噺屋コトザメ
青年は、じんわりと汗ばんだ手で吊革を握り直しながら、眼下の座席を見下ろした。
時刻は午後六時五分。
帰宅ラッシュで人が密集する車内にも関わらず、そこだけぽっかりと一人分空いている。
派手なスマートフォンを弄る女子高生と、イヤホンを両耳に挿して俯いているスーツ姿の女性の間で、誰も座ろうとしない座席は、まるで一旦切り取られてから貼り付けられたもののように不自然に浮いて見えた。
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