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百十七話 デートみたいで、とても楽しみです
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エルザさんとリンツ男爵の婚約が正式に決まり、婚約披露パーティーが行われることになった。
当初は出席を諦めていたのだけれど、皇女様が出席すること、ラウル様が出席を促してくれたこともあり、出席できることになった。
ラウル様によれば、皇女様が出席するのなら、それを口実に警備を大々的に増やすことができるので、私の身の安全も確保できる…ということらしい。
それにリンツ男爵の商会は現在、北部の特産品として『凧』の販売ルートを模索してくれているという関係もある。
さすがにラウル様は出席されないものの、私の出席に関しては全く問題ないと判断してくれた。
「婚約のお祝い、何が良いでしょうか…」
婚約パーティーに出席するのなら、何かお祝いを渡したいのだけれど…こういうことは初めてなので、何を渡せば良いのか分からなかった。
そこで夜寝る前にラウル様に相談してみたのだけれど…。
「私もあまり贈り物を考えるのは得意ではないのですが…そういう機会もほとんどありませんでしたし。ただ、宝石などの装飾品が無難かと…」
「装飾品…」
「そういえば、首都に両親が懇意にしていた宝飾店があるので、一緒に行ってみますか?」
「え?いいんですか?」
「はい。明後日の午前なら時間が作れます」
「でも、私とラウル様が街に出るとなると、護衛の方が大変になったりしませんか?」
「あまり気にしないで。空気だと思えばいいです」
護衛の人たちは全員が部下だから、ラウル様自身は彼らのことを『空気』だなんて思っていないだろうけど。
たぶん、私が窮屈な思いをしないように気遣ってくれたのだろう。
「じゃあ、ぜひお願いします」
「シャーレットさんとこんなふうに出かけるのは初めてですよね」
「はい、デートみたいで、とても楽しみです」
「そういえば、私たちは婚約期間もなかったので、そういうこともしていませんでしたからね」
「はい…」
いわゆる初デート…になるのかもしれない。
そんなことを考えながら、そっと重なってきた唇を受け止めた。
宝飾店へ出かける日、外は気持ち良いぐらいに晴れていた。
お店のほうには連絡を入れてあり、こちらの事情も踏まえて午前中は貸し切りで対応してくれることになった。
(何だか申し訳ないけれど…)
今は少し落ち着いているけれど、貴族たちが一斉検挙されたことでラウル様を逆恨みしている人も少なくないはずだから。
もしも何かの事故があった場合、無関係の人が巻き込まれる可能性を考えると、貸し切りにしてもらったほうが安心できる気がした。
(その分、しっかりお買い物をすれば良いわけだし…)
ほとんど何もしていないにもかかわらず、私にも一応、侍女としてのお給料がそれなりに出ているので、お金の心配は必要なかった。
馬車の前後には皇宮警察の護衛の馬車がつくという物々しい雰囲気だったけど。
ラウル様の命が狙われやすい状態であることを考えると、これぐらい分かりやすい警備のほうが良いのかもしれない。
「お待ちしておりました」
私たちがお店に着くと、店主とその妻が出迎えてくれた。
「急に無理を言って申し訳なかったな」
「いえ、光栄なことですから。私たちのことを覚えていてくださって、ありがとうございます」
宝飾店の店主のベンヤミンと妻のデリアは、どちらも穏やかで誠実そうな人柄で、ラウル様のご両親が懇意にしていたという理由が分かる気がした。
「どうぞ、中へお入りください」
ベンヤミンに促され、私たちは宝飾店の中へ入った。
「お探しの品は婚約のお祝いとのことでしたが、最近はペアで使えるものが人気がありますよ」
店主の妻のデリアが、婚約祝いで人気があるという商品をいくつか並べてくれた。
「こちらは男性のカフスボタンと女性のイヤリングがペアになったものです。どちらにもストロベリークオーツが使用されています。ストロベリークオーツは、未知の可能性を開くという意味もありますので、これから夫婦となられる方にもおすすめですよ」
「ルビーに比べると、色が淡くて素敵ですね」
「はい。ルビーのペア商品もございますよ。こちらがルビーのタイピンとブレスレットのセットです。ルビーは情熱や愛情の象徴とも言われています」
「どれも良くて、悩んでしまいます……すみません、優柔不断で…」
「時間は気にせず、ゆっくり選んで頂いて大丈夫ですよ」
「はい……すみません、もう少し他のものも見せてもらえますか?ブルー系の宝石のものなども…」
「承知しました。すぐにお持ちします」
デリアが私の相手をしてくれている間、ラウル様は店主のベンヤミンと何かを話していた。
(ご両親の話でも、しているのかな…)
私は並べられたいくつかの候補から、最初に見せてもらったストロベリークオーツのカフスとイヤリングのセットを選んだ。
さんざんいろんなものを見せてもらったのに、最初のものを選んでしまうのは申し訳ない気持ちもあったけど…。
デリアは嫌な顔ひとつせず、対応してくれた。
「すみません、それから…」
私はデリアにもう一つ頼み事をした。
当初は出席を諦めていたのだけれど、皇女様が出席すること、ラウル様が出席を促してくれたこともあり、出席できることになった。
ラウル様によれば、皇女様が出席するのなら、それを口実に警備を大々的に増やすことができるので、私の身の安全も確保できる…ということらしい。
それにリンツ男爵の商会は現在、北部の特産品として『凧』の販売ルートを模索してくれているという関係もある。
さすがにラウル様は出席されないものの、私の出席に関しては全く問題ないと判断してくれた。
「婚約のお祝い、何が良いでしょうか…」
婚約パーティーに出席するのなら、何かお祝いを渡したいのだけれど…こういうことは初めてなので、何を渡せば良いのか分からなかった。
そこで夜寝る前にラウル様に相談してみたのだけれど…。
「私もあまり贈り物を考えるのは得意ではないのですが…そういう機会もほとんどありませんでしたし。ただ、宝石などの装飾品が無難かと…」
「装飾品…」
「そういえば、首都に両親が懇意にしていた宝飾店があるので、一緒に行ってみますか?」
「え?いいんですか?」
「はい。明後日の午前なら時間が作れます」
「でも、私とラウル様が街に出るとなると、護衛の方が大変になったりしませんか?」
「あまり気にしないで。空気だと思えばいいです」
護衛の人たちは全員が部下だから、ラウル様自身は彼らのことを『空気』だなんて思っていないだろうけど。
たぶん、私が窮屈な思いをしないように気遣ってくれたのだろう。
「じゃあ、ぜひお願いします」
「シャーレットさんとこんなふうに出かけるのは初めてですよね」
「はい、デートみたいで、とても楽しみです」
「そういえば、私たちは婚約期間もなかったので、そういうこともしていませんでしたからね」
「はい…」
いわゆる初デート…になるのかもしれない。
そんなことを考えながら、そっと重なってきた唇を受け止めた。
宝飾店へ出かける日、外は気持ち良いぐらいに晴れていた。
お店のほうには連絡を入れてあり、こちらの事情も踏まえて午前中は貸し切りで対応してくれることになった。
(何だか申し訳ないけれど…)
今は少し落ち着いているけれど、貴族たちが一斉検挙されたことでラウル様を逆恨みしている人も少なくないはずだから。
もしも何かの事故があった場合、無関係の人が巻き込まれる可能性を考えると、貸し切りにしてもらったほうが安心できる気がした。
(その分、しっかりお買い物をすれば良いわけだし…)
ほとんど何もしていないにもかかわらず、私にも一応、侍女としてのお給料がそれなりに出ているので、お金の心配は必要なかった。
馬車の前後には皇宮警察の護衛の馬車がつくという物々しい雰囲気だったけど。
ラウル様の命が狙われやすい状態であることを考えると、これぐらい分かりやすい警備のほうが良いのかもしれない。
「お待ちしておりました」
私たちがお店に着くと、店主とその妻が出迎えてくれた。
「急に無理を言って申し訳なかったな」
「いえ、光栄なことですから。私たちのことを覚えていてくださって、ありがとうございます」
宝飾店の店主のベンヤミンと妻のデリアは、どちらも穏やかで誠実そうな人柄で、ラウル様のご両親が懇意にしていたという理由が分かる気がした。
「どうぞ、中へお入りください」
ベンヤミンに促され、私たちは宝飾店の中へ入った。
「お探しの品は婚約のお祝いとのことでしたが、最近はペアで使えるものが人気がありますよ」
店主の妻のデリアが、婚約祝いで人気があるという商品をいくつか並べてくれた。
「こちらは男性のカフスボタンと女性のイヤリングがペアになったものです。どちらにもストロベリークオーツが使用されています。ストロベリークオーツは、未知の可能性を開くという意味もありますので、これから夫婦となられる方にもおすすめですよ」
「ルビーに比べると、色が淡くて素敵ですね」
「はい。ルビーのペア商品もございますよ。こちらがルビーのタイピンとブレスレットのセットです。ルビーは情熱や愛情の象徴とも言われています」
「どれも良くて、悩んでしまいます……すみません、優柔不断で…」
「時間は気にせず、ゆっくり選んで頂いて大丈夫ですよ」
「はい……すみません、もう少し他のものも見せてもらえますか?ブルー系の宝石のものなども…」
「承知しました。すぐにお持ちします」
デリアが私の相手をしてくれている間、ラウル様は店主のベンヤミンと何かを話していた。
(ご両親の話でも、しているのかな…)
私は並べられたいくつかの候補から、最初に見せてもらったストロベリークオーツのカフスとイヤリングのセットを選んだ。
さんざんいろんなものを見せてもらったのに、最初のものを選んでしまうのは申し訳ない気持ちもあったけど…。
デリアは嫌な顔ひとつせず、対応してくれた。
「すみません、それから…」
私はデリアにもう一つ頼み事をした。
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