君の声の残響で — Echoes of Your Voice

梵天丸

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第四話 会いたいのに — Longing for You

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 涼介が福岡に行ってから、二週間が経った。
 今も毎日欠かさず「おはよう」と「おやすみ」のメッセージは届いている。昼休みの一言や、夜のビデオ通話もある。
 けれど最近は、既読がつくまでに何時間もかかることが増えた。夜の通話中に、涼介がうとうとし始め、こちらから通話の打ち切りを提案することもあった。

「忙しいんだろうな…」

 碧はスマホを手に、何度も画面を見つめる。
 昼に送ったメッセージに、まだ既読がつかない。
 時刻を確認すると、20時を少し過ぎたところ。
 碧も残業中だが、涼介も残業をしているのだろうか。

「……忙しいのは分かってる。わかってるけど」

 昼に送ったメッセージぐらい、さっと確認してくれてもいいのに。
 メッセージを確認するだけなら、数秒あれば済む話だ。
 既読がつくだけでも安心できるのに。
 それすらしないなんて。

(そんなに手が離せないことがある…とか? 気を取られている人がいる…とか?)

 胸の奥に小さな棘のような不安が芽生える。

 ──もしかして、誰かと一緒にいるんじゃないか。
 そんな考えが頭をよぎるたび、「いや、涼介に限って」と自分を戒める。
 信じたい。信じている。けれど、心は思うようにはいかない。

 スマホを握る指先に、自然と力がこもった。
 信じているはずなのに、ふと「自分の知らない誰かと笑っているんじゃないか」と想像してしまう。
 そんな自分が情けなくて、深く息を吐いた。



 仕事は相変わらず忙しかった。
 新しい案件の修正が重なり、朝から晩までパソコンに向かう日々。
 デザイン事務所の同僚に声をかけられる。

「最近疲れてる? 大丈夫?」
「うん、ちょっと寝不足かな」
「彼女のこと?」

 からかうような笑顔に、碧は苦笑するしかなかった。
 さすがに「彼氏がいる」とは言えないので、会社の同僚たちには「彼女がいる」と伝えてある。

 自分はまだ恵まれている、と頭では分かっている。
 同僚は独立に向けて準備を始めているし、周囲のクリエイターたちも次のステージを模索している。
 その中で碧は、仕事に追われながら、涼介との時間を思い出しては胸を支えていた。

 独立を考えている同僚の背中を見ながら、「自分もいずれは何かを変える時期に来るのかもしれない」と思った。
 けれど今は、それよりも涼介との距離に心を取られている。

 夜、自宅に戻っても、隣に涼介の気配はない。
 並んで置いた歯ブラシや、冷蔵庫の中に残っている同じブランドのヨーグルトが、かえって寂しさを募らせた。
 会えないことが、こんなにも心を締めつけるとは思わなかった。

 夜、涼介からビデオ通話が入った。
 画面に映った彼は、少し痩せたように見える。

「大丈夫? 顔色悪いよ」
「仕事が、思ったよりハードで……でもなんとかやってる。LINE、確認するの遅れてごめん…」
「忙しいんだから、仕方がないよ」

 碧は、少しでも涼介を疑った自分を反省した。
 この様子では、本当に今にも倒れてしまいそうなほど、忙しいに違いない。

「無理しないで。今日はもう寝た方がいいよ」
「いや、大丈夫。おまえの顔を見てたら、元気が出てきた」

 笑ってみせるけれど、目の下には薄い影。

「気を遣わせてるな。ごめん…」
「ううん、そんなこと気にしないで」

 沈黙が落ちたあと、不意に涼介が唇を噛んだ。
 そして、抑えきれないように声を洩らした。

「……碧に会いたい」

 その言葉は、予想していたよりもずっと切実で、胸に響いた。
 思わず言葉を失った碧の耳に、涼介の息遣いが生々しく届く。

「本当に……今すぐにでも会いたい」

 静かな部屋に、彼の感情が溢れ出す。

 碧の心臓が強く脈打った。
 寂しさも不安も、その一言で溶けていくように感じた。

 胸の奥に溜まっていたもやが、一気に晴れていくようだった。

 ──ああ、同じなんだ。

 涼介も、自分と同じように会えなくて苦しんでいる。
 その事実が、涙が滲むほど嬉しかった。

**************

今回のお話は、YouTubeで配信中の楽曲「会いたいのに — Longing for You」をベースに作成したものです。良かったら、楽曲のほうも聴いてみてくださいね♫
「会いたいのに — Longing for You」はこちら⇒ https://youtu.be/SaqgtRTOmgs
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