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第百八十七話 ラウル様がお茶を入れるのが得意だなんて(※挿絵あり)
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新月の夜。
城の中から外は見えているということを踏まえ、リリアたちは昼間のうちに、少人数の部隊に分かれて王城の近くに待機した。
具体的な時刻について、昨夜のうちにラウルに信号を送ってあるから、ラウルの方はフロレンティーナの足止めをするべく動いてくれているだろう。
「万が一…私が戻れない状態だったら、あなたたちはラウルを連れて城から離れなさい。両方がここで命を落とすようなことがあっては、絶対に駄目だから」
「殿下…そのようなことは言わず、必ずお戻りください」
マルティンが泣きそうな顔で訴える。
「分かってる…簡単にやられはしないけど。私は立場上、万が一のことは考えておかないといけない。そうでしょう?」
「はい…」
聖女が魔女を封じ込めるというのは、前代未聞のことだった。
ギリギリまでエトガルに調べてもらったが、例はないという。
聖女の力で魔女を追い払った程度の話ならいくつかあるが、今回は魔女の完全無力化を行う。
ただ、理論的には可能だということで、リリアとエトガルの意見は一致している。
「この城でもたくさんの人が魔女に殺されてる。ラウルを助けたいだけじゃない。この魔女がいる限り、また犠牲者が出る。私は聖女として、それを止める義務もあると思ってるの」
聖女は、人を助けるために膨大な神聖力を授かる。
その量は無尽蔵とも言われているが、実際に限界まで使った聖女がいなかったからそう言われているだけで、実際には限りがあるという可能性もある。
これもエトガルに調べてもらったが、文献などに記載はなかったようだ。
分からないことだらけ、未知数のことだらけの状態で、魔女の懐に飛び込むのは怖い。
けれども、少しでも可能性があるのなら、それに賭けるしかなかった。
「私がついているので大丈夫です。皇女殿下は必ずお守りします」
イザークが自信満々にそう言うと、こわばっていたマルティンとディルクの顔に少し笑みが浮かんだ。
リリアとイザークの間の微妙な関係の変化は、何を言わなくても伝わってくる。
「行きましょう。きっとラウルがもう動いてくれているわ。他の部隊にも合図を出して。まずはこの魔女の結界を消すから」
リリアが王城の前に立つと、青緑の光が彼女の体を包み込んだ。
やがてその光は、王城の前にかかる霧のほうに向かっていき、霧は光に押し切られるようにして消えた。
「今のうちに入って。マルティンたちはラウルを探して。ディルクは私たちの背後をお願い」
リリアたちが行動を起こすのは、今日の午後8時。
ラウルはあらかじめ用意していた睡眠薬を手に取る。
夜、眠れないからと、この城にいる医師に求めて手に入れたものだ。
さすがに最初は強い睡眠薬はもらえなかったが、眠れないと訴え続けて、そこそこ効き目のある薬を処方させた。
フロレンティーナは、毎夜7時頃にこの部屋にやって来る。
うまく睡眠薬を飲ませることができれば、リリアたちが行動している間、フロレンティーナをここに足止めできる。
皇帝の私物として扱われることを受け入れたときから、ラウルは諦めることを覚えた。
シャーレットのことも、彼女の身の安全を考え、諦めるべきだと思った。
しかしシャーレットが妊娠してると知らされたときから、なんとしても彼女の側に戻りたいという気持ちが強くなった。
何よりも彼女の安全が優先なのには変わりはないが…リリアたちの作戦はには可能性があると感じた。
フロレンティーナが求めているのは、ラウルがこの城から出ないこと。
城から出ない状態で、形勢が逆転し、魔女を封じることができたなら…もう一度、シャーレットの元に戻れるかもしれない。
おそらくフロレンティーナは、ラウルがリリアたちと連絡を取り合っていることなど考えもしていないだろう。
だからラウルは、抗ってみることにしたのだ。
城の中で集めた情報によれば、フロレンティーナが魔女を使って処刑を行う際には、代償を差し出す人を魔女の前に連れて行き、契約させる形で行っていたという。
魔女が勝手に人を殺したり傷つけたりできないシステムになっている以上、フロレンティーナが眠っている間は、シャーレットに手出しはできないはずだ。
リリアは事前にシャーレットに神聖力をこめたお守りを渡した上に、部屋を浄化してきたという。
どれだけ魔女に対して効き目があるのかは分からないが、今はすべてがうまくいくことを信じるしかない。
やがて午後7時を少し過ぎた頃、フロレンティーナが部屋にやってきた。
「お茶を入れるところですが、いかがですか?」
ラウルからの珍しい誘いに、フロレンティーナは微笑んだ。
「ええ、喜んで。いただきますわ。何のお茶ですの?」
「寝付けないので、差し入れてもらったカモミールを入れました」
「いいですわね。ラウル様がお茶を入れるのが得意だなんて、知りませんでしたわ」
予想通り、フロレンティーナは全くラウルのことを疑っていない。
まさか、反逆を企んでいるなどとは予想もしていないだろう。
「前の陛下がお茶にはうるさかったので。ずいぶんと練習させられました。…どうぞ」
ラウルは気づかれないように睡眠薬を入れたお茶を、フロレンティーナに手渡した。
ここ数日、夜は会話にも普通に応じるようにしていたかいもあり、フロレンティーナは疑う様子もなかった。
フロレンティーナはお茶の香りを確かめてから、ティーカップを傾けた。
城の中から外は見えているということを踏まえ、リリアたちは昼間のうちに、少人数の部隊に分かれて王城の近くに待機した。
具体的な時刻について、昨夜のうちにラウルに信号を送ってあるから、ラウルの方はフロレンティーナの足止めをするべく動いてくれているだろう。
「万が一…私が戻れない状態だったら、あなたたちはラウルを連れて城から離れなさい。両方がここで命を落とすようなことがあっては、絶対に駄目だから」
「殿下…そのようなことは言わず、必ずお戻りください」
マルティンが泣きそうな顔で訴える。
「分かってる…簡単にやられはしないけど。私は立場上、万が一のことは考えておかないといけない。そうでしょう?」
「はい…」
聖女が魔女を封じ込めるというのは、前代未聞のことだった。
ギリギリまでエトガルに調べてもらったが、例はないという。
聖女の力で魔女を追い払った程度の話ならいくつかあるが、今回は魔女の完全無力化を行う。
ただ、理論的には可能だということで、リリアとエトガルの意見は一致している。
「この城でもたくさんの人が魔女に殺されてる。ラウルを助けたいだけじゃない。この魔女がいる限り、また犠牲者が出る。私は聖女として、それを止める義務もあると思ってるの」
聖女は、人を助けるために膨大な神聖力を授かる。
その量は無尽蔵とも言われているが、実際に限界まで使った聖女がいなかったからそう言われているだけで、実際には限りがあるという可能性もある。
これもエトガルに調べてもらったが、文献などに記載はなかったようだ。
分からないことだらけ、未知数のことだらけの状態で、魔女の懐に飛び込むのは怖い。
けれども、少しでも可能性があるのなら、それに賭けるしかなかった。
「私がついているので大丈夫です。皇女殿下は必ずお守りします」
イザークが自信満々にそう言うと、こわばっていたマルティンとディルクの顔に少し笑みが浮かんだ。
リリアとイザークの間の微妙な関係の変化は、何を言わなくても伝わってくる。
「行きましょう。きっとラウルがもう動いてくれているわ。他の部隊にも合図を出して。まずはこの魔女の結界を消すから」
リリアが王城の前に立つと、青緑の光が彼女の体を包み込んだ。
やがてその光は、王城の前にかかる霧のほうに向かっていき、霧は光に押し切られるようにして消えた。
「今のうちに入って。マルティンたちはラウルを探して。ディルクは私たちの背後をお願い」
リリアたちが行動を起こすのは、今日の午後8時。
ラウルはあらかじめ用意していた睡眠薬を手に取る。
夜、眠れないからと、この城にいる医師に求めて手に入れたものだ。
さすがに最初は強い睡眠薬はもらえなかったが、眠れないと訴え続けて、そこそこ効き目のある薬を処方させた。
フロレンティーナは、毎夜7時頃にこの部屋にやって来る。
うまく睡眠薬を飲ませることができれば、リリアたちが行動している間、フロレンティーナをここに足止めできる。
皇帝の私物として扱われることを受け入れたときから、ラウルは諦めることを覚えた。
シャーレットのことも、彼女の身の安全を考え、諦めるべきだと思った。
しかしシャーレットが妊娠してると知らされたときから、なんとしても彼女の側に戻りたいという気持ちが強くなった。
何よりも彼女の安全が優先なのには変わりはないが…リリアたちの作戦はには可能性があると感じた。
フロレンティーナが求めているのは、ラウルがこの城から出ないこと。
城から出ない状態で、形勢が逆転し、魔女を封じることができたなら…もう一度、シャーレットの元に戻れるかもしれない。
おそらくフロレンティーナは、ラウルがリリアたちと連絡を取り合っていることなど考えもしていないだろう。
だからラウルは、抗ってみることにしたのだ。
城の中で集めた情報によれば、フロレンティーナが魔女を使って処刑を行う際には、代償を差し出す人を魔女の前に連れて行き、契約させる形で行っていたという。
魔女が勝手に人を殺したり傷つけたりできないシステムになっている以上、フロレンティーナが眠っている間は、シャーレットに手出しはできないはずだ。
リリアは事前にシャーレットに神聖力をこめたお守りを渡した上に、部屋を浄化してきたという。
どれだけ魔女に対して効き目があるのかは分からないが、今はすべてがうまくいくことを信じるしかない。
やがて午後7時を少し過ぎた頃、フロレンティーナが部屋にやってきた。
「お茶を入れるところですが、いかがですか?」
ラウルからの珍しい誘いに、フロレンティーナは微笑んだ。
「ええ、喜んで。いただきますわ。何のお茶ですの?」
「寝付けないので、差し入れてもらったカモミールを入れました」
「いいですわね。ラウル様がお茶を入れるのが得意だなんて、知りませんでしたわ」
予想通り、フロレンティーナは全くラウルのことを疑っていない。
まさか、反逆を企んでいるなどとは予想もしていないだろう。
「前の陛下がお茶にはうるさかったので。ずいぶんと練習させられました。…どうぞ」
ラウルは気づかれないように睡眠薬を入れたお茶を、フロレンティーナに手渡した。
ここ数日、夜は会話にも普通に応じるようにしていたかいもあり、フロレンティーナは疑う様子もなかった。
フロレンティーナはお茶の香りを確かめてから、ティーカップを傾けた。
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