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第3章 西の大陸
第17話 森の探索
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鍛冶屋と話をつけた翌日、ようやく準備も整い西の森に出発した。
メンバーは『狼狐』の五名。
私、ソラ、ココア、ノア、ミルキーだ。
目的は『西の森の異変を捜査する』だが、現在はそれに『レッドワイバーン』とその仲間達が隠れ住んでいるのだろう場所も分かっているので、その調査も兼ねている。ノーライザで起こった誘拐騒ぎで人攫い達から本部の場所を聞いているからだ。
恐らくそこにレッドワイバーンとレッドワイバーンを操っているであろう者達がいると睨んでいる。
だからどちらかというと、レッドワイバーンの方が本命だ。話の流れから、西の森の異変もレッドワイバーンが絡んでいる可能性が高い。まずはレッドワイバーンを見つければ、大筋が見えてくるであろう。
人攫い達から聞いた場所は西の森でも、ほぼ真ん中に位置する。
だから、まずは不思議な石碑に向かい、そこから北上して行く予定である。森の中を斜めに移動するのは、森が得意なミルキーから辞めた方がいいと勧められたからだ。
この森の特徴として、トレントが多く、そのトレント達はほぼ顔を北に向けているそうだ。場所によってはトレントの上位のドライアドもいるそうだが、それらも含め、樹の魔物達は総じて北側に顔を向けているそうだ。
だから、南側から北上する、若しくはその逆や、東西に進む場合は迷いにくいのだが、斜めに進むと北を向いてるその顔で逆に迷いやすくなるそうだ。
ここは素直にアドバイスを聞いておく事にした。
その話を聞いて心配なったのは、その樹の魔物が襲って来ないかという事。だが、殆どの場合は、魔法を使わない限り襲って来る事は無いそうだ。特に火の魔法には敏感で、大挙して襲ってくるそうだ。仲間にはくれぐれも火魔法を使わないように注意している。
どうやらトレントもドライアドも魔力を吸収して育つようで、森でも魔力の湧き出る場所に多く生息しているようだ。
魔力を持つ魔物や人間も捕食対象ではあるものの、魔物はあまり襲わないらしい。というのも小さな魔物では足しにはならないし、大きな魔物には負けてしまうからである。
人間は程よい大きさで魔力もそこそこ、パーティ単位の行動をよくするので団体では無いため、捕食対象にされるようだ。
樹が襲って来るというのは、後々トラウマになりそうなシュチエーションだな。
石碑の前の安全地帯で一泊し、方針確認をして少し周辺確認をしたら北へ向けて出発だ。
森の異変前がよく分からないが、現状を知るのは大事だからな。
出発前日は半日使って周辺を探索したり肉以外の食材を確保したりして過ごした。【那由多】には、森にいる魔物で、抜けた強さを持つ者を選出してもらった。
夜になり、食事を終えると今回の目的をお浚いを兼ねて復習をしつつ皆の意見も聞いてみた。
折角石碑の前にいるのだから、まずはこの石碑からだ。
なんと書いてあるのか分からない文字。【那由多】の解析能力でも分からないようだ。
そして、この石碑の周辺には魔物が寄り付かない。周囲には野生の野菜が多く荒れ放題という言葉が似合うほど繁殖している。魔物の跋扈する森の中で、とても不思議な安全地帯だ。
この森は魔物が多く危険でもあるし、町側の入り口にはデュラハンがいたので以前から人間はあまり入らない森だった事もあり、非常に謎が多い。
この石碑もそうだが、私達が飛ばされて来た祠についても何も分かっていない。今後も調査対象に入れるべき存在だ。
石碑については今までと変わらず誰も情報が無かった。
次に今から向かう場所だが、この森の中心部あたりの洞窟としか聞いていない。
人攫い達の中には足を運んだ者もいたのだが、森の深い場所にあるため正確な位置を分かってなかったのだ。
森の中心辺りまで行って、自分達で探すしかないだろうな。周辺探索で地形も分かるので、何とかなるのではないかと思っている。
探しきれなければ一旦戻って来て、情報集めから仕切りなおさないといけない。だが、これ以上の情報があるとも思えないので、今回で何とかしたいと考えている。
それについてはミルキーが張り切ってくれている。
森の事ならお任せください。と、自信満々な様子だ。ソラとココアも森育ちだから森の中は得意ジャンルだろうが、やはり地元のミルキーのほうが一枚上手だろう。特にアトムが探索を得意としてるようなので、期待してみよう。
あとは、問題のレッドワイバーンだが…
「あとは、レッドワイバーンを人間が操っているかどうかだが」
「タロウ様、操っているのは間違いないかと思います。方法としては、術・アイテム・スキルになると思います」
「ご主人様、私もそう思います。他には呪いや改造などもありますが、現実的ではありません」
「そうですね、ココアさん。でも、術やスキルはいいとして、アイテムは身に付けさせる物ですから、人間からすると現実的ではないかもしれませんね。」
「確かにそうですね。では術ではどういうものがありますか?」
「闇魔法に精神系へのものがあります。混乱させるコンフュージョン、操り人形にするマリオネット、味方に引き入れるマインドチャーム、精神を壊して廃人にするマインドクラッシュ、代表的なものはこの4つですね」
さすがミルキーだな、闇魔法には詳しいな。
「マインドチャームかマリオネットあたりが怪しいですね。スキルについては主様の持っている【仲間】を持っている人でも余程の強者でなければできないと思いますから違うと思いますね。別のスキルだとして、人間がレッドワイバーンまで操れるかどうか怪しいですから」
そんなことは無いのだよココアよ。熟練度が上がればできるかもしれないのだ。別のスキルがあるかもしれないので決め付けはいけないが。
だが、他は可能性として無しでは無いが、非常に低いと見ていいだろうか。
そういう闇属性の操る術があるのなら、やはり術の可能性が高いそうだな。
「ミルキー? その闇魔法は、どういう奴らが使えるんだ?」
「高位の闇魔法使いなら誰でも使えます。ただ、高位の闇魔法使いは人間には非常に数が少ないです。闇系の魔物でも高位の術を使えるものは少ないですから」
もし、今回の捜索が空振りに終わったとしても、そこら辺から絞れるかもしれんな。
空振りにならないためにも、まずは洞窟を見つけなければな。
「高位の闇魔法使いか……ロンレーンの町にもいるのだろうか」
「いえ、闇魔法使いどころか、大した使い手は見当たりませんでした」
「え? 調べたのか?」
「はい、他にもレベルの高い者や剣術・槍術・弓術・体術などに優れた者も調べましたが、脅威となる者はおりませんでした。あの程度の町でしたら、全員で掛かられても私一人で対処できます」
いやいや、いくら何でもロンレーンの町全体を一人で相手取るなんて……自信ありそうだな。
中身がケルベロスだからか…対処できるのだな……そんな奴に名前を付けてしまって更に強化してしまったのか。しかし、もうそんなとこまで調べ上げてたのか。恐らくアトムの能力なのかもな。ケルベロス、恐るべし。
だが、私の従者であるミルキーが人間に敵対するはずがない。今のは、比較としてそのぐらいの力だと例として言っただけだろう。
そんなミルキーを吹っ飛ばした私も、同等の力があるのだろうか。
いや、今はそんな恐ろしい事は考えまい。『人攫いのアジト』『レッドワイバーンの行方』の話から大分逸れてしまったな。
ま、ユニークスキルにしろ魔道具にしろ、レッドワイバーンが操られてるのなら敵対してくる可能性は高い。大事なのはどうやって操られてるかではなく、どうやって対処するかだ。
昨日のココアとノアの活躍を見る限り、その点では安心しているが、楽観しすぎてもいけない。敵対されれば相手も必死になって殺す気で来るのだろうから、何が命取りになるか分からない。慢心せずに慎重に事を進めよう。
今日できる事といえばこれぐらいか。後は……
「ソラ? 昨日の依頼はどうだったんだ? すんなり終わったか?」
「うん、いーっぱい倒したよー。必殺技二号も成功したー」
必殺技? しかも二号? また何やったんだか。
大丈夫だったか? という意味も含めてミルキーを見ると、言い難そうに苦笑いを浮かべていた。
これは何かやったな。とは思ったが、聞かないわけにはいかない。ソラの行動には私にも責任があるのだから。
「ミルキー? 一応、討伐依頼は成功だと聞いてるんだが、何かマズい事でもあったのか?」
「はい…あ、いえ、依頼自体は完全達成でしたので問題無いのですが……」
「どうした、粉々になってしまって討伐部位が取れなかったとか?」
「いいえ、討伐部位も依頼より多く納めました。しかし……」
「凄いじゃないか。それなのに浮かない顔をしてるが、やはりソラが何かやったのか?」
「いいえ、ソラさんは何も悪く無いのです。私が未熟なだけです」
ミルキーが未熟? 魔物討伐に関して、町ひとつを相手取ると豪語していたミルキーが未熟なはずがないだろ。
「うちが全部倒しちゃったんだー。必殺技二号、完璧~」
ソラの言葉で更に俯くミルキー。活躍できなかったから落ち込んでるだけか。それにしても、昨日のココアといい、ソラといい、戦闘に入った時の初動が早いな。
ノアの場合は私がココアを宥めて出番があったが、ミルキーはソラと二人での行動だったからな。
「でも、倒すだけじゃなく解体までが依頼だったんだろ?」
「それも私はソラさんの半分の半分ぐらいしかできなくて……」
ミルキーとノアは解体を覚えたのは最近だからな。おいおい慣れてくるさ。
ミルキーを慰め、ソラには偶には譲ってやれと伝えて、ミルキーの機嫌が直ったところで就寝となった。
翌朝も皆で朝食を摂り、いざ探索へ。
目指すは人攫い達のアジトだと思われる洞窟。
方向が北だと分かっているだけで情報が少ないため、広く探索しなければ見つからないだろう。
こんな広い森の中の洞窟なんて普通に探しても見つけられない。纏まって探すかバラけて探すか。バラけると強い魔物が現れた時に危険だ。だが、固まって探すと余程運が良くないと大幅に時間が掛かってしまう。魔物が多数跋扈する危険な森の中での野宿など危険なだけだ。
さて、どうする。
(【那由多】、周辺探索範囲をどれだけ広げられる?)
―――森全体の八九パーセントまで探索可能です。
それだけ分かれば十分だ。
(それなら、その周辺探索出来る範囲で最上位ランクの魔物だけ出してくれ)
―――周辺探索完了。
いつも頭の中に映し出される周辺探索の地図に、赤点が七つ浮かび上がった。
ふむ、手強い魔物だけで七体という事か。赤点の大きさだけで見ると、森の番人だったデュラハンより大きめなのが三つだが、デュラハンとそう差は感じない。他の四つはデュラハンより小さいな。
それならば、手強い魔物の時だけ集まって、後は散らばって確個撃破で行けば効率良く行けそうだな。
後は、誰かがピンチに陥った時の対処方法だが……思いつかんな。二人組みで組ませるか? それだとまた喧嘩になりそうだしな。
よし! 分散して行かせて私が後ろからフォローするようにしよう。どうせ、倒した魔物も収納しないといけないのだ。それは私の役目だし、フォローも兼ねて見回るようにしよう。
幸い、周辺探索で確認できた強敵三体は進行方向からズレているから遭遇する事も無いだろうしな。
まず、色々とやらかしそうなソラを左端に置き、隣にはココアがいいだろう。逆側の右端にも暴走しそうなノアを置き、その隣がミルキーでいいか。左からソラ、ココア、ミルキー、ノアの順だな。
そして私が後方から見張りつつ指示も出して倒した魔物を収納する。で、いいだろう。
皆にもそう伝え、布陣を組んで北に向かって進軍した。一騎当千という言葉が当てはまりすぎるメンバーなので、これだけ広がれば軍隊と呼んでもいいぐらいの破壊力を示したので、あえて進軍という言葉を使った。
各人の間隔は約五○メートル強。初めは一○メートルも離れてなかったのだが、隣同士で獲物の奪い合いをするので、少しずつ離していった結果、こうなった。
端から端まで約一五〇メートル強。しかも、ここは森の中である。収納&指示役の私は大忙しだ。
というのも、森を奥へ行けば行くほど魔物の密度が上がっていく。偶に魔物の数が少ないと思えば、そこには強めの魔物がいたりする。
強めの魔物を倒すとすぐには魔物は現れないが、ものの五〇メートルも進めばまた集団がやって来る。その繰り返しだった。
出発前にはノアから飛んで行こうと提案されたが、アジトに隠れてる相手が見張りを設けてないとも限らない。普通は見張りは付けるだろう。
そんな見張りからすれば、飛んでる龍を見つけるなど造作も無い事だろうし、できれば油断しているところを攻め入りたい。そういった理由でノアからの提案は却下させてもらった。
並び順にもひと悶着あった。ミルキーがソラの隣を嫌がったのだ。
昨日の件もあるので仕方がない。ココアにソラの隣を頼んで、今の布陣になっている。
確かに「全部燃やすー?」などとふざけた言動をされれば隣にはいたくないだろうな。
ここは森の中だから火気厳禁だと噛み砕いて説明したのだが、分かってくれただろうか。同じくノアにも火のブレスは禁止したのだが大丈夫だろうか。二人を両端に離したのはしっぱいだったかもしれない。目が届きにくくなるからな。
私の心配をよそに、ソラは「必殺技・弐号!」と叫んで、箸の式具を飛ばしている。
あれはどう見ても箸がソラよりも巨大化してるようにしか見えないのだが、箸にそんな能力は無い。そう言えばココアもノアを倒した時に箸を巨大化させていたな。どうなってるかなど、考えるだけ損なのだろうな。
ソラの飛ばす箸の式具は巨大化してプロペラのように旋回したりドリルのように回転したりして森の中を縦横無尽に飛び回っている。お陰でこちらは倒した魔物を集めるのに大忙しだ。
隣のココアは薙刀をメイン武器としていた。
森の中だと長物の薙刀は不利だと思っていたが、一閃振るうと少し太めの樹でも軽く斬ってしまう。それどころか、剣閃がそのまま飛び出しソニックブームのような鎌鼬の刃が魔物を倒して行く。格下相手なら十分有効な手段だ。
ミルキーはアトムやドレミに変わったりして新調した武器の試し斬りをしていた。
ミルキーは槍、アトムは双剣、ドレミは弓だ。ドレミは近距離戦闘もできるようだが、基本は弓で戦っていた。遠距離はドレミ、近距離は双剣のアトムで対処しているようだ。
ミルキーの槍も変わっていた。延びるのだ。
如意棒のように延びては魔物を貫き、また手元に縮める。立ってるだけで三〇メートル先の遠距離の魔物でも倒してしまうのだ。
もちろん通常通りの槍としても使えるので、近寄ってきた魔物には普通に槍で突いて倒している。
しかし、あんな槍をあの鍛冶屋が作れたのか? あんな槍が作れるのなら閑古鳥は鳴いてなかったと思うのだが。
ノアは新調した剣を一応は持っていた。振ってもいた。が、あまり剣を持つ意味は無かったようだ。
人型でもブレスは吐けるようで、「ホーリーブレス!」と叫んでは、白いブレスを吐きまくっていた。一応、手加減はしてるようで、魔物も消滅せずに魔石の回収はできそうだが、他の素材は諦めた方がよさそうだな。
火龍の時だったら炎ブレスだったのだろうが、神龍になった事でホーリーブレスを覚えたのだろう。
しかし、技名は言わないとダメなのか? 言わないと発動できないのだろうか。
「集合だ!」
一旦、全員に集合をかけた。
「すまんが、倒した魔物は中央よりに投げるか、外側の魔物を無視するかにしてくれ。これ以上広範囲になると回収しきれない。特にソラとノアは外側だから、最悪は魔石以外無視していい」
魔石ぐらいなら回収できるだろ? と聞くとできると返事が来た。
いくら収納が無限にできるといっても多すぎて回収する手間が大変なのだ。
「それで、集まってもらったのは他にも理由がある。この先にこの森でもトップクラスの魔物がいる。だから皆で協力して倒そうと思うんだが、魔物の情報が無い。強いという事しかわからないので、見てから対策を考えようと思う。先走って単独で攻撃しないように」
「我が主は心配しすぎなのじゃ。このへんの魔物なら妾一人で十分なのじゃ」
「森は私の得意とする場所です。私にお任せを」
「必殺技するー」
「ここは私の出番ではないかと」
「だから、そういう身勝手な考えで先走るなと言ってるのだ。わかったな!」
単独戦闘を主張する四人にキツめに叱って自重を促す。
不満気ではあったが、一応言う事は聞いてくれるようだ。
私の予定通り、通常行動では拡散行動、強敵に出会うと集団攻撃がやれそうだ。
ここから一体目の大物までは、そう距離は無いのでここからは静かに行動をする。こういった作戦行動の時にはココアがサブリーダー的な役割を担ってくれる。
私が大まかに全体的な行動を決め、配置や役割などを指示して行く。ノアはココアに負け、ミルキーはノアに負けた過去があるだけに、ココアの指示に逆らう者は無くスムーズに行動できる。
こういう時はソラも団体行動を取っている。何を考えてるのか分からない事の多いソラだが、一応は団体行動もできるようだ。
強敵の一体目はサウザンドニードルという体高五メートルはありそうなヤマアラシのような見た目の魔物だった。
恐らく針を立てているのでその大きさになっているが、針を寝かせればもう少し小さいだろう。それでも二.五~三メートルはあるだろうな。
静かには近づいたのだが、相手も魔獣系の魔物だ。気配察知には長けているのだろう。相手がこちらを視認したのは同時ぐらいだったと思う。
【鑑定】サウザンドニードル
名前: なし
年齢: 233
種族: 獣族
加護: なし
状態: 普通
性別: 男
レベル: 34
魔法: 土(8)・風(6)・雷(2)
技能: 牙(8)・針(7)・毒(3)・探知(3)・回避(4)・遮断(3)
耐性: 雷・毒・麻痺・腐食
スキル: 【威圧】2
ユニークスキル なし
称号: なし
レベルはそこそこのようだが、熟練度が高いものがあるな。牙と針だな、あと土と風の魔法か。風魔法も利用して針を飛ばしてくるかもしれん。
ああいった風貌のものだと針を飛ばしてくるのが昔からのマンガの定番だ。気をつけるに越した事は無い。
「あの針のような毛には気をつけた方が良さそうだ。もしかしたら飛ばしてくるかもしれんぞ」
皆が私に注目しているのを確認し、次の指示を出す。
「まずは散開して……」
「全員、散開!!」
散開して遠距離攻撃で様子を見よう。と言おうと思ったのだが、ココアに取られてしまった。
「位置が決まれば各自遠距離攻撃!」
ボッ! ゴオォォ! シュン! ズゴオォォォン!
エンカウントと同時にココアの指示で散開した事で目標を失ったサウザンドニードルが、出遅れて一歩も動いてない私に気付き、目標と定めた時にはもう遅かった。
四人の有無を言わせぬ攻撃が四方から炸裂したからだ。
ミルキーの延びる槍、ノアのブレス、ココアのソニックブーム、がほぼ同時にサウザンドニードルを捕らえた。やや遅れてソラの必殺技がサウザンドニードルの頭上からスクリュー回転の式具が高速で落ちてきて轟音を響かせた。必殺技一号だそうだ……
……どれか一つで十分致命傷を与えていたな。二つあればちょっとやり過ぎなところを四撃が同時に入ったな。
過剰攻撃だったな……これでは素材回収もできないか。
それでも魔石は無事だったようで、ソラが回収して持ってきてくれた。他にも飛び散った針をココアとノアが回収してくれて、ノアがまだ使えそうな爪や肉を回収してくれた。
やり過ぎな状況を分析している内に、四人がそれぞれ回収してくれたので、一度小休止を入れた。
「ちょっとやり過ぎだったようだな。せっかく倒すのだったら素材も手に入れたい。そのあたりも考えながら戦おう。手加減して怪我をするのはダメだが、過剰すぎる攻撃では何も残らないからな」
「だから妾が一人でやると言うたに」
「いえ、そこは私にお任せください」
「いえいえ、私が」
「必殺技ー」
また振り出しに戻ってるじゃないか。だが、今の戦いを見る限り、間違ってはいないか。しかし、一人で戦って怪我をすれば台無しだし、相手との相性もある。今回は全員が中・遠距離攻撃を持っていてそれが通じたので結果的に良かっただけかもしれんしな。
「まだあと最低二回は強敵が出る可能性がある。次は相手を見てから考えよう。基本は全員で戦うのは変えずに行くぞ」
「「「「はーい」」」」
なんだ? やけにいい返事をするじゃないか。何か企んでそうで怖いのだが。
胡散臭いがいい返事を叱るわけにもいかず、次に向かって出発した。また散開して魔物を駆逐しながらの移動だ。並びは変えない。皆も段々と慣れて来たようだしな。
次の中ボスまでは順調に進んだ。順調と言っても、皆が無双してるからであって、普通の冒険者パーティなら全滅しててもおかしくない。そもそも、普通の冒険者は石碑の場所にも辿り着けないようだからな。
【鑑定】ビッグボールアメーバ
名前: なし
年齢: 480
種族: アメーバ
加護: なし
状態: 普通
性別: なし
レベル: 31
魔法: 水(8)・土(6)・雷(2)
技能: 牙(8)・・毒(3)・探知(3)・回避(4)・
耐性: 火・水・毒・麻痺・腐食
スキル: 【威圧】2【再生】9【分裂】9
ユニークスキル なし
称号: なし
緑色した大きなボールの形をしていた。ただ、形は一定ではなくペッタンコになったりボール型になったり様々な形に変化を続ける。一番細長くなって高く延びた時には十メートルはあるだろう。その分細くなっているのだが。
中まで透けて見えるので、取り込まれた魔物の残骸や魔石まで見えている。非常に大きな魔石を持っているようだ。
魔石が見えてるのはいいのだが、あの魔石を破壊してしまうと魔石の回収はできないという事なのだろうな。
しかし、魔石を破壊しないと倒せない……ここは魔石を諦めるしかないか。
「仕方が無い、魔石はあきら……」
「散開! 散開後、タイミングを合わせて魔核を狙います! 号令まで待機!」
え? 魔核?
頭上にハテナマークを出したまま突っ立ってココアを見てるが、全員私には構わず行動していた。もちろんココアも視線はビッグボールアメーバを見たままなのでこちらには向いてない。向いてないが、いつもより胸を逸らしてるように見えるのは気のせいでは無いと思う。私が見ているのを分かっているのだろう。その証拠に頬も少し赤くなっている。
私の勇士をご覧ください、という感じなのかもしれない。
……そうなのかもしれないが、発表会の親のように微笑ましい気分になってしまうのは仕方の無い事なのだろうか。
「魔核の外縁部を狙うように! 魔石はご主人様が所望しております! 魔石には絶対に傷つけないように!」
魔核と魔石は別物? 確かに大きな魔石だなぁとは思っていたが、あの見えてるものは魔石では無いのか。
ココアだけではなく皆も疑問に思ってないようだ。知らなかったのは私だけか。
そんな私の疑問を置き去りに、ココアの指示は続く。
「今です!」
ミルキーの槍が魔核の外縁部を削り、ソラの式具がドリルのように回して核以外の外縁部分を削って行く。
ココアもソニックブームで狙いすまして上手く外縁部をカットすると、中から色の違う部分が見えていた。
ミルキー、ソラ、ココアが遠距離攻撃で魔核の外縁部を本体のゼリー部分ごと吹き飛ばすと、吹き飛ばされた部分をノアがブレスで消滅させていた。
こういったゼリー状のスライム系は再生能力が高いと聞いている。吹き飛ばした部分も再度取り込めば再生速度も上がるはずだ。それを阻止するためにノアが吹き飛ばされた部分や魔核から遠い本体にブレスを吐き消滅させていた。
本当なら弱点である魔核を移動させて攻撃を回避したりするのだそうだが、四人の連携が早すぎて魔核の移動も覚束ない様子だ。しかも、本体のゼリー部分がどんどんと削られてるから移動させるスペースも無くなって行く。
そしてみるみる削られていったビッグボールアメーバは、三○秒も経たずに魔核の殆どを削られ、本体のゼリー部分が半分程度になった時に、バシャ! っと音を立てて完全な液体になってしまった。
残ったものは魔石だけ。他にも体内で消化中の魔物の残骸もあったが、どれも原型を留めてなかったので回収しても使い道は無いだろう。
魔石を回収したココアに恭しく捧げられたが、なんだろうか、あまり受け取る気になれないのは一方的に倒されたビッグボールアメーバが気の毒に思えたからかもしれない。
手渡されたのは確かに見慣れた魔石だった。少し大きめなのは、やはりレベルの高い魔物だったからだろう。
ドヤ顔で並ぶ四人を前に「ご、ご苦労さん……」と、つまり気味にしか言葉を出せなかった。
確かに凄い、いや凄すぎるのだが、平然とやってのける四人に呆れるばかりだ。
まぁ、森の長に山の主だからな、この辺の魔物など歯牙にも掛けないのだろうな。しかも名付けにより以前より強くなってるし、ココアやソラは同等かそれ以上に強い。これぐらいの芸当はできて当たり前なのだろう。
大した休憩も挟まずに次へと向かう。進行状況としては森の中心部までは石碑からなら四分の三は過ぎただろう。予想以上に早い進行状況に皆の力を低く見積もり過ぎていたと後悔する。
しかし、過信して痛い目に合うよりは、遠慮気味に低く見積もっておく方が無難だと思う。この考え方は今後も変えないだろう。若者の特権でもあるイケイケの暴走思考は私には荷が重いからな。
若気の至りなど、もう私には似合わない言葉だ。
もう私が何も言わずとも、四人とも先に進んでいる。私も負けずに後を追いかける。彼女達にすれば今まで素材回収など無縁だったろうに、私に付き合ってなるべく素材を傷つけないように倒してくれている。
石碑から出発した時よりも格段に上達しているのは明らかだ。
だが、そろそろ長めの休憩を取ってもいい頃合だな。次の中ボス戦が終わったら食事休憩でも取ってゆっくり身体を休めるとするか。
【鑑定】ゴーレム
名前: なし
年齢: なし
種族: 召喚
加護: ケンジの加護
状態: 普通
性別: なし
レベル: 14
魔法: 土(9)
技能: 体術(7)
耐性: 火・水・土・木・雷・毒・麻痺・腐食
スキル: 【鉄壁】8【再生】5
ユニークスキル なし
称号: 守護の盾役
……ちょっと待ってくれ。『ケンジの加護』? 誰だそれは。明らかに誰かの作ったものだろう。凄く怪しいものが出てきてしまったな。
だが今は対処が先だな。このゴーレムの属性が土なのは土で出来たゴーレムだからだろうが、【鉄壁】や【再生】のスキルを持ってるとなると守り主体のゴーレムなのだろう。『守護の盾役』の称号からも守り主体という事が窺えるな。
それにしてもデカいな。ケンジという奴は何を考えてこんなものを作ったのだ。十メートル超えはいくらなんでもデカすぎるだろ。
「皆、非常に守りの固いゴーレムのようだ。ただ気になる事もあるので行動不能にして少し調べたい。余裕があるなら行動不能前に攻撃を止めてくれ」
「かしこまりました。では皆さん、固いそうですからあまり手加減は必要ありません。幾つかの魔石を核にして動いてるでしょうから、魔石を抜けばいいでしょう。魔石を壊してはいけませんよ」
「「「はーい」」」
さっきからその返事はなんなのだ。ふざけてるのか? それとも相手を舐めてるのか。舐めてるんだろうな。
今回は散開せずに全員が正面からゴーレムに当たるようだ。
動きの遅いゴーレムだから、慌てて逃げなくても余裕で避けられるとの判断なのだろう。舐めてるというのもあるだろうが……
しかし、場面場面で的確な判断だと思う。余裕を交えつつ指示を出すとは。私より遥かに有能ではないか、こっちは【鑑定】もあるのに負けてられないな。
私が密かに決意を改めていた時、既に攻撃は始まっていた。
もう三度目だ、四人で一斉攻撃してしまうのは過剰だと学んでくれたのだろう。
ソラが前に出て箸の式具を取り出し巨大化させた。巨大化した式具が飛んで行きゴーレムの後方にザンッ! と音を立てて突き立った。
続いて二本目も同様に巨大化させて飛ばしゴーレムの右に、三本目は左にと突き立てた。
そして四本目、ソラにあげた箸は二膳分だから四本でお終いだ。
四本目も巨大化させると自分の前に突き立てた。
最後に突き立てた四本目の式具に四人で手を添えた。
バリバリバリバリー ギューン バシュッ!
式具の間に稲妻が走ったかと思ったら、式具同士を稲妻が繋ぎ四角形を作った。
その稲妻で出来た四角形が縮んで行き、ゴーレムを拘束したかと思ったら、元々何も無かったかのようにゴーレムが消滅してしまった。
「な……」
何をやったんだ!? そんな技、初めて見るぞ! 一体何がどうなったのだ!
ゴーレムは何処へ行った……
「……ソラ?」
「合体技だよー」
……聞くチョイスを間違った。
「ココア?」
「はい、合体技です」
お前もか……
ミルキーとノアに目をやるが、二人とも同意とばかりに大きく肯いている。ちょっと自慢気なところがイラつくが、誰か解説出来る者はいないのか!
―――今のは結界術の応用で、雷結界を利用してゴーレムを拘束しました。
おお! 【那由多】! お前がいたな!
結界術か。それならソラの得意とするところだな。しかし雷結界? あまり聞かないが……
―――結界術にはどの系統にもあります。火・水・風・土・氷・雷・光・闇・空間・次元・重力。全てに結界術がありますが、今のは雷魔法を利用した結界術でした。
ソラがメインとして発動させ、他の三名が魔力を供給しました。故に『合体技』と名乗っているのでしょう。
なるほど、理解した。確かに四人で協力したのなら『合体技』でもいいだろう。だが、結界術とは相手が消滅してしまうものだったか? 私の知っている結界術とは全然違うのだが。結界術とは護りの術ではないのか?
―――魔力供給が過剰だった結果です。それに完全消滅ではありません。
魔力供給が過剰って……やり過ぎただけで、この結果か。それと完全消滅じゃないって、ゴーレムの姿はもう……ん? 何か光って……魔石か! 魔石は残ったのか!
ゴーレムがいた場所にビッグボールアメーバの魔石と同程度の魔石が五つ残っていた。
ゴーレムは五つの魔石で動いていたのだろう。ゴーレムが消滅してしまうような攻撃の中で、よく魔石が残ったものだ。
お、あれは……
ゴーレムがいた場所の背後に洞窟があった。どうやらゴーレムはこの洞窟の入り口を守っていたらしい。
という事は、人攫い達の、引いてはレッドワイバーンと一緒にいる奴らのアジトに関連する場所かもしれん。
今の所、これといった変化は無いからゴーレム以外に防衛手段は用いていなかったのだろう。
まずは少し離れて入り口を見張りつつ、ついでに食事休憩でも取ろうか。
時間が経てば何か変化が出るかもしれない。食事休憩を取るタイミングとしてもちょうどいいだろう。
何も変化が無ければ洞窟の探索だな。
メンバーは『狼狐』の五名。
私、ソラ、ココア、ノア、ミルキーだ。
目的は『西の森の異変を捜査する』だが、現在はそれに『レッドワイバーン』とその仲間達が隠れ住んでいるのだろう場所も分かっているので、その調査も兼ねている。ノーライザで起こった誘拐騒ぎで人攫い達から本部の場所を聞いているからだ。
恐らくそこにレッドワイバーンとレッドワイバーンを操っているであろう者達がいると睨んでいる。
だからどちらかというと、レッドワイバーンの方が本命だ。話の流れから、西の森の異変もレッドワイバーンが絡んでいる可能性が高い。まずはレッドワイバーンを見つければ、大筋が見えてくるであろう。
人攫い達から聞いた場所は西の森でも、ほぼ真ん中に位置する。
だから、まずは不思議な石碑に向かい、そこから北上して行く予定である。森の中を斜めに移動するのは、森が得意なミルキーから辞めた方がいいと勧められたからだ。
この森の特徴として、トレントが多く、そのトレント達はほぼ顔を北に向けているそうだ。場所によってはトレントの上位のドライアドもいるそうだが、それらも含め、樹の魔物達は総じて北側に顔を向けているそうだ。
だから、南側から北上する、若しくはその逆や、東西に進む場合は迷いにくいのだが、斜めに進むと北を向いてるその顔で逆に迷いやすくなるそうだ。
ここは素直にアドバイスを聞いておく事にした。
その話を聞いて心配なったのは、その樹の魔物が襲って来ないかという事。だが、殆どの場合は、魔法を使わない限り襲って来る事は無いそうだ。特に火の魔法には敏感で、大挙して襲ってくるそうだ。仲間にはくれぐれも火魔法を使わないように注意している。
どうやらトレントもドライアドも魔力を吸収して育つようで、森でも魔力の湧き出る場所に多く生息しているようだ。
魔力を持つ魔物や人間も捕食対象ではあるものの、魔物はあまり襲わないらしい。というのも小さな魔物では足しにはならないし、大きな魔物には負けてしまうからである。
人間は程よい大きさで魔力もそこそこ、パーティ単位の行動をよくするので団体では無いため、捕食対象にされるようだ。
樹が襲って来るというのは、後々トラウマになりそうなシュチエーションだな。
石碑の前の安全地帯で一泊し、方針確認をして少し周辺確認をしたら北へ向けて出発だ。
森の異変前がよく分からないが、現状を知るのは大事だからな。
出発前日は半日使って周辺を探索したり肉以外の食材を確保したりして過ごした。【那由多】には、森にいる魔物で、抜けた強さを持つ者を選出してもらった。
夜になり、食事を終えると今回の目的をお浚いを兼ねて復習をしつつ皆の意見も聞いてみた。
折角石碑の前にいるのだから、まずはこの石碑からだ。
なんと書いてあるのか分からない文字。【那由多】の解析能力でも分からないようだ。
そして、この石碑の周辺には魔物が寄り付かない。周囲には野生の野菜が多く荒れ放題という言葉が似合うほど繁殖している。魔物の跋扈する森の中で、とても不思議な安全地帯だ。
この森は魔物が多く危険でもあるし、町側の入り口にはデュラハンがいたので以前から人間はあまり入らない森だった事もあり、非常に謎が多い。
この石碑もそうだが、私達が飛ばされて来た祠についても何も分かっていない。今後も調査対象に入れるべき存在だ。
石碑については今までと変わらず誰も情報が無かった。
次に今から向かう場所だが、この森の中心部あたりの洞窟としか聞いていない。
人攫い達の中には足を運んだ者もいたのだが、森の深い場所にあるため正確な位置を分かってなかったのだ。
森の中心辺りまで行って、自分達で探すしかないだろうな。周辺探索で地形も分かるので、何とかなるのではないかと思っている。
探しきれなければ一旦戻って来て、情報集めから仕切りなおさないといけない。だが、これ以上の情報があるとも思えないので、今回で何とかしたいと考えている。
それについてはミルキーが張り切ってくれている。
森の事ならお任せください。と、自信満々な様子だ。ソラとココアも森育ちだから森の中は得意ジャンルだろうが、やはり地元のミルキーのほうが一枚上手だろう。特にアトムが探索を得意としてるようなので、期待してみよう。
あとは、問題のレッドワイバーンだが…
「あとは、レッドワイバーンを人間が操っているかどうかだが」
「タロウ様、操っているのは間違いないかと思います。方法としては、術・アイテム・スキルになると思います」
「ご主人様、私もそう思います。他には呪いや改造などもありますが、現実的ではありません」
「そうですね、ココアさん。でも、術やスキルはいいとして、アイテムは身に付けさせる物ですから、人間からすると現実的ではないかもしれませんね。」
「確かにそうですね。では術ではどういうものがありますか?」
「闇魔法に精神系へのものがあります。混乱させるコンフュージョン、操り人形にするマリオネット、味方に引き入れるマインドチャーム、精神を壊して廃人にするマインドクラッシュ、代表的なものはこの4つですね」
さすがミルキーだな、闇魔法には詳しいな。
「マインドチャームかマリオネットあたりが怪しいですね。スキルについては主様の持っている【仲間】を持っている人でも余程の強者でなければできないと思いますから違うと思いますね。別のスキルだとして、人間がレッドワイバーンまで操れるかどうか怪しいですから」
そんなことは無いのだよココアよ。熟練度が上がればできるかもしれないのだ。別のスキルがあるかもしれないので決め付けはいけないが。
だが、他は可能性として無しでは無いが、非常に低いと見ていいだろうか。
そういう闇属性の操る術があるのなら、やはり術の可能性が高いそうだな。
「ミルキー? その闇魔法は、どういう奴らが使えるんだ?」
「高位の闇魔法使いなら誰でも使えます。ただ、高位の闇魔法使いは人間には非常に数が少ないです。闇系の魔物でも高位の術を使えるものは少ないですから」
もし、今回の捜索が空振りに終わったとしても、そこら辺から絞れるかもしれんな。
空振りにならないためにも、まずは洞窟を見つけなければな。
「高位の闇魔法使いか……ロンレーンの町にもいるのだろうか」
「いえ、闇魔法使いどころか、大した使い手は見当たりませんでした」
「え? 調べたのか?」
「はい、他にもレベルの高い者や剣術・槍術・弓術・体術などに優れた者も調べましたが、脅威となる者はおりませんでした。あの程度の町でしたら、全員で掛かられても私一人で対処できます」
いやいや、いくら何でもロンレーンの町全体を一人で相手取るなんて……自信ありそうだな。
中身がケルベロスだからか…対処できるのだな……そんな奴に名前を付けてしまって更に強化してしまったのか。しかし、もうそんなとこまで調べ上げてたのか。恐らくアトムの能力なのかもな。ケルベロス、恐るべし。
だが、私の従者であるミルキーが人間に敵対するはずがない。今のは、比較としてそのぐらいの力だと例として言っただけだろう。
そんなミルキーを吹っ飛ばした私も、同等の力があるのだろうか。
いや、今はそんな恐ろしい事は考えまい。『人攫いのアジト』『レッドワイバーンの行方』の話から大分逸れてしまったな。
ま、ユニークスキルにしろ魔道具にしろ、レッドワイバーンが操られてるのなら敵対してくる可能性は高い。大事なのはどうやって操られてるかではなく、どうやって対処するかだ。
昨日のココアとノアの活躍を見る限り、その点では安心しているが、楽観しすぎてもいけない。敵対されれば相手も必死になって殺す気で来るのだろうから、何が命取りになるか分からない。慢心せずに慎重に事を進めよう。
今日できる事といえばこれぐらいか。後は……
「ソラ? 昨日の依頼はどうだったんだ? すんなり終わったか?」
「うん、いーっぱい倒したよー。必殺技二号も成功したー」
必殺技? しかも二号? また何やったんだか。
大丈夫だったか? という意味も含めてミルキーを見ると、言い難そうに苦笑いを浮かべていた。
これは何かやったな。とは思ったが、聞かないわけにはいかない。ソラの行動には私にも責任があるのだから。
「ミルキー? 一応、討伐依頼は成功だと聞いてるんだが、何かマズい事でもあったのか?」
「はい…あ、いえ、依頼自体は完全達成でしたので問題無いのですが……」
「どうした、粉々になってしまって討伐部位が取れなかったとか?」
「いいえ、討伐部位も依頼より多く納めました。しかし……」
「凄いじゃないか。それなのに浮かない顔をしてるが、やはりソラが何かやったのか?」
「いいえ、ソラさんは何も悪く無いのです。私が未熟なだけです」
ミルキーが未熟? 魔物討伐に関して、町ひとつを相手取ると豪語していたミルキーが未熟なはずがないだろ。
「うちが全部倒しちゃったんだー。必殺技二号、完璧~」
ソラの言葉で更に俯くミルキー。活躍できなかったから落ち込んでるだけか。それにしても、昨日のココアといい、ソラといい、戦闘に入った時の初動が早いな。
ノアの場合は私がココアを宥めて出番があったが、ミルキーはソラと二人での行動だったからな。
「でも、倒すだけじゃなく解体までが依頼だったんだろ?」
「それも私はソラさんの半分の半分ぐらいしかできなくて……」
ミルキーとノアは解体を覚えたのは最近だからな。おいおい慣れてくるさ。
ミルキーを慰め、ソラには偶には譲ってやれと伝えて、ミルキーの機嫌が直ったところで就寝となった。
翌朝も皆で朝食を摂り、いざ探索へ。
目指すは人攫い達のアジトだと思われる洞窟。
方向が北だと分かっているだけで情報が少ないため、広く探索しなければ見つからないだろう。
こんな広い森の中の洞窟なんて普通に探しても見つけられない。纏まって探すかバラけて探すか。バラけると強い魔物が現れた時に危険だ。だが、固まって探すと余程運が良くないと大幅に時間が掛かってしまう。魔物が多数跋扈する危険な森の中での野宿など危険なだけだ。
さて、どうする。
(【那由多】、周辺探索範囲をどれだけ広げられる?)
―――森全体の八九パーセントまで探索可能です。
それだけ分かれば十分だ。
(それなら、その周辺探索出来る範囲で最上位ランクの魔物だけ出してくれ)
―――周辺探索完了。
いつも頭の中に映し出される周辺探索の地図に、赤点が七つ浮かび上がった。
ふむ、手強い魔物だけで七体という事か。赤点の大きさだけで見ると、森の番人だったデュラハンより大きめなのが三つだが、デュラハンとそう差は感じない。他の四つはデュラハンより小さいな。
それならば、手強い魔物の時だけ集まって、後は散らばって確個撃破で行けば効率良く行けそうだな。
後は、誰かがピンチに陥った時の対処方法だが……思いつかんな。二人組みで組ませるか? それだとまた喧嘩になりそうだしな。
よし! 分散して行かせて私が後ろからフォローするようにしよう。どうせ、倒した魔物も収納しないといけないのだ。それは私の役目だし、フォローも兼ねて見回るようにしよう。
幸い、周辺探索で確認できた強敵三体は進行方向からズレているから遭遇する事も無いだろうしな。
まず、色々とやらかしそうなソラを左端に置き、隣にはココアがいいだろう。逆側の右端にも暴走しそうなノアを置き、その隣がミルキーでいいか。左からソラ、ココア、ミルキー、ノアの順だな。
そして私が後方から見張りつつ指示も出して倒した魔物を収納する。で、いいだろう。
皆にもそう伝え、布陣を組んで北に向かって進軍した。一騎当千という言葉が当てはまりすぎるメンバーなので、これだけ広がれば軍隊と呼んでもいいぐらいの破壊力を示したので、あえて進軍という言葉を使った。
各人の間隔は約五○メートル強。初めは一○メートルも離れてなかったのだが、隣同士で獲物の奪い合いをするので、少しずつ離していった結果、こうなった。
端から端まで約一五〇メートル強。しかも、ここは森の中である。収納&指示役の私は大忙しだ。
というのも、森を奥へ行けば行くほど魔物の密度が上がっていく。偶に魔物の数が少ないと思えば、そこには強めの魔物がいたりする。
強めの魔物を倒すとすぐには魔物は現れないが、ものの五〇メートルも進めばまた集団がやって来る。その繰り返しだった。
出発前にはノアから飛んで行こうと提案されたが、アジトに隠れてる相手が見張りを設けてないとも限らない。普通は見張りは付けるだろう。
そんな見張りからすれば、飛んでる龍を見つけるなど造作も無い事だろうし、できれば油断しているところを攻め入りたい。そういった理由でノアからの提案は却下させてもらった。
並び順にもひと悶着あった。ミルキーがソラの隣を嫌がったのだ。
昨日の件もあるので仕方がない。ココアにソラの隣を頼んで、今の布陣になっている。
確かに「全部燃やすー?」などとふざけた言動をされれば隣にはいたくないだろうな。
ここは森の中だから火気厳禁だと噛み砕いて説明したのだが、分かってくれただろうか。同じくノアにも火のブレスは禁止したのだが大丈夫だろうか。二人を両端に離したのはしっぱいだったかもしれない。目が届きにくくなるからな。
私の心配をよそに、ソラは「必殺技・弐号!」と叫んで、箸の式具を飛ばしている。
あれはどう見ても箸がソラよりも巨大化してるようにしか見えないのだが、箸にそんな能力は無い。そう言えばココアもノアを倒した時に箸を巨大化させていたな。どうなってるかなど、考えるだけ損なのだろうな。
ソラの飛ばす箸の式具は巨大化してプロペラのように旋回したりドリルのように回転したりして森の中を縦横無尽に飛び回っている。お陰でこちらは倒した魔物を集めるのに大忙しだ。
隣のココアは薙刀をメイン武器としていた。
森の中だと長物の薙刀は不利だと思っていたが、一閃振るうと少し太めの樹でも軽く斬ってしまう。それどころか、剣閃がそのまま飛び出しソニックブームのような鎌鼬の刃が魔物を倒して行く。格下相手なら十分有効な手段だ。
ミルキーはアトムやドレミに変わったりして新調した武器の試し斬りをしていた。
ミルキーは槍、アトムは双剣、ドレミは弓だ。ドレミは近距離戦闘もできるようだが、基本は弓で戦っていた。遠距離はドレミ、近距離は双剣のアトムで対処しているようだ。
ミルキーの槍も変わっていた。延びるのだ。
如意棒のように延びては魔物を貫き、また手元に縮める。立ってるだけで三〇メートル先の遠距離の魔物でも倒してしまうのだ。
もちろん通常通りの槍としても使えるので、近寄ってきた魔物には普通に槍で突いて倒している。
しかし、あんな槍をあの鍛冶屋が作れたのか? あんな槍が作れるのなら閑古鳥は鳴いてなかったと思うのだが。
ノアは新調した剣を一応は持っていた。振ってもいた。が、あまり剣を持つ意味は無かったようだ。
人型でもブレスは吐けるようで、「ホーリーブレス!」と叫んでは、白いブレスを吐きまくっていた。一応、手加減はしてるようで、魔物も消滅せずに魔石の回収はできそうだが、他の素材は諦めた方がよさそうだな。
火龍の時だったら炎ブレスだったのだろうが、神龍になった事でホーリーブレスを覚えたのだろう。
しかし、技名は言わないとダメなのか? 言わないと発動できないのだろうか。
「集合だ!」
一旦、全員に集合をかけた。
「すまんが、倒した魔物は中央よりに投げるか、外側の魔物を無視するかにしてくれ。これ以上広範囲になると回収しきれない。特にソラとノアは外側だから、最悪は魔石以外無視していい」
魔石ぐらいなら回収できるだろ? と聞くとできると返事が来た。
いくら収納が無限にできるといっても多すぎて回収する手間が大変なのだ。
「それで、集まってもらったのは他にも理由がある。この先にこの森でもトップクラスの魔物がいる。だから皆で協力して倒そうと思うんだが、魔物の情報が無い。強いという事しかわからないので、見てから対策を考えようと思う。先走って単独で攻撃しないように」
「我が主は心配しすぎなのじゃ。このへんの魔物なら妾一人で十分なのじゃ」
「森は私の得意とする場所です。私にお任せを」
「必殺技するー」
「ここは私の出番ではないかと」
「だから、そういう身勝手な考えで先走るなと言ってるのだ。わかったな!」
単独戦闘を主張する四人にキツめに叱って自重を促す。
不満気ではあったが、一応言う事は聞いてくれるようだ。
私の予定通り、通常行動では拡散行動、強敵に出会うと集団攻撃がやれそうだ。
ここから一体目の大物までは、そう距離は無いのでここからは静かに行動をする。こういった作戦行動の時にはココアがサブリーダー的な役割を担ってくれる。
私が大まかに全体的な行動を決め、配置や役割などを指示して行く。ノアはココアに負け、ミルキーはノアに負けた過去があるだけに、ココアの指示に逆らう者は無くスムーズに行動できる。
こういう時はソラも団体行動を取っている。何を考えてるのか分からない事の多いソラだが、一応は団体行動もできるようだ。
強敵の一体目はサウザンドニードルという体高五メートルはありそうなヤマアラシのような見た目の魔物だった。
恐らく針を立てているのでその大きさになっているが、針を寝かせればもう少し小さいだろう。それでも二.五~三メートルはあるだろうな。
静かには近づいたのだが、相手も魔獣系の魔物だ。気配察知には長けているのだろう。相手がこちらを視認したのは同時ぐらいだったと思う。
【鑑定】サウザンドニードル
名前: なし
年齢: 233
種族: 獣族
加護: なし
状態: 普通
性別: 男
レベル: 34
魔法: 土(8)・風(6)・雷(2)
技能: 牙(8)・針(7)・毒(3)・探知(3)・回避(4)・遮断(3)
耐性: 雷・毒・麻痺・腐食
スキル: 【威圧】2
ユニークスキル なし
称号: なし
レベルはそこそこのようだが、熟練度が高いものがあるな。牙と針だな、あと土と風の魔法か。風魔法も利用して針を飛ばしてくるかもしれん。
ああいった風貌のものだと針を飛ばしてくるのが昔からのマンガの定番だ。気をつけるに越した事は無い。
「あの針のような毛には気をつけた方が良さそうだ。もしかしたら飛ばしてくるかもしれんぞ」
皆が私に注目しているのを確認し、次の指示を出す。
「まずは散開して……」
「全員、散開!!」
散開して遠距離攻撃で様子を見よう。と言おうと思ったのだが、ココアに取られてしまった。
「位置が決まれば各自遠距離攻撃!」
ボッ! ゴオォォ! シュン! ズゴオォォォン!
エンカウントと同時にココアの指示で散開した事で目標を失ったサウザンドニードルが、出遅れて一歩も動いてない私に気付き、目標と定めた時にはもう遅かった。
四人の有無を言わせぬ攻撃が四方から炸裂したからだ。
ミルキーの延びる槍、ノアのブレス、ココアのソニックブーム、がほぼ同時にサウザンドニードルを捕らえた。やや遅れてソラの必殺技がサウザンドニードルの頭上からスクリュー回転の式具が高速で落ちてきて轟音を響かせた。必殺技一号だそうだ……
……どれか一つで十分致命傷を与えていたな。二つあればちょっとやり過ぎなところを四撃が同時に入ったな。
過剰攻撃だったな……これでは素材回収もできないか。
それでも魔石は無事だったようで、ソラが回収して持ってきてくれた。他にも飛び散った針をココアとノアが回収してくれて、ノアがまだ使えそうな爪や肉を回収してくれた。
やり過ぎな状況を分析している内に、四人がそれぞれ回収してくれたので、一度小休止を入れた。
「ちょっとやり過ぎだったようだな。せっかく倒すのだったら素材も手に入れたい。そのあたりも考えながら戦おう。手加減して怪我をするのはダメだが、過剰すぎる攻撃では何も残らないからな」
「だから妾が一人でやると言うたに」
「いえ、そこは私にお任せください」
「いえいえ、私が」
「必殺技ー」
また振り出しに戻ってるじゃないか。だが、今の戦いを見る限り、間違ってはいないか。しかし、一人で戦って怪我をすれば台無しだし、相手との相性もある。今回は全員が中・遠距離攻撃を持っていてそれが通じたので結果的に良かっただけかもしれんしな。
「まだあと最低二回は強敵が出る可能性がある。次は相手を見てから考えよう。基本は全員で戦うのは変えずに行くぞ」
「「「「はーい」」」」
なんだ? やけにいい返事をするじゃないか。何か企んでそうで怖いのだが。
胡散臭いがいい返事を叱るわけにもいかず、次に向かって出発した。また散開して魔物を駆逐しながらの移動だ。並びは変えない。皆も段々と慣れて来たようだしな。
次の中ボスまでは順調に進んだ。順調と言っても、皆が無双してるからであって、普通の冒険者パーティなら全滅しててもおかしくない。そもそも、普通の冒険者は石碑の場所にも辿り着けないようだからな。
【鑑定】ビッグボールアメーバ
名前: なし
年齢: 480
種族: アメーバ
加護: なし
状態: 普通
性別: なし
レベル: 31
魔法: 水(8)・土(6)・雷(2)
技能: 牙(8)・・毒(3)・探知(3)・回避(4)・
耐性: 火・水・毒・麻痺・腐食
スキル: 【威圧】2【再生】9【分裂】9
ユニークスキル なし
称号: なし
緑色した大きなボールの形をしていた。ただ、形は一定ではなくペッタンコになったりボール型になったり様々な形に変化を続ける。一番細長くなって高く延びた時には十メートルはあるだろう。その分細くなっているのだが。
中まで透けて見えるので、取り込まれた魔物の残骸や魔石まで見えている。非常に大きな魔石を持っているようだ。
魔石が見えてるのはいいのだが、あの魔石を破壊してしまうと魔石の回収はできないという事なのだろうな。
しかし、魔石を破壊しないと倒せない……ここは魔石を諦めるしかないか。
「仕方が無い、魔石はあきら……」
「散開! 散開後、タイミングを合わせて魔核を狙います! 号令まで待機!」
え? 魔核?
頭上にハテナマークを出したまま突っ立ってココアを見てるが、全員私には構わず行動していた。もちろんココアも視線はビッグボールアメーバを見たままなのでこちらには向いてない。向いてないが、いつもより胸を逸らしてるように見えるのは気のせいでは無いと思う。私が見ているのを分かっているのだろう。その証拠に頬も少し赤くなっている。
私の勇士をご覧ください、という感じなのかもしれない。
……そうなのかもしれないが、発表会の親のように微笑ましい気分になってしまうのは仕方の無い事なのだろうか。
「魔核の外縁部を狙うように! 魔石はご主人様が所望しております! 魔石には絶対に傷つけないように!」
魔核と魔石は別物? 確かに大きな魔石だなぁとは思っていたが、あの見えてるものは魔石では無いのか。
ココアだけではなく皆も疑問に思ってないようだ。知らなかったのは私だけか。
そんな私の疑問を置き去りに、ココアの指示は続く。
「今です!」
ミルキーの槍が魔核の外縁部を削り、ソラの式具がドリルのように回して核以外の外縁部分を削って行く。
ココアもソニックブームで狙いすまして上手く外縁部をカットすると、中から色の違う部分が見えていた。
ミルキー、ソラ、ココアが遠距離攻撃で魔核の外縁部を本体のゼリー部分ごと吹き飛ばすと、吹き飛ばされた部分をノアがブレスで消滅させていた。
こういったゼリー状のスライム系は再生能力が高いと聞いている。吹き飛ばした部分も再度取り込めば再生速度も上がるはずだ。それを阻止するためにノアが吹き飛ばされた部分や魔核から遠い本体にブレスを吐き消滅させていた。
本当なら弱点である魔核を移動させて攻撃を回避したりするのだそうだが、四人の連携が早すぎて魔核の移動も覚束ない様子だ。しかも、本体のゼリー部分がどんどんと削られてるから移動させるスペースも無くなって行く。
そしてみるみる削られていったビッグボールアメーバは、三○秒も経たずに魔核の殆どを削られ、本体のゼリー部分が半分程度になった時に、バシャ! っと音を立てて完全な液体になってしまった。
残ったものは魔石だけ。他にも体内で消化中の魔物の残骸もあったが、どれも原型を留めてなかったので回収しても使い道は無いだろう。
魔石を回収したココアに恭しく捧げられたが、なんだろうか、あまり受け取る気になれないのは一方的に倒されたビッグボールアメーバが気の毒に思えたからかもしれない。
手渡されたのは確かに見慣れた魔石だった。少し大きめなのは、やはりレベルの高い魔物だったからだろう。
ドヤ顔で並ぶ四人を前に「ご、ご苦労さん……」と、つまり気味にしか言葉を出せなかった。
確かに凄い、いや凄すぎるのだが、平然とやってのける四人に呆れるばかりだ。
まぁ、森の長に山の主だからな、この辺の魔物など歯牙にも掛けないのだろうな。しかも名付けにより以前より強くなってるし、ココアやソラは同等かそれ以上に強い。これぐらいの芸当はできて当たり前なのだろう。
大した休憩も挟まずに次へと向かう。進行状況としては森の中心部までは石碑からなら四分の三は過ぎただろう。予想以上に早い進行状況に皆の力を低く見積もり過ぎていたと後悔する。
しかし、過信して痛い目に合うよりは、遠慮気味に低く見積もっておく方が無難だと思う。この考え方は今後も変えないだろう。若者の特権でもあるイケイケの暴走思考は私には荷が重いからな。
若気の至りなど、もう私には似合わない言葉だ。
もう私が何も言わずとも、四人とも先に進んでいる。私も負けずに後を追いかける。彼女達にすれば今まで素材回収など無縁だったろうに、私に付き合ってなるべく素材を傷つけないように倒してくれている。
石碑から出発した時よりも格段に上達しているのは明らかだ。
だが、そろそろ長めの休憩を取ってもいい頃合だな。次の中ボス戦が終わったら食事休憩でも取ってゆっくり身体を休めるとするか。
【鑑定】ゴーレム
名前: なし
年齢: なし
種族: 召喚
加護: ケンジの加護
状態: 普通
性別: なし
レベル: 14
魔法: 土(9)
技能: 体術(7)
耐性: 火・水・土・木・雷・毒・麻痺・腐食
スキル: 【鉄壁】8【再生】5
ユニークスキル なし
称号: 守護の盾役
……ちょっと待ってくれ。『ケンジの加護』? 誰だそれは。明らかに誰かの作ったものだろう。凄く怪しいものが出てきてしまったな。
だが今は対処が先だな。このゴーレムの属性が土なのは土で出来たゴーレムだからだろうが、【鉄壁】や【再生】のスキルを持ってるとなると守り主体のゴーレムなのだろう。『守護の盾役』の称号からも守り主体という事が窺えるな。
それにしてもデカいな。ケンジという奴は何を考えてこんなものを作ったのだ。十メートル超えはいくらなんでもデカすぎるだろ。
「皆、非常に守りの固いゴーレムのようだ。ただ気になる事もあるので行動不能にして少し調べたい。余裕があるなら行動不能前に攻撃を止めてくれ」
「かしこまりました。では皆さん、固いそうですからあまり手加減は必要ありません。幾つかの魔石を核にして動いてるでしょうから、魔石を抜けばいいでしょう。魔石を壊してはいけませんよ」
「「「はーい」」」
さっきからその返事はなんなのだ。ふざけてるのか? それとも相手を舐めてるのか。舐めてるんだろうな。
今回は散開せずに全員が正面からゴーレムに当たるようだ。
動きの遅いゴーレムだから、慌てて逃げなくても余裕で避けられるとの判断なのだろう。舐めてるというのもあるだろうが……
しかし、場面場面で的確な判断だと思う。余裕を交えつつ指示を出すとは。私より遥かに有能ではないか、こっちは【鑑定】もあるのに負けてられないな。
私が密かに決意を改めていた時、既に攻撃は始まっていた。
もう三度目だ、四人で一斉攻撃してしまうのは過剰だと学んでくれたのだろう。
ソラが前に出て箸の式具を取り出し巨大化させた。巨大化した式具が飛んで行きゴーレムの後方にザンッ! と音を立てて突き立った。
続いて二本目も同様に巨大化させて飛ばしゴーレムの右に、三本目は左にと突き立てた。
そして四本目、ソラにあげた箸は二膳分だから四本でお終いだ。
四本目も巨大化させると自分の前に突き立てた。
最後に突き立てた四本目の式具に四人で手を添えた。
バリバリバリバリー ギューン バシュッ!
式具の間に稲妻が走ったかと思ったら、式具同士を稲妻が繋ぎ四角形を作った。
その稲妻で出来た四角形が縮んで行き、ゴーレムを拘束したかと思ったら、元々何も無かったかのようにゴーレムが消滅してしまった。
「な……」
何をやったんだ!? そんな技、初めて見るぞ! 一体何がどうなったのだ!
ゴーレムは何処へ行った……
「……ソラ?」
「合体技だよー」
……聞くチョイスを間違った。
「ココア?」
「はい、合体技です」
お前もか……
ミルキーとノアに目をやるが、二人とも同意とばかりに大きく肯いている。ちょっと自慢気なところがイラつくが、誰か解説出来る者はいないのか!
―――今のは結界術の応用で、雷結界を利用してゴーレムを拘束しました。
おお! 【那由多】! お前がいたな!
結界術か。それならソラの得意とするところだな。しかし雷結界? あまり聞かないが……
―――結界術にはどの系統にもあります。火・水・風・土・氷・雷・光・闇・空間・次元・重力。全てに結界術がありますが、今のは雷魔法を利用した結界術でした。
ソラがメインとして発動させ、他の三名が魔力を供給しました。故に『合体技』と名乗っているのでしょう。
なるほど、理解した。確かに四人で協力したのなら『合体技』でもいいだろう。だが、結界術とは相手が消滅してしまうものだったか? 私の知っている結界術とは全然違うのだが。結界術とは護りの術ではないのか?
―――魔力供給が過剰だった結果です。それに完全消滅ではありません。
魔力供給が過剰って……やり過ぎただけで、この結果か。それと完全消滅じゃないって、ゴーレムの姿はもう……ん? 何か光って……魔石か! 魔石は残ったのか!
ゴーレムがいた場所にビッグボールアメーバの魔石と同程度の魔石が五つ残っていた。
ゴーレムは五つの魔石で動いていたのだろう。ゴーレムが消滅してしまうような攻撃の中で、よく魔石が残ったものだ。
お、あれは……
ゴーレムがいた場所の背後に洞窟があった。どうやらゴーレムはこの洞窟の入り口を守っていたらしい。
という事は、人攫い達の、引いてはレッドワイバーンと一緒にいる奴らのアジトに関連する場所かもしれん。
今の所、これといった変化は無いからゴーレム以外に防衛手段は用いていなかったのだろう。
まずは少し離れて入り口を見張りつつ、ついでに食事休憩でも取ろうか。
時間が経てば何か変化が出るかもしれない。食事休憩を取るタイミングとしてもちょうどいいだろう。
何も変化が無ければ洞窟の探索だな。
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***
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*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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