4 / 10
第四話 会いたいのに — Longing for You
しおりを挟む
涼介が福岡に行ってから、二週間が経った。
今も毎日欠かさず「おはよう」と「おやすみ」のメッセージは届いている。昼休みの一言や、夜のビデオ通話もある。
けれど最近は、既読がつくまでに何時間もかかることが増えた。夜の通話中に、涼介がうとうとし始め、こちらから通話の打ち切りを提案することもあった。
「忙しいんだろうな…」
碧はスマホを手に、何度も画面を見つめる。
昼に送ったメッセージに、まだ既読がつかない。
時刻を確認すると、20時を少し過ぎたところ。
碧も残業中だが、涼介も残業をしているのだろうか。
「……忙しいのは分かってる。わかってるけど」
昼に送ったメッセージぐらい、さっと確認してくれてもいいのに。
メッセージを確認するだけなら、数秒あれば済む話だ。
既読がつくだけでも安心できるのに。
それすらしないなんて。
(そんなに手が離せないことがある…とか? 気を取られている人がいる…とか?)
胸の奥に小さな棘のような不安が芽生える。
──もしかして、誰かと一緒にいるんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎるたび、「いや、涼介に限って」と自分を戒める。
信じたい。信じている。けれど、心は思うようにはいかない。
スマホを握る指先に、自然と力がこもった。
信じているはずなのに、ふと「自分の知らない誰かと笑っているんじゃないか」と想像してしまう。
そんな自分が情けなくて、深く息を吐いた。
◆
仕事は相変わらず忙しかった。
新しい案件の修正が重なり、朝から晩までパソコンに向かう日々。
デザイン事務所の同僚に声をかけられる。
「最近疲れてる? 大丈夫?」
「うん、ちょっと寝不足かな」
「彼女のこと?」
からかうような笑顔に、碧は苦笑するしかなかった。
さすがに「彼氏がいる」とは言えないので、会社の同僚たちには「彼女がいる」と伝えてある。
自分はまだ恵まれている、と頭では分かっている。
同僚は独立に向けて準備を始めているし、周囲のクリエイターたちも次のステージを模索している。
その中で碧は、仕事に追われながら、涼介との時間を思い出しては胸を支えていた。
独立を考えている同僚の背中を見ながら、「自分もいずれは何かを変える時期に来るのかもしれない」と思った。
けれど今は、それよりも涼介との距離に心を取られている。
夜、自宅に戻っても、隣に涼介の気配はない。
並んで置いた歯ブラシや、冷蔵庫の中に残っている同じブランドのヨーグルトが、かえって寂しさを募らせた。
会えないことが、こんなにも心を締めつけるとは思わなかった。
夜、涼介からビデオ通話が入った。
画面に映った彼は、少し痩せたように見える。
「大丈夫? 顔色悪いよ」
「仕事が、思ったよりハードで……でもなんとかやってる。LINE、確認するの遅れてごめん…」
「忙しいんだから、仕方がないよ」
碧は、少しでも涼介を疑った自分を反省した。
この様子では、本当に今にも倒れてしまいそうなほど、忙しいに違いない。
「無理しないで。今日はもう寝た方がいいよ」
「いや、大丈夫。おまえの顔を見てたら、元気が出てきた」
笑ってみせるけれど、目の下には薄い影。
「気を遣わせてるな。ごめん…」
「ううん、そんなこと気にしないで」
沈黙が落ちたあと、不意に涼介が唇を噛んだ。
そして、抑えきれないように声を洩らした。
「……碧に会いたい」
その言葉は、予想していたよりもずっと切実で、胸に響いた。
思わず言葉を失った碧の耳に、涼介の息遣いが生々しく届く。
「本当に……今すぐにでも会いたい」
静かな部屋に、彼の感情が溢れ出す。
碧の心臓が強く脈打った。
寂しさも不安も、その一言で溶けていくように感じた。
胸の奥に溜まっていたもやが、一気に晴れていくようだった。
──ああ、同じなんだ。
涼介も、自分と同じように会えなくて苦しんでいる。
その事実が、涙が滲むほど嬉しかった。
**************
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「会いたいのに — Longing for You」をベースに作成したものです。良かったら、楽曲のほうも聴いてみてくださいね♫
「会いたいのに — Longing for You」はこちら⇒ https://youtu.be/SaqgtRTOmgs
今も毎日欠かさず「おはよう」と「おやすみ」のメッセージは届いている。昼休みの一言や、夜のビデオ通話もある。
けれど最近は、既読がつくまでに何時間もかかることが増えた。夜の通話中に、涼介がうとうとし始め、こちらから通話の打ち切りを提案することもあった。
「忙しいんだろうな…」
碧はスマホを手に、何度も画面を見つめる。
昼に送ったメッセージに、まだ既読がつかない。
時刻を確認すると、20時を少し過ぎたところ。
碧も残業中だが、涼介も残業をしているのだろうか。
「……忙しいのは分かってる。わかってるけど」
昼に送ったメッセージぐらい、さっと確認してくれてもいいのに。
メッセージを確認するだけなら、数秒あれば済む話だ。
既読がつくだけでも安心できるのに。
それすらしないなんて。
(そんなに手が離せないことがある…とか? 気を取られている人がいる…とか?)
胸の奥に小さな棘のような不安が芽生える。
──もしかして、誰かと一緒にいるんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎるたび、「いや、涼介に限って」と自分を戒める。
信じたい。信じている。けれど、心は思うようにはいかない。
スマホを握る指先に、自然と力がこもった。
信じているはずなのに、ふと「自分の知らない誰かと笑っているんじゃないか」と想像してしまう。
そんな自分が情けなくて、深く息を吐いた。
◆
仕事は相変わらず忙しかった。
新しい案件の修正が重なり、朝から晩までパソコンに向かう日々。
デザイン事務所の同僚に声をかけられる。
「最近疲れてる? 大丈夫?」
「うん、ちょっと寝不足かな」
「彼女のこと?」
からかうような笑顔に、碧は苦笑するしかなかった。
さすがに「彼氏がいる」とは言えないので、会社の同僚たちには「彼女がいる」と伝えてある。
自分はまだ恵まれている、と頭では分かっている。
同僚は独立に向けて準備を始めているし、周囲のクリエイターたちも次のステージを模索している。
その中で碧は、仕事に追われながら、涼介との時間を思い出しては胸を支えていた。
独立を考えている同僚の背中を見ながら、「自分もいずれは何かを変える時期に来るのかもしれない」と思った。
けれど今は、それよりも涼介との距離に心を取られている。
夜、自宅に戻っても、隣に涼介の気配はない。
並んで置いた歯ブラシや、冷蔵庫の中に残っている同じブランドのヨーグルトが、かえって寂しさを募らせた。
会えないことが、こんなにも心を締めつけるとは思わなかった。
夜、涼介からビデオ通話が入った。
画面に映った彼は、少し痩せたように見える。
「大丈夫? 顔色悪いよ」
「仕事が、思ったよりハードで……でもなんとかやってる。LINE、確認するの遅れてごめん…」
「忙しいんだから、仕方がないよ」
碧は、少しでも涼介を疑った自分を反省した。
この様子では、本当に今にも倒れてしまいそうなほど、忙しいに違いない。
「無理しないで。今日はもう寝た方がいいよ」
「いや、大丈夫。おまえの顔を見てたら、元気が出てきた」
笑ってみせるけれど、目の下には薄い影。
「気を遣わせてるな。ごめん…」
「ううん、そんなこと気にしないで」
沈黙が落ちたあと、不意に涼介が唇を噛んだ。
そして、抑えきれないように声を洩らした。
「……碧に会いたい」
その言葉は、予想していたよりもずっと切実で、胸に響いた。
思わず言葉を失った碧の耳に、涼介の息遣いが生々しく届く。
「本当に……今すぐにでも会いたい」
静かな部屋に、彼の感情が溢れ出す。
碧の心臓が強く脈打った。
寂しさも不安も、その一言で溶けていくように感じた。
胸の奥に溜まっていたもやが、一気に晴れていくようだった。
──ああ、同じなんだ。
涼介も、自分と同じように会えなくて苦しんでいる。
その事実が、涙が滲むほど嬉しかった。
**************
今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「会いたいのに — Longing for You」をベースに作成したものです。良かったら、楽曲のほうも聴いてみてくださいね♫
「会いたいのに — Longing for You」はこちら⇒ https://youtu.be/SaqgtRTOmgs
1
あなたにおすすめの小説
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
君のスーツを脱がせたい
凪
BL
学生兼モデルをしている佐倉蘭とオーダースーツ専門店のテーラー加瀬和也は絶賛お付き合い中。
蘭の誕生日に加瀬はオーダースーツを作ることに。
加瀬のかっこよさにドキドキしてしまう蘭。
仕事、年齢、何もかも違う二人だけとお互いを想い合う二人。その行方は?
佐倉蘭 受け 23歳
加瀬和也 攻め 33歳
原作間 33歳
隣の大学院生は、俺の癒しでした。
結衣可
BL
仕事に追われ、残業ばかりの日々を送るサラリーマン・斎藤悠真(32)。
感情を表に出すことも減り、「今日も誰ともしゃべらなかったな」と思いながら帰宅する毎日。
そんなある夜、隣の部屋から漂ってきたカレーの香りとともに、インターホンが鳴る。
「作りすぎちゃって……よかったらどうぞ」
そう微笑んで皿を差し出したのは、隣に住む大学院生・風間緒人(25)。
栄養学を学びながら料理好きの緒人は、気づけば週に一度は“おすそ分け”をするようになる。
最初は戸惑いながら受け取っていた悠真だったが、温かい食事と緒人のさりげない気遣いに、
長い間感じたことのなかった「人の温もり」に心が揺らいでいく。
雨の日に差し出されるタオルや、疲れた体に沁みる味噌汁。
やがて二人で食卓を囲む夜、体調を崩したときの看病……。
少しずつ距離が近づくたびに、悠真は自分でも驚くほど笑顔を見せ、心を許してしまう。
逃げ腰のサラリーマンと、世話焼きの年下院生。
すれ違いと優しさの間で揺れる二人の関係は、いつしか「癒し」から「恋」へと変わっていく――。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる