『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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『翠清山の激闘』編

264話 「人喰い熊狩り その1『討伐隊編成』」

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 侵攻二十二日目、早朝。

 第三階層の攻略準備が進む中、侵攻初期から厄介だった人喰い熊の討伐が開始される。

 それを遂行するのは、アンシュラオン自らが選んだ特別ハンター隊だ。


「これより討伐に関するブリーフィングを行う! なめた態度で聞いているやつがいたら追い出すからな! わかったか!」


 およそ二百人の前で、アンシュラオンが声を張り上げる。

 脅しではなく本気で言っていることだが、ここに集まったハンターの中に、目の前の少年を侮る者は誰一人としていない。

 むしろホワイトハンターに選ばれたという誇りと優越感に満ちており、皆が目を輝かせていた。


「まずは概要だ。人喰い熊の群れは、大きく九つのグループに分かれていて、それぞれに巣穴を持っている。だが、別々の群れではなく、ボスである特殊個体が全体を統括している。大まかな配置図がこれだ」


 近隣の地形を描いた地図を取り出し、マークを付ける。

 すでにハンターQの調査によってある程度の場所は把握していたため、どの巣穴も侵攻ルートとは被っていない。

 だが、近くに巣穴があることには変わりがなく、早急な殲滅が必要である。


「場所は第二拠点から南西に四つ、南東に四つ、北東に一つ。ボスがいるのは北東の巣穴だ。敵の規模は、各巣穴に四十頭前後、ボスの巣穴に八十頭近い個体がいる。合計で四百頭だ」

「四百!? そんなにいるのかよ!」


 思った以上の数にハンターたちもどよめく。


「驚くのも当然だな。もしやつらが全頭で活動するタイプの魔獣ならば、とっくの前に全面対決になっていたはずだ。だが、やつらは巣穴ごとで少数のグループを作って、隠密行動をする習性がある。だから神出鬼没に見えるんだ」


 熊に手を焼いていたもう一つの理由が、至る所に出没して襲ってきた点だ。

 これは今述べた通り、細かい単位のグループで活動しているせいである。おそらくは餌場を分け合うための習性と思われる。


「続いて敵の種族情報だ。すでに交戦した者もいるだろうが、熊は『レザダッガ・ベア〈人喰地猟穴熊〉』という種類で、カテゴリーとしては第四級の根絶級に該当している。単体の戦闘力もかなり高いが、群れで動く習性があるから極めて厄介だ。一頭一頭確実に仕留めなければ、こちらにも大きな被害が出るだろう」


 この根絶級の由来は『一匹でも街の近くで見つけたら徹底的に根絶しなれば危険』という意味から来ている。

 最近では討滅級も見かけるようになったものの、根絶級は普通のハンターから見たら絶対に勝てない化け物なのだ。

 これだけのハンターを集めるのも納得であるが、アンシュラオンがいなければ、この三倍は欲しいくらいの相手だろう。


「では、これより具体的な編成を伝える。ボスの巣穴は、案内役のハンターQとオレの隊とソブカ隊で落とす。南東の四つをオレが単独で落とすから、南西の四つの巣穴をここにいるメンバーを四つに分けて落とす。質問はあるか?」

「アンシュラオンがボスを倒すんじゃないのか?」

「こちらの戦力と向こうの数を計算に入れてのことだ。ハンターQの情報では、熊は獰猛なくせに非常に慎重な性格をしている。同時にすべての巣を落とさなければ、情報が漏洩して逃げ出すやつらがいるかもしれない。一つの群れを逃せばまた増えて被害が出続ける。大事なことは逃がさず全滅させることだ」

「そう言われると、四つの巣穴を担当してくれるだけでもありがたいか。同時に落とすんだし、思った以上に大変そうだ」

「それくらいのことは特に問題はない。逆にいえば、オレ独りでお前たち全員より強いということだ。そこは認識しておけよ。危険な場合はオレがカバーに入るから、すぐに呼べ」


(まあ、オレ独りでも全頭排除は容易いが、それではサナの経験にならないからな。こいつらには付き合ってもらうとしよう)


 今述べたことは真っ赤な嘘で、単純に隊の養分にしたいだけだが、独りで四つ落とすこと自体が一般では常識外れなので、特段異論は出ない。


「具体的な作戦内容はあるのか?」

「まずは時間帯だが、今夜から狩りを開始して、明朝までに狩り尽くす予定だ」

「熊は夜行性だったよな? 巣穴にいる昼間に襲ったほうがいいんじゃないのか?」

「たしかに昼間に襲った場合は奇襲が可能だが、その分だけ相手の数もそろっている。一斉に出てきた魔獣と乱戦になる可能性も高くなるし、こちらが巣穴に乗り込んだ場合も危険だろう。それよりは外に出ている間に『少数ずつ罠にはめて』、分断したところを確実に仕留める。夜は暗いが、そこは経験でカバーしてくれ。それができるメンバーを集めたつもりだ」

「なるほど、罠か。今から仕掛ければ十分間に合うな。移動ルートはわかっているんだろう?」

「ああ、ほぼ全パターンを把握している。だから散々、今まで好き勝手させていたんだ。相手は完全に油断しているはずだ」


 侵攻当初から脅威になっていた熊の排除が遅れたのは、確実に仕留めるためでもある。

 犠牲者は出ているものの、それによって味を占めた熊は、行動が大胆かつ単純になってきていた。それを上手く利用するのが今回の討伐作戦の肝である。


「編成表を貼り出す。自分が担当する隊と合流して、顔合わせと意見交換をしてくれ。一時的とはいえ命を預ける仲間だ。どうでもいいことで調和を乱すなよ。そんなやつはオレが制裁する。それと、四つの隊にはこれも連れていってもらうぞ」


 アンシュラオンの後ろから、十六人の全身鎧を着た巨漢の男たちがやってきた。


「な、なんだそいつら!? すごい威圧感だぞ!」

「これは弁慶先生だ。誰もが強いから用心棒として連れていけ」

「どいつが弁慶だ?」

「全員が弁慶先生だ。弁慶先生は十六人兄弟なんだ」

「す、すごい子だくさんだな。呼び分けるのが難しそうだ…」


 やや懐かしいが、初めてロードキャンプに立ち寄った際に連れていた鎧人形である。

 中身は闘人であり耐久力は抜群なので、囮や壁として使うには最適だ。


「あとはこいつも連れていけ」

「水色のモグラ? こいつは何だ?」

「モグラっぽい何かだ。そこは深く気にするな!」

「お、おう! よくわからないが危険なものじゃないんだよな?」

「すでに説明した通り、スザク軍は連絡網を破壊されて奇襲された。戦いにおいて情報こそが一番重要だ。巣穴を攻撃するタイミングはこいつが教えてくれるから、全員の準備が整ったらモグラに話しかけろ。こいつならば魔獣たちにやられる心配はない」


 伝書鳩は戦闘力がほとんどないため、ヒポタングルに殺されてしまったが、モグマウスならば返り討ちにすることもできる。

 万一の際にも対応できるように、四つの隊にニ十匹帯同させる予定だ。これだけでも圧倒的な戦力なのだが、基本的には連絡要員以外には使わない。

 できるだけハンターに稼がせることも目的の一つだからだ。


「オレが編成した討伐隊に失敗は許されない。一撃で決めるための保険みたいなもんだ。お前たちだって死にたくはないだろう? 今回の作戦には多額の報奨金が出ているからな」

「もちろんだ! でっけぇ獲物を狩って大金をもらう! それがハンターってもんだからな!」

「よし、その意気だ! 傭兵どもにハンターの力を見せてやるぞ! 魔獣討伐ならばどっちが上か、はっきり教えてやれ! ここはオレたちの戦場だ!!」

「おおおおおおおおお!」


(今回の作戦はグランハムが予定していた通り、ハンター同士の連携を高める訓練でもある。ターゲットの山の熊を倒す前の練習ってわけだ。強さもほどほどで、うちの隊の鍛錬にもちょうどいい)


 まだまだ混成軍は、ちぐはぐさが目立つ。

 それにはハンターと傭兵の戦い方の違いが挙げられるだろう。そもそも戦ってきた土俵が違うのだ。

 それゆえに現在ではハンターはアンシュラオンが束ね、傭兵はグランハムが束ねるようになっていた。

 互いに名が知れ渡っているので、逆らう者が少ないのがメリットだ。

 こうしておおまかな作戦内容が決まる。

 ボスを狩るのは、ハンターQと『白の二十七番隊』と『赤鳳隊』。

 アンシュラオンが単独で南東の巣穴を四つ。

 残りの南西の巣穴を、約五十人ずつの四つの隊によって同時に排除する。

 決行は夜だが、昼の間に罠を仕掛ける予定となっている。


「ソブカ、ほかに何か意見や訂正案はあるか?」

「いいえ。ハントは専門外ですし、すべてお任せいたしますよ」

「というか、お前も来るのか?」

「お互いにそのほうがよいと思いましてねぇ。今後はアンシュラオンさんの隊だけでは対応できないことも出てくるでしょう? 今のうちにこちらの隊との連携も深めておいたほうが得策です」

「相変わらず頭が回るやつだな」

「少しは役に立つところをお見せいたしますよ」

「ならばオレの隊の指揮も任せる。結果を出してみろ」

「わかりました。やってみましょう」


 アンシュラオン隊は強いが、やはり数が少ないし、指揮官当人とは違って攻撃に偏っている面がある。

 一方の赤鳳隊は全体的にまとまってはいるが、殲滅力に若干の難がある。

 互いに補い合える特性を持っているのだから、どうせ戦うのならば協力したほうが得なのだ。

 ただし、アンシュラオンが自分の隊を任せること自体が、ソブカを高く評価している証でもあった。


「そういうことならば、我らも手伝わせてもらおうか」

「ロクゼイのおっさんか。急にどうしたの?」

「こうも暇では、さすがに腕が鈍る。当初の予定では、今頃はターゲットと接触できているはずだったからな。お前たちの邪魔はしないつもりだ。ぜひ参加させてくれ」

「戦力が多いのはありがたいよ。そうだな…ボスを狩るサナたちのほうに加勢してほしいけど、それで大丈夫?」

「問題ない。お前の実力は知っているからな。隊のほうの力を見せてもらおう」


(我々の監視というわけではなさそうですねぇ。単純にアンシュラオンさんたちに興味が出てきた、といったところでしょうか。明らかに女性たちに変化がありますからね。さすがに目ざといものです)


 ソブカもロクゼイも、サナやマキには一目置いていた面はあるが、小百合やホロロはオマケ程度にしか考えていなかった。

 しかしながら魔石獣の力で戦気にも目覚めたことで、見た瞬間に存在感が違うことがわかる。

 この短期間でここまで印象が変われば、さすがに気になるものだろう。


「さっそく準備を始める! 罠を張るぞ!」


 これだけの人数が集まれば作業も早い。

 夕方になる前には準備は整った。


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