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ラルゴ
風吹く前
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朝方。
まだ夜が明け切る前に俺は起きた。
空が少し白んで少し冷たい空気。
体を起こして横を見ればアステルがまだ寝てる。
俺の伸びきって傷んだ灰色の髪と違ってキノコみたいなサラサラの髪。
人の理想を詰め込んだような端正な顔。
はぁ、腹立つわぁ。
寝顔くらいもっと崩れた顔してりゃいいのに。
そんな完璧勇者サマはほっといて、だ。
俺の夜の蜘蛛に引っかかった奴を確認しに行きますか。
俺は森に入る時と薪を拾うついでに森の中では見えないくらいの細い蜘蛛の糸を張り巡らせて自分と繋いでいた。
なんかあっても起きれるように。
そのトワレに引っかかったちょっと大きめの何かがいる。
人ではないな。もっともこんな森の奥に人がいてたまるか。
はぁぁ。
こんな朝っぱらからなんなんだよ。
近づいて来なきゃこっちも無視してたってのに。
いい感じの杖を持ってガサガサと森の奥に進んでくと おはよう、大きなクマさん。
よだれが制御不能で低く唸ってて、俺の事を朝ごはんだと思っているご様子。
「…うーん、想像よりでかいな。」
俺の身長よりでけぇ。
腹立つな。
俺を上から見下ろすんじゃねぇよ。
俺とクマさんの距離は大体5歩分くらい。
「あいつが起きるから、静かにしてろよ。」
「明けない夜」
パチンっと指を鳴らす。
クマは足元の影に連れていかれ、その場から地面に吸い込まれて行った。
どこへ行ってしまったんだろうね。
俺すら知らない。
ただ何となく遠い場所にいると思う。
どこかの森とかかな。
少し気の毒になって片手で少し祈ってみた。
今もこれからも俺は死ぬ訳には行かないんだわ。ごめんな。
杖を肩に担いでポケットに左手をしまってそのままアステルの元へ。
「あ、起きた?」
「うん。どこ行ってたの?」
「野暮用。起きたなら行くぞ。」
「あ、うん。」
目を擦りながら準備して俺の後を着いてくる。
俺はこいつの親か?
すっかりお天道様も眩しくなってきていた。
ーーー
ー
「はぁぁぁ、やっと見えた。やっとだ、やっと。」
ようやく最初の目的地カルテンが遠くに小さく見えてきた。
今日こそは宿で寝たい。
俺はベッドで寝たいぞ。
「アステル!歩くぞ!」
と意気込んでたのが昨日。
結局昨日はつかなかった。
ベッドだと思い込んで土の上で寝た。
しかし今日は違う。
なんてったってもうほぼ目の前と言っていい距離に防壁が見える。
「アステル、今日は宿で寝るぞ。」
「そうだね、フィン。」
文句も不満もひとつとして言わず俺に着いてくるアステル。
お前はもっと会話というのを身につけた方がいいぞ。
俺が喋らなかったらお前一生喋らないんじゃねぇの?それ大丈夫なの?
「フィン?どうかしたの?」
「お前の未来を案じてた。」
「え?なに?」
うるせぇ、俺はお前の未来を心配してたんだ。
「とっとと歩くぞ。」
「あ、待ってよ。」
ーーー
ーー
ー
ゆるーい警備隊の警備を抜けて、
「カルテンだー!!」
入口をちょっと抜けたところで叫ぶ。
周りが驚いてやがるぜ。
「あ、フィン。ギルドがあるよ。」
「ん?あ、身分証作っとくか。お前の。」
そう、お前身分証ないもんな。
俺は黒の魔法使いって身分証あるし。
ーー
「初期発行は無料ですが失くした場合は5ペルかかります。無くさないように。」
そう言ってお姉さんがアステルに渡してくれたのはペンダントのようなもの。
名前と性別と貢献ランクが書かれてる小さな鉱石で出来た板がついていた。
ちなみに5ペルで最安値の硬すぎるパンなら500個買えるぞ。
あれひとつ1ぺぺだからな。
恐ろしいほど金かかるな、再発行。
20ペルでだいたい家族1~1.5ヶ月過ごせる。
「発行終わったなら行くぞ、宿探さないと。俺はもう野宿を堪能した。」
「うん、そうだね。」
足早にギルドを後にした…かった。
バァン!
ギルドの木製の扉がそれはそれは大きな音を立てて開いた。
あぁ、これは嫌な予感…。
「大変だ!街の南側から魔物…モンスターたちが!!いつもより数も多く、規模も大きくて…!!」
「それは大変!今すぐギルドの人総出で…!!あなたたちも!登録したばかりで悪いけど手伝ってちょうだい!」
「はい、分かりました。」
こんな時だけスラスラ喋るんじゃねぇよアステルぅぅぅ…!!
ああああああああ俺の宿さがしがぁ…。
夢のまた夢になった…
まだ夜が明け切る前に俺は起きた。
空が少し白んで少し冷たい空気。
体を起こして横を見ればアステルがまだ寝てる。
俺の伸びきって傷んだ灰色の髪と違ってキノコみたいなサラサラの髪。
人の理想を詰め込んだような端正な顔。
はぁ、腹立つわぁ。
寝顔くらいもっと崩れた顔してりゃいいのに。
そんな完璧勇者サマはほっといて、だ。
俺の夜の蜘蛛に引っかかった奴を確認しに行きますか。
俺は森に入る時と薪を拾うついでに森の中では見えないくらいの細い蜘蛛の糸を張り巡らせて自分と繋いでいた。
なんかあっても起きれるように。
そのトワレに引っかかったちょっと大きめの何かがいる。
人ではないな。もっともこんな森の奥に人がいてたまるか。
はぁぁ。
こんな朝っぱらからなんなんだよ。
近づいて来なきゃこっちも無視してたってのに。
いい感じの杖を持ってガサガサと森の奥に進んでくと おはよう、大きなクマさん。
よだれが制御不能で低く唸ってて、俺の事を朝ごはんだと思っているご様子。
「…うーん、想像よりでかいな。」
俺の身長よりでけぇ。
腹立つな。
俺を上から見下ろすんじゃねぇよ。
俺とクマさんの距離は大体5歩分くらい。
「あいつが起きるから、静かにしてろよ。」
「明けない夜」
パチンっと指を鳴らす。
クマは足元の影に連れていかれ、その場から地面に吸い込まれて行った。
どこへ行ってしまったんだろうね。
俺すら知らない。
ただ何となく遠い場所にいると思う。
どこかの森とかかな。
少し気の毒になって片手で少し祈ってみた。
今もこれからも俺は死ぬ訳には行かないんだわ。ごめんな。
杖を肩に担いでポケットに左手をしまってそのままアステルの元へ。
「あ、起きた?」
「うん。どこ行ってたの?」
「野暮用。起きたなら行くぞ。」
「あ、うん。」
目を擦りながら準備して俺の後を着いてくる。
俺はこいつの親か?
すっかりお天道様も眩しくなってきていた。
ーーー
ー
「はぁぁぁ、やっと見えた。やっとだ、やっと。」
ようやく最初の目的地カルテンが遠くに小さく見えてきた。
今日こそは宿で寝たい。
俺はベッドで寝たいぞ。
「アステル!歩くぞ!」
と意気込んでたのが昨日。
結局昨日はつかなかった。
ベッドだと思い込んで土の上で寝た。
しかし今日は違う。
なんてったってもうほぼ目の前と言っていい距離に防壁が見える。
「アステル、今日は宿で寝るぞ。」
「そうだね、フィン。」
文句も不満もひとつとして言わず俺に着いてくるアステル。
お前はもっと会話というのを身につけた方がいいぞ。
俺が喋らなかったらお前一生喋らないんじゃねぇの?それ大丈夫なの?
「フィン?どうかしたの?」
「お前の未来を案じてた。」
「え?なに?」
うるせぇ、俺はお前の未来を心配してたんだ。
「とっとと歩くぞ。」
「あ、待ってよ。」
ーーー
ーー
ー
ゆるーい警備隊の警備を抜けて、
「カルテンだー!!」
入口をちょっと抜けたところで叫ぶ。
周りが驚いてやがるぜ。
「あ、フィン。ギルドがあるよ。」
「ん?あ、身分証作っとくか。お前の。」
そう、お前身分証ないもんな。
俺は黒の魔法使いって身分証あるし。
ーー
「初期発行は無料ですが失くした場合は5ペルかかります。無くさないように。」
そう言ってお姉さんがアステルに渡してくれたのはペンダントのようなもの。
名前と性別と貢献ランクが書かれてる小さな鉱石で出来た板がついていた。
ちなみに5ペルで最安値の硬すぎるパンなら500個買えるぞ。
あれひとつ1ぺぺだからな。
恐ろしいほど金かかるな、再発行。
20ペルでだいたい家族1~1.5ヶ月過ごせる。
「発行終わったなら行くぞ、宿探さないと。俺はもう野宿を堪能した。」
「うん、そうだね。」
足早にギルドを後にした…かった。
バァン!
ギルドの木製の扉がそれはそれは大きな音を立てて開いた。
あぁ、これは嫌な予感…。
「大変だ!街の南側から魔物…モンスターたちが!!いつもより数も多く、規模も大きくて…!!」
「それは大変!今すぐギルドの人総出で…!!あなたたちも!登録したばかりで悪いけど手伝ってちょうだい!」
「はい、分かりました。」
こんな時だけスラスラ喋るんじゃねぇよアステルぅぅぅ…!!
ああああああああ俺の宿さがしがぁ…。
夢のまた夢になった…
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