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「どうしたんだよ、お前。すごい隈できてんぞ」
同じクラスの津村が前の席から久義の机に肘をついて言った。
「眠れなくて」と、久義は苦笑気味に返した。
「またかよ。お前って本当、見た目に似合わず繊細なのな」
「見た目って……別にそんな図太い体型してないと思うんだけど」
「じゃなくてさ、こう、ザ・元気系! って感じじゃん」
腕に力こぶを作って見せる津村。久義は彼の明るさと素直さを好ましく思っているが、気を抜くと彼のペースでものごとを押し切られるので、あえて淡白な反応であしらうことが多い。
「部活の勧誘ならお断りだぞ」
「いやいや、限界まで疲れたらマジで寝れるって。帰った瞬間眠いもんよ。いや、むしろ、帰る前から眠い。つうか、なんなら朝から眠い。なあ、やってみろよサッカー。せっかく運動神経いいのに勿体ねえよ」
「嫌だよ。集団行動苦手だし」
「人好きのする好青年がよく言うぜ。うちの先輩らなんか俺よりお前のこと気に入ってんのに。どうせ学校終わってから暇だろ? なあー、入部してくれよー」
「断る。俺だって最近は忙しいんだ」
久義が教材を纏めて立ち上がった。
振られるのはいつものことだ。津村は残念そうにしながら、何となしに「まさかバイトでも始めた?」と尋ねた。その途端、久義の手から教材が滑り落ちた。津村は目を丸くし、ばたばたと音を立てて床を叩いた教科書を半ば反射的に拾いながら久義を見上げて首を傾げる。
「何、どしたの?」
「あ、いや……」
「噺屋」の単語が頭の中を駆け巡る。あれから三日経つが、コトザメへの返事は未だ保留にしたままだ。何度か久義の方からコトザメに会いに行こうとしたが、休み時間の二組にコトザメの姿はなく、誰に尋ねても「分からない」という。どことなく狐につままれたような居心地の悪さを感じながら、メモを残す気にもなれず、結局コトザメとの接触はあの一度きりで終わっていた。
「あれは夢だったのか……?」
「夢?」
ぼんやりと疑問を口にした久義に、津村は益々不思議そうな顔で聞き返した。久義ははっとして誤魔化したが、その表情には明らかに困惑の色が滲んでいる。
津村は肩を竦めた。最近では少なくなったものの、久義のこのような状態を見ることにはもう慣れていた。呆然としながら、まるで何もない筈のそこに何かを見ているような、かと思えば突然焦りはじめたり、走ってどこかへ行ってしまったり。奇行という程ではないが、見ていれば不思議に思うし心配もする。ただ、本人が何も言わないのでこれ以上は何も聞けない。片想いの友人という立場とはつくづく難しい位置にある、と津村は一人密かに悶々とするのだった。
同じクラスの津村が前の席から久義の机に肘をついて言った。
「眠れなくて」と、久義は苦笑気味に返した。
「またかよ。お前って本当、見た目に似合わず繊細なのな」
「見た目って……別にそんな図太い体型してないと思うんだけど」
「じゃなくてさ、こう、ザ・元気系! って感じじゃん」
腕に力こぶを作って見せる津村。久義は彼の明るさと素直さを好ましく思っているが、気を抜くと彼のペースでものごとを押し切られるので、あえて淡白な反応であしらうことが多い。
「部活の勧誘ならお断りだぞ」
「いやいや、限界まで疲れたらマジで寝れるって。帰った瞬間眠いもんよ。いや、むしろ、帰る前から眠い。つうか、なんなら朝から眠い。なあ、やってみろよサッカー。せっかく運動神経いいのに勿体ねえよ」
「嫌だよ。集団行動苦手だし」
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「断る。俺だって最近は忙しいんだ」
久義が教材を纏めて立ち上がった。
振られるのはいつものことだ。津村は残念そうにしながら、何となしに「まさかバイトでも始めた?」と尋ねた。その途端、久義の手から教材が滑り落ちた。津村は目を丸くし、ばたばたと音を立てて床を叩いた教科書を半ば反射的に拾いながら久義を見上げて首を傾げる。
「何、どしたの?」
「あ、いや……」
「噺屋」の単語が頭の中を駆け巡る。あれから三日経つが、コトザメへの返事は未だ保留にしたままだ。何度か久義の方からコトザメに会いに行こうとしたが、休み時間の二組にコトザメの姿はなく、誰に尋ねても「分からない」という。どことなく狐につままれたような居心地の悪さを感じながら、メモを残す気にもなれず、結局コトザメとの接触はあの一度きりで終わっていた。
「あれは夢だったのか……?」
「夢?」
ぼんやりと疑問を口にした久義に、津村は益々不思議そうな顔で聞き返した。久義ははっとして誤魔化したが、その表情には明らかに困惑の色が滲んでいる。
津村は肩を竦めた。最近では少なくなったものの、久義のこのような状態を見ることにはもう慣れていた。呆然としながら、まるで何もない筈のそこに何かを見ているような、かと思えば突然焦りはじめたり、走ってどこかへ行ってしまったり。奇行という程ではないが、見ていれば不思議に思うし心配もする。ただ、本人が何も言わないのでこれ以上は何も聞けない。片想いの友人という立場とはつくづく難しい位置にある、と津村は一人密かに悶々とするのだった。
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