりに近づく。
そろそろ教室に戻ろうかと、腰を上げた伊吹生と拓斗に、心春はソレを差し出した。

「いつも話聞いてもらって、お世話になってるので、どーぞ、です」

素直に頬を紅潮させている後輩に小さな紙袋を渡されて、拓斗もまた赤面していたのだが。

「ん!? イブキのとオレの、明らかにサイズ違くない!?」

明確なサイズの差に拓斗はショックを受けたようだ。

「そんなに違わないだろ」
「違うし!? ほらほら! 何ならイブキの袋にオレの袋余裕で入っちゃうし!!」
「拓斗センパイ、そんなに言うなら回収するから。今すぐ返して」

心春に呆れられた拓斗は慌ててセーターの内側にチョコレートの入った紙袋を仕舞う。

「どうもな、心春」

伊吹生が頭をポンとすると、心春はさらに頬を赤らめ、耳たぶまで紅潮させた。





「これ……甫君に渡したくて」

午後の休み時間だった。

携帯に連絡が来て、今は自由登校期間に入っている高等部三年生の彼に呼び出された伊吹生は、目を見張らせる。

「妹からも、もらったと思うけど……ボクも、どうしても渡したくて」

校門前に伊吹生を呼び出したのは心春の兄の今日介(きょうすけ)だった。

凌貴との件があった直後は心身ともに疲弊し、彼の取り巻きに一方的に不条理に責められて登校拒否にまでなりかけた。

『何を言っても許されると思っているんなら大間違いだからな』

だが、伊吹生に兄妹共々庇われて、カフェテリアや中庭でランチを共にするようになって。
些細な時間を伊吹生と過ごすようになって今日介の心の傷は静かに癒えていった。

一時期は凌貴が視界に入るのも苦としていたはずが、気がつけば感情は凪いでいて、自然と受け入れられるようになっていった。

「今まで本当にありがとう、甫君」

今日介は別系統の大学への進学がすでに決まっていた。
一つ年上の彼と向かい合っていた伊吹生は笑みを零す。

「お礼を言うのは俺の方だろ、今日介」

線の細い今日介も、つられて小さく笑う。
ブレザーはいつも全開でネクタイを緩めている、驕り高ぶらない隣人なるアルファに、時間をかけて選んだチョコレートを気恥ずかしそうに渡した。


感想 4

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話

ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生 Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158 ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/ fujossy https://fujossy.jp/books/31185

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです