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第18話 流される夜 — Swayed by You
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匠真に促されるまま車に乗り、たどり着いたのは彼のマンションだった。
車に乗ってしまったものの、心の中はずっともやもやとしていた。
車を降りた瞬間、胸の奥に渦巻いていた迷いが、はっきりとした言葉になった。
「……やっぱり、帰る。こういうのはもう、良くない」
駐車場で立ち止まった俺の言葉に、匠真は鍵を取り出す手を止め、振り返る。
匠真には、ちゃんと付き合っている相手がいる。
何か事情があるようで頻繁には会っていないようだけど、それでもこういうのは良くない。
だけど匠真は、俺の言葉など意に介していないようだった。
「夕食を作るから食っていけ。どうせろくなもの食べてないんだろう?」
「メシだけで終わらないだろうが、おまえは!」
「別に終わらせてもいいが」
「信じられない! 帰る!」
声を荒げたそのとき、マンションの警備員が近づいてきた。
「どうかしましたか? ……あ、篠原さん。こんばんは。何か言い争うような声が聞こえたので」
「大丈夫です。仕事のことでちょっと。もう部屋に戻りますから」
落ち着いた口調で返す匠真。
「行くぞ」
その流れに逆らえず、俺も一緒にエレベーターへと押し込まれた。
(……ああ、また流されてる)
ため息を飲み込みながら、天井の照明を仰いだ。
◆
俺がおとなしく部屋に入ると、匠真は表情を和らげた。
「何が食べたい? 材料のあるものなら作れる」
スーツの上着を脱ぎながら聞かれ、俺はふと初めて彼に作ってもらった料理のことを思い出した。
あの時は、確か肉じゃがとかの和食だった気がする。
「……なんか、和食っぽいの」
「分かった」
それだけ言って、匠真は慣れた手つきで冷蔵庫を開けた。
鶏肉を切り分け、甘辛いタレに絡めて焼き上げる。別の鍋では筑前煮を煮込み、フライパンではごぼうと人参を炒める音が弾む。
味噌を溶き入れる香りが漂い、狭いキッチンは一気に食欲をそそる空気に包まれた。
テーブルに並んだのは、鶏の照り焼き、筑前煮、きんぴら、玉ねぎのサラダ、湯気の立つ味噌汁。
「……すごいな。定食屋みたいだ」
「おまえの食生活を考えたら、このくらい必要だ」
「……監視されてんのか、俺」
「顔を見れば分かる。貧相なんだよ」
「ひでえな!」
「でも、今はうまそうに見える」
匠真のくすっと笑う声に、思わずこちらも口元が緩んだ。
「いただきます」
一口食べた瞬間、舌に広がる優しい味に目を見張った。
「……うまい」
「素直でよろしい」
「ちょっと辛い」
「俺のきんぴらはそういう仕様だ」
「仕様って……」
結局、完敗だった。
こうやって一緒に食事をすると、ますます俺の方が“間違ってる”気がしてくる。
(だって——おまえには、他に本命がいるんだろう……)
本当は口に出したいのに、ぐっと飲み込んだ。
◆
「じゃあ、そろそろ帰る。電車もなくなるし」
片付けを終え、鞄を肩にかけた瞬間、背後から抱きすくめられた。
「泊まって行け」
「だから……もうこういうのは嫌なんだ。帰る」
「おれはおまえにいてほしい」
耳元に低く落ちる声に、心臓が大きく跳ねる。
匠真も、今夜は一人で過ごしたくないのだろうか…。
その弱さを見せつけられた気がして、振りほどこうとした腕から力が抜けていく。
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、匠真の唇が首筋に触れた。
「ん、ん…っ…」
シャツの裾から滑り込んできた手のひらの熱に、ぞくりと体が震える。
押しのけたいのに、触れられるたびに、身体は正直に反応してしまう。
「本当に…三年も、あいつの気持ちに気づかなかったのか…?」
敏感な脇腹に指を滑らせながら、意地の悪い質問が投げかけられる。
「き、気づいてたら距離を取ってたに決まって…んぁっ!」
胸の突起を指先で弾かれ、思わず変な声が出た。
「今日のあの男…本気でおまえを欲しがってたぞ」
「し、しらな…んっ、ぁ…っ…本当に俺は…ただの友達だと…っ…」
もっと強く反論したいのに、匠真の指の動きが、俺の言葉を途切れ途切れの喘ぎに変えてしまう。
「鈍感すぎて、罪だな、颯は」
「ど、鈍感…って、言うな…っ…」
「本当のことだろ? だから他の男にも隙を見せる」
「おまえだって、人のこと言えないだろ……っ! どうせ本命が——」
「……誰の話をしてる」
そこで一瞬、匠真の声が低く沈んだ。
けれど唇を重ねられ、問い詰める暇もなく舌を絡め取られる。
言い争いは、熱に変わっていく。
「……ベッド、行くぞ」
囁きと共に、ふわりと体が浮いた。
シーツの上に降ろされた俺を見下ろす匠真の瞳は、暗い熱を宿していた。
「俺だけを見てろ」
「ん、ぁ…な、なんでそんな…っ…」
嫉妬を隠そうともしない言葉。その独占欲が、悔しいことに俺の体の芯を疼かせる。
服を剥ぎ取られ、肌と肌が直接触れ合う。
「俺以外の男の名前を、二度と口にするな」
それは命令だった。そして、その命令に逆らう術を俺は持たない。
体を貫かれる衝撃に息を呑み、視界が白く滲む。
「あ……ぁっ……たく、ま……っ」
拒絶するはずだった。それなのに、与えられる快感に、心も体も縛られていく。
結局、俺はまた、この男の熱に流されてしまうのだ。
******************
「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「流される夜 — Swayed by You」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
♫「流される夜 — Swayed by You」はこちら⇒ https://youtu.be/AZWgI7LD6IM
車に乗ってしまったものの、心の中はずっともやもやとしていた。
車を降りた瞬間、胸の奥に渦巻いていた迷いが、はっきりとした言葉になった。
「……やっぱり、帰る。こういうのはもう、良くない」
駐車場で立ち止まった俺の言葉に、匠真は鍵を取り出す手を止め、振り返る。
匠真には、ちゃんと付き合っている相手がいる。
何か事情があるようで頻繁には会っていないようだけど、それでもこういうのは良くない。
だけど匠真は、俺の言葉など意に介していないようだった。
「夕食を作るから食っていけ。どうせろくなもの食べてないんだろう?」
「メシだけで終わらないだろうが、おまえは!」
「別に終わらせてもいいが」
「信じられない! 帰る!」
声を荒げたそのとき、マンションの警備員が近づいてきた。
「どうかしましたか? ……あ、篠原さん。こんばんは。何か言い争うような声が聞こえたので」
「大丈夫です。仕事のことでちょっと。もう部屋に戻りますから」
落ち着いた口調で返す匠真。
「行くぞ」
その流れに逆らえず、俺も一緒にエレベーターへと押し込まれた。
(……ああ、また流されてる)
ため息を飲み込みながら、天井の照明を仰いだ。
◆
俺がおとなしく部屋に入ると、匠真は表情を和らげた。
「何が食べたい? 材料のあるものなら作れる」
スーツの上着を脱ぎながら聞かれ、俺はふと初めて彼に作ってもらった料理のことを思い出した。
あの時は、確か肉じゃがとかの和食だった気がする。
「……なんか、和食っぽいの」
「分かった」
それだけ言って、匠真は慣れた手つきで冷蔵庫を開けた。
鶏肉を切り分け、甘辛いタレに絡めて焼き上げる。別の鍋では筑前煮を煮込み、フライパンではごぼうと人参を炒める音が弾む。
味噌を溶き入れる香りが漂い、狭いキッチンは一気に食欲をそそる空気に包まれた。
テーブルに並んだのは、鶏の照り焼き、筑前煮、きんぴら、玉ねぎのサラダ、湯気の立つ味噌汁。
「……すごいな。定食屋みたいだ」
「おまえの食生活を考えたら、このくらい必要だ」
「……監視されてんのか、俺」
「顔を見れば分かる。貧相なんだよ」
「ひでえな!」
「でも、今はうまそうに見える」
匠真のくすっと笑う声に、思わずこちらも口元が緩んだ。
「いただきます」
一口食べた瞬間、舌に広がる優しい味に目を見張った。
「……うまい」
「素直でよろしい」
「ちょっと辛い」
「俺のきんぴらはそういう仕様だ」
「仕様って……」
結局、完敗だった。
こうやって一緒に食事をすると、ますます俺の方が“間違ってる”気がしてくる。
(だって——おまえには、他に本命がいるんだろう……)
本当は口に出したいのに、ぐっと飲み込んだ。
◆
「じゃあ、そろそろ帰る。電車もなくなるし」
片付けを終え、鞄を肩にかけた瞬間、背後から抱きすくめられた。
「泊まって行け」
「だから……もうこういうのは嫌なんだ。帰る」
「おれはおまえにいてほしい」
耳元に低く落ちる声に、心臓が大きく跳ねる。
匠真も、今夜は一人で過ごしたくないのだろうか…。
その弱さを見せつけられた気がして、振りほどこうとした腕から力が抜けていく。
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、匠真の唇が首筋に触れた。
「ん、ん…っ…」
シャツの裾から滑り込んできた手のひらの熱に、ぞくりと体が震える。
押しのけたいのに、触れられるたびに、身体は正直に反応してしまう。
「本当に…三年も、あいつの気持ちに気づかなかったのか…?」
敏感な脇腹に指を滑らせながら、意地の悪い質問が投げかけられる。
「き、気づいてたら距離を取ってたに決まって…んぁっ!」
胸の突起を指先で弾かれ、思わず変な声が出た。
「今日のあの男…本気でおまえを欲しがってたぞ」
「し、しらな…んっ、ぁ…っ…本当に俺は…ただの友達だと…っ…」
もっと強く反論したいのに、匠真の指の動きが、俺の言葉を途切れ途切れの喘ぎに変えてしまう。
「鈍感すぎて、罪だな、颯は」
「ど、鈍感…って、言うな…っ…」
「本当のことだろ? だから他の男にも隙を見せる」
「おまえだって、人のこと言えないだろ……っ! どうせ本命が——」
「……誰の話をしてる」
そこで一瞬、匠真の声が低く沈んだ。
けれど唇を重ねられ、問い詰める暇もなく舌を絡め取られる。
言い争いは、熱に変わっていく。
「……ベッド、行くぞ」
囁きと共に、ふわりと体が浮いた。
シーツの上に降ろされた俺を見下ろす匠真の瞳は、暗い熱を宿していた。
「俺だけを見てろ」
「ん、ぁ…な、なんでそんな…っ…」
嫉妬を隠そうともしない言葉。その独占欲が、悔しいことに俺の体の芯を疼かせる。
服を剥ぎ取られ、肌と肌が直接触れ合う。
「俺以外の男の名前を、二度と口にするな」
それは命令だった。そして、その命令に逆らう術を俺は持たない。
体を貫かれる衝撃に息を呑み、視界が白く滲む。
「あ……ぁっ……たく、ま……っ」
拒絶するはずだった。それなのに、与えられる快感に、心も体も縛られていく。
結局、俺はまた、この男の熱に流されてしまうのだ。
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「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「流される夜 — Swayed by You」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
♫「流される夜 — Swayed by You」はこちら⇒ https://youtu.be/AZWgI7LD6IM
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