風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動

梵天丸

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第8話 誰にも渡さない — You’re Mine Alone

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 会社のビル群を背に、車はどんどん都心を外れていく。
 見慣れた通勤路から外れ、街灯もまばらな道路に差しかかるたび、不安が強くなる。
 カーナビの画面には、見覚えのない道が次々と表示されていった。

(……どこまで行くつもりなんだ)

 助手席でシートベルトを握りしめる手に、じっとりと汗が滲んでいた。

 ようやく車が止まったのは、海の近くの埠頭だった。
 潮の匂いを含んだ冷たい夜風が、窓ガラス越しに肌を刺す。これがデートならロマンチックだろうが、今の状況ではただ不穏でしかない。

「おい、いい加減にしろよ。こんなところまで連れてきて、いったい…」

 抗議の声を遮るように、匠真は俺の腕を掴み、後部座席へ乱暴に押し倒した。



「やめろ! 何考えて…っ!」
「教えてやる。おまえがどれだけ俺を怒らせたのか」

 吐息は荒く、いつもの余裕は欠片もなかった。怒りと執着だけが剥き出しになっている。
 唇を強引に塞がれ、舌が容赦なく侵入してくる。呼吸を奪われ、咄嗟に押し返した胸板は硬くびくともしない。

「っ……ふざけるな……! こんなところで……」
「黙れ。もう抑えられない」

 スーツの前を乱され、シャツのボタンが弾け飛ぶ。狭い車内に潮の冷気が流れ込み、羞恥と熱がないまぜになって全身を包んだ。
 腰を押し開かれ、指が容赦なく入り込む。敏感な部分を的確に抉られ、理性は「嫌だ」と叫んでいるのに、身体は正直に震えて跳ねる。

「や、やめろ……っ」
「反応は正直だな。……誰にも渡さない。お前は俺のものだ」

 低く濁った声が耳を撃ち抜き、全身が震えた。
 深く貫かれた瞬間、鋭い痛みと熱が同時に広がり、背筋がのけ反る。シートに爪が食い込み、情けない声が喉から洩れた。

「あ、ぁぁっ……!」
「俺が一番、お前を知ってる」
「ん、ぁっ……匠真っ……!」

 快感と屈辱が絡まり合い、視界が真っ白に弾ける。抵抗の言葉は全て、乱れた吐息にかき消された。

 荒い呼吸の合間、耳元でかすれた声が落ちる。
「……二度と茶化すな。分かったか」
「なんで……そこまで……」
「お前が鈍感だからだ」

 また中を抉られ、言葉が潰れた吐息に変わる。懇願も抗議も届かず、ただ匠真の熱に呑まれていった。



 どれほど時間が過ぎたのか分からない。
 ようやく乱れた服を整える頃には、もう気力も体力も残っていなかった。

「俺の前で二度と“結婚しろ”なんて言うな」
「……もう言わない」

 反抗の言葉は出てこなかった。
 なぜ匠真がそこまで怒ったのか。なぜあんな執着を見せたのか。腑に落ちないことは多い。
 けれど今は、考える余裕もない。ただ、泥のように眠りたい――それだけだった。

 窓の外には、夜明け前の薄青い空と、港に並ぶクレーンの影がぼんやりと浮かんでいた。
 潮の匂いが車内に微かに残っている。
 重たい瞼を閉じながら、俺は思った。

(……明日になっても、この距離は埋まらない気がする)

 胸の奥に、言葉にならないざらつきだけが残っていた。



 翌朝、目を覚ますと、なぜか匠真のマンションのベッドにいた。
 どうやって来たのかは覚えていない。ただ、彼に運ばれたのだろうと推測するしかなかった。
 
(いつの間にか、パジャマにも着替えてるし…)

 バスルームから、シャワーの音が聞こえる。
 窓から差し込む光は、まだ早朝の気配だ。
 時間を確認すると、午前5時30分。
 もう一眠りできそうだったが、眠ったが最後、起きられないような不安もあった。

(身体がだるい…)

 ベッドの上で天井を見上げていると、匠真がバスルームから出てきた。

「起きたか」
「…起きたよ」

 言葉を選ばないと、昨日怒らせただけに、再び導火線に火をつけてしまうのではないかと不安になる。

「シャワー、借りていい?」
「ああ」

 バスルームで熱いシャワーを浴びると、ようやく頭が動き出す。
 熱い湯に打たれると、ようやく頭が動き始めた。
 ――匠真の前で“結婚”や“彼女”の話は禁句。そう学んだ。
 もしかすると彼にも、触れられたくない過去があるのかもしれない。俺と同じように。

 シャワーを浴びてバスルームから出ると、匠真が朝食を用意してくれていた。
 あまり食欲はなかったけど、目玉焼きとサラダぐらいなら食べられそうだ。

「会社、出られそうか?」
「うん、大丈夫」
「風邪で休んだばかりだし。新人なのにそうそう休めないよ」
「無理はするな」
「それ、おまえが言うか?」

 俺は目玉焼きを口に運びながら、苦笑した。

「それもそうだな」

 思わず苦笑すると、匠真も自嘲気味に笑った。
 昨夜の荒れた気配は、もうどこにもなかった。

******************

「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。

今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「誰にも渡さない — You’re Mine Alone」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫

♫「誰にも渡さない — You’re Mine Alone」はこちら⇒ https://youtu.be/C79FoC56gXU
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