夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸

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第百八十四話 本当にいるんだ…この中に…(※挿絵あり)

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皇女様やマルティン卿たちは、エトガルさんが魔女の霧を研究のために見に行くというので付き添っていき、お城の中はとても静かだった。
妊娠を自覚したせいか、つわりらしきものが本格的に始まって、食事が食べられる時と食べられない時が出てきた。
ベッドから起き上がれない日も続き、毎日のようにカイルが心配して様子を見に来てくれる。
今日も厨房から私の食事を預かって、カイルが直接持ってきてくれた。

「お母さん、アルパンがケーヒルを作ってくれたよ」

ケーヒルというのは、ヨーグルトに似た味のもので、山羊のミルクから作られるものだ。
これだけでさまざまな栄養とまかなえるほどで、そこにフルーツや木の実などを加えると、さらに栄養価がアップする。
幸いなことに、通常の食事は無理でも、このケーヒルだけは何とか口にすることができていた。

「ありがとう」

城のシェフであるアルパンは、これしか食べられない私のために、毎食飽きないようにさまざまな味のケーヒルを作ってくれた。
妊娠すると味覚が変わると前世の世界でも聞いたことがあるけど、今まではほとんど好んで食べなかったケーヒルが、こんなにおいしく感じられるようになるとは驚きだった。

(もしかして、赤ちゃんの好物なのかな…)

まだ妊娠8~10週目だというので、まだお腹は目立っていないし胎動も感じられないけれど、手でお腹を振れてみると、少しだけ膨らんできているのが感じられる。

(本当にいるんだ…この中に…ラウル様との子どもが…)

セルデアのお城に捕まっているときに、つわりなどの症状が出なくて本当に良かったと思う。
フロレンティーナさんからむき出しの敵意などは感じなかったけど、妊娠が知られたら何をされていたか分からなかった。

(ラウル様のお兄様夫婦も、魔女を利用して殺したと認めていたし…)

「赤ちゃん、元気ですか?」

私がせっせとケーヒルを口に運んでいる間、カイルはお腹に向かって話しかけている。



「赤ちゃん、ごはん食べてますか?」

お腹の中からは当然返事はないけれど、カイルは楽しそうな様子だ。
カイルには、赤ちゃんからの返事が聞こえているのかもしれない…と思ってしまう。

(優しいお兄ちゃんになりそう…)

カイルは私に対してもいろいろと世話を焼くのが好きなようで、きっと弟か妹が生まれても、同じように世話を焼こうとする様子が想像できる。

(お父様のランベルト様も、似たような世話好きなところああったのかも…)

そんな気がした。

「もう少し経ったら、赤ちゃんがお腹の中で動くようになるよ」

私が言うと、カイルは目を輝かせる。

「本当?」
「まだ二ヶ月ぐらい先だけどね」
「赤ちゃんが動いたら、教えてね」
「うん、もちろん」
「その時には、お父さんが帰ってきてるといいなぁ」
「そうだね…」

たぶん、二ヶ月後にラウル様が戻ってくるのは難しいと思う。
出産までに戻ってくることも、難しい可能性がある。
でも、絶対にこの子をラウル様に会わせたい…その気持ちは諦めずに持ち続けようと思う。


(シャーレットさんが…私の子を…)

光による信号でメッセージを受け取って以来、ラウルはそのことばかりを考えていた。
シャーレットの元に戻ることは一度は諦めたはずなのに、何とかして戻りたいという気持ちになっていた。
ただし、戻ることでシャーレットに危害が及ぶことだけは絶対に避けなければならない。
マルティンたちからの信号はあの後も続いており、次の新月に、魔女の封印を試みるということを伝えてきた。
具体的にどういう方法で行うのかは分からないが、必ずしも成功するとは限らない。
それを考えると、下手に希望を抱くのは、後の落胆を考えるとしたくなかった。
ただ、彼らの作戦の後押しをすることは、少しはできるかもしれないと考え始めていた。

「…さま…ラウル様…」

自分の名を呼ばれていることにようやく気づき、ラウルは本から顔をあげて声の主の方を見た。

「最近は上の空の状態のことが多いですけど、シャーレットさんのことが気になるのですか?」
「当然でしょう」

ラウルは即答した。
ひとまず、マルティンたちの新月の計画については気づかれないようにしなければいけない。
その上で、マルティンたちに伝えておきたい魔女に関する情報があった。

「公子を解放してあげてもらえませんか?彼にも妻がいます。あなたにとって、彼はもう用済みなのでしょう?」

ラウルが言うと、フロレンティーナは小首をかしげた。

「そういえば、彼の妻は、シャーレットさんのお姉様でしたね。シャーレットさんのために?」
「それもありますが、彼が気の毒です。まさか9年前の事件でも、あなたに利用されていたとは知りませんでした。彼も被害者だったのですね…」

9年前、ラウルが皇宮警察送りになるきっかけとなった事件。
フロレンティーナがカスパーに襲われそうになり、それを目撃したラウルが助けに入った。
その後、彼の取り巻きたちによって、ラウルはフロレンティーナを巡って争いになり、暴力沙汰を起こしたということにされたのだ。
そして、そのことが皇帝の耳に入り、皇宮警察に懲罰として送り込まれるということになった。
しかしそれも、すべてフロレンティーナがラウルと接点を持つために仕掛けられたものだったのだ。
つまり、カスパーがここに捕らわれていることは、ラウルのせいでもあった。

「城の外には、今なら皇軍か皇宮警察の者がいるはずです。解放すれば、保護してもらえるでしょう」

フロレンティーナは少し考えてから、うなずいた。

「良いでしょう。確かに、私は彼に用はありません。ラウル様の望むとおりにしましょう」
「お願いします」


カスパーが解放される現場には、ラウルも同席した。
待遇の改善を何度も訴えたにも関わらず、彼はこの寒空の下、かろうじて靴は与えられたものの、素足で、おまけに防寒着も用意されていない。

「公子、これを…」

ラウルは自分の防寒着をカスパーに手渡した。

「ああ…ありがとう…」

よほど寒さが応えていたのか、カスパーは彼らしくもなく礼を言って防寒着を受け取った。

「結界の向こうには、皇軍関係者がいるはずです。魔女に捕らわれていたと言えば、身柄を保護してもらえるはずです。長期の出国許可を得ていない件も、不問になるでしょう」
「ああ…分かった…」

ここでの過酷な生活がよほど堪えたのか、カスパーは素直にラウルの言葉にうなずいた。
カスパーは最後にラウルに対して何か言いたげな表情をしていたものの、すぐに魔女の魔法によって結界の外へと送られた。
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