18 / 64
第18話 流される夜 — Swayed by You
しおりを挟む
匠真に促されるまま車に乗り、たどり着いたのは彼のマンションだった。
車に乗ってしまったものの、心の中はずっともやもやとしていた。
車を降りた瞬間、胸の奥に渦巻いていた迷いが、はっきりとした言葉になった。
「……やっぱり、帰る。こういうのはもう、良くない」
駐車場で立ち止まった俺の言葉に、匠真は鍵を取り出す手を止め、振り返る。
匠真には、ちゃんと付き合っている相手がいる。
何か事情があるようで頻繁には会っていないようだけど、それでもこういうのは良くない。
だけど匠真は、俺の言葉など意に介していないようだった。
「夕食を作るから食っていけ。どうせろくなもの食べてないんだろう?」
「メシだけで終わらないだろうが、おまえは!」
「別に終わらせてもいいが」
「信じられない! 帰る!」
声を荒げたそのとき、マンションの警備員が近づいてきた。
「どうかしましたか? ……あ、篠原さん。こんばんは。何か言い争うような声が聞こえたので」
「大丈夫です。仕事のことでちょっと。もう部屋に戻りますから」
落ち着いた口調で返す匠真。
「行くぞ」
その流れに逆らえず、俺も一緒にエレベーターへと押し込まれた。
(……ああ、また流されてる)
ため息を飲み込みながら、天井の照明を仰いだ。
◆
俺がおとなしく部屋に入ると、匠真は表情を和らげた。
「何が食べたい? 材料のあるものなら作れる」
スーツの上着を脱ぎながら聞かれ、俺はふと初めて彼に作ってもらった料理のことを思い出した。
あの時は、確か肉じゃがとかの和食だった気がする。
「……なんか、和食っぽいの」
「分かった」
それだけ言って、匠真は慣れた手つきで冷蔵庫を開けた。
鶏肉を切り分け、甘辛いタレに絡めて焼き上げる。別の鍋では筑前煮を煮込み、フライパンではごぼうと人参を炒める音が弾む。
味噌を溶き入れる香りが漂い、狭いキッチンは一気に食欲をそそる空気に包まれた。
テーブルに並んだのは、鶏の照り焼き、筑前煮、きんぴら、玉ねぎのサラダ、湯気の立つ味噌汁。
「……すごいな。定食屋みたいだ」
「おまえの食生活を考えたら、このくらい必要だ」
「……監視されてんのか、俺」
「顔を見れば分かる。貧相なんだよ」
「ひでえな!」
「でも、今はうまそうに見える」
匠真のくすっと笑う声に、思わずこちらも口元が緩んだ。
「いただきます」
一口食べた瞬間、舌に広がる優しい味に目を見張った。
「……うまい」
「素直でよろしい」
「ちょっと辛い」
「俺のきんぴらはそういう仕様だ」
「仕様って……」
結局、完敗だった。
こうやって一緒に食事をすると、ますます俺の方が“間違ってる”気がしてくる。
(だって——おまえには、他に本命がいるんだろう……)
本当は口に出したいのに、ぐっと飲み込んだ。
◆
「じゃあ、そろそろ帰る。電車もなくなるし」
片付けを終え、鞄を肩にかけた瞬間、背後から抱きすくめられた。
「泊まって行け」
「だから……もうこういうのは嫌なんだ。帰る」
「おれはおまえにいてほしい」
耳元に低く落ちる声に、心臓が大きく跳ねる。
匠真も、今夜は一人で過ごしたくないのだろうか…。
その弱さを見せつけられた気がして、振りほどこうとした腕から力が抜けていく。
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、匠真の唇が首筋に触れた。
「ん、ん…っ…」
シャツの裾から滑り込んできた手のひらの熱に、ぞくりと体が震える。
押しのけたいのに、触れられるたびに、身体は正直に反応してしまう。
「本当に…三年も、あいつの気持ちに気づかなかったのか…?」
敏感な脇腹に指を滑らせながら、意地の悪い質問が投げかけられる。
「き、気づいてたら距離を取ってたに決まって…んぁっ!」
胸の突起を指先で弾かれ、思わず変な声が出た。
「今日のあの男…本気でおまえを欲しがってたぞ」
「し、しらな…んっ、ぁ…っ…本当に俺は…ただの友達だと…っ…」
もっと強く反論したいのに、匠真の指の動きが、俺の言葉を途切れ途切れの喘ぎに変えてしまう。
「鈍感すぎて、罪だな、颯は」
「ど、鈍感…って、言うな…っ…」
「本当のことだろ? だから他の男にも隙を見せる」
「おまえだって、人のこと言えないだろ……っ! どうせ本命が——」
「……誰の話をしてる」
そこで一瞬、匠真の声が低く沈んだ。
けれど唇を重ねられ、問い詰める暇もなく舌を絡め取られる。
言い争いは、熱に変わっていく。
「……ベッド、行くぞ」
囁きと共に、ふわりと体が浮いた。
シーツの上に降ろされた俺を見下ろす匠真の瞳は、暗い熱を宿していた。
「俺だけを見てろ」
「ん、ぁ…な、なんでそんな…っ…」
嫉妬を隠そうともしない言葉。その独占欲が、悔しいことに俺の体の芯を疼かせる。
服を剥ぎ取られ、肌と肌が直接触れ合う。
「俺以外の男の名前を、二度と口にするな」
それは命令だった。そして、その命令に逆らう術を俺は持たない。
体を貫かれる衝撃に息を呑み、視界が白く滲む。
「あ……ぁっ……たく、ま……っ」
拒絶するはずだった。それなのに、与えられる快感に、心も体も縛られていく。
結局、俺はまた、この男の熱に流されてしまうのだ。
******************
「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「流される夜 — Swayed by You」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
♫「流される夜 — Swayed by You」はこちら⇒ https://youtu.be/AZWgI7LD6IM
車に乗ってしまったものの、心の中はずっともやもやとしていた。
車を降りた瞬間、胸の奥に渦巻いていた迷いが、はっきりとした言葉になった。
「……やっぱり、帰る。こういうのはもう、良くない」
駐車場で立ち止まった俺の言葉に、匠真は鍵を取り出す手を止め、振り返る。
匠真には、ちゃんと付き合っている相手がいる。
何か事情があるようで頻繁には会っていないようだけど、それでもこういうのは良くない。
だけど匠真は、俺の言葉など意に介していないようだった。
「夕食を作るから食っていけ。どうせろくなもの食べてないんだろう?」
「メシだけで終わらないだろうが、おまえは!」
「別に終わらせてもいいが」
「信じられない! 帰る!」
声を荒げたそのとき、マンションの警備員が近づいてきた。
「どうかしましたか? ……あ、篠原さん。こんばんは。何か言い争うような声が聞こえたので」
「大丈夫です。仕事のことでちょっと。もう部屋に戻りますから」
落ち着いた口調で返す匠真。
「行くぞ」
その流れに逆らえず、俺も一緒にエレベーターへと押し込まれた。
(……ああ、また流されてる)
ため息を飲み込みながら、天井の照明を仰いだ。
◆
俺がおとなしく部屋に入ると、匠真は表情を和らげた。
「何が食べたい? 材料のあるものなら作れる」
スーツの上着を脱ぎながら聞かれ、俺はふと初めて彼に作ってもらった料理のことを思い出した。
あの時は、確か肉じゃがとかの和食だった気がする。
「……なんか、和食っぽいの」
「分かった」
それだけ言って、匠真は慣れた手つきで冷蔵庫を開けた。
鶏肉を切り分け、甘辛いタレに絡めて焼き上げる。別の鍋では筑前煮を煮込み、フライパンではごぼうと人参を炒める音が弾む。
味噌を溶き入れる香りが漂い、狭いキッチンは一気に食欲をそそる空気に包まれた。
テーブルに並んだのは、鶏の照り焼き、筑前煮、きんぴら、玉ねぎのサラダ、湯気の立つ味噌汁。
「……すごいな。定食屋みたいだ」
「おまえの食生活を考えたら、このくらい必要だ」
「……監視されてんのか、俺」
「顔を見れば分かる。貧相なんだよ」
「ひでえな!」
「でも、今はうまそうに見える」
匠真のくすっと笑う声に、思わずこちらも口元が緩んだ。
「いただきます」
一口食べた瞬間、舌に広がる優しい味に目を見張った。
「……うまい」
「素直でよろしい」
「ちょっと辛い」
「俺のきんぴらはそういう仕様だ」
「仕様って……」
結局、完敗だった。
こうやって一緒に食事をすると、ますます俺の方が“間違ってる”気がしてくる。
(だって——おまえには、他に本命がいるんだろう……)
本当は口に出したいのに、ぐっと飲み込んだ。
◆
「じゃあ、そろそろ帰る。電車もなくなるし」
片付けを終え、鞄を肩にかけた瞬間、背後から抱きすくめられた。
「泊まって行け」
「だから……もうこういうのは嫌なんだ。帰る」
「おれはおまえにいてほしい」
耳元に低く落ちる声に、心臓が大きく跳ねる。
匠真も、今夜は一人で過ごしたくないのだろうか…。
その弱さを見せつけられた気がして、振りほどこうとした腕から力が抜けていく。
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、匠真の唇が首筋に触れた。
「ん、ん…っ…」
シャツの裾から滑り込んできた手のひらの熱に、ぞくりと体が震える。
押しのけたいのに、触れられるたびに、身体は正直に反応してしまう。
「本当に…三年も、あいつの気持ちに気づかなかったのか…?」
敏感な脇腹に指を滑らせながら、意地の悪い質問が投げかけられる。
「き、気づいてたら距離を取ってたに決まって…んぁっ!」
胸の突起を指先で弾かれ、思わず変な声が出た。
「今日のあの男…本気でおまえを欲しがってたぞ」
「し、しらな…んっ、ぁ…っ…本当に俺は…ただの友達だと…っ…」
もっと強く反論したいのに、匠真の指の動きが、俺の言葉を途切れ途切れの喘ぎに変えてしまう。
「鈍感すぎて、罪だな、颯は」
「ど、鈍感…って、言うな…っ…」
「本当のことだろ? だから他の男にも隙を見せる」
「おまえだって、人のこと言えないだろ……っ! どうせ本命が——」
「……誰の話をしてる」
そこで一瞬、匠真の声が低く沈んだ。
けれど唇を重ねられ、問い詰める暇もなく舌を絡め取られる。
言い争いは、熱に変わっていく。
「……ベッド、行くぞ」
囁きと共に、ふわりと体が浮いた。
シーツの上に降ろされた俺を見下ろす匠真の瞳は、暗い熱を宿していた。
「俺だけを見てろ」
「ん、ぁ…な、なんでそんな…っ…」
嫉妬を隠そうともしない言葉。その独占欲が、悔しいことに俺の体の芯を疼かせる。
服を剥ぎ取られ、肌と肌が直接触れ合う。
「俺以外の男の名前を、二度と口にするな」
それは命令だった。そして、その命令に逆らう術を俺は持たない。
体を貫かれる衝撃に息を呑み、視界が白く滲む。
「あ……ぁっ……たく、ま……っ」
拒絶するはずだった。それなのに、与えられる快感に、心も体も縛られていく。
結局、俺はまた、この男の熱に流されてしまうのだ。
******************
「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「流される夜 — Swayed by You」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
♫「流される夜 — Swayed by You」はこちら⇒ https://youtu.be/AZWgI7LD6IM
12
あなたにおすすめの小説
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
こじらせ委員長と省エネ男子
みずしま
BL
イケメン男子の目覚まし担当になりました……!?
高校一年生の俺、宮下響はワケあって一人暮らし中。隣に住んでいるのは、同じクラスの玖堂碧斗だ。遅刻を繰り返す彼の目覚まし係になるよう、担任から任命され……。
省エネ男子(攻め)と、ちょっとひねくれた委員長(受け)によるわちゃわちゃ青春BL!
宮下響(みやしたひびき)
外面の良い委員長。モブ顔。褒められたい願望あり。
玖堂碧斗(くどうあおと)
常に省エネモードで生活中。気だるげな美形男子。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜
なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。
そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。
しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。
猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。
契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。
だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実
「君を守るためなら、俺は何でもする」
これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は?
猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる