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一章

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 何かご用事がありそうだわ……。
 あまりにカクカクとこちらにやってくるので、家族に少し鈍いと言われるわたくにしも自分に用があるのだとわかり声をかけることにした。

「わたくしに何かごよ「あ、ああああああああ、あのっ!」

……被ってましてよ。

 おっちょこちょいなその方は、ぱっちりお目目をウルっとさせながらも頬を薔薇色に染めてもう一度口を開いた。

「あああ、あ、あにょっ!」

 ……今度は噛んでいらしたわ。

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですわよ。わたくしはメルティアーラ=エルンスタ。学院は節度をきちんと守ればとても細かなマナーは卒業まで保留との事、どうか肩の力をお抜きになって?」

 思わず漏れた微笑ましさからくる笑顔に乗せて、わたくしは挨拶をした。
 少しでも緊張がほぐれるといいのだけれど。

「ひゃい! ああああありがとうございましゅ! 握手してください!!!」

「…っふへ?」

 あら嫌だわ、わたくしったらびっくりしすぎて変な声を出してしまった。
 恥ずかしくて頬が熱を持った気がして左手で頬を隠した。
 目の前の同級生、ボヌルバ侯爵家の方ー名前は確かマリアンヌ様だったかしらーは、先ほどの言葉と共に九十度の直角に腰を曲げ右手を差し出している。
 ……握手、した方がいい、かしら?
 わたくしは状況が飲み込めないまま、けれど耳を真っ赤にしたマリアンヌ様をそのままにするわけにはと思い、出された右手をそっと握った。

「!!! ありがどうございまず!!」

 …………うっすら、泣いていらっしゃる???
 けれど嬉しそう。
 私の頭にははてながいっぱい浮かんだけれど、マリアンヌ様はひゃっほいと言わんばかりにそれはとても嬉しそうにぺこぺこお辞儀をしながら教室を出て行ったので、何も言うことができなかった。

 ーーというか、廊下からひゃっほいって聞こえましたわ。
 わたくしは右手を見ながら首をこてんと傾げ、新たな不思議と共に教室を出ることにした。
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