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彼とねこ。④

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室内で真っ黒のサングラスにマスクで
マスクをずらしながら
一生懸命食べている慎さんが
変な見た目なはずなのに可愛かった。


「私洗い物しますから、マスク外して食べてください」


洗い物といっても
蒼さんがテキパキと片づけてくれたため
フライパンぐらいしかないけど。
でも、そのほうが蒼さんも食べやすいだろう。


「待って、結花」


立とうとした瞬間腕を引っ張られ
自然と蒼さんのほうに顔を近づけた。


「はい、あ~ん」


スプーンの端が唇にかすかにあたっていて
ここまで差し出されたら断れない。


パクッと食べると
かすかにサングラスの奥に見える瞳が見えた。
すごく優しい瞳をしている。
サングラスをしてくれていてよかった。
でなきゃ、吸い込まれて、もっと近づいてしまいそう。


「おいしいよね?」


「自分で作ってあれですけど、おいしいです」


「結衣もっと食べて。はい、あ~ん」


「でも」


「僕のこと気にしてくれたんだよね。でも大丈夫。それにせっかくだから隣にいて」


「分かりました。じゃあ、いただきます」


「ケチャップついてる」


「蒼さんはマスクにいっぱいついてます」


「え?嘘」


「嘘ですw蒼さんだって、ケチャップどうせ嘘でしょう」


「ケチャップはね」





「蒼さん…?」


マスクをしているとはいえ
顔を近づけられるとキスされそうで
ドキドキが止まらない。


マスクに人差指をかけて
外す動作を見た瞬間目を閉じてしまった。


「米粒ついてる」


蒼さんの微かな鼻息と
鼻の先端や唇が頬に触れて
緊張から体にギュッと力が入った。


蒼さんが自分から離れる感じが伝わってきて
ゆっくりと目を開けると
ニヤッと笑いながら歯の隙間に米粒を器用に挟んでいた。


「蒼さん、マスク」


そういうと慌ててマスクをして
もぐもぐしだす蒼さん。
顔に傷があるって言ってたけど
傷なんてあったかな?
いや、もしかしたら、
私が思っているより
小さい傷かもしれないし。


「にゃあ……」


妙な空気が流れているのをやぶってくれたのは
さくらだった。


「お腹空いたね、食べようか」


「蒼さん、あの」


「な、なに?」


「私、お皿洗ったら帰ります」


「もう遅いし送るよ」


「大丈夫です。父の病院がそばにあるので、父と一緒に帰ります」


「父の病院?」


「立花病院です。そこで院長をしてます」


「そうなんだ。すごいね、なんだか」



「父はすごいです。難しいと言われてる手術もできて。母は看護師してて体力がパワフルで仕事のあとに習い事いくつもしてて…兄も医師で。でも、私は、何もできないんです」


「うん…」


「私は医者にも看護師にもなれないぐらい、鈍くさくて。でも、家族みんなそれでいいって言ってくれて。ただ、それさえも息苦しくて。家族は何も言わなくても周りの人には、やっぱり言われちゃうし、ダメな子だって。私は拾われた子だって。自分でもそう思っちゃいます。だけど、今日――」


蒼さんに出会えて本当によかった。
今の自分を、少しだけ好きになれた。


「知らない、別の世界があるから…辛いことがあっても、私が生きやすい世界がきっとあるって、蒼さんに教えてもらったから」


「結衣か、だったら、僕と友達になろう」


「私とですか?」


「うん、僕が凛を新しい世界を見せてあげるから、結花の世界も僕に教えてよ。そしたら、たくさん見れるよ」


「よろしくお願いします」



















この日をずっと夢見てた。






やっと、結花と仲良くなれた。








僕はなんて卑怯なんだろう。
結花に近づきたくて、結花を助けるフリして
結花の連絡先をこうやってゲットするなんて。


いい人のフリをしてるだけ。





汚れてない
まっすぐな芯の強さがある
結花の世界を
自分だけのものにしたいだけ。
でも、自分の真っ黒な世界には
踏み入れさせたくない。
かといって
他の人の世界と結花の世界を
混じらわせたくない。
僕だけのものにしたいんだ。





結花の滑らかでふんわりとした頬に
微かだけど触れた時はヤバかった。
このまま押し倒してしまうかと思った。






君に桜の花びらをもらったあの日から
ずっと、僕は、君に恋してる。




君を手に入れることは
きっとできないから
君に近づく男は
全員排除する。
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