夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸

文字の大きさ
188 / 194

第百八十七話 ラウル様がお茶を入れるのが得意だなんて(※挿絵あり)

しおりを挟む
新月の夜。
城の中から外は見えているということを踏まえ、リリアたちは昼間のうちに、少人数の部隊に分かれて王城の近くに待機した。
具体的な時刻について、昨夜のうちにラウルに信号を送ってあるから、ラウルの方はフロレンティーナの足止めをするべく動いてくれているだろう。

「万が一…私が戻れない状態だったら、あなたたちはラウルを連れて城から離れなさい。両方がここで命を落とすようなことがあっては、絶対に駄目だから」
「殿下…そのようなことは言わず、必ずお戻りください」

マルティンが泣きそうな顔で訴える。

「分かってる…簡単にやられはしないけど。私は立場上、万が一のことは考えておかないといけない。そうでしょう?」
「はい…」

聖女が魔女を封じ込めるというのは、前代未聞のことだった。
ギリギリまでエトガルに調べてもらったが、例はないという。
聖女の力で魔女を追い払った程度の話ならいくつかあるが、今回は魔女の完全無力化を行う。
ただ、理論的には可能だということで、リリアとエトガルの意見は一致している。

「この城でもたくさんの人が魔女に殺されてる。ラウルを助けたいだけじゃない。この魔女がいる限り、また犠牲者が出る。私は聖女として、それを止める義務もあると思ってるの」

聖女は、人を助けるために膨大な神聖力を授かる。
その量は無尽蔵とも言われているが、実際に限界まで使った聖女がいなかったからそう言われているだけで、実際には限りがあるという可能性もある。
これもエトガルに調べてもらったが、文献などに記載はなかったようだ。
分からないことだらけ、未知数のことだらけの状態で、魔女の懐に飛び込むのは怖い。
けれども、少しでも可能性があるのなら、それに賭けるしかなかった。

「私がついているので大丈夫です。皇女殿下は必ずお守りします」

イザークが自信満々にそう言うと、こわばっていたマルティンとディルクの顔に少し笑みが浮かんだ。
リリアとイザークの間の微妙な関係の変化は、何を言わなくても伝わってくる。

「行きましょう。きっとラウルがもう動いてくれているわ。他の部隊にも合図を出して。まずはこの魔女の結界を消すから」

リリアが王城の前に立つと、青緑の光が彼女の体を包み込んだ。
やがてその光は、王城の前にかかる霧のほうに向かっていき、霧は光に押し切られるようにして消えた。

「今のうちに入って。マルティンたちはラウルを探して。ディルクは私たちの背後をお願い」


リリアたちが行動を起こすのは、今日の午後8時。
ラウルはあらかじめ用意していた睡眠薬を手に取る。
夜、眠れないからと、この城にいる医師に求めて手に入れたものだ。
さすがに最初は強い睡眠薬はもらえなかったが、眠れないと訴え続けて、そこそこ効き目のある薬を処方させた。
フロレンティーナは、毎夜7時頃にこの部屋にやって来る。
うまく睡眠薬を飲ませることができれば、リリアたちが行動している間、フロレンティーナをここに足止めできる。

皇帝の私物として扱われることを受け入れたときから、ラウルは諦めることを覚えた。
シャーレットのことも、彼女の身の安全を考え、諦めるべきだと思った。
しかしシャーレットが妊娠してると知らされたときから、なんとしても彼女の側に戻りたいという気持ちが強くなった。
何よりも彼女の安全が優先なのには変わりはないが…リリアたちの作戦はには可能性があると感じた。
フロレンティーナが求めているのは、ラウルがこの城から出ないこと。
城から出ない状態で、形勢が逆転し、魔女を封じることができたなら…もう一度、シャーレットの元に戻れるかもしれない。
おそらくフロレンティーナは、ラウルがリリアたちと連絡を取り合っていることなど考えもしていないだろう。
だからラウルは、抗ってみることにしたのだ。

城の中で集めた情報によれば、フロレンティーナが魔女を使って処刑を行う際には、代償を差し出す人を魔女の前に連れて行き、契約させる形で行っていたという。
魔女が勝手に人を殺したり傷つけたりできないシステムになっている以上、フロレンティーナが眠っている間は、シャーレットに手出しはできないはずだ。
リリアは事前にシャーレットに神聖力をこめたお守りを渡した上に、部屋を浄化してきたという。
どれだけ魔女に対して効き目があるのかは分からないが、今はすべてがうまくいくことを信じるしかない。
やがて午後7時を少し過ぎた頃、フロレンティーナが部屋にやってきた。

「お茶を入れるところですが、いかがですか?」

ラウルからの珍しい誘いに、フロレンティーナは微笑んだ。

「ええ、喜んで。いただきますわ。何のお茶ですの?」
「寝付けないので、差し入れてもらったカモミールを入れました」
「いいですわね。ラウル様がお茶を入れるのが得意だなんて、知りませんでしたわ」



予想通り、フロレンティーナは全くラウルのことを疑っていない。
まさか、反逆を企んでいるなどとは予想もしていないだろう。

「前の陛下がお茶にはうるさかったので。ずいぶんと練習させられました。…どうぞ」

ラウルは気づかれないように睡眠薬を入れたお茶を、フロレンティーナに手渡した。
ここ数日、夜は会話にも普通に応じるようにしていたかいもあり、フロレンティーナは疑う様子もなかった。
フロレンティーナはお茶の香りを確かめてから、ティーカップを傾けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。  その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。  しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。  ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」  一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる────── ※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。 ※※不貞行為の描写があります※※ ※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...