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第29話 閉じ込めたい夜― Lock You in My Arms
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スマホの画面に、短いメッセージが光っていた。
《明日話を聞く。夜あけておけ》
たぶん、怒ってる。
そんなの、読まなくてもわかる。
ベッドに横になっても、文字が頭の裏側でちらついた。
仕方ない。自分がうかつだった。
匠真に「関わるな」と言われていたのに、あんな誘いに乗ってしまった。
あの夜の冷たさと、怜央の笑い声が、まだ喉の奥に残っている。
◆
翌日。
何とか二日間の業務を終えた。
休暇中の匠真の代わりに、報告書の最終チェックから承認まで一人でこなす。
書類を閉じた瞬間、心と体から一斉に力が抜けた。
帰ろうとエントランスを出たところで、名前を呼ばれる。
「颯!」
振り向くと、冬華さんがいた。
落ち着いたベージュのコート、柔らかな笑顔。
どこか、少し寂しげでもあった。
「ちょっとお茶でもどう? 久しぶりに話したくて」
匠真はまだ帰っていない。
気分転換も悪くない。
少し迷ったあと、頷いた。
◆
店内は照明がやわらかく、カップの縁から白い湯気が立ちのぼる。
冬華さんはホットミルクティー、俺はホットココアを頼んだ。
「前から思ってたけど、颯ってけっこう甘党よね」
「はい。甘いものは結構好きです」
「女子力高すぎよ」
「女子じゃないですけど…」
俺が苦笑すると、冬華さんは軽くミルクをかき混ぜながら、ぽつりと言った。
「おじいさま、あれから篠原さんの話を全然しなくなったの。
いったい何だったのかしら。あの執着は」
カップの縁を指でなぞりながら、颯は穏やかに笑った。
「まあ…気が済んだんじゃないですか」
そう答えるしかなかった。
本当の理由を話すわけにはいかない。あの一件の裏側を知る人間は、もう限られている。
「颯って、女友達みたいで話しやすいのよね」
「え…」
俺が驚いて顔を上げると、冬華さんは笑った。
「私、あまり友達いないから。颯が貴重な友達って感じ」
俺も笑ってうなずいたけれど、ちょっと傷ついた。
『あまり男らしくない』…とは、昔から言われていたけれど。
言葉は違えど、同じようなことを言われた気がした。
(まあ…男として見られても困るから、これでいいのかも…)
そう自分を慰めながら、ホットココアの入ったカップを口に運んだ。
◆
店を出たとき、外はすっかり夜になっていた。
別れ際に「またね」と言われ、手を振り返した瞬間。
「おい」
短く鋭い声が、空気を切った。
振り向くと、街灯の下に匠真が立っていた。
「……早かったんだな」
「夜はあけとけって言ったはずだが」
「ごめん、ちょっとお茶するくらいなら大丈夫かなと思って」
「話はあとでじっくり聞く」
声のトーンが低い。
“じっくり”の一言に、背筋が冷える。
匠真の横を通り過ぎ、並んで歩く。
無言のまま車に乗り込むと、エンジン音がやけに大きく感じた。
◆
マンションに戻ると、空気がいつもより重い気がした。
玄関の灯りだけが部屋をぼんやり照らす。
「何か飲む?」
返事の代わりに、体を引き寄せられる。
「怒ってる?」
「当たり前だ。怜央に勝手について行くわ、俺との約束を忘れて丸友さんとデートしてるわ…」
「デートじゃないよ。俺は、女友達みたいって言われた。女子力も高いってさ。男としては全く見られてない」
「それでも、俺は嫉妬してしまうんだよ。おまえをどこかに閉じ込めておきたいと思ってしまうほどに」
「危ないな…」
「ああ、だから、そんなことしなくて済むように――今、ここにいてくれ」
言葉の続きを、唇で塞がれた。
背中をつたう指が、シャツの上からでも熱く感じる。
吸い込まれるみたいに息が合い、触れたところから、思考より先に体が反応する。
「……閉じ込めたいって言ったろ」
耳元で低く落ちる声は、囁きというより、これから始まる行為の合図に近い。
襟首を掴まれ、ソファの背に軽く押しつけられる。革のきしみが短く鳴った。
「待っ――」
言いかけた舌が、ふたたび塞がれる。
少し乱暴に唇を食まれ、喉の奥が小さく鳴った。
頬、こめかみ、顎の線。息が触れるたびに、そこから火が点いていくようだ。
胸元のボタンが一つ、軽い音を立てて外れる。
指先は迷わず、布を割るたびに肌に冷たい空気が触れ、すぐさま匠真の熱に置き換わる。
「怒ってるんだろ」
「怒ってる。だから今夜は離す気はない」
額が触れ合うほどの距離で、視線が絡む。
その目に映る自分が、やけに幼く見え、同時にどうしようもなく昂ぶっているのが分かった。
腕を引かれ、よろめいた体を匠真が支える。そのまま腰を捕まれ、壁際まで追い詰められた。背中に壁のひんやりとした感触が張りつく。
「そんな顔するな。煽ってるのか」
「するしかないだろ、こんな状況で」
言い終わる前に、また唇が奪われる。
手首を取られ、彼の歩幅に合わせるように寝室へと導かれた。扉が静かに開く音が、やけに遠く聞こえる。
ベッドのスプリングが軋み、体が沈む。
落ちる瞬間、世界が一拍、音をなくした。
匠真は俺に覆いかぶさると、喉元に軽く歯を立てた。くすぐったさと疼きの境目をわざと踏み越えてくる行為に、苦情みたいな声が漏れる。
「――俺だけ見てろ」
命令のような声に、視線をそらせない。
服が一枚ずつ剥がされていく。
ベルトのバックルが鳴る音、布の擦れる音。
肌と肌が直接触れ合うたびに、思考が少しずつ削れていった。
匠真の指が背中の線をゆっくりとなぞる。
そこから伝わる熱が、体の力の抜けた場所を正確に見つけ出し、甘い痺れを広げていく。
「……離れない」
「離れるな」
同じ意味の言葉を交わしながら、どちらも足りないと感じていた。
言葉の代わりに、俺は彼の肩口に軽く歯を立てる。浅い痛みが、二人の境界線を消す合図になった。
カーテンの隙間から差す淡い光が、汗の粒をきらきらと反射させる。呼吸のテンポが一段上がるたび、体の奥で何かがほどけていく音がした。
耳の後ろで落ちる低い声が、最後の理性をさらっていく。
指が絡み、腰が導かれ、動きが合わさる。
合図なんていらない。
体が先に、次に何をすべきかを知っている。
長い息が、喉の奥で震えて千切れた。
匠真の動きが深さを増し、重さが音に変わる。
ベッドが軋むたび、互いの名前が混ざり合い、甘いノイズとなって部屋に満ちた。
「……颯」
呼び名が、熱で滲む。
返事の代わりに、彼の背中に腕を回し、強く抱き寄せた。
逃げるためじゃない。もっと深く、もっと近くへと求めるために。
何度目かの呼吸の交差で、背中が弓なりに浮いた。
窓の外で車のライトが流れ、部屋の影が一瞬だけ反転する。
誰もいない夜の底で、名前が重なって落ち、ほどけて、また結び直される。
すべてが一点に集まり、白く弾け――
――静かな闇が、音もなく二人を包み込んだ。
******************
「風を捕まえる手 ― 再会は逃れられない衝動」は、YouTubeチャンネル「BL Soundscape」 にて公開されるオリジナル楽曲と完全連動しています。
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「閉じ込めたい夜― Lock You in My Arms」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
♫「閉じ込めたい夜― Lock You in My Arms」はこちら⇒ https://youtu.be/TmLqEfbda5g
《明日話を聞く。夜あけておけ》
たぶん、怒ってる。
そんなの、読まなくてもわかる。
ベッドに横になっても、文字が頭の裏側でちらついた。
仕方ない。自分がうかつだった。
匠真に「関わるな」と言われていたのに、あんな誘いに乗ってしまった。
あの夜の冷たさと、怜央の笑い声が、まだ喉の奥に残っている。
◆
翌日。
何とか二日間の業務を終えた。
休暇中の匠真の代わりに、報告書の最終チェックから承認まで一人でこなす。
書類を閉じた瞬間、心と体から一斉に力が抜けた。
帰ろうとエントランスを出たところで、名前を呼ばれる。
「颯!」
振り向くと、冬華さんがいた。
落ち着いたベージュのコート、柔らかな笑顔。
どこか、少し寂しげでもあった。
「ちょっとお茶でもどう? 久しぶりに話したくて」
匠真はまだ帰っていない。
気分転換も悪くない。
少し迷ったあと、頷いた。
◆
店内は照明がやわらかく、カップの縁から白い湯気が立ちのぼる。
冬華さんはホットミルクティー、俺はホットココアを頼んだ。
「前から思ってたけど、颯ってけっこう甘党よね」
「はい。甘いものは結構好きです」
「女子力高すぎよ」
「女子じゃないですけど…」
俺が苦笑すると、冬華さんは軽くミルクをかき混ぜながら、ぽつりと言った。
「おじいさま、あれから篠原さんの話を全然しなくなったの。
いったい何だったのかしら。あの執着は」
カップの縁を指でなぞりながら、颯は穏やかに笑った。
「まあ…気が済んだんじゃないですか」
そう答えるしかなかった。
本当の理由を話すわけにはいかない。あの一件の裏側を知る人間は、もう限られている。
「颯って、女友達みたいで話しやすいのよね」
「え…」
俺が驚いて顔を上げると、冬華さんは笑った。
「私、あまり友達いないから。颯が貴重な友達って感じ」
俺も笑ってうなずいたけれど、ちょっと傷ついた。
『あまり男らしくない』…とは、昔から言われていたけれど。
言葉は違えど、同じようなことを言われた気がした。
(まあ…男として見られても困るから、これでいいのかも…)
そう自分を慰めながら、ホットココアの入ったカップを口に運んだ。
◆
店を出たとき、外はすっかり夜になっていた。
別れ際に「またね」と言われ、手を振り返した瞬間。
「おい」
短く鋭い声が、空気を切った。
振り向くと、街灯の下に匠真が立っていた。
「……早かったんだな」
「夜はあけとけって言ったはずだが」
「ごめん、ちょっとお茶するくらいなら大丈夫かなと思って」
「話はあとでじっくり聞く」
声のトーンが低い。
“じっくり”の一言に、背筋が冷える。
匠真の横を通り過ぎ、並んで歩く。
無言のまま車に乗り込むと、エンジン音がやけに大きく感じた。
◆
マンションに戻ると、空気がいつもより重い気がした。
玄関の灯りだけが部屋をぼんやり照らす。
「何か飲む?」
返事の代わりに、体を引き寄せられる。
「怒ってる?」
「当たり前だ。怜央に勝手について行くわ、俺との約束を忘れて丸友さんとデートしてるわ…」
「デートじゃないよ。俺は、女友達みたいって言われた。女子力も高いってさ。男としては全く見られてない」
「それでも、俺は嫉妬してしまうんだよ。おまえをどこかに閉じ込めておきたいと思ってしまうほどに」
「危ないな…」
「ああ、だから、そんなことしなくて済むように――今、ここにいてくれ」
言葉の続きを、唇で塞がれた。
背中をつたう指が、シャツの上からでも熱く感じる。
吸い込まれるみたいに息が合い、触れたところから、思考より先に体が反応する。
「……閉じ込めたいって言ったろ」
耳元で低く落ちる声は、囁きというより、これから始まる行為の合図に近い。
襟首を掴まれ、ソファの背に軽く押しつけられる。革のきしみが短く鳴った。
「待っ――」
言いかけた舌が、ふたたび塞がれる。
少し乱暴に唇を食まれ、喉の奥が小さく鳴った。
頬、こめかみ、顎の線。息が触れるたびに、そこから火が点いていくようだ。
胸元のボタンが一つ、軽い音を立てて外れる。
指先は迷わず、布を割るたびに肌に冷たい空気が触れ、すぐさま匠真の熱に置き換わる。
「怒ってるんだろ」
「怒ってる。だから今夜は離す気はない」
額が触れ合うほどの距離で、視線が絡む。
その目に映る自分が、やけに幼く見え、同時にどうしようもなく昂ぶっているのが分かった。
腕を引かれ、よろめいた体を匠真が支える。そのまま腰を捕まれ、壁際まで追い詰められた。背中に壁のひんやりとした感触が張りつく。
「そんな顔するな。煽ってるのか」
「するしかないだろ、こんな状況で」
言い終わる前に、また唇が奪われる。
手首を取られ、彼の歩幅に合わせるように寝室へと導かれた。扉が静かに開く音が、やけに遠く聞こえる。
ベッドのスプリングが軋み、体が沈む。
落ちる瞬間、世界が一拍、音をなくした。
匠真は俺に覆いかぶさると、喉元に軽く歯を立てた。くすぐったさと疼きの境目をわざと踏み越えてくる行為に、苦情みたいな声が漏れる。
「――俺だけ見てろ」
命令のような声に、視線をそらせない。
服が一枚ずつ剥がされていく。
ベルトのバックルが鳴る音、布の擦れる音。
肌と肌が直接触れ合うたびに、思考が少しずつ削れていった。
匠真の指が背中の線をゆっくりとなぞる。
そこから伝わる熱が、体の力の抜けた場所を正確に見つけ出し、甘い痺れを広げていく。
「……離れない」
「離れるな」
同じ意味の言葉を交わしながら、どちらも足りないと感じていた。
言葉の代わりに、俺は彼の肩口に軽く歯を立てる。浅い痛みが、二人の境界線を消す合図になった。
カーテンの隙間から差す淡い光が、汗の粒をきらきらと反射させる。呼吸のテンポが一段上がるたび、体の奥で何かがほどけていく音がした。
耳の後ろで落ちる低い声が、最後の理性をさらっていく。
指が絡み、腰が導かれ、動きが合わさる。
合図なんていらない。
体が先に、次に何をすべきかを知っている。
長い息が、喉の奥で震えて千切れた。
匠真の動きが深さを増し、重さが音に変わる。
ベッドが軋むたび、互いの名前が混ざり合い、甘いノイズとなって部屋に満ちた。
「……颯」
呼び名が、熱で滲む。
返事の代わりに、彼の背中に腕を回し、強く抱き寄せた。
逃げるためじゃない。もっと深く、もっと近くへと求めるために。
何度目かの呼吸の交差で、背中が弓なりに浮いた。
窓の外で車のライトが流れ、部屋の影が一瞬だけ反転する。
誰もいない夜の底で、名前が重なって落ち、ほどけて、また結び直される。
すべてが一点に集まり、白く弾け――
――静かな闇が、音もなく二人を包み込んだ。
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今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「閉じ込めたい夜― Lock You in My Arms」とリンクしています。良かったら、楽曲の方も聴いてみてくださいね♫
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