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第3章 西の大陸
第18話 洞窟の探索
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朝、石碑の前から出発してここまで五時間ほどだろうか、昼食にはちょうどいい時間だったが、三体目の中ボスを倒したら洞窟があったので、見張りがてら昼食を食べて時間を潰している。
普通に森の中を歩いて来た割には、殊の外早くここまで辿り着いた。誰も走ったりしていないのだが。
いや、魔物の楽園と言っても過言では無い森の中を普通に歩くだけでも異常なのに、このペースは異常すぎる。
途中、功を競う四人のペースが上がってるとは感じていたが、私は縦横無尽に走り回り素材回収をしていたからここまで予想を上回るペースで来ていたとは思ってなかった。
実際、周辺探索で確認すると、思っていたより石碑側に位置するようだが、それでもかなりのハイペースで移動してきたようだ。
少し遅めの昼食だが、料理を作る事にした。料理は当番制にしてるのだが(ソラ抜き)、今回は私の番だ。
私の時は男料理になるのだが、味には自信があるし、皆も満足そうに食べてくれているから外で食べる分にはこれでいいだろう。
ただ、困った事に、皆の料理の見本は私なので、同じような料理になってしまう。もっと凝った料理を作って食べさせないと、皆も覚えられない。普段はこういうのでいいのだが、偶には凝った料理やお洒落で高級な料理も食べたい。
そのためには私が作らないといけないのだが…今度試作してみるか。私が上手くできるかが今後の食事情を左右する大事な課題だな。
煮込み料理は三○分は掛かるので、見張るのにはちょうどいい。ただ、出来上がるまで皆が我慢できるかどうかだ。
ソラはもちろん、最近ではノアとミルキーも食事を楽しみにしている。予想通り、料理が出来上がるまで待ちきれないようすなので、肉を串に刺して塩コショウをかるく振り、味噌を塗り焚き火で焼いて食べる簡単な料理で場を繋いだ。料理と言うのもおこがましいものだが、それでも腹を空かしたソラには十分満足できたようだ。
ノアとミルキーの分も作っていく。それと平行して鍋でも料理を作っていく。
魔物の骨で出汁を取り、肉と野菜をたっぷりと入れ、灰汁を取ったら塩コショウで味を整え、香草や薬味を器に入れた後に入れると出来上がりだ。
野菜や香草は森の中にいくらでもあったし、肉はここに来るまでに大量に確保できている。だが、味噌と醤油は東の国で物々交換したものしかない。まだまだあるが、どこかで調達しないとな。
幸い、【那由多】が解析をしてくれたので作れるのだが、出来上がるまでは何ヶ月も掛かるのだ。しかし一箇所に拠点を構えて留まる予定は無い。
もう、会社への復職は諦めているが、元の世界に戻る事は諦めていない。だから拠点を構える事はできないのだが、醤油が無くなる前に何とか入手先を確保したいものだ。
―――解析完了しました。
おかわりも落ち着いた食事の終盤に【那由多】から完了報告が来た。
ん? 【那由多】か。何の解析が完了したんだ? 頼んでたのは東の国、若しくは元の世界への帰り方と、石碑の解析だったな。
(何の解析が完了したのだ?)
―――タロウの記憶の解析が全て完了しました。
私の記憶?
(私の記憶とはどういう意味だ? そんな解析なんて頼んでないし聞いてないぞ)
―――ユニークスキル【那由多】がタロウの【那由多】としてサポートするのに必要な解析です。解析完了後に完全支援ができるようになりますので、解析後の報告となりました。
(……よく分からんが、それでどんなサポートをしてくれるのだ?)
―――タロウの体験した全てをバックアップしましたので、一瞬見ただけのものでもレポートできます。例えば、一度だけすれ違っただけの人の顔を出せますし、過去に一瞬見ただけの事柄も出せます。
イマイチ分からんサポートだが、それが何の役に立つのだ? 別に人探しはしてないし、まだ物忘れも酷くない。
(それが何の役に立つのか知らないが、そんな事にメモリを使うぐらいなら石碑の解析を急いでくれ)
―――非常に役立つサポートです。石碑の解析を行なうには情報不足です、現状では解析できません。
役立つサポートね、そうは思えないのだが……
(では、役立つというなら証拠を見せてくれ)
―――今、最も欲しい物は調味料ですね。では、レシピを出します。
頭の中にズラズラと出てくる文字と画像。
卵、酢、塩、胡椒、サラダ油。
手順も画像付きで分かりやすく出てくる。
出来上がり画像は……マヨネーズか!
私はマヨネーズなど作った事も無いし、作ろうと思った事も無い。なのに、何故こんなデータを持ってるのだ。
しかも、この世界での卵の入手方法や酢・サラダ油の作り方も出ている。サラダ油の代用品までも出ている。
塩の精製法や胡椒とは胡椒の木に実がなる事、そこから粉にする工程やペッパーミルの作り方まで。
私の知らない情報が満載じゃないか! なんだこれは!
(私はこんな事は知らない! どこからの情報なのだ! 確かに知りたかった事だし、非常に助かるが、情報源はどこなのだ)
―――全てタロウの記憶の中にありました。テレビやパソコンで一度見ただけのものでも解析してバックアップしました。他にもあります。
おお! これはスリリングショット(パチンコ)、こっちは拳銃。こっちは発電所、これは……ゴムの木か。これは中華料理のレシピ、こっちはフランス料理のレシピ、これは……フィギア? 確かに見たには見たが……これはマンガ、これはシャンプー? そのラベルのアップ……ああ! 素材か! これは……これは……これは……これは……これは……これは……これは……これは……
(凄いぞ【那由多】! これは役に立つ! 疑ってすまなかった!)
―――どうぞ、お役立てください。
(ああ、助かる。ありがとう)
「ご主人様? どうされました?」
「あ、いや、なんでもない。それよりココア、全部片付けてくれたのか。悪いな、私の当番だったのに」
「いいえ、何か考え事をしておられたご様子でしたので、勝手ながらお手伝いしました」
「いやいや、助かったよ。それで洞窟の様子はどうだ?」
「はい、今はミルキーさんが……今はアトムさんですね。アトムさんが見張ってくれていますが、報告が無いので変化は無いでしょう」
「アトムがか……ココア、アトムで思い出したが、あのミルキーの槍だが、あれは便利そうだな」
あの伸縮自在の槍について話を振ってみた。【那由多】との話で考え事をしてると思われてたので、ふと思いついたのがミルキーの槍だった。やはり、あれが一番気になる。
【那由多】の報告が非常に気になるところだが、調べるのに時間が掛かりそうだから今は置いておこう。
「あの槍ですか。あれはミルキーさんの能力なのでしょう。恐らく、変身の応用かと」
「え? ああいった武器では無かったのか?」
いや、鍛冶屋の腕も大したもんだと驚いていたのだが、武器の性能ではないのか?
「はい、私もソラさんも式具を形状変化できますから。ミルキーさんの場合も同じではないのでしょうか」
確かにただの箸を大きくしたり結界の媒体にしたりしてるな。でも、それは私から貰ったからだと言ってなかったか。
「私から貰ったものではなくともできるのか」
「いいえ、あのミルキーさんの武器はご主人様が買い与えたものではないですか。だから出来るのだと思いますが」
「確かにお金は私が出したが、私は一度もあの槍に触れてもいない。それでもいいのか?」
「もちろん結構です。ご主人様が与えたのであれば、それでいいのです」
かなりアバウトな設定なのだな。
「だったらノアの剣もそうなのか?」
「いいえ、ノアさんはそういうのは苦手のようです。その代わりに馬に変身ができるのでしょう。私もあそこまで延ばせませんので、ミルキーさんは飛ばしたり変化させるより延ばすのが得意なのでしょう」
ほぉ、ココアにはできないのか。という事はミルキーだけのオリジナルスキルと考えていいのか。しかし、聞いておいてよかった。今の話を聞いてなければ、あの鍛冶屋に槍を大量発注するところだったな。
今頃、あのスケベ鍛冶屋はドラゴン素材で鍛冶仕事に明け暮れていてくれているといいのだがな。
「ご主人様、特に変化は無いようでございますので、そろそろご決断されませんか?」
「そうだな、外から入る者も中から出てくる者もいないようなら洞窟を調べるしかないな。皆の準備はいいのか?」
ゴーレムを倒してから、もう一時間以上は経ってる。加護にケンジとあったから製作者はケンジという者なのだろう。そのケンジのゴーレムが洞窟の入り口を守ってたのだから、そのゴーレムが倒されたら何らかのアクションがあると思ったのだが、未だに何の行動も見られない。
実はここはダミーで、別にアジトがあるのだろうか。それにしては堅固なゴーレムだったが。
あっさり倒してしまった我々が言っても説得力は無いかもしれないが、守り重視のスキル構成だったからな。
「はい、火の始末は終わっていますし、洗い物も済ませました。後は、これをご主人様が収納してくだされば準備完了です」
いつもながら流石だな。偶に暴走する時を除けば本当に優秀な従者だよ。
私ももう手馴れたもので、収納は一瞬だ。以前は収納したいものを掴んだり持ったりしてたが、この西の大陸に来た頃からは触れるだけで収納ができるようになっていた。そして今では少し離れていても視界に収めるだけで念じれば収納できるようになった。慣れというのか熟練度が上がったと言うべきか。いずれにしても非常に便利な能力だよ。
一旦、洞窟の入り口前で止まり、周辺探索で周囲を確認するが、特に怪しい点は見当たらない。赤も青も私達以外に点は確認できない。
さて、洞窟という事は細い通路になってるだろうから一列での移動になるな。誰を先頭にするかだな。
「では、これから洞窟の探索のため、中に入るわけだが予想では中の通路は狭いだろう。そこで並び順だが……」
「では、私が務めさせて頂きます」
「ココア殿は何をおっしゃるのかの、洞窟を見た時から妾が先頭なのは決まっておったのじゃ」
「いえいえ、ノアさんのブレスは洞窟では強力過ぎます。ここは槍が得意な私が先頭になるのが必然かと思います」
「必殺技~?」
「私も普段は薙刀ですが、式具もありますから問題ありません」
「妾も手加減を覚えたのじゃ。何も問題は無いのじゃ」
「ココアさんはご主人様の護りをお願いします。ここは私が参ります」
「うちの必殺技ー」
「ならば妾が狭い洞窟を広げて歩きやすくするのじゃ。だらか妾が先頭なのじゃ」
……ノアよ、手加減の話はどこに行ったのだ。洞窟の通路を広げるほどの衝撃を与えると崩落してしまうぞ。
ソラは論外だとして、ココアも私の護りが満更でもないようだから、ここはミルキーだな。
「では、ミルキーが先頭で、ノアには殿を頼む。殿は常に後ろを警戒しないといけないから大変な役割だが頼めるか?」
「当然なのじゃ! 妾に掛かれば造作も無いのじゃ!」
うん、チョロいな。
うちは、よく言うタンク役の前列がいなくて、全員が二列目に当たるアタッカーでもあるし、魔法やブレスなどの中・長距離攻撃を使うので後列の役割のはずだが、なぜ全員が先頭をやりたがるのだろう。
攻撃は最大の防御ぐらいにしか考えてないのだろうな。いや、先手必勝の方か。攻撃される前にやってしまえとしか思ってないな。それなら先頭に立ちたいと思う気持ちも納得か……いや、それでも私には納得はできないな。
順番も決まったので、ミルキーを先頭に、ソラ、ココア、私、ノアの順で洞窟に入って行く。
中に入ってみると、洞窟なのに真っ暗ではなかった。壁自体が薄ぼんやりと黄色く発光していたのだ。
真っ暗でも我々には問題は無いのだが、やはり少しでも明るい方が恐怖感が薄れる。これは有り難い誤算だった。
「この壁が光ってるのは何故なんだろうか。光苔でも付いてるのだろうか」
壁を睨みながら誰にとも無く呟いていると、ココアが先に返事をしてくれた。
「申し訳ございません。私にも何故光っているかは分かりません」
分からないながらも答えてくれるココア。
こういうのは嬉しい。オヤジギャグをスルーされるのはもう慣れてしまっているが、単なる疑問に答えを持ってなくても返事をしてくれるのは普通に嬉しいもんだ。
「ここはダンジョンではないでしょうか。サントスの森にもダンジョンが一つあるのですが、タイプは違いますがやはり壁が光っていますから」
そう答えてくれたのはミルキーだ。
回答が正解でも不正解でもいい。こうやって返事をくれるのが有り難い話だ。
しかしダンジョンか。今更だが、やはりここは異世界なのだな。
ダンジョンと聞けば魔物が付き物だ。なので周辺探索を使い魔物の気配を探る。
赤い点がチラホラと確認できるが、消え入りそうなぐらい小さな点だった。これは相当に弱い魔物を示している。
このダンジョンには強敵はいないのだろうか。いや、まだ入ったばかりの一回層だ、徐々に強さを増して行くのかもしれない。
それよりも罠もダンジョンには付き物だな。周辺探索で罠も確認できるのだろうか。
(罠は周辺探索で確認できるのか?)
―――もちろん周辺探索に現れます。黄色の点滅が罠で、黄色点灯が宝箱です。
ふむ、やはり便利な機能だな。戦闘はミルキーに任せて、魔物と罠の位置の警戒に重きを置こう。この程度の魔物群ならモンスターハウスに嵌まったとしてもミルキー一人で十分だろう。
モンスターハウスと言っても所詮は同じフロアに出る魔物がいるだけだからな。うちの連中に最大攻撃を仕掛けても傷一つ負わないだろう、理不尽だが数の暴力ではどうにも出来ない力の差があるのだ。
周辺探索で確認すると、ダンジョンの広さは一辺が五〇メートルぐらいの正方形になっていて、通路は幅三メートルぐらい、剣なら何とか振り回せる広さだ。槍は突くしかできないだろうな。
フロアには偶に広い部屋があり、広い部屋の三つの内一つぐらいの割合で宝箱があった。宝箱には罠も仕掛けてあるものもあったが、罠解除は全部ミルキーから成り代わったアトムに任せた。こういうのはアトムが得意なのだ。
隠密といい罠解除といい、完全に盗賊か忍者だな。
時折現れる魔物はミルキーが一撃で葬る。葬られた魔物は床に吸収されるように跡形も無く消え去ってしまった。ただ、魔石だけは床に残るようだ。
外では見られない現象だ。解体する手間は省けるが、素材が何も取れないのは困る。うちは最近美食家ほどではないが味に煩くなってきてるから、その要望に答えるには自分達で作らないといけないのだ。
それには食材が必要になるのに、ダンジョンに吸収されたら回収もできない。
今の所は美味そうな魔物は出てきていないが、今後出てきた時には何とかして取れないものか研究するだろうな。
そんな検証を続けながらのんびりと歩いているが、もう地下九階まで下りて来ている。ダンジョン風に言うと九階層目だな。
忙しいのはミルキーだけだが、まだ入って十分程度しか経ってない。忙しいという程の時間も経ってない。
魔物が何の障害にもなってないのはもちろんだが、私達の歩く速度も速くなってるのではないだろうか。
森の中でも思ったが、のんびり歩いてるように見えて、(実際今ものんびり歩いてるのだが)一般人が全速で走るぐらいの速度で移動できているように思える。
比較対象が無いので分かり辛いのだが、間違ってないと思はずだ。
そして十階層目の小部屋でアトムが宝箱を開けている時に、周辺探索の違和感に気付いた。
微妙にだが、やや大きめの赤点があるのだ。他は針先ほどの小さな点なのだが、もう少し分かりやすい大きさの赤点があったのだ。
「これは…もしかして中ボスか?」
「「ボス~!?」」
反応したのは二人、ソラとノアだ。アトムは宝箱解除に夢中になっている。どうも宝箱に罠がかかってるので集中してそれどころではないようだ。
ココアは私の専属護衛モードになってるから、護り主体の思考に切り替えてるのだろう。
ここまで出てきた魔物はゴブリンにスライムにコボルトにビッグラットにホーンラビット、少し下層になって来てからもオーク止まり。
冒険者ギルドで言う所の雑魚だ。
それが三階層までは単体で出てくるだけ、四階層以降も四体で組んでれば多いぐらいのエンカウント率だ。先頭のミルキーが苦戦するはずもない。逆に弱すぎてストレスが溜まってるのではないだろうか。
「うちがやるー」
「待て待てソラ殿、ここは妾の出番じゃ」
「えー、うちがやるのー」
「ダメじゃ、先頭をミルキー殿に泣く泣く譲った妾の番じゃ」
「えー」
共闘するという考えなど無いのだな。私としては一緒に戦ってくれた方が安心できるのだが。
その上で、初撃を誰がやるかで揉めるのなら分かるのだが、ソロで戦うのに何故そこまで拘るのだろうか。
この赤点の小ささから言って、二人だと過剰戦力になるかもしれないが、安全に戦ってほしいところだ。
アトムが宝箱の中身を回収するのを待って、中ボスと思われる魔物へと向かう。
途中で魔物も出て来たが、アトムから戻ったミルキーが相変わらず先頭で無双している。雑魚相手に無双という言い方も言い過ぎなのだが、実際こちらが歩調を弱める事無く歩けてるのだから無双でいいだろう。
現れた中ボスはゴブリンキングだった。
ゴブリンの王というだけあって体躯はオークよりデカく、レベルもまぁまぁだ。武器は大剣と大盾のようだが、身体のサイズがデカいから、普通サイズの剣と盾に見えるな。
鑑定結果から言うと、うちの連中の敵では無いが、眷属を呼び寄せられたら時間が掛かりそうだ。
称号にはフロアマスターとあるから、ここ十階層がダンジョンの区切りとなっているのだろう。一区画目の最終ボスという事なのだろうな。
【鑑定】ゴブリンキング
名前: なし
年齢: 82
種族: 亜人種
加護: なし
状態: 普通
性別: 男
レベル: 28
魔法: 土(2)・身体強化(7)
技能: 剣(6)・槍(4)・毒(3)・眷属強化(5)・統率
耐性: 土・毒・麻痺
スキル: 【威圧】4【再生】1【眷属誘引】6
ユニークスキル なし
称号: ゴブリンの王 フロアマスター
「ノア、早めに仕留めないと子分を呼び寄せる奴のようだ。先手必勝で頼む」
結局はノアが一人で戦う事に決まったので、ノアに鑑定結果から予想した相手の情報を伝えた。
「我が主よ、慌てるでない。雑魚がいくら集まろうと妾の敵では無いのじゃ」
確かにそうだとは思うが、いっぱい来られたら面倒だろ。
ここには探索のために入ってるのであって、ダンジョン攻略に来てるのでは無いのだぞ。
ふふんと鼻を鳴らし、勝ち誇った様子で一歩前に出るノア。中ボス戦を任されたのが嬉しいのだろう。
そして……いつまで腕を組んで立っているのだ。さっさと倒してくれ。
「ノア?」
「彼奴だけじゃと妾の見せ場がすぐに終わってしまうのじゃ。しばし待つのじゃ」
ん? それは、あいつが子分を呼び寄せるのを待つという事か?
そんな面倒な話は聞けん。ソラに言ってさっさと倒してもらうか。いや、なんなら私が……
私が腰の虎刀牙の刀に手をかけたのが雰囲気で伝わったのか、ノアがこちらを見た。
当然、私もノアを見るので目と目が合う。
「わ、わかったのじゃ! すぐに行くから我が主は動くでなーい!」
私が痺れを切らして行動に出るように見えたのだろう。ノアが慌てて言い訳をしながらゴブリンキングに向かって行った。
本当に行動に出ようと思ってたからな。その判断は間違ってないぞ。
慌てて飛び出していったノアだが、先日鍛冶屋で購入した剣を持ってない。ブレスで仕留める気なのだろうか。手には東の国で購入した扇子しか持ってないのだが。
もしかして慌てて出て行ったので間違ってるのか? 元々龍なので武器など使って来なかっただろうし、武器で戦うのに慣れてなかったんじゃないのか?
「ノア!」と叫ぼうとした瞬間、ノアの手に持たれた扇子が光を放ち、その姿を扇子から剣へと変えた。
……
……
一瞬呆けてしまったが、扇子にそんな機能は断じて無い! 鉄扇で戦う中国お姉さんは見た事はあるが、扇子が剣に姿を変えるなどおかしいじゃないか!
ソラとココアの箸といい、小判といい、東の国製だからなのか? それとも私から従者に渡したからなのか? いずれにしても有り得ない話だ!
しかし……あれは剣じゃない? よく見ると扇子を剣の柄に見立てて持ってるだけで、刀身は扇子から延びてる光? ビームサーベル? ノアのブレスの色と同じ白色だが、それが何か関係あるのだろうか。
ある程度長さも自由が利くようだが、ミルキーの槍のようには延ばさないな。いや、恐らく延ばせないのだろう。
それにしても、そんなのがあるのなら剣を買う必要なんて無かったではないか。まぁ、普段からそんなビームサーベルもどきのような剣を使うと悪目立ちしてしまうがな。
しかし、先日のドラゴン狩りの時には見せなかった武器だが、いつから使えたのだろうな。
戦いの結果は、もちろんノアの圧勝。
ビームサーベルもどきの前ではゴブリンの持つ大盾は全くの無意味だった。大盾はケーキのようにノアの一撃でスカッと斬られてしまい、そのまま左腕も斬られて失ってしまったゴブリンキングには、ノアの二撃目を防ぐ手立ては無く、二撃目で胴を、三撃目で首を斬られたゴブリンキングは、すぐに床に吸収されていった。
残ったものはゴブリンやスライムよりは遥かに大きいが、ゴーレムよりは小さい魔石と、右手に持っていた大剣だ。
【ゴブリンキングの大剣】攻撃力100。
うちに大剣使いはいないから売る一択だな。
これはドロップ品と呼んでいいのか? ゲームであればドロップ品にあたるが、ここでは戦利品になるのかもな。
まぁ、まだ先があるようだし、どうせまだミルキー無双が続きそうだから歩きながらでも聞いてみるか。ノアの武器の件もあるしな、時間も惜しいしさっさと下へと向かおうか。
普通に森の中を歩いて来た割には、殊の外早くここまで辿り着いた。誰も走ったりしていないのだが。
いや、魔物の楽園と言っても過言では無い森の中を普通に歩くだけでも異常なのに、このペースは異常すぎる。
途中、功を競う四人のペースが上がってるとは感じていたが、私は縦横無尽に走り回り素材回収をしていたからここまで予想を上回るペースで来ていたとは思ってなかった。
実際、周辺探索で確認すると、思っていたより石碑側に位置するようだが、それでもかなりのハイペースで移動してきたようだ。
少し遅めの昼食だが、料理を作る事にした。料理は当番制にしてるのだが(ソラ抜き)、今回は私の番だ。
私の時は男料理になるのだが、味には自信があるし、皆も満足そうに食べてくれているから外で食べる分にはこれでいいだろう。
ただ、困った事に、皆の料理の見本は私なので、同じような料理になってしまう。もっと凝った料理を作って食べさせないと、皆も覚えられない。普段はこういうのでいいのだが、偶には凝った料理やお洒落で高級な料理も食べたい。
そのためには私が作らないといけないのだが…今度試作してみるか。私が上手くできるかが今後の食事情を左右する大事な課題だな。
煮込み料理は三○分は掛かるので、見張るのにはちょうどいい。ただ、出来上がるまで皆が我慢できるかどうかだ。
ソラはもちろん、最近ではノアとミルキーも食事を楽しみにしている。予想通り、料理が出来上がるまで待ちきれないようすなので、肉を串に刺して塩コショウをかるく振り、味噌を塗り焚き火で焼いて食べる簡単な料理で場を繋いだ。料理と言うのもおこがましいものだが、それでも腹を空かしたソラには十分満足できたようだ。
ノアとミルキーの分も作っていく。それと平行して鍋でも料理を作っていく。
魔物の骨で出汁を取り、肉と野菜をたっぷりと入れ、灰汁を取ったら塩コショウで味を整え、香草や薬味を器に入れた後に入れると出来上がりだ。
野菜や香草は森の中にいくらでもあったし、肉はここに来るまでに大量に確保できている。だが、味噌と醤油は東の国で物々交換したものしかない。まだまだあるが、どこかで調達しないとな。
幸い、【那由多】が解析をしてくれたので作れるのだが、出来上がるまでは何ヶ月も掛かるのだ。しかし一箇所に拠点を構えて留まる予定は無い。
もう、会社への復職は諦めているが、元の世界に戻る事は諦めていない。だから拠点を構える事はできないのだが、醤油が無くなる前に何とか入手先を確保したいものだ。
―――解析完了しました。
おかわりも落ち着いた食事の終盤に【那由多】から完了報告が来た。
ん? 【那由多】か。何の解析が完了したんだ? 頼んでたのは東の国、若しくは元の世界への帰り方と、石碑の解析だったな。
(何の解析が完了したのだ?)
―――タロウの記憶の解析が全て完了しました。
私の記憶?
(私の記憶とはどういう意味だ? そんな解析なんて頼んでないし聞いてないぞ)
―――ユニークスキル【那由多】がタロウの【那由多】としてサポートするのに必要な解析です。解析完了後に完全支援ができるようになりますので、解析後の報告となりました。
(……よく分からんが、それでどんなサポートをしてくれるのだ?)
―――タロウの体験した全てをバックアップしましたので、一瞬見ただけのものでもレポートできます。例えば、一度だけすれ違っただけの人の顔を出せますし、過去に一瞬見ただけの事柄も出せます。
イマイチ分からんサポートだが、それが何の役に立つのだ? 別に人探しはしてないし、まだ物忘れも酷くない。
(それが何の役に立つのか知らないが、そんな事にメモリを使うぐらいなら石碑の解析を急いでくれ)
―――非常に役立つサポートです。石碑の解析を行なうには情報不足です、現状では解析できません。
役立つサポートね、そうは思えないのだが……
(では、役立つというなら証拠を見せてくれ)
―――今、最も欲しい物は調味料ですね。では、レシピを出します。
頭の中にズラズラと出てくる文字と画像。
卵、酢、塩、胡椒、サラダ油。
手順も画像付きで分かりやすく出てくる。
出来上がり画像は……マヨネーズか!
私はマヨネーズなど作った事も無いし、作ろうと思った事も無い。なのに、何故こんなデータを持ってるのだ。
しかも、この世界での卵の入手方法や酢・サラダ油の作り方も出ている。サラダ油の代用品までも出ている。
塩の精製法や胡椒とは胡椒の木に実がなる事、そこから粉にする工程やペッパーミルの作り方まで。
私の知らない情報が満載じゃないか! なんだこれは!
(私はこんな事は知らない! どこからの情報なのだ! 確かに知りたかった事だし、非常に助かるが、情報源はどこなのだ)
―――全てタロウの記憶の中にありました。テレビやパソコンで一度見ただけのものでも解析してバックアップしました。他にもあります。
おお! これはスリリングショット(パチンコ)、こっちは拳銃。こっちは発電所、これは……ゴムの木か。これは中華料理のレシピ、こっちはフランス料理のレシピ、これは……フィギア? 確かに見たには見たが……これはマンガ、これはシャンプー? そのラベルのアップ……ああ! 素材か! これは……これは……これは……これは……これは……これは……これは……これは……
(凄いぞ【那由多】! これは役に立つ! 疑ってすまなかった!)
―――どうぞ、お役立てください。
(ああ、助かる。ありがとう)
「ご主人様? どうされました?」
「あ、いや、なんでもない。それよりココア、全部片付けてくれたのか。悪いな、私の当番だったのに」
「いいえ、何か考え事をしておられたご様子でしたので、勝手ながらお手伝いしました」
「いやいや、助かったよ。それで洞窟の様子はどうだ?」
「はい、今はミルキーさんが……今はアトムさんですね。アトムさんが見張ってくれていますが、報告が無いので変化は無いでしょう」
「アトムがか……ココア、アトムで思い出したが、あのミルキーの槍だが、あれは便利そうだな」
あの伸縮自在の槍について話を振ってみた。【那由多】との話で考え事をしてると思われてたので、ふと思いついたのがミルキーの槍だった。やはり、あれが一番気になる。
【那由多】の報告が非常に気になるところだが、調べるのに時間が掛かりそうだから今は置いておこう。
「あの槍ですか。あれはミルキーさんの能力なのでしょう。恐らく、変身の応用かと」
「え? ああいった武器では無かったのか?」
いや、鍛冶屋の腕も大したもんだと驚いていたのだが、武器の性能ではないのか?
「はい、私もソラさんも式具を形状変化できますから。ミルキーさんの場合も同じではないのでしょうか」
確かにただの箸を大きくしたり結界の媒体にしたりしてるな。でも、それは私から貰ったからだと言ってなかったか。
「私から貰ったものではなくともできるのか」
「いいえ、あのミルキーさんの武器はご主人様が買い与えたものではないですか。だから出来るのだと思いますが」
「確かにお金は私が出したが、私は一度もあの槍に触れてもいない。それでもいいのか?」
「もちろん結構です。ご主人様が与えたのであれば、それでいいのです」
かなりアバウトな設定なのだな。
「だったらノアの剣もそうなのか?」
「いいえ、ノアさんはそういうのは苦手のようです。その代わりに馬に変身ができるのでしょう。私もあそこまで延ばせませんので、ミルキーさんは飛ばしたり変化させるより延ばすのが得意なのでしょう」
ほぉ、ココアにはできないのか。という事はミルキーだけのオリジナルスキルと考えていいのか。しかし、聞いておいてよかった。今の話を聞いてなければ、あの鍛冶屋に槍を大量発注するところだったな。
今頃、あのスケベ鍛冶屋はドラゴン素材で鍛冶仕事に明け暮れていてくれているといいのだがな。
「ご主人様、特に変化は無いようでございますので、そろそろご決断されませんか?」
「そうだな、外から入る者も中から出てくる者もいないようなら洞窟を調べるしかないな。皆の準備はいいのか?」
ゴーレムを倒してから、もう一時間以上は経ってる。加護にケンジとあったから製作者はケンジという者なのだろう。そのケンジのゴーレムが洞窟の入り口を守ってたのだから、そのゴーレムが倒されたら何らかのアクションがあると思ったのだが、未だに何の行動も見られない。
実はここはダミーで、別にアジトがあるのだろうか。それにしては堅固なゴーレムだったが。
あっさり倒してしまった我々が言っても説得力は無いかもしれないが、守り重視のスキル構成だったからな。
「はい、火の始末は終わっていますし、洗い物も済ませました。後は、これをご主人様が収納してくだされば準備完了です」
いつもながら流石だな。偶に暴走する時を除けば本当に優秀な従者だよ。
私ももう手馴れたもので、収納は一瞬だ。以前は収納したいものを掴んだり持ったりしてたが、この西の大陸に来た頃からは触れるだけで収納ができるようになっていた。そして今では少し離れていても視界に収めるだけで念じれば収納できるようになった。慣れというのか熟練度が上がったと言うべきか。いずれにしても非常に便利な能力だよ。
一旦、洞窟の入り口前で止まり、周辺探索で周囲を確認するが、特に怪しい点は見当たらない。赤も青も私達以外に点は確認できない。
さて、洞窟という事は細い通路になってるだろうから一列での移動になるな。誰を先頭にするかだな。
「では、これから洞窟の探索のため、中に入るわけだが予想では中の通路は狭いだろう。そこで並び順だが……」
「では、私が務めさせて頂きます」
「ココア殿は何をおっしゃるのかの、洞窟を見た時から妾が先頭なのは決まっておったのじゃ」
「いえいえ、ノアさんのブレスは洞窟では強力過ぎます。ここは槍が得意な私が先頭になるのが必然かと思います」
「必殺技~?」
「私も普段は薙刀ですが、式具もありますから問題ありません」
「妾も手加減を覚えたのじゃ。何も問題は無いのじゃ」
「ココアさんはご主人様の護りをお願いします。ここは私が参ります」
「うちの必殺技ー」
「ならば妾が狭い洞窟を広げて歩きやすくするのじゃ。だらか妾が先頭なのじゃ」
……ノアよ、手加減の話はどこに行ったのだ。洞窟の通路を広げるほどの衝撃を与えると崩落してしまうぞ。
ソラは論外だとして、ココアも私の護りが満更でもないようだから、ここはミルキーだな。
「では、ミルキーが先頭で、ノアには殿を頼む。殿は常に後ろを警戒しないといけないから大変な役割だが頼めるか?」
「当然なのじゃ! 妾に掛かれば造作も無いのじゃ!」
うん、チョロいな。
うちは、よく言うタンク役の前列がいなくて、全員が二列目に当たるアタッカーでもあるし、魔法やブレスなどの中・長距離攻撃を使うので後列の役割のはずだが、なぜ全員が先頭をやりたがるのだろう。
攻撃は最大の防御ぐらいにしか考えてないのだろうな。いや、先手必勝の方か。攻撃される前にやってしまえとしか思ってないな。それなら先頭に立ちたいと思う気持ちも納得か……いや、それでも私には納得はできないな。
順番も決まったので、ミルキーを先頭に、ソラ、ココア、私、ノアの順で洞窟に入って行く。
中に入ってみると、洞窟なのに真っ暗ではなかった。壁自体が薄ぼんやりと黄色く発光していたのだ。
真っ暗でも我々には問題は無いのだが、やはり少しでも明るい方が恐怖感が薄れる。これは有り難い誤算だった。
「この壁が光ってるのは何故なんだろうか。光苔でも付いてるのだろうか」
壁を睨みながら誰にとも無く呟いていると、ココアが先に返事をしてくれた。
「申し訳ございません。私にも何故光っているかは分かりません」
分からないながらも答えてくれるココア。
こういうのは嬉しい。オヤジギャグをスルーされるのはもう慣れてしまっているが、単なる疑問に答えを持ってなくても返事をしてくれるのは普通に嬉しいもんだ。
「ここはダンジョンではないでしょうか。サントスの森にもダンジョンが一つあるのですが、タイプは違いますがやはり壁が光っていますから」
そう答えてくれたのはミルキーだ。
回答が正解でも不正解でもいい。こうやって返事をくれるのが有り難い話だ。
しかしダンジョンか。今更だが、やはりここは異世界なのだな。
ダンジョンと聞けば魔物が付き物だ。なので周辺探索を使い魔物の気配を探る。
赤い点がチラホラと確認できるが、消え入りそうなぐらい小さな点だった。これは相当に弱い魔物を示している。
このダンジョンには強敵はいないのだろうか。いや、まだ入ったばかりの一回層だ、徐々に強さを増して行くのかもしれない。
それよりも罠もダンジョンには付き物だな。周辺探索で罠も確認できるのだろうか。
(罠は周辺探索で確認できるのか?)
―――もちろん周辺探索に現れます。黄色の点滅が罠で、黄色点灯が宝箱です。
ふむ、やはり便利な機能だな。戦闘はミルキーに任せて、魔物と罠の位置の警戒に重きを置こう。この程度の魔物群ならモンスターハウスに嵌まったとしてもミルキー一人で十分だろう。
モンスターハウスと言っても所詮は同じフロアに出る魔物がいるだけだからな。うちの連中に最大攻撃を仕掛けても傷一つ負わないだろう、理不尽だが数の暴力ではどうにも出来ない力の差があるのだ。
周辺探索で確認すると、ダンジョンの広さは一辺が五〇メートルぐらいの正方形になっていて、通路は幅三メートルぐらい、剣なら何とか振り回せる広さだ。槍は突くしかできないだろうな。
フロアには偶に広い部屋があり、広い部屋の三つの内一つぐらいの割合で宝箱があった。宝箱には罠も仕掛けてあるものもあったが、罠解除は全部ミルキーから成り代わったアトムに任せた。こういうのはアトムが得意なのだ。
隠密といい罠解除といい、完全に盗賊か忍者だな。
時折現れる魔物はミルキーが一撃で葬る。葬られた魔物は床に吸収されるように跡形も無く消え去ってしまった。ただ、魔石だけは床に残るようだ。
外では見られない現象だ。解体する手間は省けるが、素材が何も取れないのは困る。うちは最近美食家ほどではないが味に煩くなってきてるから、その要望に答えるには自分達で作らないといけないのだ。
それには食材が必要になるのに、ダンジョンに吸収されたら回収もできない。
今の所は美味そうな魔物は出てきていないが、今後出てきた時には何とかして取れないものか研究するだろうな。
そんな検証を続けながらのんびりと歩いているが、もう地下九階まで下りて来ている。ダンジョン風に言うと九階層目だな。
忙しいのはミルキーだけだが、まだ入って十分程度しか経ってない。忙しいという程の時間も経ってない。
魔物が何の障害にもなってないのはもちろんだが、私達の歩く速度も速くなってるのではないだろうか。
森の中でも思ったが、のんびり歩いてるように見えて、(実際今ものんびり歩いてるのだが)一般人が全速で走るぐらいの速度で移動できているように思える。
比較対象が無いので分かり辛いのだが、間違ってないと思はずだ。
そして十階層目の小部屋でアトムが宝箱を開けている時に、周辺探索の違和感に気付いた。
微妙にだが、やや大きめの赤点があるのだ。他は針先ほどの小さな点なのだが、もう少し分かりやすい大きさの赤点があったのだ。
「これは…もしかして中ボスか?」
「「ボス~!?」」
反応したのは二人、ソラとノアだ。アトムは宝箱解除に夢中になっている。どうも宝箱に罠がかかってるので集中してそれどころではないようだ。
ココアは私の専属護衛モードになってるから、護り主体の思考に切り替えてるのだろう。
ここまで出てきた魔物はゴブリンにスライムにコボルトにビッグラットにホーンラビット、少し下層になって来てからもオーク止まり。
冒険者ギルドで言う所の雑魚だ。
それが三階層までは単体で出てくるだけ、四階層以降も四体で組んでれば多いぐらいのエンカウント率だ。先頭のミルキーが苦戦するはずもない。逆に弱すぎてストレスが溜まってるのではないだろうか。
「うちがやるー」
「待て待てソラ殿、ここは妾の出番じゃ」
「えー、うちがやるのー」
「ダメじゃ、先頭をミルキー殿に泣く泣く譲った妾の番じゃ」
「えー」
共闘するという考えなど無いのだな。私としては一緒に戦ってくれた方が安心できるのだが。
その上で、初撃を誰がやるかで揉めるのなら分かるのだが、ソロで戦うのに何故そこまで拘るのだろうか。
この赤点の小ささから言って、二人だと過剰戦力になるかもしれないが、安全に戦ってほしいところだ。
アトムが宝箱の中身を回収するのを待って、中ボスと思われる魔物へと向かう。
途中で魔物も出て来たが、アトムから戻ったミルキーが相変わらず先頭で無双している。雑魚相手に無双という言い方も言い過ぎなのだが、実際こちらが歩調を弱める事無く歩けてるのだから無双でいいだろう。
現れた中ボスはゴブリンキングだった。
ゴブリンの王というだけあって体躯はオークよりデカく、レベルもまぁまぁだ。武器は大剣と大盾のようだが、身体のサイズがデカいから、普通サイズの剣と盾に見えるな。
鑑定結果から言うと、うちの連中の敵では無いが、眷属を呼び寄せられたら時間が掛かりそうだ。
称号にはフロアマスターとあるから、ここ十階層がダンジョンの区切りとなっているのだろう。一区画目の最終ボスという事なのだろうな。
【鑑定】ゴブリンキング
名前: なし
年齢: 82
種族: 亜人種
加護: なし
状態: 普通
性別: 男
レベル: 28
魔法: 土(2)・身体強化(7)
技能: 剣(6)・槍(4)・毒(3)・眷属強化(5)・統率
耐性: 土・毒・麻痺
スキル: 【威圧】4【再生】1【眷属誘引】6
ユニークスキル なし
称号: ゴブリンの王 フロアマスター
「ノア、早めに仕留めないと子分を呼び寄せる奴のようだ。先手必勝で頼む」
結局はノアが一人で戦う事に決まったので、ノアに鑑定結果から予想した相手の情報を伝えた。
「我が主よ、慌てるでない。雑魚がいくら集まろうと妾の敵では無いのじゃ」
確かにそうだとは思うが、いっぱい来られたら面倒だろ。
ここには探索のために入ってるのであって、ダンジョン攻略に来てるのでは無いのだぞ。
ふふんと鼻を鳴らし、勝ち誇った様子で一歩前に出るノア。中ボス戦を任されたのが嬉しいのだろう。
そして……いつまで腕を組んで立っているのだ。さっさと倒してくれ。
「ノア?」
「彼奴だけじゃと妾の見せ場がすぐに終わってしまうのじゃ。しばし待つのじゃ」
ん? それは、あいつが子分を呼び寄せるのを待つという事か?
そんな面倒な話は聞けん。ソラに言ってさっさと倒してもらうか。いや、なんなら私が……
私が腰の虎刀牙の刀に手をかけたのが雰囲気で伝わったのか、ノアがこちらを見た。
当然、私もノアを見るので目と目が合う。
「わ、わかったのじゃ! すぐに行くから我が主は動くでなーい!」
私が痺れを切らして行動に出るように見えたのだろう。ノアが慌てて言い訳をしながらゴブリンキングに向かって行った。
本当に行動に出ようと思ってたからな。その判断は間違ってないぞ。
慌てて飛び出していったノアだが、先日鍛冶屋で購入した剣を持ってない。ブレスで仕留める気なのだろうか。手には東の国で購入した扇子しか持ってないのだが。
もしかして慌てて出て行ったので間違ってるのか? 元々龍なので武器など使って来なかっただろうし、武器で戦うのに慣れてなかったんじゃないのか?
「ノア!」と叫ぼうとした瞬間、ノアの手に持たれた扇子が光を放ち、その姿を扇子から剣へと変えた。
……
……
一瞬呆けてしまったが、扇子にそんな機能は断じて無い! 鉄扇で戦う中国お姉さんは見た事はあるが、扇子が剣に姿を変えるなどおかしいじゃないか!
ソラとココアの箸といい、小判といい、東の国製だからなのか? それとも私から従者に渡したからなのか? いずれにしても有り得ない話だ!
しかし……あれは剣じゃない? よく見ると扇子を剣の柄に見立てて持ってるだけで、刀身は扇子から延びてる光? ビームサーベル? ノアのブレスの色と同じ白色だが、それが何か関係あるのだろうか。
ある程度長さも自由が利くようだが、ミルキーの槍のようには延ばさないな。いや、恐らく延ばせないのだろう。
それにしても、そんなのがあるのなら剣を買う必要なんて無かったではないか。まぁ、普段からそんなビームサーベルもどきのような剣を使うと悪目立ちしてしまうがな。
しかし、先日のドラゴン狩りの時には見せなかった武器だが、いつから使えたのだろうな。
戦いの結果は、もちろんノアの圧勝。
ビームサーベルもどきの前ではゴブリンの持つ大盾は全くの無意味だった。大盾はケーキのようにノアの一撃でスカッと斬られてしまい、そのまま左腕も斬られて失ってしまったゴブリンキングには、ノアの二撃目を防ぐ手立ては無く、二撃目で胴を、三撃目で首を斬られたゴブリンキングは、すぐに床に吸収されていった。
残ったものはゴブリンやスライムよりは遥かに大きいが、ゴーレムよりは小さい魔石と、右手に持っていた大剣だ。
【ゴブリンキングの大剣】攻撃力100。
うちに大剣使いはいないから売る一択だな。
これはドロップ品と呼んでいいのか? ゲームであればドロップ品にあたるが、ここでは戦利品になるのかもな。
まぁ、まだ先があるようだし、どうせまだミルキー無双が続きそうだから歩きながらでも聞いてみるか。ノアの武器の件もあるしな、時間も惜しいしさっさと下へと向かおうか。
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