噺屋コトザメ

プルエ

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 パステルカラーで彩られた塩化ビニールの床。壁は一面アクリルで覆われており、淡い暖色と蛍光色の奇抜な色で溢れている。
「──で、なんでアイスクリーム屋?」
女子中高生やカップルで賑わう店内の最奥の席で、久義は小さなバニラアイス片手に居心地悪そうに尋ねた。
 コトザメは、長いスプーンで抹茶パフェに乗ったクリームをすくい上げながら答える。
「こっちの地理にうといから目立つ店に入っただけだ。まあ、それと抹茶パフェが食べたかったのもある」
「そっちメインだろ。なあ、コトザメ。会ったばっかりでこんなこと訊くのもなんだけどさ」
 久義は苦々しく剣呑けんのんな表情になって声を潜める。
「君って一体何なんだ?」
 およそ日本人とも外国人とも見分けにくい特殊な容姿と、なんともいえぬ不思議な存在感。人に対し、「一体何」などと尋ねるのも可笑しなことだと自覚していたし、気が引けたが、訊かずにはおれなかった。
噺屋はなしや
 コトザメは、今度は抹茶アイスにスプーンを埋めながら端的に答えた。が、久義が益々眉をしかめたのを見ると、パフェを食べつつ少し考えた後にこう言い直したのだった。
「『怪』……あー、所謂いわゆる、怪奇現象とか妖怪とか精霊とか異形いぎょうのものとか呼ばれてるアレについて語ることを生業なりわいにしてる」
「……は?」
 久義は開いた口もふさげぬまま首を傾げた。
 隣のテーブルから「あの人、真っ白」と驚いたような子供の声がした。コトザメはちらりとそちらを見て、またパフェに視線を戻す。
「説明は苦手なんだ。実際に見た方が早い」
「苦手って、語ることを生業にしてるんじゃないのか」
はなしを語るのと、説明するのは別だよ。だから、俺は普段知ってる奴としか話さない」
「『かい』について?」
「そう、妖怪の怪という字だ」
「怪……。コトザメにも見えてるんだよな」
「そこ」
 コトザメがスプーンの先で久義の後ろを指した。久義は咄嗟とっさに振り向く。
「うわ、なんだこれ」
 壁一面を、黒ずんだ緑色のつたが這っていた。一部は虫のようにうねうねとしながら、所々は脈打つように律動しながら、蔦は少しずつ上へと移動していく。
「『蛇蔦』だ。触るなよ」
「へびづた……」
 その名の通り、それは蛇のように見えた。絡まり合う蛇の大群だ。久義は、全身に鳥肌を立たせながら動くことも出来ずにただ壁を見詰めている。握ったままのコーンの側面を、溶けたアイスが伝って落ちる。
「大丈夫、触らなければ害はない。そいつは暑さに弱いんだ。少し涼んだら自分から居なくなる」
「少し、って……」
「……俺達が出る方が早いか」
 コトザメは、そう言って最後にとっておいた白玉を口に入れ、鞄を持って億劫おっくうそうに立ち上がった。
 颯爽と出口に向かうコトザメを追い、久義も慌てて席を立つ。早足で歩きながら、ふとガラス扉の前で振り返ると、さっきまで久義が座っていた椅子の背凭れに蛇蔦の端が巻き付こうとしていた。
 苦い顔でアイスを口に押し込んだ久義は、店を出てコトザメに言う。「あれ、ほっといていいのか?」
「いい」
 コトザメは短く答え、大通りに沿って歩きだした。

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